虐げられてきた俺、実は世界最強の【剣豪】だったらしい〜『防御力無視の刀』で無双旅〜

ノベルバユーザー542862

第14話 傭兵サムス・クラフト


「あ、サムス、おはよう」

アルウの爽やかな挨拶。
サムスの脳裏をユー婆の姿がよきる。

《そんなんじゃ、すぐあの子にも愛想尽かされるさねえ》

「今日は良い朝だな。アルウ」
「? ふふ、そうだね。良い朝だよ。昨日はよく眠れたかな?」

サムスは無言でうなずく。
アルウは「それはようございました♪」といい、ニコッと微笑んだ。

「馬の世話、助かる」
「いいよいいよ。わたしも久しぶりに馬のお世話できて嬉しいから」

アルウはそう言って馬に抱きつきスゥーと胸いっぱいに息を吸いこんだ。

「本当に久しぶりだなあ」
「ブルルゥん」
「はは、ぶるるーん、ぷるるーん。そっかそっか、ここが気持ちいいのか〜」

ブラシで毛並みを整えるアルウは、とても幸せそうに見えた。
サムスは少し離れた位置で、木柱を背にそれを見守る。

サムスは考えていた。
果たしてどう話を切り出すべきか、と。
現状、サムスの目的は記憶を取り戻すことにある。
しかし、サムスは思い直してはじめていた。
記憶を取り戻すことは、そこまで積極的になることなのか、と。
それは、サムスが潜在的に抱く、アルウに″記憶の不具合を悟られたくない″という心の動きにも起因していた。

サムスには葛藤があった。
アルウに記憶の有無について触れられたくない。
一方で、自分の過去を明らかにしたい欲求はある。
そんな葛藤だ。

(同郷のアルウが生きてたんだ。アルウがいれば、すべてを聞かずとも、そのうち思い出せる)

サムスは自分のフラッシュバックに期待することにしたようだ。
アルウと共にいる事。
すなわち、現状維持。
これがサムスの記憶をめぐる旅への現在の選択だった。

「わふゥ」
「あ」

サムスが思考にふけっていると、ルゥが駆け出した。
ルゥはてくてく走っていき、アルウの履く大きなスニーカーにお腹でダイブした。

「あはは、君もかわいいね。サムス、この子に名前はあるの?」
「え? 名前?」

サムスは一瞬、言葉に詰まった。
なんとなくソレを言うのは、はばかられる事だと思ったのだ。
サムスは意を決して、口に出す。

「……ルゥ」
「え?」
「だから…ルゥだ」
「ルゥ君か〜。わたしと同じ響きだね〜」

サムスは自分がどうして、ルゥ、などと名付けたのか、なんとなく察してしまった。

(アルウ…ルゥ、アルウ…ルゥ)

「こっちの子の名前は?」
「馬の方は無い」
「え〜かわいそう。わたしが名付けてもいい?」
「別に構わない」
「やった。それじゃ、今日から君はレント二世と名付けようかね、ふっふ」

サムスの馬はレント二世となった。
アルウはレント二世を連れたまま、馬小屋を出た。

「よいしょっと。それじゃ、サムス付いてきて。スラムを案内するね」
「馬に乗ったまま行くのか?」
「もちろん。乗馬の感覚取り戻さないとだからね」

アルウはにーっと笑い、ふと「あ、ダメだった?」とサムスに気を使うように眉根を寄せた。

「別に構わない。好きに乗っていい」
「ありがとうね、サムス」

お礼を言い、アルウはレント二世にまたがって行く。
サムスはアルウの横について、腰の刀にそっと手を添え、あたりを警戒しながら歩いた。

道すがら、サムスはスラム街について説明を受けた。
スラム街は基本的に『東側』と『西側』に分かれているとのこと。

『東側』──現在、サムスがいる側──は、大陸の人間から流れ着いた者が多い。
『西側』は別世界のなかでも、下流階級の人間が多く集まっているという。

戦争終結直後から、たびたび喧嘩が勃発していたが、最近は割合に大人しいのだそう。

「それでも、スラムは危ないからね。自分の身は自分で守らないといけないよ」

アルウはサムスに挑戦的な眼差しを向けてくる。
サムスは鼻を鳴らし「俺を誰だと思ってる」と腰の刀に触れた。

「ふふ、サムスなら大丈夫そう。あ、そうだ、そういえば仕事を探してるって言ってたけど、こんな不慣れな場所だと大変じゃない?」
「そうだな。待ち合わせが600Aドルしかなくて不安だったところだ。……ところで、これって金貨何枚くらいの価値なんだ?」
「600Aドル? うーん……3枚くらい?」

(あのババァ、殺す)

サムスは澄ました顔で「そうか。そのくらいだと思った」と納得しながら闘志を燃やしていた。

「大丈夫、わたしに任せてサムス。これでも『アルカウィル』のアルウって言ったら、スラムじゃ顔が効くんだよ」
「それなら、頼もうか。……プロフェッショナルの仕事を頼む」
「?」
「……傭兵的な仕事だと俺もやりやすいってことだ」
「あ〜なるほど。そっかそっか、サムスはガーディアンだもんね! よし、それじゃ″傭兵サムス・クラフト″として売っていこっか!」

アルウの楽しげな声。
それは同時に、サムスの脳裏に鋭い頭痛を及ぼした。

「うぐっ…っ」

《お前の名前はサムス・クラフトだ》

サムスはその声に聞き覚えがあった。
しわがれた声、ニヤリと笑う口元から覗く黄色い歯。
醜悪を差し向ける狂気そのものだった。

「あか、ぎ、赤木……」

「サムス? サムス!」

レント二世から降りたアルウが、地面に膝をつくサムスに駆け寄る。

「大丈夫?」
「ぁぁ、平気……もう大丈夫」

サムスはよろよろ立ちあがる。
サムスは自分が発した言葉の意味をわかってはいなかった。

(赤木……人の名前? どうしてそんなものを…)

赤木という名前の意味はわからない。
しかし、わかったことはあった。

「俺の名前は、サムス・クラフトなのか?」
「え……?」

アルウは困惑気味に声を漏らした。
サムスはハッとして、おかしな質問をしたと思い直す。

「いや、なんでもない」
「そう? サムス、本当に大丈夫…?」
「ああ。何も問題はないさ」

サムスはしっかりと立ちあがった。
アルウはサムスの事を、憂いとわずかな懸念の眼差しで見つめていた。

──しばらく後

スラム街を散策したサムスとアルウ。
2人は『ジャンクカレッジ』と呼ばれる、鉄屑の山に囲まれたガレージにやって来ていた。

そこには、ランドルフ・スカンナと呼ばれる身長190センチ金髪碧眼の筋肉属性の男がいた。
サムスは最近は毎日筋肉を目にしてるな、など益体のない事を考えながら、ランドルフに話しかけた。

「このヒョロっちいのはなんだ、アルウ」

ランドルフは威圧的にサムスを見下ろし、アルウに問いかける。

アルウは自慢げに豊かな胸を張り、サムスを示した。

「えっへん、こちらはわたしの幼馴染のサムス・クラフト。ガーディアンなの。この街で傭兵をはじめたから、何か仕事はないかと思って、連れてきたのよ」

「ほお〜ガーディアンねえ〜……」

ランドルフはサムスの周りを品定めするに一周して「だったら、いい仕事があるぜ、二枚目男」とサムスに指をつきつけた。

「指を差すな」
「俺様の勝手だろ?」

ランドルフはしゃくれ顎で、サムスを煽る。
サムスはまぶたを閉じて、アルウに事前に言われていた事を思い出していた。

《ランドルフは人見知りなの。最初は態度悪いかもしれないけど、我慢してあげてね》

サムスはまぶたを開けて「ふん」と鼻を鳴らすだけで済ました。本来なら抜刀して斬り伏せてるとこだ。

「へへ、まあいいぜ。まずはお前が働ける人間かどうかテストと洒落込もうじゃねーか」
「俺は安くはないからな」
「アホか。誰が雇うって言ってんだよ。まずはテスト、試験雇用。報酬はでねぇ。仕事が欲しいならまずは戦えることを証明してみせな」

不機嫌に顔を歪めるサムス。
アルウはかたわらで「顔に出てる……!」と注意をうながす。

「はあ……それじゃ、俺は何をすればいいんだ」
「そうだな。それじや、まず『樹園じゅえん』に行ってもらおうか。魔物がスラム街に侵入して、いま『スラム・ガーディアン』があたりを封鎖してるところだ」
「その魔物を倒せ、と」
「そういうことさ。ビビって逃げんなよ、色男」

ランドルフは楽しげに悪い笑みをうかべ、サムスを挑発する。
だが、サムスが何も言わずに背を向けて『ジャンクカレッジ』を出ていくと、ランドルフは肩透かしを喰らったように微妙な顔になった。

「ありがとう、ランドルフ」
「いいって事さ。あいつ『樹園』の場所わかんないだろ。はやくついて行って案内してやれよな」

ランドルフのもっともな助言に、アルウはハッとして、先行するサムスの後を追いかけて行った。


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一方『クロガネ隊』

「ば、バルドロー? 死んでない?」
「おい、バルドロー、バルドロー」

遠巻きからリンチ現場を眺めていたバネッサとゴルドゥは、不安そうにバルドローに近寄る。

まだ生きているとわかると、2人はバルドローを運んだ。

「わたしたち、もうこの街にいられないわ……」
「今日中に荷造りして宿屋をでるしかねぇな」

ゴルドゥとバネッサは、なけなしの銀貨で買った治癒ポーションでバルドローの顔をまだ見れる状態に治していく。

治癒ポーションを使い終わると、バルドローは目を見開き起きあがった。

「許さなねえ、これも全部サムスのせいに違いねえ」

「バルドロー! よかった生きてたか!」
「やったわ、バルドロー復活ね!」

大喜びするゴルドゥとバネッサに、バルドローは上機嫌だった。

「ん、なんじゃ、もう良いんかい。元気なったんたら出て行っておくれよ」

小屋の中、老人は厄介払いするようにバルドローたちに告げた。

3人はこの老人の厚意で、彼の所有する馬小屋に一時避難させてもらっていたのだ。

「ありがと、おじいさん♡」

バネッサが可愛らしい顔で、ウィンクする。

すると老人は顔を強烈にしかめた。

「おぬし、それはあんまりやらない方がええのぉ……。下手なビジネススマイルほど見てられないモノはないわい」

「な、なな、なんて失礼なジジイなの!」

「一瞬で化けの皮が剥がれたわい。ここまで来ると虚しいばかりじゃのお」

暴れ出しそうになるバネッサをゴルドゥがおさえる。

「ん、そういえば、じいさん、あんたは馬を売ってんのか」
「そうじゃ。これはワシ自慢の馬たちじゃ。近くの草原で人が乗れるよう訓練しとるし、餌にもこだわりを持っとるからすこぶる質が良いぞお〜」

バルドローは顎に手をあてて考える。

「なあ、じいさん、この小屋にわりと綺麗めな蒼銀髪をした、ひょろっちいこんくらいの背丈の男がやって来なかったか?」
「あー、少し前に来たのお。なんでもずっと、南にある″チタン村″とやらを目指すとか言っておったわい」
「ほう。その話詳しく聞かせもらおうか」

バルドローはニヤリと笑みを深めた。

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