記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第17話 エレアラント森林


季節は夏。

トニースマスと同じ時期に生まれた俺は、これまで6回に渡って巡り巡る季節とトニーの降誕祭をこの田舎町で見届けてきた。
つまり異世界に転生して7年目の夏。
今年俺は7歳になると言うわけだ。

剣を手にとったあの日以来、俺は異世界主人公を目指して鍛錬を重ねる非常にストイックな日々を送っているわけだ。ただ、この3年半はほとんどが剣の修行ばかりだったが、もちろんそれだけというわけではない。

年間行事やのトニースマスに行ったり、ポテトデデステン、町内ゲートボール大会……。
両親に連れられて町に買い物行ったり、シヴァに乗って家の近くの森を探検したりもした。

もちろん魔物が出るため、それほど深い場所まではいかなかったが……。

さらに、稀なことだが俺は魔法の勉強をしたりもしていた。
やることは昔と変わらない。
杖を振ってみたり魔法を詠唱してみたり、教科書をちょっと読み直してみたり。

やってることは昔とほとんど同じ。
なぜそんな不毛な事をしたのかというと、時間が経てばもしかしたら魔法を使える様になるのではと淡い希望を持っていたからである。

しかし、何も変わらなかった。

1歳の誕生日に貰ったあの杖は、どんなに時間がたっても決して魔法を吐き出すことはなかった。
どれだけ工夫してもダメだった。
それでと俺は杖を手放すことが……出来なかった。

エーデル語で詠唱しても、魔術言語で詠唱してもダメだったのに、
一度は諦めはずの道なのに、諦めきれない。

いつしか俺は杖を未練の象徴のように持ち歩くようになっていた。
魔法は使えない、ただのお守りみたいなものだ。

女々しいと思うだろう。
俺もそう思うよ。

あぁそういえば家族にとっても大きな出来事があった。

実はアルドレアの家族が増えたのだ。
つまりアディとエヴァの日々の努力のおかげで新しい子供が出来たのである。

しかも2人同時だ。

双子だったのだ。
妊娠が発覚したのは俺が4歳になった冬、つまりあの事件のすぐ後だ。
出産の時はめちゃめちゃ大変だったのを覚えている。

なんせ双子だなんて出産の時までわからなかったのだから。
超音波検査でお腹を調べるなんてことはできない。
そのため妊娠中も「あれ? ちょっと、お腹大きいかな?」くらいの認識であったため双子の可能性に思い至らなかった。

出産中、双子とわかった時はそれはもう大慌てになったものだ。
俺とアディは傍で、エヴァを励まし続けていたのだが、助産師さんが忌み子だのなんだの言ったせいでエヴァが酷く動揺してしまったのである。

知らなかったことだがこの世界、双子というのは忌み嫌われる者たちという認識らしく疎まれる存在となっているらしい。

元々は家の後継ぎやらなにやらで面倒なことになるからだったようだが、それがいつしか転じて双子とは単純に呪われた存在とされていったらしいのだ。

なんとも前時代的な考え方である。
まぁエヴァがなんとか持ち直し、無事に2人とも産むことができたので結果オーライだったが。

出産の翌日、2人の子供に名前をつける会議が催された。
産後エヴァは気絶してしまい、アディもあたふたして使い物にならず、名前を付けることが出来ていなかったからだ。

2人の子供達の名前についてしばらく頭をひねって考えた結果、彼らの名前はエラとアレックスに決まった。
一応先に生まれたので、双子の姉であり長女の方をエラ、双子の弟であり次男のほうをアレックスと名付けた。

ちなみに、エラもアレックスも俺が出した案だ。
最初は厨二的な日本人名をつけようかと考えていたのだが、俺と違ってどうにも日本人には見えないので外国人っぽい名前を選んだわけだ。

エラもアレックスもなかなかの高評価で速攻で2人に命名された。

最初こそ忌み子だのなんだのと、少し騒ぎになったが、今となっては何のことはない。
出産を手伝ってくれた助産師のおばあちゃんも、このことは黙っていてくれると言ってくれた。
ゆえにこの2人が双子だということはアルドレア家の中だけで内密にしておくことにしなった。

あれから2人はすくすく育っている。

慣れない頃は夜泣きなど、転生者の俺が行わなかった試練に両親は悪戦苦闘の毎日だったが、それでもアディとエヴァは2人で協力して、乗り越えてきた。
俺も結構手伝った。
子供は嫌いだが、不思議と自分の妹、弟とわかっていると嫌な気はしなかった。

両方とも卒乳は遅く、今でも毎日しっかり授乳してもらっている。
俺のような異常な成長速度ということはなさそうだ。
そのため、約1名母乳不足に陥る大きな赤ちゃんがいるのだが……まぁ彼のことは放っておこう。

かくして、アルドレア邸は一気に賑やかになったのだった。



「馬、だな」
「わふわふ」

師匠が家の前で何やら馬の準備をしていることに気づく。

「おはようございます! 師匠!」
「おやおや、今日も早いねぇ」

師匠といつもの挨拶を交わす。
この挨拶もすっかり板についたものだ。

「それじゃ、行こうかねぇ」
「はい!」

師匠は馬に飛び乗り手綱を握った。
今日の修行はテニールハウスでは行なわないのだ。
町の北側から東側に広がる広大な緑の世界、エレアラント森林へ行く。

「ふふん、ふんふんっ」
「わふっわふっ」

すごくわくわくして来た。
いつもテニールハウスでの修行ばかりなので、森に行くと言われて昨日から楽しみにしていたせいだろう。

テニールハウスから西側へ数分移動すれば、すぐに森の入り口に到着した。
裏庭から遠くに見えた森と草原の境界線だ。

「師匠、森に入って一体何をするんですか?」
「おやおや、言ってなかったかい? 魔物をんだよ。君はもう、それを行える十分な技術を持っているからねぇ」
「おぉ! 魔物退治ですか!」

いいじゃないか! 急にファンタジーっぽいぞ!

師匠の馬は森の中に躊躇なく入って行く。
普通に考えて「そりゃ無茶だぜじいさん」と注意すべきなんだろうが、たぶんその必要はない。

十中八九、ただの馬でないのだろうから。
だって師匠の馬なんだ。
普通なわけがない。

「ヒヒイィーンッ!」
「ハッ!」

案の定、師匠の馬は道無き道を軽やかに風のように走り抜けていく。
やっぱなんか特別なんだろえ。
だって師匠の馬なんだもん。

「俺たちも行くぞ、シヴァ! ハッ!」
「わふわふッ!」

師匠に続いて、シヴァを走らせる……というか勝手に走ってくれる。
うちのシヴァはどこにでも行ってくれる全自動タクシーとしての機能も搭載した名犬なんだ。

俺たちは師匠のナビゲートのままに走り続けた。

さて、この森の道なき道もそれなりに慣れてきたので、そろそろ気になっていた師匠の馬のことでも聞いてみても良い頃合いだ。

「師匠の馬はすごいですね! こんな森も走れるなんて!」

弟子として師匠を立てつつ話題を振る。

「ありがとう、アーカム。チョコちゃんは年寄りだが優秀だからねぇ。この程度の獣道どうってことはないのさ。水の上だって竜のように走れるよ」
「はは、またまたー」

師匠の冗談はわかりずらい。
馬が水上なんて、ね。

「だが私のチョコちゃんをもってしても、シヴァくんには敵わないねぇ」

師匠は優しい眼差しでうちの柴犬を眺めている。

「そういえば前々から思ってたんですけど柴犬ってそんな凄いんですか?」
「おや? アディフランツからシヴァについて聞いていないのかい?」
「もちらん聞きましたよ。とても珍しい犬種だと」

師匠はたまにシヴァのことを大げさに褒めることがある。

とても珍しい犬なので、他人に見せてもいいが犬種まで言ってはいけない……と、俺はアディからは聞かされている。
なんでも、皆、柴犬という犬種は知っているが、その実物を見たことのある者はほとんどいないと言うことなんだそうだ。
ちまたじゃ幻の犬と呼ばれてるんだとか……。

「っという感じに父さんには言われました」
「おやおや、それはまた随分との多い説明だねぇ」
「わふわふ」
「えーと、師匠? その抜け落ちてるっていうのを部分を教えてくれませんか?」
「ほっほっ、いいよ。シヴァくんもとい柴犬について少し教えてあげよう」
「わふわふっ」

そう言って、師匠は楽しそうな顔をした。

「柴犬……それは、とても強大な『怪物』の種族名だねぇ。しかも滅多にお目にかかれない幻の獣だ」
「怪物って……流石にバケモノ扱いは言い過ぎじゃないですかね?」

たしかに3メートルのいや、最近さらにでかくなったシヴァはバケモノといって違いないかもしれない。
だが、こんな可愛い顔しているのに、吸血鬼やなんかと比べるのはどうなんだろうか。
少し誇張しすぎ感が否めない。

「ほっほっ、いいや、その子は間違いなく『怪物』だ。シヴァくんはとても良い子に育ってはいるが、本物の『怪物』だよ」
「ふーん、怪物、ですか」

いまいち実感が湧かないがシヴァはとても珍しく、かつ強力な魔獣であるらしい。

「愛情を持って、人に育てられたからこれほど穏やかな子に育ったんだねぇ」

師匠はえらく優しい顔つきでシヴァを褒め続けた。
そうさせる何かがシヴァと師匠の間にはあるのかもしれない。

シヴァに甘い師匠と共に、馬と犬を走らせることしばらく。
師匠と森に入ってからもうかれこれ数十分は経っただろう地点で師匠の様子が少し変化した。

「おやおや、こんな浅いところにいるとは珍しいこともあるもんだねぇ」

そう言いながら、師匠は目を細め遠くを見つめている。

「魔物を見つけたよ。君が戦うんだ。覚悟はいいね?」

それだけ言うと師匠はチョコちゃんを止めて、馬上から降りると素早くこちらへ向き直った。

「シヴァくんが手を出してしまったら意味がないから、君は私とお留守番だ」
「わふッわふッ!」
「ここを歩いて行けば、テゴラックスが3匹いる。凶暴な魔物ではあるが、君なら問題なく倒せるはずだ。それに『限界! もうダメだー』ってなったら、すぐに助けに入るから心配もしなくていい。存分にやって来なさい」
「はい! わかりました!」

元気よく返事をして、自身に気合を入れる。
師匠はチョコちゃんに括り付けてあった真剣を投げ渡してきた。

「では行ってきます」

師匠たちは距離を置いて俺の後を付いて来てくれるのだろう。
真剣を腰に差して、師匠に指示された方向へ真っ直ぐ進む。

巨大な木々の根っこのせいで、足場の悪くなっている獣道を歩き続けた。先程までシヴァに全て任せていたが、この森の道は歩くだけで酷く体力を持っていかれるらしい。少し歩いただけなのにいい感じの疲労感が足に蓄積しているのだ。

だが、この程度でなんとかなる鍛え方はこっちもしていない。
獣道など凝った体をほぐすいい運動さ。

やがて準備運動を終えたくらいに体が温まったところで、森の中に明らかに溶け込めていない白い影を巨木たちの間に見つけた。
きっとあれがテゴラックスだ。

「よぉ! お前らがテゴラックスか!」
「ッ!?」

テゴラックスたちはビクンっとしてこちらへ振り向いた。えらく驚いているように見える。

せっかくの本物の魔物とたたかう機会なので、初戦は真っ向勝負と洒落込もうじゃないか。

「おー3匹ぴったりいるじゃねぇか。よしよし流石は師匠、あんな距離から種類と数がわかるのか」
「ヴェエアァァ」
「にしても……」

このテゴラックスたち見た目が完全にシロクマだ。
呑気に近づきながら「危険生物図鑑」での記載を思い出す。
たしか成獣で体長約3メートルにもなるだったか?

「ベアァァッ!」
「ヴェ、ヴェアァー!ヴェエア!」

シロクマを注意して観察しながら様子見をして待つ。

「ヴェェェェ……ァァァ」
「…………来ない」

こいつら襲ってこない。
先ほどからシロクマもといテゴラックス達は皆、威嚇してくるばかりで全く襲ってくる気配がない。
それどころか、まだ何もしてないのに怖気おじけ付いているようすらみえる。

「ヴェェアー!」

やはりとても怯えている。
なんでだろうか?

「よくわからないけど……とりあえずっていいんだよね?」

剣を抜き放ち、正眼に構える。

獲物はこいつらで間違いないのだ。
だったら別に倒してしまっても構わないのだろう?

自身の行動に間違いがないことを確認し、テゴラックスとの距離をゆっくりと、ゆっくりと詰める。

「ヴェァァ! ヴェェァ!」

地面を足裏ですりながらゆっくりだ。
戦闘始める前には、まずは間合いの調整が大事なのだ。

テゴラックスは威嚇しながら、油断せずに睨みつけてくる。
正面のデコラックスまでは……5メートルと言ったところか……。

「ん?」

左右のテゴラックス達が俺を取り囲むように、少しずつ横移動し始めたことに気づいた。
野性動物のくせに連携を取るとは。

厄介な形ではある。
が、試したい事があったのでテゴラックス同士が、自分たちから間隔を開けてくれるのは好都合だ。

3匹のテゴラックスが俺を中心に陣形を完成させるのを待つ。

「ベェィア、ベェェェエイア」

テゴラックスの陣形が完成した。
と、同時にーー、

「フッ!」

デコラックスが陣形を完成させた瞬間、俺は正面のテゴラックスに向かってに近づいた。

「ヴぇッ!?」
「ハハァ!」

一足飛び。

もっぱら2次元世界の戦士達は多用する跳躍方法。
現実の世界では考えられない運動だ。

それを、今、俺は行なった。
こういった2次元技巧は剣気圧を攻撃力に変える……「剣圧」によって身体能力を上げていることで実演可能になる。

その「剣圧」を使った基本移動術の「縮地しゅくち」こそが俺の試したかった技である。
長い修行を経て、俺はで異世界の武器「剣圧」を習得したのである。

「ハッハァア!」

5メートルの距離を速度を維持したまま、一瞬で詰めた。
そして正眼に構えたブロードソードを一気に突き出す。

「ベェィアッ!」
「へへ、これが俺様の瞬間移ぁッ!?」

一気に間合いを詰められてテゴラックスの驚くクマフェイスが見られるかと思いきや、テゴラックスは爪を振り下ろして攻撃を合わせてきた。

「なっ!」

剣の刺突をキャンセルし、慌ててブロードソードを切り上げて爪を弾き返す。

「反応! 出来るんかィッ!」

弾いた勢いそのままに剣を切り返し、もう一度ブロードソードを全筋力を動員して突き出す。

ーードグシャッ

手ごたえありだ。
命を侵す生々しい音。
幅広のメタルは、分厚い脂肪を貫通し筋繊維を断ち切る。
熊骨格をゴリゴリ傷つけながら内臓にまでその一撃は届かせたのが手応えでわかる。

「はい、一丁上がり〜」
「ベェィァァァァァ!」

とどめに剣を思いっきりひねる。
テゴラックスは苦しそうに顔にしわを寄せ、まとわりついた俺を振り払おうと爪を叩き下ろしてきた。

剣を一気に引き抜き後ろへ飛び、回避。

「ヴェ……ァ……ァ」

これで正面の熊は無力化した。
大量の血が傷口からとめどなく溢れ出している。
あの傷、間違いなく致命傷。
放っておいても死ぬはずだ。

そこまでの結論を一瞬で導き出し、即座に後方に控える2頭のテゴラックスに向き直る。

「ッ!」
「ヴェァッ!」
「べァッ!」

しかし、向き直った瞬間、テゴラックスはすでに眼前に迫ってきていた。
片割れのテゴラックスはすでに腕を振り上げている。
とっさに振り下ろしてきた爪をブロードソードで下方から上方へぶっ叩いて弾く。

「ありゃァアッ!」

が、爪を弾いた瞬間、左側のテゴラックスのボディブローが迫る。
ガードはーー間に合わない。

「まじッグヘェッ!」
「ヴェローッ!」

踏ん張れずに、勢いよく吹っ飛ばされる。
先ほど無力化したテゴラックスの上を飛んでいき、後方のウォークも巨木に激突だ。

すごい音を立てて衝突された巨木がきしみ、悲鳴をあげだす。
全身の粉砕骨折が懸念される衝撃力。
だが、それはあくまで元の世界での話だ。
俺の盾は特別製なのさ。

「お、おお、危ないねぇー! 絶対死んでた! 『鎧圧』なきゃ絶対死んでたって!」

「鎧圧」のおかげで、吹っ飛ばされてもノーダメージで済んでいる。
流石、この俺の「鎧圧」だ。
シロクマの攻撃でもびくともしない。

「同時に攻撃されるとさばききれない、か」

変形した幹に腰掛けながら、シロクマの分析に入る。

テゴラックスの戦闘力は俺の想像を大きく上回っている。
移動速度も速く、力も強く、反射速度も高い。
連携をとる知能もある。

もしかして元の世界のクマもこんな強いのだろうか?
奴らが本気になったら人類滅びるんじゃないか?
益体のない事を考えながら、体制を立て直す。

「しかし、これは、何というか……アレだな」
「ヴェァァ!」
「べァァァッ!」

たしかにすさまじい攻撃力だ。

子供とはいえ剣気圧で体が重くなっている俺をあれほど豪快にふっとばす、彼らの腕力が生み出す破壊力は驚くべきものだと賞賛できる。

だが、今の一撃はすごい破壊力だった、という意味以上に大きな意味を持っている。

「……俺、多分、お前らの攻撃じゃダメージ食らわないな」
「ヴェァッ?」
「べァッ!?」

そう、今の爪の刺突を含めた強烈なボディブローを食らってなお、テゴラックスは俺の「鎧圧がいあつ」を突破することが出来なかった。

それはつまりこのテゴラックスたちの攻撃力が、こちらの防御力より低いことの証明だ。

「はぁ~なんだよ~」

緊張感が一気に抜けていく。

「いいや、いかんいかん! 気を取り直してッ!」

掛け声と同時に幹から飛び出した。
「縮地」をせずに走って間合いを詰めよう。
一足飛びに近づくには距離がありすぎるためだ。

俺が一足で詰めれる距離はせいぜい8メートルが限界。
速い速度で移動できるのは5メートルが限界だ。

最高速を維持できる距離はもっと短い。
これらの距離を伸ばしたいなら、鍛錬あるのみ。

「ヴぇェア!」
「べェアアッ」
「ぼりゅあぁぁぁ! まずはオメェからじゃッ!」

先ほどボディブローをかましてくれたテゴラックスから倒すことにする。

2頭の距離は近く、お互いをすぐにカバーできる位置取りだ。
よって、大きく円を描くように回ることで2頭を直線上に捉えることにする。
実質的に、一対一の場面を作り出すためだ。

もちろん直線上後方のテゴラックスも前に出てこようとはするだろう。

「ここ!」

しかし、直線が出来た瞬間を見逃さず、すかさずテゴラックスとの距離を5メートルまで詰める。
そこから「縮地」をして、勢いそのままに剣を一気に突き出した。

「ウラァァァ!」
「ベェアアァ!!」

テゴラックスも俺のことを打ち落とさんとばかりに、またしても太い腕を振り下ろしてくる。

時間がコマ送りになっていき、ゆっくりと流れるような感覚を味わう。

この振り下ろし……食らっても平気だろうが、ダメージを受けない100%の保証があるわけではない。
地面と腕でサンドウィッチされて仕舞えば、衝撃を殺せず、このシロクマの爪が俺の「鎧圧がいあつ」を突破してくるかもしれない。

それに、テゴラックスだけが敵なわけでもない。
これから先、色んな奴と戦う事があるかもしれない。
その中には鎧圧を貫通して致命の一撃を繰り出してくる奴もいるかもしれない。

「……ッ!」

攻撃を受けても平気だという甘えを捨てる。
先ほどと同じく、剣をを使って爪を叩き弾く事を選択した。

「ハイィッ!」

そして、剣を切り返して先ほどと同じように刺突を繰り出す。
流れが同じで、事前に要領がわかっている分、スムーズに素早いコンボを決める自信がある。

最速の切り返しに、力も十分に乗っている、タイミングも完璧といってもいい。

これはイケるぜ!

ーーギィィンッ

「ッ!」

俺の自信は次の瞬間には崩されていた。
俺の突き出したブロードソードを白く太いクマアームが弾いてしまっていたのだ。
後ろからヒョイっと飛び出した、もう一頭のテゴラックスの援護が間に合ったのだ。
想像以上に彼らの地力が高すぎるのだ。

カスリもできず、完全に攻撃を外す。
体までもが無防備に晒された。

これは衝撃を覚悟した方が良さそうだ。
そう思って、半ば攻撃を食らうことを許容する。

攻撃を受けても大丈夫という思考が招いた甘えーー。

それを見抜いたのかは定かではない。だが、テゴラックスが選んだ攻撃はボディブローではなく、その巨大な顎を用いての噛み付きであった。

「まッ!」

咄嗟に「一文字斬り」で切り払うが……所詮は力の乗っていない剣撃だ。
テゴラックスの毛皮を浅く切り裂いただけでに終わる。

ーーガキィィイッ!

生身に噛み付いている音とは思えない、硬いもの同士がぶつかる音が森に響く。

テゴラックスはそのまま覆いかぶさってくる。
体重にモノを言わせてこちらを押し倒す気だ。

「剣圧」を全開にして強化した膂力でなんとか拮抗勝負に持ち込む。

「ぐぅぅぅううう!」

ーーギィイイイイイッ

耳障りな金属の擦れあう音が耳元で鳴り続ける。

ただその音はテゴラックスの顎の力を持ってしても俺の「鎧圧」の防御力には敵わない事の証明だ。
この音がある限り熊は俺を殺せない。
残念だったなシロクマ。
お前じゃ俺を倒せないのさ。

ーーガキィィィッバギャギィィィ

拮抗していた硬質な音にが生じる。

「うわッ、やばいっ! なんで!?」

感覚でわかる。
生まれてこの方、体を覆っていた心の拠り所。
絶対の安心を与えてくれる存在、それが脅かされていると。

アーカムの「鎧圧がいあつ」は突破されようとしていた。

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