記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第65話 地下遺跡の不審者
午前中にオズワールの杖店やら、エジサンの時計店で買い物を楽しみ午後は修行にあてることにした。
ここ数日で「地面を傷つけない走り方」もかなり上達してきて、通路に増えるばかりだった凸凹がだんだん増えなくなっていた。
「ふっふっふっ」
地面をいたわり優しい心を持って踏み進む。
そうすれば自然と地面だった答えてくれる。
チラッと時計を取り出し時間を確認。
ーーカチッ
「よしっ」
もう十分な時間走ったし修練場に戻ろうか。
「……お?」
しかし、剣知覚に引っかかった気配が簡単には戻らせてはくれなかった。
「高さは一緒、人間、だな」
直線距離にして前方200メートルの位置におよそ人間と思われる気配を捉えた。
この数日間地下遺跡を走ってきて初めての遺跡内反応。
修練場からしばらく移動した場所なので、もう王都郊外のはずだ。
こんな所に人の気配か。
少し怖いが、これは調べておいた方がいいだろう。
「″いくの?″」
「行く」
「″なんか、嫌な予感するなぁー私は″」
「奇遇だな。俺もだよ」
頭を出していたアーカムを「和室」に押し戻し、長剣を抜いて反応に近づいてく。
先ほどまでランニングして爽やかな気分になっていたのに、急にホラー展開に変わってしまった。
この地下通路は壁のひび割れなどから時折日差しが差し込んで来ているが、基本的には真っ暗だ。
そんな場所を「剣知覚」を頼りにスピードに任せて走っていたので、急に歩くとなると逆に恐怖心が掻き立てられる。
あともう少しだ。
角を二つくらい曲がれば気配の下までたどり着ける。
俺は自分が出来る最大限まで剣気圧を下げ、息を殺し気配を遮断する。
そして一つ目の角を曲がった。
「明るい」
向こうの角の方から明かりが漏れている。
真っ暗な空間の不規則に揺れる明かりが、そこに人がいることを剣知覚を使わずとも教えてくれる。
俺は爆発しそうになる心臓を押さえつけて、剣を握り直す。
カルイ刀に真っ黒な炭の左手をかけて、いつでも抜刀出来るようにしておく。
そうして、俺はすぐそこに迫った人の気配を肌で感じながら、最後の角を曲がり、地下遺跡唯一にして最大に怪しい明かりの下へ踊り出た。
「誰だ!」
「うぁ!?」
明るさに目をくらまされながらも人影を視認する。
明かりの正体は松明だったようだ。
目標の人物は赤々と燃える松明を持ちながら、こちらに驚いている様子だ。
ゴーグルで目元を隠し、スカーフで口元を覆っている。
いかにも怪しい風勢の人物だ。
近寄っても剣気圧を発動してこないことを確認し、精神的な安心を得る。
「ん? なんでこんな場所に子供がいるんだい?」
怪しい人物は松明をこちらに向けてきながら胡乱げな声を出してきた。
「それは、こっちのセリフだ。そんな怪しい格好で何してるんだ」
油断なく剣を構えながら問いただす。
「あたし? そうだね、あたしはねーー」
松明を持ちながらその人物はゴーグルとスカーフをずらして素顔を見せてきた。
「冒険家なんだ」
「ばばぁ、だと?」
「っ、失礼な小僧だねッ!」
怪しい人物の正体はババアだった。
ただ一口にババアといっても、世の中には色々なババアが生息している。
このババアは顔にシワが深く刻まれてはいるものの、浅く焼けた肌からは若々しさが溢れていて活力が感じられるババアだ。
髪の毛は真っ白なのに毛量はたくさんあり、ふわふわとして生命力がみなぎっていて力強く重力に逆らっている。
背中に大きなリュックを背負っているし、体の方もまだまだ元気なんだろう。
瞳は爛々とした光を称えながら、深い見聞を感じさせる気迫がある。
まさに歴戦の冒険家おばあちゃんという言葉がぴったり当てはまる、そんな人物だ。
「それで、おばぁさんはこんな所で何をしてるんです?」
みた感じ悪そうな人には見えないので、剣をだらりと下げて無害アピールをしておく。
ただ、怪しいことには変わらないので、何をしているのかくらいは聞いてもいいだろう。
「ふん、さっきも言った通りあたしは冒険家なのさ。今はこの地下遺跡の調査さをしているところさ」
「調査? この広さを? たったひとりで?」
「あぁ、もちろんさ」
元気なおばあちゃんとはいえ、こんな広大な地下遺跡にひとりでいるなんて。
俺はまだ遺跡内で魔物には遭遇していない。
が、アヴォンが言うには厄介な魔物が遺跡深部に出現する可能性があるらしい。
その遺跡深部への通路はアヴォンが塞いでしまった為、魔物自体は出てこないようになってるらしいが……万が一もある。
アヴォンをして厄介と言わしめるその魔物が一体どれほどの存在なのかはわからないが、この遺跡には魔物が確実に出現するのだ。
遭遇率が低いため知られていないのか?
だとしたらこのおばあちゃんに忠告してあげた方がいいかもしれない。
「あのですねおばあさん、この遺跡は魔物が出る可能性があるので、ひとりでの調査は危険だと思いますよ」
「はは、心配してくれるのかい? 優しいじゃないか」
ばあさんは真面目に取り合ってくれない。
「ところで、ぼうやはどうしてこんな所にいるんだい?」
「ぇ、僕ですか?」
「あぁぼうやだってずいぶん怪しい格好をしているじゃないか」
ばあさんに問いただされて返答に詰まってしまう。
まさか狩人についてはいえないし、こんな場所で修行なんてのもおかしな話だ。
どうにかして自然な設定を考えなければな。
「その左手の火傷も気になるね。普通に生きてればそんな傷は負わないだろうさ。
それに立ち居振る舞いもとても子供のソレじゃいし、剣も2本、杖も2本持ってるなんて。
ぼうやはもしかしてギルドエージェントなのかい?こんな子供がなってるなんて話は聞かなかったけど。
いや、まさかとは思うが狩人協会?
それになんでこの遺跡に魔物がいることを知ってたんだい?
ん? その指輪の模様……この遺跡で見つけた古代文字にそっくりだね。ちょっと見せてーー」
「ダァァアア!」
重なる質問の追求に耐えかねて俺は走り出す。
「あ! ちょっと待ちな!」
後方でばあさんが静止を呼びかけてくるが、そんなもの知ったこっちゃない。
あのばあさん狩人って単語出しやがって。
肝が冷えるぜ、勘弁してくれ。
あのまま、あの場にいたらきっと口を滑らしていたに違いない。
うっかり修練場のことも喋ってしまい、あの場所が公になったらきっとアヴォンは俺のことを怒るし、最悪の場合は狩人候補者を降ろされてしまう。
まだお互いに名前も知らない仲のうちにトンズラしてしまおう。
あのばあさんには会わなかった事にするんだ。
魔物が出るって忠告もした、あとはあのばあさん次第だ。
ー
翌朝。
睡眠中「和室」でアーカムと遊んでやった後、お馴染みの重低音でベッドから目覚める。
タオルを手に部屋を出る。
午前6時。
トチクルイ荘中庭で鍛錬をする。
午前7時。
朝風呂に入り汗を流しスッキリと。
午前8時。
トール・デ・ビョーンのゼンマイ巻いてやり、外出用の服に着替える。
外套を羽織り袖にタング・ポルタを仕込む。
そして初心者用のランク2のラビッテの杖と「哀れなる呪恐猿」を腰に差して準備完了だ。
今日からは露骨な剣は携帯しないようにしていこうと思う。
もし荒事が起きてもなるべく魔法で対処して、俺に魔術師のイメージを持ってもらうのだ。
でなければいつマフィアに身元を特定されるかもわからない。
身元がバレてしまったら、最悪アヴォンにでも頼んで、マフィア組織をぶっ潰してもらうことになる。
が、なるべく荒事は起こさない方向で行くべきだろう。
「”うん、男前に決まってる!”」
「そうか。バッチリか?」
「”もうバッチリすぎるって! これはちょっとモテ過ぎるかもしれないくらいかな”」
もう一人の自分を使って己に暗示をかけていく。
俺はイイ男だ、できる奴だ、と。
「よし、いくか」
「”おぉ!”」
部屋を出て時刻を確認。
そして玄関に向かうべく1階へ降りる。
「あ、おはよ! アーカム!」
「おはよう、マリ」
「″むむむ……″」
このアパートの大家の孫、マリ・トチクルイが玄関に待機していた。
「それじゃ行こっか!」
「?」
マリは当たり前のように手を握り引っ張ってくる。
はて、マリと出かける約束などしていただろうか。
マリとはここ最近仲良くなってきた実感はあったが、こんないきなり手を握られるような仲ではなかったように思う。
彼女の突然の行動のせいで、俺は内心パニクってるしアーカムがなんでか腕に噛み付いてきてて痛い。
「″ぐぅぅ!″」
「レトレシアに決まってるじゃん!」
「ま、まぁ俺はレトレシアだけど、なんでマリも?」
俺はこれから大学校舎で学用品を買いに行くところだったので、行き先はレトレシアだ。
「なんでって私も行くもん、レトレシア」
「ぇ、そうなん?」
「″ぇ、そうなの!?″」
「そうなん!」
そう言ってマリはニコリと笑って俺の腕を引いて歩き出した。
少女に腕を引かれ、幼女に腕を噛まれながら、レトレシア魔術大学への初登校だ。
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