記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第31話 ポルタの遺骸




ーーポツポツポツポツ

…………。

ーーポツポツポツポツ

…………。

ーーポツポツポツポツ

……ぅ……ん……。

ーーポツポツポツポツ

うんん……?

真っ暗な思考。

ーーポツポツポツポツ

肌に当たる匙な感触。

これは……雨か。

ーーポツポツポツポツ

憂鬱の極地に沈むこちらの事などなどお構いなしに降り注いでくる。本当に迷惑だ。

ーーポツポツポツポツ

うっとおしい雨め。
気を紛わされて、思考がまとまらない。

ーーポツポツポツポツ

だが、今はこんなうっとおしい雨だけが自身の存在証明となっているのだから皮肉なものだ。

雨が途絶えてしまえば、きっと自分を認識できなくなる……それは嫌だ、怖い。恐ろしい。

ーーポツポツポツポツ

一体何が起こったのだったか。
耳鳴りがひどい。

重たく鈍重な動作で首をもたげ、目を開こうとする。
まぶたが動かない。

全身に酷いだるさを感じる。
こんなまぶた一つ動かす動作さえ凄くだるいのだ。

気合いで重たいまぶたをどうにかして持ち上げる。
待て待て、こりゃなんだよ。
視界がどろどろだ。

ぐるぐる、ぐるぐると回る世界。
平衡感覚を失っているのか?

ただ、およそ自身がまともな状態に無いことはわかった。
だんだんと波打っていた視界が正常化されていく。

それと同時に脳みそが平常運転を開始。
何があったのか記憶が蘇り始める。

少しずつ混乱状態からの復帰を果たしていく。

そうして復帰した視界を通じて目に映るのは地獄。
木々が焼け焦げ、あたり一帯が炭と化した地獄だ。

「あぁ、そうか……そうだ……ッ」

思い出した。

俺は殺さなければならない、あの男を、あの軍人を。





異世界初の友人を獲得した翌日。
味のある木製の扉が勢いよく開く。

「おはようございます! カローラさん!」

一日の始まりは元気な挨拶から。

「あら、アークくん! おはようございます! 今日も来てくれたのねぇ! ご挨拶できて偉いわ!」
「うぉお!」

カローラ、いや……カローラさんと目が合った瞬間、俺は眩しさに我が目を疑った。
彼女の輝く笑顔が身に刺さってくるようだった。

なんてスマイルだ。
後光のエフェクトが激しい。
これが年季の違いだとでも言うのか。

「うぅぅ!」
「あら?」

俺の数年の研鑽を積んだ「おはようございます」が道端の雑草に思えるほどの研ぎ澄まされた笑顔。
しかも、会って早々に褒めちぎり、優しい手つきで頭をナデナデされてしまった。

暴力的な母性の権化。
とんでもない早業。

完敗だ。
自然とこうべを垂れる。

「ははぁ、負けました……」
「え!? え! どうしたの! アークくん! 負けたって何!?」

カローラさんは慌てながらも俺を家へと上げてくれた。



ゲンゼ宅の居間。

「おはよーゲンゼディーフ……とサテライン?」

あれ、サテラインまでいるの?
もうこの家に来てるのかい?

「アーカム!」
「あら早いわね、おはよ」

サテラインめ、俺より早いとは。なかなかの早起き体質だ。
「早朝」のアルドレアはもう名乗れないかもな。

「というか、何で疑問形なのよ」
「うん、いると思わくてな……朝早いんだね」
「ふふ、まぁね。私は『早朝』のサテラインって呼ばれるくらいだから!」

なに?
俺以外にも『早朝』なんてくそダサい二つ名を持つ者がいたのか?
それとも自称してのか? お前正気か?

「ほう、それは奇遇だな、実は俺も『早ーー」
「あ、アーカム! 僕のことはゲンゼでいいよ! 友達なんだから!」

ゲンゼディーフが横からひったくる様にして会話の主導権奪って来る。

なんか焦ってる様な……?
もしかして、サテラインと話すのもダメなのかい?

「あー……おけ、じゃ、ゲンゼって呼ばせてもらうよ。ゲンゼも俺のことはアークでいいよ」

正直ゲンゼディーフって名前長いな、とは思ってたのでありがたいっちゃありがたい。

「それじゃ……えぇと」

傍の少女に視線を送る。
特に反応がない。
黙ってこちらを見つめ返してくるだけだ。

「うーん」

サテラインのこともゲンゼと同じくサテリィって呼んでいいのか?
それともカローラさんにならってサティが良いだろうか?

「あーあー、ん、んんんッ!」

わざとらしい咳払いをしても、サテラインはなんともいえない微妙な眼差しを向けてくるだけだ。

ニックネーム呼びさせてくれない感じかなぁ。
んー、なんか昨日のことがあったせいでちょっと気まずくなっちゃってるなぁ……。

まぁそんな急ぐ必要はないか。
サテラインをニックネームで呼ぶのは、もう少し先でいいだろう。

「今日はちょっとしたお願いがあって来たんだ。サテラインとゲンゼは魔法のーー」
「ちょっと、 無視するじゃないわよ! 私は、その、サティでいいわよ!」
「あっ」
「えっ?」
「あら!」

サテラインがほんのり頬を染めて見つめてくる。

「あー……了解、サテライン」
「だからサティで、いいから……ほらね。私たちも友達でしょ?」

ゆさゆさとポニーテールを振り動かしサテラインは落ち着きなく視線を泳がせている。なんだこの可愛い生物。
ツン、デレなのかな?

「うふふっ、若いっていいわぁ〜」

カローラさんは脇目で楽しそうにしているが俺にとってこれはとても重要な案件だ。

いや、まさかサテラインがツンデレなわけがない。
そもそも、そんなツンツンはしてなかったはずだ。

これはツンデレでも何でもないさ。
勘違いはよすんだ、アーカム。

俺は恋愛経験の無い、色恋偏差値Fランクで乙女心理解能力ゼロな奴だっただろう?
前世だって色々勘違いして来ただろう?

オーケー、落ち着こう。
俺はクールでクレバーな男だ。
同じ失敗は繰り返さない。

「わかった、それじゃサティ、俺のこともアークって呼んでくれ」
「ッ! わかった! アーク、よろしくね!」

なんだ、やっぱり普段のサティだ。
ってまだ、数回しか会ってないけど。

俺とゲンゼだけニックネームで呼び合ってるのに、自分だけ仲間はずれが嫌だっただけなのか。
うんうん、冷静に考えれば何のことはない。

「あー……ねぇ、サテリィ! 僕もサティって呼んでいい……?」
「ダメ! ゲンゼは弟分だからサテリィって呼びなさいよ!」
「えぇ! そんなぁ!」

どうやらサティの中で名前の呼ばせ方にルールがある様だ。サテリィよりサティの方がランクが高いような口ぶりである。

ゲンゼはサティの弟分だからサテリィ止まりということか?
いまいちピンとこない基準だが。

「あら、ゲンゼったら! サティちゃんに振られちゃったわねぇ! ふふ!」
「ッ! ママは黙っててよ!」

母親としては息子の色恋沙汰は楽しくて仕方がないのだろう。

「ほら! ママ! もう仕事行かないと! 不味いんじゃない! 行って! 行って!」
「あら、そんな強引に行かせようとするなんて、もしかしてゲンゼくんったらさっきのは図星なのぉ?」
「ママァあッ!」

もうゲンゼのライフはゼロだ。

「ふふ、わかったわ。それじゃ行ってくるわね。3人とも仲良くするよーに! アークくん、サティちゃん、ゲンゼをお願いね」

カローラさんはそう言い残し出かけて行った。

「はぁ、はぁ、はぁ」

家には俺とサティ、肩で息をするゲンゼが残るだけだ。



カローラさんを見送った後、俺たちはシヴァの引くソリに乗っかって、とある場所へ向かうことになった。

そこは普段、ゲンゼとサティが一緒に遊んだり、魔法の練習をしたりする場所なのだそうだ。

幼馴染2人だけの秘密の場所。

そんな場所へ俺を連れて行ってくれるのだから、2人は俺と親しい間柄になろうとしてくれてるんだろう。

なんだが嬉しくなってくる。
彼らは異世界での初めての友達だ。
大切に付き合っていこうじゃないか。

「この大きいワンちゃん凄いわね! ソリ引けるなんて!」

サティは手元をパシパシ叩きながら言った。

「だろ? シヴァは凄い賢いんだよ。お願いすれば逆立ちだってしてくれるよ」
「えぇ! 本当に!? 見たーい!」
「……ぇ、ぁ、あぁもちろんいいよ!」


逆立ちなんてさせたことないけど、大丈夫かな?

「シヴァ……」
「わふわふ!」

うん、自信に満ちた犬顔。
シヴァならどうにかやってくれそうだ。



ゲンゼとサティから教えてもらった秘密の場所。
そこは俺が思ってた以上に「秘密の場所」だった。

どうやらクルクマの町の地下は石炭がたくさん取れるんだとかで、大きな坑道が掘られているらしい。

だが、それもひと昔の前のこと。

坑道は既に閉鎖され、人々にも忘れ去られている。
現在、かつてのクルクマを支えた坑道は、廃坑となり過去の遺物となっているのだ。

「おぉお! すごい!」
「ふふ! 私たちの自慢の場所なの!」
「アーク! 向こうに秘密ーー」
「しっ! まだダメよ!」

削り出された人口の岩石洞窟。
地上の川から水が流れて来てるのか、岩壁からチョロチョロ湧き水のようなものが出ている。
そのせいで洞窟の中には小さい地底湖を形成されている。

廃坑の天井部分からは巨木の太い根っこが岩を突き破って自然の力強さを誇示。
深度が深くないのか、巨木の根のあいだにからは太陽の光が差し込んでおり、その太陽の光は地底湖に反射し洞窟のかべに美しい光の模様を作り出す。

あぁ、なんて、なんてーー。

「なんて、ファンタジックなんだ」

感動でそれ以上の言葉が出ない。
本当に美しい。
素晴らしい。
ここにいるだけで童心を思い出して、ワクワクが止まらないのだ。

ゲンゼとサティによると偶然にもここの洞窟へ通じる廃坑の入り口を見つけ中を探検したところ、この神秘的な地底湖「秘密の場所」を見つけたんだそうだ。

この場所を発見した経緯も含めて全てがファンタジックでファンタスティックじゃないか。

久しぶり異世界生活してる事を思い出したよ。
じじいと一緒に木なんか殴ってる場合じゃなかったんだ。

「信じられないな、こんな凄いところがあるなんて。いや、これは本当にすごいよ」
「ふふっ! アークったら驚き過ぎよ!」
「そうでしょ! 凄いでしょ! 僕たちのお気に入りのなんだ!」
「わふわふっ!」
「ん? どうしたんだシヴァ?」

神秘的な景色を楽しんでいると、突如シヴァが走り出し洞窟の壁面に向かって吠え出した。
特に変哲のない岩壁だが、何かあったんだろうか。

「わぁ! 流石シヴァね!」
「やっぱわかっちゃうんだ!」
「ん?」

ゲンゼとサティの2人は驚いたような、喜んでいるような……とにかく興奮した様子でシヴァの元へ駆け寄って行く。
俺も取り残されないように2人に続く。

「どういうこと? そこに何かあるの?」
「ふふっ、まぁ見てて!」

サティが含みのある言い方をし、ゲンゼがシヴァと俺を一歩下がらせた。

するとサティは腰に差してあった杖を引き抜き構えた。
真っ白な美しい杖だ。

「≪岩操がんそう≫」

短い詠唱とともに白く細い指が杖を軽く躍らせた。

ーーズズズゥゥッ

「おぉ!」

彼女が魔法を唱えた瞬間、目の前の岩壁が生き物の様に波打ってぎこちなく動き出した。
非自然的現象、あるいは超自然的現象により目の前に大きな穴が作り出されていく。

今しがた行使された魔法≪岩操がんそう≫は、たしか土地属性一式魔術だったはず。

同じ一式の土魔術≪土操どそう≫より、硬度の高い岩や鉱石の類の形状を変化させるのか得意な魔法……だったはずだ。

魔法自体は数年前から知っていたが実際の操作は初めてみた。岩の操作ってこんな風にやるんだ。

「へへ! 凄いでしょ! サテリィは土属性も得意なんだよ!」
「これは驚いたよ」
「ふふん!」

サティが土属性の魔術を高いレベルで扱ってるのもそうだが、より俺が驚いてるのはその結果だ。

「なるほど、シヴァはこれに気づいてたのか」
「わふわふ!」
「っというわけで、岩壁の後ろは秘密基地になってるのでした!」

サティは両手を広げて、自慢げに岩壁の後ろに現れた秘密基地を指し示した。
岩を魔法で操作し、秘密基地に出入りするとは。

最高ッじゃねぇか、おい。
なんだ、このゲンゼとサティは。
俺をワクワク死にさせようとしてるのか?

「凄すぎる、本当に」

それになんだよ。


有無を言わさず視界に飛び込んできた骨について尋ねる。

「サティ、で、あの奥の骨は?」
「ふふふ! よくぞ気がついたわ!!」
「あ! あ、僕が言いたい! あれはねーー」
「ダメ! 待って! 私が言うから!」
「えぇ、待って、ダメだよ! サテリィばっかズルイよ!」

どうやらあの骨は何か凄いものらしい。
もしや伝説のドラゴンの骨だったりするのかな?

いや、にしてはおかしな形をしてる。
昔読んだ「危険生物図鑑」にドラゴンなどの挿絵が載っていたが、この世界のドラゴンたちは元の世界の人間が想像するドラゴンと遜色そんしょくなかったと覚えている。

この巨骨のように手足の長い四足獣のような形状ではなかった。

はて、なんの骨か。
うーん、あの形……気味が悪いが……。

「はーい! 言いますー! もう僕、言います!」
「ちょっと! 待ちなさいよ! ゲンゼ! 私が言うから!」
「ちょ、ちょっとサテリィ! んぐぐ!」
「んにゃにゃ、言うこと聞かないなら実力行使よ!」

サティはゲンゼの口を両手で塞いでしまった。
ゲンゼはサティの実力行使にどうしたらいいのかわからず、されるがままのようだ。
だが、まぁちょっと嬉しそうにしてるのでほっといても問題ないだろう。

「実はね! あの骨はね! 本物の『ポルタ』の骨なのよ!」

「…………ッ、あーポルタかー! それゃ凄いや!」
「でしょっ!?」
「んにゅにゆぅ!」

口を押さえられ悔しそうにするゲンゼ尻目に適当に相槌を打つ。
あー、ポルタね。
ポルタ、ポルタ!
うん! 全然わからん!

いや、名前は知ってるけど。
正直ピンと来ないよ。

「危険生物図鑑」にポルタの名前があったのは覚えているし、挿絵の姿を連想するに……こんな骨格だった気もしなくもない。

ポルタはこの異世界ではかなり危険な生物として知られているらしいのだが、異世界から来た俺にとっては正直「ポルタよっ!」って言われたって「え? ポルタ?」という反応しか出来ない。

「あーポルタね! ポルタ! うーん、凄いねー!」

だから、あまりポルタに対する評価が分かってない俺はこんな適当な反応しか出来ないのだ。

「ふふふっ! 凄いでしょ! 私がトドメを刺したんだからね!」
「ぷはぁっ! はぁ、はぁ! でもサテリィね! 動けなくなってたポルタに一方的に魔法撃ちまくっただけだよ!」

ゲンゼがサティの拘束から逃れ、意趣返しとばかりに事の真相をぶちまけだす。

「ふん! でもトドメ刺したの変わりないからね! ゲンゼは見てただけでしょー! なんか文句あんの!」
「い、いや、何もないけど……ご、ごめん、サテリィ」

いや、ゲンゼもうちょい頑張れよ。
どんだけサティに弱いんだ。

「ふふ、それじゃポルタの骨も見せれたし、早速アーカムの言う、対魔法の修行ってやつをやらない?」
「あ、もういいんだ」

切り替えの早いサティである。

「オーケー。じゃ、あっちの方でやろう」
「わかった! ちょっと待ってて!」

サティは再び魔法を使い岩壁を元に戻すと、ゲンゼを連れて付いてきた。

さて、俺はどれくらい魔法に対抗できるのか。
ワンパンだけはやめて欲しいところだ。

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