記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第20話 森の異変
全身に残るダルさに嫌気がさす。
「ん、んぅ」
始めてみる天井……じゃない。
見たことがある。
テニールハウスの天井だ。
ということはこれはテニールハウスのベッドか。
窓から外を見れば、日が落ちてすっかり暗くなっていて、俺が結構な時間寝ていたことがわかる。
あまり遅くなるとエヴァが心配するな。
早めに帰ろう。
「うっ!」
体が重い。
凄くダルい。
「まぁ……でもこれくらいなら」
未だに酷いダルさが全身に残っていたが、森で強制的に意識を刈り取られた時に比べればいくらかまともに動けそうだ。
「おやおや、目が覚めたかい」
声のした方へ顔を向けると、師匠がいた。
師匠は少し離れたところで、イスに腰掛けてティーを味わっている最中だったらしい。
シヴァは師匠の足元で、なにやらおやつのようなものを食べている。
完全に餌付けされていやがる。
「師匠、先ほどは……ていうか森ではすみませんでした。ここまで運んでくださりありがとうございます」
「いいや、気にすることは無いよ、アーカム。君はよく頑張ったからね」
「そう、ですかね……」
ほめられるような結果だったかは、ちょっとわからない。
師匠が勝てると見込んだ、相手を一体しか倒せず、その後無様をさらして、謎の力でぶっ倒した。
結果的には倒せたわけだが……うーん。
あの覚醒は結局なんだったんだろうか?
気になることはたくさんある。
「テゴラックスはなかなか強力な魔物だ。攻撃力、素早さ、反応速度、学習能力は総じて高い。そしてあの鋭い爪と牙。特に、彼らの牙には『武器魔力』がある。アーカムの『鎧圧』が突破されたのも、この牙のせいだねぇ」
師匠からなにやら興味深い発言が飛び出す。
「武器魔力ですか」
「あぁ。決して強いものではないが、テゴラックス牙にはたしかに魔力が宿っている」
武器魔力とは、書いて字のごとく武器に付随した魔力のことだ。
一般的に武器魔力の宿った刃は、切れ味が良く、剣自体丈夫になるとされている……が、その本質は「剣気圧」による防御力、「鎧圧」にダメージを与えられる方にある。
魔物の爪や牙にも同じ魔力が宿っている場合があり、魔物にとっての武器ということで、牙などに宿る魔力も総じて武器魔力と呼ばれているんだそうだ。
「並みの冒険者じゃ倒すことはできない強敵テゴラックス。その若さで3匹相手とってよく頑張った」
並みの冒険者じゃ倒せないという部分が嬉しい。
テゴラックスは世間的に結構強い魔物らしい。
師匠は俺のことを慰めるために言ってるだけかもしれないが、それでもちょっと元気になれた。
「それにしても、あのテゴラックスたちは私の予想以上に強かったねぇ。経験からしても、あれほどの個体がいるとは思わなかった。私の想定したテゴラックスなら、3体相手とってもアーカムの勝利は揺るがなかったはずなのにねぇ。アレは私の判断ミスだ、許しておくれよ」
おや? てっきり失望のお言葉をかけられると思っていたが……意外な展開だ。
カッパの川流れ、達人も見誤る事があると。
「師匠でも、間違えるときはあるんですね」
「ほっほっ、もちろんだ、アーカム。私の人生……間違いだらけだからねぇ……」
「いや、決してそういう意味では」
師匠は「ほっほっ」と愉快そうに笑う。
過去の話をする時、いつも師匠の顔からは笑顔が消えるのだが、今は明るく笑っていて楽しそうだ。
「いやーでも、しかしねぇ、やはり先のテゴラックスは少し気になるねぇ」
「そうですか?」
ひとしきり笑った後、師匠は思慮深げな顔をした。
「ちょっと強かったってだけじゃないんですか?」
「なんだろうねぇ。それだけじゃない気がしてならないんだよ。アーカム。君は何か気づいたことはないかい?」
「僕、ですか」
顎に手を当て考えてる風に記憶を探る。
「あの……師匠、お言葉ですけど、初めて相対した魔物なので何がどう違ったとかはわかんないですよ?」
俺は初めてあの魔物に遭遇したのだ。
そのため普段との違いなんて気づきようが無い。
「それもそうか……初めてじゃわからないか」
そうさ、初めて……じゃ仕方ない。
「……んぅ?」
なんか引っかかるな。
師匠に聞かれて、漠然と思い出そうとしてしてみたが、確かになんか違和感があったような気がしなくもない。
しかし……一体なんだ?
初めて相対する相手に抱く違和感とは?
一体なんなんだ?
「うぅぅん……」
果たして……ーー。
「……ぁ、そうか」
うん、たしかに妙である。
「あの、師匠。違和感って言うかはわからないんですけど……あのテゴラックス達に会ったとき、あいつらすごく怯えてたって言うか、なんか俺のこと見て恐がってましたよ?」
凶暴な性格のはずなのに、初めてあった俺に異様なほどビビっていた。
初対面の奴にこそイキり散らすから凶暴なんだ。
あれではただの引っ込み思案だ。
「ふむ。テゴラックスは凶暴な魔物。故に、見つけた獲物にはすぐ襲い掛かるものだ……それなのに、多対一の形で人間の子供に怖気ずくのは……たしかに違和感を感じるねぇ」
師匠は1つ1つ情報を整理しながら、俺の感じた違和感を肯定してくれる。
「やっぱ、そうですか」
「ほっほ、怖いねぇ〜アーカム・アルドレア。君は本当に何者なんだい?」
俺はただの転生者ですよ、師匠。
というか黄色い海軍大将風の口調……あんたこそ何者だって問いかけたいよ。
「へへ、剣豪テニール・レザージャックの優秀な一番弟子ですよ!」
適当におべんちゃらを言って師匠を立てておく。
「ほっほっ、剣豪ねぇ……」
師匠はなかなか上機嫌。
このまま過去のことも聞いたら、話してくれたりしないだろうか?
師匠が過去のことを隠しているのは長く一緒にいればさすがに分かる。
だが隠されると聞きたくなるのが人情という物。
「はは! そういう師匠こそ一体何者なんですか? 師匠が若い頃なにしてたかーー」
「おっと、もうこんな時間じゃないかぁ。悪いが帰っておくれ。エヴァリーンもきっと心配しているだろうからねぇ」
「ぁ、あれ?」
聞かせてすらもらえない、だと……ッ!?
「いや、あの、師匠の昔話をですねーー」
「ほら、もう帰った方がいい」
「ぐぬぬ!」
師匠に促されて、ベットから起き上がらせられる。
確かに時間がまずいと思っていた。
クックック、なるほど、流石は師匠だ。
「うう、では今日のところはこの辺で。また明日来ます」
別れの挨拶をかわし外套を着込む。
床で寝転がっているシヴァを足でつつき起こす。
「アーカム」
「はい、なんでしょう?」
玄関を出ようとしたところで師匠が呼び止めて来た。
「森でのあの力のことだが、アディフランツに尋ねてみるといい。彼はその力のことを知っているはずだからねぇ。彼の口から聞きた方が君にも、家族のためにもいいはずだ」
「え? 父さんですか?」
「そうだ。それと明日からしばらく稽古は休みにしよう。そうだねぇ……2~3ヶ月くらいは自主的に鍛錬するように。サボってはいけないよ?」
「え、ちょ、いきなり、休みって……」
師匠は矢継ぎ早に、どんどん情報を詰め込んでくる。
「彼と森に入るのもいいだろうねぇ。とりあえずしばらくは面倒を見てやれない。また再開するときは手紙でも出させてもらおうかねぇ」
「え、ちょっと待って、そんないきなり!?」
師匠はどんどん話を進めていく。
「り、理由を教えてくださいよ! それに父さんのことだって」
いきなりそんなぽんぽん言われたって納得できるはずがない。
話には順序というものがあるだろうに。
「少し、調べたいこと……というか、今日のテゴラックスのことだねぇ。彼らは本来、あれ程度の深度の森には生息していない。それにあの戦闘力。エレアラント森林で何か起きている……のかもしれない」
「森の調査、ですか」
「平たく言えばそんなところかねえ……それとアディフランツのことは、やはり彼に聞きなさいとしか言いようがない。教えてくれるか、教えてくれないかも、全て彼次第だ」
いまいち要領を要領を得ない説明。
だが、アディに力のことを聞けば、それも全部わかるってことでいいんだろう。
ならば、さっさと家に帰ってアディに聞くとしようじゃないか。
俺は師匠に手短に別れを告げ高速タクシー・シヴァに乗って急いで家へ帰宅した。
-
玄関を開けると家の中には元気な声が響いていた。
この泣き声……アレックスの方だな。
「ただいまです」
「お? アークか。今日は遅かったな」
アディが居間から顔を出してきた。
「ええ、師匠と森にいって魔物退治してきたんです」
「おぉ凄い……え、それマジ?」
アディは目が点になっている。
「マジですね」
「……そうか。あの人も思い切ったなぁ……いや、でもあの人ならたしかにやりかねない?」
アディはなにやらぶつぶつと独り言を呟く。
森に行ったことが信じられないのかもしれない。
「まぁまぁ魔物退治のことはあとでゆっくり話しますよ」
「あ、あぁそうだな。もう夕食の準備もできているし、すぐにご飯にしよう」
ー
アディと一緒に夕食の時間を迎える。
足元で弄ぶ毛玉はシヴァだ。
エヴァはエラとアレックスたちを2階に寝かしつけから来るそうだ。
ほんとに母親とは大変なものである。
俺やアディが手伝うといっても決して譲らない性格だし……母親の矜持ってやつなのかな?
いやぁ、本当に頑張ってると思う。うんうん。
「でだ。アーク、テゴラックスを1人で倒したって?」
「ええ、もう楽勝でしたよ。ちぎっては投げ、ちぎっては投げって感じです」
ちょこっと脚色を加えて話してるが概ね間違ってはない。
「迫り来るテゴラックスの群れ。僕はその中に果敢にも1人で立ち向かいました! あんまり盛ってないのが僕の人の良さが出ちゃってますよね」
「盛ってるかはわからないけど……テニールさんはどこいったんだよ? それにシヴァだっているだろう?」
「彼らはいったん置いときましょう」
アディは若干あきれ気味でスープを啜っている。
多分、嘘だと思ってるのかな?
別段作り話ってわけでもないのに信じてもらえないと悲しいものがあるな。
「まぁ結論から言うとですね、追い詰められた僕は……その自分で言うと恥ずかしいんですが、そうですね、はい。覚醒したんですよ……っ」
こんな歳になって、自分で覚醒した何て言わされるとは!
許せん、テゴラッカスどもめ!
「む、覚醒、か」
アディの静かなつぶやき。
どうやら覚醒という言葉が気になったらしい。
いかにも何か知ってますという顔をしている。
さらにアディは意味深な笑みを浮かべ、両肘をついて顔の前で組んだ。
「......フッ」
わかりやすい反応しやがって!
やはり何か知っているのか?
「そうです、覚醒です。具体的にいうと、テゴラックスを片手で砲弾みたいな速度でぶん投げることができました」
「……それ結構覚醒してない? テゴラックスってあの熊みたいなやつだろ? あれ投げたの……?」
「そうですよ。嘘じゃありません」
「そうか、片手でねぇ。そっかぁ」
アディは目頭を押さえどこか疲れたような顔した、
これはもう間違いないだろう。
ここで聞くべきだ。
「テニール師匠に馬鹿力について聞いても、何も教えてくれませんでした」
「テニールさんは……まぁそうだよね……」
「でも、父さんに聞けば答えてくれるかもしれないって」
「うん……なるほど」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ぇ?」
「……え?」
いや、教えろよ!
これは話し出す流れだろ!
「あの、父さんさっきのことについて教えてください」
「うん。教える、教えるから、少し待ってくれ」
なんだ、ちゃんと教えてくれるのか。
ならば時間をやらんこともないぞ。
さて、いったいどんな秘密が飛び出すやら。
うちが特別な一族だったりするのだろうか?
先祖代々暗殺家業を営んできた暗殺者一家だったりしたら、すごく燃える展開だ。
この世界だったら……そうだな、実はアディが吸血鬼で俺は半吸血鬼だったりしたりしてね。
「よし」
どうやら覚悟が決まったらしい。
アディは真剣な表情をしてこちらを見据えてくる。
「アーク、実はお前に隠してたことがある」
「はい」
「……ぁ、やっぱ、ちょっと待ってくれ」
「言えよっ!」
この期に及んでまだ引っ張るなんてとんでもないじらしプレイだ。
自分の親父にじらされてもイラつくだけだから早く言ってくれ。
「ぅぅ、うん、よしッ!」
今度こそ本当に覚悟を決めたようだ。
「アーク、実はお前に隠していたことがある」
「はい」
「実は…………俺は吸血鬼だ」
「ぉっふ」
アディは吸血鬼説……立証。
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