記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第59話 指導講評



体の芯に響く鈍痛。
骨をカナヅチで直接叩かれているようなジンジンとした痛みを感じる。

「ぅ、ぅぅ」
「ふぅん、やめ」

手加減された慈愛のこもった攻撃だったとはいえ、何百と打ち込まれればダメージは蓄積するというものだ。

痛みに耐えながら遺跡ドームの中央リングで大の字になって寝っ転がる。

結局アヴォンとの初の手合わせは何時間も吹っ飛ばされ続けて、一撃も与えられずに終わった。

「ぁぁー痛いー」
「ポーションだ。飲め」

俺の重傷者アピールがアヴォンに届いたらしい。

これでポーションを貰える。
アヴォンから革製の水筒を受け取り、一気に中身を飲み干す。

「ゴクッゴクッゴクッ」
「なぜ『ゴクッゴクッ』と言うんだ?」
「ちょっと黙っててください」

アヴォンにメタ的な発言をされ眉をひそめながらも、体の傷を癒していく。

体の体温が上昇したような感覚を得て、内側から熱が溢れ出すような活力がみなぎってきた。

骨の芯に蓄積されたようなダメージはすぐに再生し、次なる負荷に耐えられるよう進化する。

「あ、このポーション、師匠の壺と同じですか?」
「ほう、わかるか?」
「やっぱりそうですか」

アヴォンのポーションは師匠の特製の物と同じだったらしい。

市場に出回っているポーションより進化再生の割合が高く、怪我の回復度は低い。

そのため師匠は大きな壺に入れて、たくさんポーションを服用させることで回復度を補っていたのだがーー。

「でも、これ普通にケガの治りも早いですね」
「ふん。そうだろう?」

アヴォンは自慢げな顔でこちらを見下ろしてくる。
まったく、すぐ顔に出てしまうなんて可愛い兄弟子だな。

「そのポーションはテニール師匠から受け継いだレシピを元に私が……いや、私の協力者が調整を加えたものだ。師匠のあの壺より効能は上だろう」

腕を組みながらアヴォンは笑顔で説明してくれた。

どうやらアヴォンが自慢したかったポイントを俺が気づいたことが嬉しいらしい。

たしかに自慢したくなるような功績ではある。
師匠から受け継いだレシピをもとにさらに発展させたんだから。

レザー流の正統な後継者としての役割を果たせていると言えるだろう。

アヴォンのお陰で次世代のレザー流を受け継ぐ者は、あの地獄の部位鍛錬を苦労せず……いや、少しはマシに行えるだろう。

ちゃんと役目を果たしているアヴォンを尊敬の眼差しで見上げる。

当のアヴォンは誇らしげな顔をして、コートを着たり水筒装着したりと帰り支度をしている。

「よし、では指導講評だ」

アヴォンは支度を終えると、改善点とを指摘してきた。

「まずアーカム、お前は少々派手な動きを好む傾向があるな。回転してみたり空中での戦闘を継続させたりだ。
これらがダメとは言わないが、まだお前の実力で行える戦闘領域ではない。地に足をつけて戦え」

「ぅぅ、わかり、ました……」

なんとも辛辣な指摘をされて恥ずかしさで顔が熱くなる。
アヴォンの言っていることは言い換えれば、「カッコつけて戦うんじゃない」と言うこと。

俺の幼稚な厨二精神が、戦闘にも現れてしまっていたということはバレバレだったようだ。

「そしてお前の攻め方には甘えがあり過ぎる。私が重症を与えないとわかっているから、思い切って行えるような攻撃ばかりだった。
手合わせの最中は、自分の引き出しを試すと言う意味でやってくれても構わないのだが、実戦では絶対にするな。
自分の信頼できる技術だけで戦え。少しかじった程度のワザなんかは、本当の闘争の現場ではなんの役にも立たない」

アヴォンの指導講評は、的確に今後を見据えてのアドバイスがたくさんあった。

時に厳しく、俺が悶えるような事を注意されながら10分ほど、アヴォンが気になったと言う点を指摘され続けた。

時にあの時どうしてこうしたんだ? など、行動選択の理由も聞かれたりした。

俺はアヴォンの質問に過不足なく答えて行った。

そうしてアヴォンは顎に手を当て、何かを納得したような顔になると俺の指導講評は終わった。

「ーーといろいろ言ったわけだが、実際のところお前は一般レベルで見れば、相当優秀な戦闘力を持っている」

「ぁ、ありがとうございますっ、へへ」

アヴォンは時折こうして褒めてくるもんだから、やり方が上手いと思う。
師匠に弟子の指導の仕方とかも習ったのかな。

ただ、一つだけモヤモヤする事があった。

それは、アヴォンの指導講評を聞いても、俺がアヴォンに届くようなピジョンが浮かばないという事だ。

圧倒的強さ。

もしアヴォンクラスに強くならなければ、狩人になれないなんて言われたら、正直諦めた方がいいとすら思えてしまう。

自然とテンションが下がっていく。

「どうした、アーカム?」
「そのぉ、ですね

アヴォンはポケットに手を突っ込み至極真面目な顔になった。

「僕でも本当に狩人になれるんですか?」

俺の抱いた不安をそのまま言葉にする。

師匠の期待を一身に受けて、意気揚々と王都までやってきたのはいい。
ただこんなに遠いい存在に自分がなれるのか不安だ。5年鍛えても全く届かない程の高みに思える。

もしかしたら俺は狩人にはなれず師匠の期待を裏切ってしまうかもしれない。
不安は尽きない。

「昼飯の時、お話ししたと思うんですが、僕は5年、師匠の元で毎日のように稽古をつけて貰いました」

アヴォンは黙って話を聞いてくれている。

「毎日何時間も師匠の家でみっちり鍛えてたんですよ。それなのに僕は先生に全く届きません、でした」
「ふむ」
「先生、僕は狩人になれるレベルまで強くなれるんですか?」

質問をかえて、より本質的な俺の聞きたい事をアヴォンに尋ねる。

きっとアヴォンも困ってしまうだろう。
狩人になれるかどうかなんて、本人の頑張り次第だ。

そんな事を聞かれても適切な答えは返ってこないかもしれない。

だが聞かずにはいられなかった。
俺は弱いから。

戦闘と言う意味ではなく、心が弱いと言う意味だ。
かつての魔法の勉強に費やした2年を思い出せば、俺が今やっている狩人になるために費やしている時間も、実を結ばずに終わるかもしれないという恐怖があるのだ。

全部が無駄になるとは思っていない。
ただ道半ばで俺の心が先に折れてしまうんじゃないか、と怖いのである。

不安なのである。
だから「お前は狩人になれる」と一言欲しかったのだ。

この道は徒労に繋がっているわけじゃない、走り続ければたしかにゴールはあるんだ、と言って欲しいのだ。

「……お前は5年修行した、と言ったな」

アヴォンは長い沈黙の末にようやく口を開いてくれた。

「えぇ5年も毎日のようにーー」
「朝食を食べ、家から通って、夕食前には帰る」
「はい……」

なんだか嫌な言葉が飛び出して来そうで怖い。

「うん。そうだなさっきの質問に答えてやる。もしお前がこれまでの5年と同じように、鍛錬し続けるのなら、お前が狩人になれるのは30年後だ」
「……ぇ」

やっぱりキツイ言葉だった。

30年後だと。
果てしなく長いじゃないか。
その頃には師匠は流石に、もうこの世にはいないだろう。

ダメだ、遅すぎる。

それに俺はそんな30年も、ただ花咲く時を待って鍛え続ける程の気力はない。
魔法の勉強だって3年で投げ出したんだ。

やはり無理なのか?
アヴォンは遠回しに俺は狩人になれないと言っているのか?
屋根の上で将来が楽しみ、と言ってくれたのは嘘だったのか?

「アーカム」
「……はい」

アヴォンは濃く青い瞳でこちらを静観している。
俺も紅い瞳でアヴォンの目を見つめ返す。

をしろ」

「本気の修行、ですか」

アヴォンは広大な地下遺跡ドーム全体に響くような、かといって静かなような厳粛な声で一言そういった。

「話を聞く限り、お前の5年は『修行』に費やされたというより、『習い事』に費やされたように感じた」
「習い事、ですか」

アヴォンはゆっくりと膝を折りながら、視線の高さを合わせくる。

「師匠がお前を1人で王都にこさせたのも、この本気修行をさせる為なんだと私は確信している」
「そうなんですか?」
「そうだ。お前は既にその段階にある」

なんだかアヴォンが適当を言っているように感じてしまう。
だって俺が王都に来たのは、偶発的な出来事が理由だからだ。
突然使えるようになった魔法を習うために、俺は王都に来たのだ。

別の見方をしても、森で謎の男と戦ってケガを負った俺を、エヴァが師匠から引き離したとしか見ることくらいしか出来ない。
断じて、師匠がこれを狙ったとは思えないのだ。

「多分、そこまで師匠は考えてないかと……」
「いいや、私には師匠の計画通りのように見える。多少アーカムの育成プログラムに前倒しはあったようだが、概ね順調だ」
「はぁ育成プログラムですか」

アヴォンは確信を持った瞳で俺の頭を撫でてきた。

「遅かれ早かれ、お前は師匠とは離れて修行をすることになっていたと思われる。私もそうだったからな」

なぜこんなにもアヴォンが自信を持って言っているのか。
なるほど、わかった気がする。
同じ道を歩んでいるのか俺は、かつてのアヴォンと。

「師匠は既に伝えられる基本的な技術はすべてアーカムに伝授しているはずだ。後はしばらく1人での修行を行って、自分でそれらをより高いレベルに昇華させる……つまり本気の修行をやらなければならない」
「それが習い事から、修行へ移行するという事ですか?」
「そうだ」

本気の修行とはそういうものなのだろうか?
ずっと師匠と一緒に修行した方が強くなれるんじゃないのか?

「ふむ、納得は出来たようだな」
「えぇ一応は」

少々腑に落ちない点もあるが、なんとなく言っていることはわかるので良しとしよう。

俺のやるべきことはとにかく本気の修行。

アヴォンに指摘された改善点を頭に留めながら、ひたすら師匠にならった基本技術の昇華に努める。

つまりは1人で生卵飲んだり、早朝ランニングしたりしろってことだろう?

「ふふ、はは」

そうだよな、映画とかで猛特訓する主人公たちは、いつだって孤独にひとりで、ありえないようなストイックさで自分を追い込むもんだ。

あのストイックさを俺にもやれって、そう言ってるんだろう?

「はは、なるほどなるほど。なんか悪くないですね、本気の修行も」
「ふん。なんだ、『ひとりでなんか無理だ!』って喚くかと思ったが、存外にやる気があるようだな」

アヴォンがわかりやすい挑発を仕掛けてくる。

「ふふ、えぇなんかやる気出てきました」

自分を映画の主人公たちと重ねることで、やる気がみなぎってきた。

俺の創作物の影響を受けやすい性格が、目の前の困難を乗り越える力を与えてくれたのだ。

いいぞ、やれる。

俺はひとりでストイックに自分を追い込んで見せるぜ!

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