記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第22話 父の威厳



木剣ぼっけんを手へ庭に出る。
時刻は感覚的に午前10時くらいだろうか。
太陽が空高くを目指して登り始め、夏の暑さを演出し始める頃合いだ。

「よーし、それじゃちょっと体動かしてみろ。吸血鬼の力を扱えるか父さん見てやろう〜」

そニヤニヤ笑いながら、アディは木剣で肩をトントンし始めた。
やさぐれ昭和ヤンキー「炎剣」のアディ様だ。

「2人とも頑張ってね!」

庭の隅ではエヴァがニコニコ。
シヴァをソファにしてあぐらかいて座っている。可愛い。

「ちょっと体を温めます」

いきなりあの馬鹿力を出すのは、流石に危険過ぎるというものだ。
握り拳を作り、構えをとってエアボクシング。

ーーシュッシュッ

メリハリのあるいいパンチが打てる。
うんうん、いい感じだ。

フットワークも取ってみる。
滑らかに軽く足が動く。

次は剣圧けんあつを上げて、身体能力を段階的に強化してみる。

ちなみに基本的に剣気圧は身につければ、息をするように鎧圧も剣圧もコントロールできるのだが、俺の場合鎧圧がいあつは常時一定、剣圧のみコントロール可能、という特殊な塩梅あんばいに現状はなっている。

ジャブをしまくって出力を調整する。

ーーシュシュシュッ

うんうん、なかなかいい感じだ。
今までよりも「剣圧」が上がっているのがわかる。

だが、いい感じなのだが……なんか違う。

昨日、覚醒した時のような全能感はない。
かと言って、今まで通りの「剣圧」の身体強化率かと思えばそれとも違う。

確実に「剣圧」は上がっている。
それもかなり大きく。

しかし、なんだ……あの時のような、3メートル超えのシロクマを片手で投げ飛ばすような芸当はできそうにない、ということだ。

「うーん、なんだか今日は調子が悪いみたいです」
「そうか。まぁ昨日の今日だ。無理はするなよ」
「はい!」

あれは一時的なものだったと考えるのがいいかもしれないな。
命の危機だったからこそ発動できた、火事場の馬鹿力だったんだ。

「にしても、確かにすごい動きだ。とても7歳前の子供の動きとは思えないね。我が息子ながら末恐ろしい」
「へへ、そうでしょう? これでもかなり努力してきたんで」

アディに褒められて素直に嬉しい。

「まぁ戦う前から言い訳して、保険かけてるようじゃ俺は倒せないけどな!」

これは、ちょっとムカついた。
よし、ぶっ殺そう。

「なかなか言うじゃないですか? まぁせいぜい父親の威厳を保てるように頑張ってください。無理でしょうけど」
「おやおや、俺が帝国の都でブイブイ言わせていたのを知らないな〜? 父親の偉大さを教えてやる!」

アディがペラペラ喋っているが気にせず木剣を正眼に構える。
師匠に教わった基本の構え。
攻守において最も基本的な形。
相手は俺よりもずっと膂力のある大人であり半吸血鬼だ。
手加減は出来ない。

「ほほう、堅実だな」

一方のアディは涼しい顔をして剣を上段に構えた。
随分攻撃的な構えをするものだ。

エヴァに良いところを見せようとしてるのだろうか?
だが剣圧も上がって絶好調の俺には及ばないだろう。

「よし、それじゃーー」
「……あれ?」

と、ここであることを思い出した。

「そういえば、父さんって鎧圧使えないんですよね? これって木剣当てても平気なんですか?」

率直な疑問。
今までの師匠と地稽古乱取りを行ってきた時は、お互いに『鎧圧』があったから、思っきり木剣で叩き合えた。
剣圧さえ武器に乗せなければダメージを負うことはないとわかっていたからだ。

ちなみにここで言う剣圧とは書いて字の通り、本来は剣に纏わせる剣気圧のこと。
いつしか身体能力強化も含めて、「剣気圧」の攻撃力イコール「剣圧」と呼ばれるようになったが、本来の意味は「剣に纏わせる『鎧圧』」である。

木剣に「剣圧」を纏わせれば、「鎧圧」を突破する手段になる。逆を言えば「剣圧」を纏わせなければ、全くダメージを入れることなく安全な稽古が出来るのだ。

だが、木剣の「剣圧」を切ったところでアディには「鎧圧」が元々ない。

寸止めなんて練習してないので、たぶん本気で当ててしまうだろうか、ケガは避けられないと容易に想像できる。
アルドレア家の稼ぎ頭を殺してしまうのは流石にまずいだろう。

「あーそれは気にしなくて大丈夫だ。まぁとりあえず普通にぶっ叩いても平気だから、いつも通りやっていいぞ」
「本当に大丈夫ですか? ケガしても知りませんよ? てか、最悪死にますよ? 僕、強いんで」

普段から加減することをしないで、師匠を叩きまくって木剣を折りまくってるのだ。

打ってる側だからわかる。
あんな打撃「鎧圧」無しで食らったら普通に死ぬ。

「だから、大丈夫だって。死にやしねぇよ。最悪の場合はエヴァが回復ポーション持ってくれてるから、それを使えばいい」

エヴァをチラッと見やると、酒瓶みたいなボトルを笑顔でフリフリしていた。
ソファにされてるシヴァにもセントバーナード犬が首かけているようなボトルが装備されており、その中にもなんらかの治療薬が入っているのだと予想できる。
治療班は準備万端らしい。

「うーん。本当に知りませんよ? 僕、結構強いですからね? マジで殴りますからね?」
「安心しろって! ほら始めるぞ!」
「……了解しました」

俺は再び、正眼に構え直した。
アディも先ほどと同じく上段の構え。

さて、それでは親父殿を叩きのめして、エヴァにたくさん良い子良い子して褒めてもらうとするか。

「ばうんッ!!」

シヴァの掛け声で組手が始まった。

「フンッ!」

初手「縮地」、距離詰める。

俺とアディの距離は目測6メートルと少し。
今の「剣圧」なら十分に「縮地」有効射程圏内にアディを捉えている。

一瞬で6メートルの間合いを詰めて、剣を水平に保ったまま脇に引き絞る。
そしてバネのように得意の突きを繰り出す。

「うぉッ!」

アディは驚いた顔をして咄嗟に、突き出された木剣避けた。
右手に持った剣で俺の剣の突きの軌道を後方へとズラしていく。

上手く避けるものだ。

自分の想像以上にの「縮地」を行えて、ちょっと挙動が雑なのもあった……が、それでも十分に当てれると思っていたのに。

「ふん!」

アディの木剣は突きを受け流したと同時に奥へと、大きく流れている。

これはチャンスだ。

足を地面の芝にぶっ刺し、強引に加速した体を急停止。
上半身をひねり突き刺した足を軸にすることで、勢いをつけた回転斬りをお見舞いする。

「ツェイッ!」
「うぉ!」

ーーガコンッ

突きを受け流し、右側へ大きく流れていた木剣を、今度は左側からの回転斬りのガードに間に合わせた。

はっきり言って力業だ。

普通、あれだけ大きく流れてしまっては木剣の引き戻しは間に合わない。
技術で剣を振らないとはよく言ったものだ。

「とうっ!」
「逃すかッ!」

そのまま、一旦距離を取ろうとするアディに俺は「縮地」を持って再び距離を詰める。

逃がさない。

今度は「縮地」+「精研斬り」だ。
一気に間合いを詰め、大上段からの斬りおろす。

十分に速度と力の乗った一撃である。

「ツァイッ!」
「ふっ!」

ーーガゴンッ

お互いの木剣から木グズが激しく飛び散る。
またしても受け止められた。
だが、想定内。

こんな攻撃当然受け止めくれるはずだ。
だからこそ準備していた。

「はっ!」

受け取められた瞬間。
アディの膝を踏み台に眼前で小ジャンプ。

「へ?」
「死ねぇ、クソ親父ぃい!」

身長差を超えてアディの頭上まで一気に飛び上がり、アディの髪を掴んで膝蹴りを顔面にお見舞いだ。

ーードグォアッッ!

「キャッ!? ちょ、それはやばいんじゃない!?」

鈍い音が響き、エヴァが悲鳴をあげる。

「鎧圧」で覆われた膝の膝蹴り。
ただではすまないだろう。

しかしーー、

「うッ!」
「甘いぞ、アーク!」

アディは膝蹴りを食らったにも関わらず、怯まずに首根っこを掴んで来た。

まずい!
あのパワーで振り回されたら抵抗できない!

とっさに右手に持った剣でぶっ叩こうとするが、すぐに空中に放り投げられてしまった。

7歳にも満たない我が子を空中にぶん投げるなんてとんでもない親父だ。
高い高いにしては、少々高度がありすぎる。

「クッ!」
「さぁ! 降りてこい!」

この体勢はまずすぎる。
アディは俺の落下に合わせて剣を振りかぶっている。

アディの攻撃に合わせてガードしなければならない。
空中で姿勢を取り直し、攻撃にそなえる。

そして、その時はきた。

アディは自分の目線の高さまで俺が落ちてくるのを待ち、横一文字に豪速で木剣を薙ぎ払ったのだ。

ーーバギィンッ

剣を垂直に構えて、両手でしっかり固定した……にも関わらず、斬撃の衝撃インパクトが凄すぎて木剣をへし折られてしまった。

「ゔわぁああ!?」

そのままぶっ叩かれて体をくの字に曲げて吹き飛ばされる。

減速し庭の端っこへ落ちて、ようやく俺は呼吸をすること出来るようになった。

「うへぇあ……ぅ、ぅう」
「はぁ、まぁ、こんなもんだな。やるじゃないかアーク。なかなかいい線行ってたんじゃないか?」

負けた。
実戦なら俺は今頃真っ二つになってただろう。
そうでなくとも剣をへし折られてはここから挽回するのは難しい。
完敗だ。

「父さん、本当に戦えたんですね……見直しました」
「まぁな! 剣なんて振ること自体久しぶりだが、まだまだ俺の剣の腕も捨てたもんじゃないな」
「ただ、馬鹿力で、振り回してただけですよ」
「おっとぉ〜!? 負け惜しみはいかんなぁ! アーク、ダメだぞぉ、男は潔く負けを認めなきゃいけね」ぞー!」
「くっ!」

勝った途端に、調子に乗り煽り出すなんて。
やっぱ大人気ない父親だぜ、アディは。

「まぁ、負けは認めますよ。しかし、父さん、どうやってあの膝蹴りのダメージを受けずに済んだんですか? 『鎧圧』で覆ってあってなおかつ「剣圧」で運動能力を向上させた攻撃だったのに。正直、あれで終わりかと思いました」

完璧な一撃だったはずだ。

あのタイミングであの威力。
間違いなく致命傷でなければおかしい。
下手したら即死もあったかもしれない。

今思うと、あんな攻撃を頭部へ仕掛けるべきじゃなかったと思うが……反省は後にしよう。
生きてるんだからオーケーだ。

「ははっ、ビックリしただろ? だがな、安心しろ、アーク……俺の方がビックリしてるよ!!? お前よくあんな恐ろしい攻撃出来たな! 父さんが死んだら家族みんな困るんだからな!? なぁ!? お前は賢いからあんなことしないと信じてたんだぞ!? 本当に死ぬかと思ったんだからな!?」

やはり、かなりやばい一撃だった様だ。

「あはは、父さんなら、何とかなるかなぁって」
「いや、実際なんとかなったけどなぁ、あれはかなり危なかった」
「にしても、どうやってガードしたんです? やっぱり危険な攻撃だったんでしょう?」
「あぁ、あれな。実際に打ち合って見てお前に伝えたかったんだ。血の力を……具体的に言えば、吸血鬼だけが使える『血式魔術けっしきまじゅつによるガードだな」
「血式魔術……ですか? 一体どんなもので?」

また新しい単語が出て来た。
魔術の類いか。実に興味深い。

「血式魔術ってのは、血を操る魔術だ。身体能力を向上させたり、血や皮膚を硬くして攻撃に耐えることができる格闘魔術とも言えるか。まぁ血を操って槍を作ったりもできるが。大したメリットはないからほとんどは身体強化だな。これが吸血鬼の強さの秘密ってやつさ」
「おぉ! じゃさっきの膝蹴りも硬化で防いだんですか?」
「そうだぜ、俺の≪皮膚硬化ひふこうかで防いだ、っと言っても剣気圧の攻撃だから、実はかなりフラフラしてたりするんだけどな」
「あれ? 剣気圧でダメージを通せるってことは、もっと圧が強ければ突破できるってことですか? ってことは、その魔術って剣気圧と変わらないんじゃないですか?」

血式魔術の硬さを突破する方法が「剣気圧」と同じだなんて、それってつまり血式魔術も「剣気圧」と同じなんじゃないだろうか?

てか聞く限り、身体能力強化に硬くなるなんて完全に「剣気圧」と一緒じゃないか。

「いや、それは俺も思うんだけどな。俺に剣気圧ってやつが感じられない以上、血式魔術と剣気圧は効果こそ似たようなもんかも知れないが、これらは違うものだと考えるべきなのさ」

うーん。本当にそうなのだろうか。

お互いに特性が似すぎていて、違うものと考える方が不自然ではないだろうか。

まぁでもそういうものだと割り切って行かないといけないのかもしれないな。

「そうですか……吸血鬼は血式魔術……ん? あれでも僕ってしてから、剣気圧が上がったんですけど。あの覚醒がもし吸血鬼の血の目覚めだったら、血式魔術が使えるようになるんじゃないですか?」

師匠もアディも覚醒の力を吸血鬼の血の目覚めと考えているのかもしれないが、それはおかしくないか?

血式魔術と剣気圧が違うものである以上、あの時に師匠が俺の剣気圧が爆発的に上がったという発言も、おかしいなものとなる。

アディの意見を聞きたい。

「うーん。改めて考えてみると確かにわからんな……まぁもしかしたらだが、その覚醒はってこともあるかもしれないな。だってほら、お前何もしなくても鎧圧なんて纏ってたし、そもそも吸血鬼的には鎧圧を纏えないんだしな。アークはアークで、何かを持ってるかもしれない……ってのはどうだ?」
「いや、どうだって言われましても‥…」

そんなこと言われたってわからないものはわからないんだ。
何か特別な力を持っている、か。
俺は自身の手のひらに視線を落とし思案していると、エヴァとシヴァがこちらへ近づいてきた。


「2人ともおつかれ様! やっぱアディは強いわ! アークもすごく強かったけど、まだアディには敵わないみたいね!」
「当たり前だろう〜? 俺はエヴァを守る為に強くなったんだよぉ〜」

いちゃつき始めそうな雰囲気を纏い始めたアディに提案をする。

「せっかくなので父さん、今日は休みなんですし、このまま修行手伝ってくれませんか?」
「はは、頼まれなくても元からそのつもりだったぞ」

聞くところによると、どうやらアディは元から俺に修行をつける気だったらしいのだ。
組手をして父親の威厳を示し、稽古をつけてくれる手順だったんだと。

「アーク、テニールさんがお前に与えたこの微妙に長い休暇の意味がわかるか?」
「ほう、休暇の長さに意味なんてあったんですか?」

意味があるなんて1ミリも思わなかったよ。

「おそらく、テニールさんは俺にアークを鍛えさせるために、これだけの時間を用意したんだ。まぁ本来の目的のついでというのもあるだろうがな」
「ほほう」

なるほど、全く持って盲点だった。
さすがアディだ。
俺の気づかないようなところに平然と気づく。
そこに痺れるなんとやら。

「そして、俺からお前に教えられるものなんて限られていてな。ほぼほぼ、これを教えてやってくれってことなんだと思うものがある」
「それは一体?」

父、アディから教わるもの、それはーー、

「ケンジュツだ」
「ケンジュツて…….父さんは使えないんじゃ……」
「いや、そっちじゃないこれだ」

そう言ってアディは俺に手を見せて来た。
手のひらに何か持ってるんだろうか。

「え、どういうことですか?」
「だから、言ってるだろう。拳術だ!」
「こぶ、し?」

あー拳の方ねって……。

「え、拳術ですか?」
「そう、拳術だ」

我が父はボクシングを教えてくれるらしい。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品