記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第16話 ちょっとした人助け



無事に怪我させずに慈愛をもって男子たち無力化することに成功するとどうなるかのか。
結論:男子たちが揃って泣き始めた。

「うぅ〜こわいよぉお!」
「うわぁあ! この子こわいぃぃ!」

喧嘩を傍観していた女子たちも泣き始める始末。
最初に話した金髪女子に関しては既に安らかな顔で気絶してしまっている。

完全にやりすぎた。

「おい! なんだ! 子供が泣いてるぞ!」

遠くから声が聞こえてくる。
これだけ騒ぎになれば次にどのように状況が変化するかは想像に難くない。

ゆえに俺はシヴァを連れて、速攻で悲劇の児童虐待場から離れることにした。



しばらくの後、ボンレス広場の一角は大人達が集まり人混み形成することになっていた。
遠目から見てアディとエヴァも人混みの外側で野次馬していたので、両親に合流することが出来そうにない。

「あークソっ、やっちまった。子供相手に手を出すなんて、日本だったら白い目で見られて、檻の中だ」
「わふぅ」

子供相手にあんなにキレることは普通じゃないんだろう。
ちゃんとしたやつなら話し合いで解決したはずだ。

自分の短気さが嫌になる。
俺がもっとクールな男だったら良かったのに。

「こんなんじゃせっかくのトニースマスが台無しだよな」

天を仰ぎ真っ暗な空に向かって、悪態を吐く。

1つのことに集中しすぎず、意識を変えてイベントに参加したらこれだ。
後で怒られるんだろうなぁとか、シヴァ連れてったの間違いだったかぁとか、様々な思考が頭の中を巡りめぐってどうにも落ち着かない。

「わふっわふっ」
「シヴァおいで」

歩くは人気のない暗い通り。
灯りらしい明かりは、通りの左右の建物から漏れてくる食卓の灯りくらいか。

家々の中からは家族で温かい食卓を囲むものたちの明るい笑い声が聞こえてきた。
そんな声を聞いていると俺だけが不幸になったように感じる。

本当に嫌な気分だ。

意気消沈して暗闇を歩いているとふと人影を視界の隅に捉えた。 通りの脇に細い下り階段の中腹で隣合って身を寄せている。
大人しそうな茶髪少年と、活発そうな焦げ茶色の髪の少女だ。
年齢はさっきの子供たちと同じくらいに見える。

ほんの数メートルの距離で数十秒眺めていても全く気づく素振りがない。首を傾げてしまう。

完全に自分たちの世界に入りこんでいるらしい。
なんとなく天を仰ぎ見た。

あぁ、神よどうしてこんな不幸なことばかり俺には起こるんだ。少し試練出し過ぎじゃあありませんか……って、ん?
何となく視線を振った少女たち直上で、積もった雪の塊がように見えた。

一定量積み重なって不安定になってるようだ。
今にも崩れそうである。

「ふふ」

へへ、こりゃいいな。
注意なんてしてやんないぜ?
こんないいところで注意なんてしたら自然の神様に怒られちまう。

自分たちだけの世界ってのはいつかぶっ壊れるということを、自然様がわざわざ教えてくれるんだ。
邪魔することは無い。
よしよし、はやく落ちろ……落ちろ……。

今か今かと雪が崩れるのを待ちわびる。

ただ卑屈な待機をしていると妙な視線を感じた。
この視線は……まるで俺のことをあわれむような、とがめるような。

視線の方向を探り顔を向けるとシヴァが黙ってこちらを見つめているのがわかった。
なにかを問いかけてくるような瞳だ。

「わふ」
「……なんか、ごめん」

はぁ……なにやってんだろ……俺……。

シヴァはきっと問うているのだ、そんなんでいいのか、と。

やれやれ情けない。
子供とはいえその違いには大人より色がある。
他者に不幸を撒き散らすなんて脇役もいいところだ。

「こほん。ほれほれ、そこの君たちそこの雪が今にも崩れそうだからどいた方が……ッ、てちょッあれ!?」

声をかけようとするのと、屋根の雪が崩れるのはほぼ同時だった。
慌てて数歩先にいる少年少女の服の襟を掴み引っ張り寄せる。

「うわっ!」
「わぁっ」

少年らを引っ張りあげた次の瞬間、建物の屋根から大量の雪が落ちてきた。細い脇道階段を埋め尽くす白い壁。

最初は、雪に埋まって火照った恋を冷やしてやるぜ、程度に考えていたのだが、目の前の階段が雪で消えたと錯覚するほどの量を考えれば、普通に子供なんか死にそうだ。
シャレにならない。この質量は殺人的である

「危なすぎだろッ!? 雪かきしろよ!」
「ぁぁぁわああ……」

とりあえず狼狽してる子供たちが怪我してないかチェックだ。

「あー大丈夫ですか? どこか怪我とかしてませんって、ぇ? ひとり死んだ?」

少年少女の無事を確認しようとしたところ、少年のほうの意識が無いことに気づいた。
残念なことに手遅れだったらしい。

「ぁ、いえ、多分、気絶してるんだと、おも、おもいます。その子ビビリだから……」
「あぁなるほど」

意識のある少女のほうが状況を説明してくれた
気絶なら問題ないはずだ。死んでなし、と。

「あ、あの助けてくれてありがとうござ……ーー」

少女がお礼を言ってくれようとしている。
うんうん、そうだ。
こういう時お礼を言える子は偉いぞ。
最近の若者はお礼を言うことを知らないからな。

「…………ん?」

しかし少女の言葉がは最後まで紡がれることはなかった。

「あれ、どうしたん、だいッ!?」

心配して向き直った時、少女は気を失っていた。
まるで突然に巨大な怪物でも見て失神してしまったかのようである。

もしや……、

「シヴァ、お前か……」
「くぅーん……」

まぁ仕方ない。
シヴァみたいな大きな獣が気づいたら横にいたなんて事態、初見だったら誰でも気絶の1つや2つしてしまうもんだ。
少女のそれは至極当然の反応と言えるだろう。

気を失った少年少女を足元にシヴァの犬顔を交互に見る。

「いこっか」
「わふっわふっ」

俺たちは少年少女を置いてその場を去ることにした。

目が覚めるまで待っていてもいい。
けれど俺は短気で子供が大嫌いだからお互いに不快な気分になってしまうかもしれない。

だったらここは彼らの命を救ったことに満足して立ち去ろうではないか。
それがお互いのためだ。

「ヒーローは仕事を済ましたらすぐに現場を去るものさ」
「わふっ! わふっ!」

降り注いでいた雪は既にやみ、綺麗な足跡を地面に刻み残す。

人助けをした一夜限りのヒーローとその相棒は、真っ白で真っ黒な通りを軽快な足取りで歩き出した。



結局シヴァと一緒に家まで帰って来た。

玄関扉の鍵は閉まっているので、座って両親の帰りを待つことにする。

指の防犯用リングを起動させてみよう。
2人が心配して探し回っていたら大変だ。

起動は方法はとっても簡単。
指にはまっている、リングの外側を上と下から摘めばいいだけ。

「よいしょ……お?」

それだけで、防犯魔道具は起動しリングから赤い一筋の光が出始めた。

きっとこの光の方向にアディとエヴァがいる。
向こうもこちらの位置情報を受け取ったはずだ。

感覚的に距離もわかるようになっているようだ。
距離的に彼らはまだ町の中央にいるらしい。

そこまでの情報をリングから受け取ると、リングから出ていた光はゆっくりと消えていった。
光を失った防犯用魔道具はただの金属の指輪になってしまった。

しばらくするとアディがエヴァをお姫様抱っこする形で、森道を駆けぬけてきた。
2人は玄関で待つ俺とシヴァを見つけて、あからさまにホッとした顔で急いで駆け寄って来た。

リングを起動してからものの数分でやってくるとは流石にアディは速い。

「アーク! いきなりいなくなって心配したぞ!」

そう言いながら、アディはエヴァをゆっくり下ろす。
本当に焦ったのかよ。
汗1つかいてないように見えるんだけど。

「そうよアーク! 先に帰っちゃうなんて!」

エヴァもご立腹だ。
これから事情説明をして、お説教が始まるんだろう。
覚悟決めて、俺は両親に事情説明を始めた。





今日もテニールハウスで師匠と稽古に励む。
乾燥した冷たい風が肌を刺激してくるのが心地よい。
すこし運動して体が温まったくらいが一番気持ちのいい時期だ、とすっかり体育会系になってしまった俺は体を動かす喜びを噛み締めていた。

ん? かつてのお説教はどうしたかって?
一応されたっちゃされた……がーー。

あの出来事の後、俺は2人に事情を説明した。
2人は俺の話を聞き終えしばらく瞑目した後、頷き合っていたっけ。
彼らだけ何か通じ合っているような感じだった。

それからアディとエヴァからそれぞれ一言、二言もらうと、家の中へ入って夕食が始まったのだ。
拍子抜けするほど、あっさりとした説教だった。
あまりにも軽すぎて何を言われたか、ほとんど覚えていないほど。

もしかしたら、俺がチルドレン無双をしたことを知らないのかもしれない。

いや、俺が説明しちゃったからそれはないか。
うーんじゃあ、あれは結局なんだったんだ?
数日経った今でも怒られなかった理由はわからないでいる。

まぁ、結果オーライということだろう。

「はッ! はっ! はっ!」
「腰が上がってきてるねぇ」

俺が今やるべきことはもうわかっている。
俺には剣のほうが魔法よりも適正があったらしく、最近は動きの中に存在する理とやらもかなりわかるようになってきた。

それに俺には生まれもった「鎧圧がいあつ」がある。
剣の才能の方が魔法の才能よりと遥かにあるのだ。

だから、魔法は諦めろと自分に言い聞かせる。
もう失敗はできないんだ。

俺に期待してくれる人を失望させたくない。
強い強迫観念を糧に俺にはこれしかないんだ、と何度も何度も自分を鼓舞し続ける。
俺は懸命に剣の修行に打ちこんだ。

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