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【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜

ノベルバユーザー542862

アフターストーリー 帰郷と悩みと未来


小鳥がさえずる朝の時間。
俺はベッドから起きて、とりあえず顔を洗うために台所へおもむく。
台所には大きなかめが用意してあり、瓶のなかの水はわずかに残っている。
俺は顔を洗うまえに、とりあえず井戸で水を汲んできたほうが良いと判断して、裏口から家をでた。

ここはアルス村。
昨日、帰ったばかりの地元だ。
ただいま、俺は神威の騎士団長アルゴヴェーレ・クサントスの提案を受けて、『たまには故郷に帰る』を実施しているところなのだ。

朝の村は穏やかな涼風が吹いていた。
寝癖のついた髪の毛を揺らされながら、俺はバケツを片手に井戸に向かう。
井戸の滑車にバケツをつけて、ヒモをおろして水を汲む。
それを、家の台所の瓶のもとまで持っていき、水を移す。
瓶がわずかに満たされた。

「あと何回やんだよ…」

俺は小さく悪態をつき、また井戸の水を汲みにいった。
蛇口を捻れば水がでる、お金を出せばなんでも買える、そんな生活に慣れてしまったシティボーイとしては村の生活は面倒なことだらけだ。

「これで30回目……水道工事すべきだな」

俺はようやく瓶を満たし終えて、貯金をつかって近いうちに水道を取りつけることを決心する。
水で顔を洗い、適当に寝癖をなおして、今度は家の横の羊小屋に向かう。

「メェメェ!」
「どうしたんだよ、忘れちゃったのか。俺だぞ、マックスだ」
「メェメェ?」
「ダメだな、誰も覚えてない」

羊小屋から羊たちを解放するなり「誰コイツ」と言って、みんな逃げていく。
昔世話してやった恩をまるっきり忘れている。悲しいものだ。

「メェメェ…」
「ん? なんだお前は、凄いおじいちゃんじゃん」
「メェメェ…」
「ん、お前……ああ、そうか。あの時はまだこんなにちっちゃかったけ」

俺はよってきた老羊の頭を撫で、毛をモフッと触る。
懐かしいな。
昔、子羊が柵から逃げ出して追いかけたことがあった。
探しまわったすえに、その子羊を見つけたが、そいつは魔物に襲われていて、それで俺は子羊をかばって怪我をしたんだった。
その時はオーウェンが駆けつけて、魔物を軽く捻って倒してくれたから助かった。
以降、その子羊は俺と仲良くなって、名前もつけるようになったんだ。

「恩を忘れないのは偉いことだぞ、ルナ」
「メェメェ…!」
「また散歩でもしてみるか?」

懐っこくしてくる老羊ルナを連れて、俺はアルス村を散歩することにした。
ルナは俺の隣にぴったりついてくる。

「懐かしいな。それはルナか」

声がして振り向くと、柵の向こうにオーウェンの姿を見つけた。
オーウェンも羊飼いなので、柵の向こう側には、羊たちがたくさん放牧されている。
ただ、どういうわけかオーウェンのまわりには羊が多く集まってきていた。

「羊飼いにもカリスマ性ってあるのかな」
「さあな。牧羊犬の扱いにおいては一定のカリスマ性が必要だとは思う」

オーウェンはそう言って、柵を軽く飛び越えて出てくる。
首には笛をさげており、服は冒険者のものではなく、牧場に生きる男の土と汗に汚れたシャツだった。昔の服はサイズが小さくなってしまったので、父親の服を着てるらしい。

「散歩でもするか、マックス」
「ルナが許可したら同行しても良いぞ」
「そうか。ルナ、覚えてるか? 俺はマックスを崖から突き落とした大親友にして、剣豪として名高いオーウェンだ。一緒に散歩していいか?」
「メェメェ…」
「ダメって言ってる。残念だったな、オーウェン。あっち行けよ」
「ああ、残念だ。ではついて行くとしよう」

老羊ルナを連れて、俺とオーウェンは散歩を始めた。
朝の心地よい空気を堪能しながら、俺たちは小高い丘に来た。

「メェメェ…」

ルナが草をむしゃむしゃ食べるのを眺めながら、俺とオーウェンは朝露に濡れた草原の小岩に腰掛ける。

「ルナ、か。確か、あの羊をマリーの代わりとしてマックスは擬似デートしていたな」
「やめろよ、その黒歴史」
「メェメェ…」

オーウェンは薄く笑い、遠くを見つめる。
しばらく沈黙して、彼はまた口を開く。

「マックス、その後、マリーとはどうだ?」
「なんだよ急に」
「最近、マリーとうまくいっていないらしいって、シュミーから聞いた」

オーウェンは足元の雑草で草笛をつくりながら言った。
俺はしばらく沈黙した。

「『神聖祭』からもう1年経つ。国は日常にもどって来てる。すべてが上手く進んでいるなかで、お前とマリーだけが日々、わずかにズレていく機械時計のように、ちょっとずつ、ちょっとずつ狂い始めてる」
「……オーウェンにはそう見えるか?」
「ああ。そうとしか見えない」

オーウェンは草笛を完成させて、ひとつ小岩のうえに置くと、二個目に着手し始めた。

俺は黙って丘の上から見えるアルス村のテイルワット家を見る。
まだ、マリーは帰ってきてない。聖女としての務めが残っているとかで、俺とオーウェンと共に帰郷せず、数日ずらしたからだ。
俺はそのことを思いながら、うつむいた。

言おうか、言うまいか。
自分の内側でしばらく葛藤して、結論をだした。

「マリーと寝たんだ」

俺はゆっくり口を開いた
オーウェンは黙々と草笛をつくり続ける。

「そろそろ、付き合い始めて1年経つし、いくら彼女が聖女だからってまわりも容認してくれるかなって思ってさ」
「適切な判断だ。先延ばしし過ぎると、かえって余計な問題を引き起こす。【施しの聖女】に魅力が足りない。あるいは【伝説の運び屋】は実は不能だった、とかな」

オーウェンの淡々として声に、俺は彼の顔を見る。

「不能じゃない」
「知ってる。お前は人一倍は男子だ」

オーウェンは俺の顔を見たまま、草笛を目の前に持ってきて「ふたつ目」と言って小岩のうえに置いた。

「いつ誘ったんだ。個人的に興味がある」
「……ジークが『【豊穣の聖女】様と交尾したんだぞ!』って報告してきたことあったじゃん。ポルタ退治のクエスト前に」
「ああ。アレか。毎週毎週『風の都市』までよく通えるものだと関心する」
「翼があれば片道数時間らしい。ってジークのことはどうでも良いんだよ」

話が逸れそうになるのを修正する。

「その翌日くらい」
「ポルタを倒した勢いで、聖女も押し倒そうとしたわけか」
「くだらないこと言ってると、冤罪でオーメンヴァイムに突っ込むぞ」
「悪かった。……本当はジークの早さに焦ったとか、か」
「……俺、ジークに負けたんかなって、アホなこと思っちゃって」
「アホだな。ジークとウィンダ。マックスとマリー。まったく違うだろう」

オーウェンの言葉に黙るしかない。

「それで、マックスはその時に何か致命的な失敗をやらかした」
「馬鹿だったんだ。俺は覚悟が出来てなかったのに、マリーをその気にさせて……」
「どうしたんだ」
「……逃げた」
「……」
「マリーを置いて逃げたんだ。でも、翌朝、マリーは何かあったのかって凄い心配そうに聞いてくれて、それで俺、正直に答えられなくて」
「そこから、だんだん2人の心の乖離が始まったわけか」
「もう4ヶ月になる」

俺はそう言ってかつての自分の行いを悔いた。

「なんで逃げたんだ」

オーウェンはみっつ目の草笛を完成させて聞いてくる。
俺はドキッとして沈黙する。
オーウェンがよっつ目の草笛を完成させる頃、俺は勇気を持って立ち上がった。

「オーウェン、お前は親友だよな」
「世間じゃ、俺たちの関係をそう言う」
「そうか。なら、そんな親友のお前に、びっくりするモノ見せてやるよ」

俺は老羊ルナとは反対方向へ進む。
「オーウェン、俺は正気だ」
「?」

オーウェンは怪訝な眼差しで、草笛をつくる手を止めて、首をかしげる。
俺は大きく息を吸いこみ、右手で左手首を掴んだ。
そして──思いきり、左腕を肩から引っこ抜いた。

「ァああああ……ッ」
「……!」

千切れた肩から、血が勢いよく噴出し、まだ何本か繋がってる筋肉繊維が糸を引く。
俺は歯を食いしばり、残る筋肉繊維も全部切れるように、完全に左腕をちぎり取った。
朝露で濡れる草原が、真っ赤に染まっていくなか、俺は左腕を草原のうえに放り捨てた。

「はあ、はぁ、はぁ……」

オーウェンが目を見開いて見るなか、俺は額に汗をかき、自分の無くなった左肩を見つめる。

「ッ! それは……」

オーウェンは驚愕に声を漏らした。
それは俺の無くなった左肩が、神経、骨、筋肉、脂肪、皮と、みるみるうちに再生していくのを目撃したからだ。

「オーウェン……これが、今の俺だ。怪物なんだよ、バケモノなんだ、俺は……」
「マックス、何があったんだ?」
「はじまりはわりと最近だ。半年前にアクアテリアスの復興ボランティアをやめて、師匠との本格的な地稽古を再開した。そこで、ボコされて、俺の体が、あらゆる傷を勝手に、それも超高速で治すことに気がついた」

師匠は黙ってくれていた。
すべて本人の問題だから、と。
けれど、道場へは来るな、と言われた。
マリーに見られる可能性を考慮してだ。

「メェメェ…」

老羊ルナが寄ってくる。
俺の苦痛の声を聞いて心配したらしい。
俺はルナの頭を撫でながら、千切れた腕から彼を遠ざけた。

「どうしてそうなったか、心当たりはあるのか?」
「ある。間違いなく、な」

俺は1年前の魔女との決戦。
そこで出会った吸血鬼の女を思いだす。

「吸血鬼だ。魔女が外国から連れてきたって言ってた。俺はあいつに……敗北して、それで眷属ってやつに変えられてしまったんだ」

俺は図書館などで必死に研究した結果たどり着いた『吸血鬼』なる存在ついて思いだす。

「吸血鬼、か。にわかには信じられない話だな。だが、マックスが言うのなら本当なのだろう」
「奴は外国に逃げた。だが、わかるんだ、俺の心臓が、この鼓動が、俺にヤツの居場所を教えてくるんだ。まるで、ヤツのもとへ向かうことが運命づけられてるみたいに」

俺は涙を流しながら、心臓を押さえた。

「オーウェン、俺は…人間じゃ…ないんだ……怖いんだよ…こんななんの危険が孕んでるか、自分でもわからない呪われた体でマリーに触れることが…! 近づくことすら、怖くてたまらない……!」
「……」
「俺は、マリーが好きなんだ……なのに、なんで、こんなことばっか……!」

俺は涙を嗚咽をもらしながら、老羊ルナにすがりついた。
ひとしきり俺が泣いている間、老羊ルナはメェメェと鳴くこともなく、ただ静かに背中を貸してくれた。
オーウェンも黙って、沈痛に顔を歪めてくれていた。

俺は枯れた涙をぬぐい、頭を抱える。

「俺は、俺は、行かなくちゃいけないんだと思うんだ、外国へ」

オーウェンは俺の顔を見る。
目があい、しばらく黙って見つめ合う時間が流れた。

「マックス、このコイン、覚えてるか?」

オーウェンはポケットから、金貨を取り出して弾いてきた。
受け取る前からわかってた答えを返す。

「黄金の錬金術師……俺がマリーとの忙しくても楽しい平穏を手放したくなくて、オーウェンに預けてた復讐のチケットだ」
「そうだ。俺は数ヶ月外国を見てきた。残念ながら、おいしい物と綺麗な風景、変わった文化を堪能してきただけで黄金の錬金術師には会えなかったがな」
「外国でも幻みたいな存在らしいな、奴は」
「そのとおりだ、マックス。黄金の錬金術師ソラール、やつは『八大錬金術師』と呼ばれるうちの1人だ。ソフレト共和神聖国の外では、冒険者ギルドに続いてメジャーな組織・魔術協会が探してる重要指名手配者でな。ちょっとや、そっとでは見つからない」

金貨を見つめ、あの時の屈辱、喪失感、そして、今もなおアクアテリアスに残る傷痕、この国が負った無数の悲しみがあることを思う。

「『左巻きの魔女』、今は首都の地下に囚われている彼女が呼びこんだ厄災は終わってない。俺たちはまだ戦う定めにあるようだ」

オーウェンは言う。

「……ひとつ聞くが、もう『ジークタリアスの夜明け』みたいな終末はないんだよな?」

俺はもしや、と思い聞いてみる。
オーウェンは「安心しろ」と前置きしてから「まったく見当がつかない」と不安な返答をしてきた。

「あのアダム……未来の俺だとかいう、うさんくささ抜群のジジイは、魔女によってすべてが終わった未来から『亜空斬撃』を使って、時間のもつれを辿って、この世界にやってきた」
「んで、過去のアダム……っていうか、オーウェンに接触して『ワンチャン、わしが二人いればなんとかなんじゃねー?』というノリで終末を『ジークタリアスの夜明け』と名付けて行動にうつったんだよな」
「その通り。『亜空斬撃』で次元の狭間にある『時間神殿』に閉じ込められ、俺自身は『亜空斬撃』を使えるようになるまで強制的に修行させられた」
「何年閉じ込められてたんだっけ」
「200年から先は数えてない」
「……想像もつかない領域だよな」
「仕方ないさ。どうやら、アダムの100分の1も俺には剣の才能がなかったらしいからな。そのせいで剣術が熟達するのに途方もない時間を要したんだ」
「アダムって人類史を見渡して、ようやく見つかる天才だったんだな。でも、オーウェンも十分天才だと思うけど」
「ありがとう、マックス。だが、世の中には途方もない天才はいる。聖歌隊の女もその類いだ」
「ああ、あいつ……」

聖歌隊の第二審問者にして、最強と言われている黒髪の少女を思い浮かべる。わりとスイーツが好きで、剣術の秘訣とか聞き出そうとしたことがあったが、全然参考にならなかった。本人は一生懸命「こう、シャパバ」っという擬音多めで教えてくれるが、決してふざけてるわけじゃないらしい。
あれは技術の多くをセンスに頼っているからだろう。

「俺たち苦労人だよな」
「マックス、俺の方が桁違いの苦労人だ」
「いや、オーウェン。自分だけ辛い思いをしたアピールをするのはやめようぜ。前みたいに山をひっくり返すような喧嘩が始まるから」

俺とオーウェンはお互いにクスクスと笑い合った。

「まあ、とにかくアダムが防ぎたかった終末は無事回避された。俺とマックスのおかげでだ。だが、そこからの先の未来はわからない」
「そうか……まあ、確定してないなら、だからこそ俺たちが守らないとな」
「そのとおりだ。言い換えればソフレト国内は一旦安泰、と考えていい。今こそ諸外国に目を向けるべきだろう」
「外国のチカラも蓄えないとな。もっとソフレト共和神聖国を開きたい。魔術、魔導具、文化、科学、オーウェンが見てきた物全部、この国の未来のために取り入れるんだ。……けど、まずは、やるべきことがある」
「いいじゃないか。黄金の錬金術師のついでだ。どのみちいつかは、あのふざけた男に報いなければならない。吸血鬼が居場所を教えてくれているなら、パパッと言って仕留めればいい」

俺とオーウェンは薄く微笑みながら、うなずきあう。彼は最後に作り終えた、ななつ目の草笛を小岩の上置いて立ちあがった。

老羊ルナと一緒にアルス村へと帰る。

「オーウェン、付いてきてくれるか?」

オーウェンの家の前で、俺はたずねた。
オーウェンはちょくちょく人影が現れはじめたアルス村を見渡し、俺に視線を戻して言う。

「自信なさげだな」
「吸血鬼って生物に、俺ひとりで勝てる気がしなくてさ。まだ経験値残ってんだろ?」
「国外じゃ、レベルシステムは無効だ。スキルも使えない。剣しか頼りにならないぞ」
「あ、そうだった。となると、鍛え直しだな。俺もオーウェンも」
「国内にいては、いつまで経っても外で活動する力をつけられない。鍛えるとしたら、その瞬間からもう外にいなければならない」
「……しばらく、帰ってこれないかもな」

俺の脳裏をマリーの姿がよぎる。

「今のうちに喋っておけ」

オーウェンはそう言って、アルス村の入り口を指さした。
そこには、馬に乗って、こっそりと単身早朝帰郷するマリーの姿があった。
俺は話しかけるべきか迷った。
が、首の笛でバカでかい音を出しはじめたオーウェンのはからいで、必然的に俺とマリーは目が合ってしまう。
気まずかった。

「マックス……起きてたんだ」
「マリー……おかえり」

「ピッピッピー!」
「メェメェ…!」

俺とマリーの間の神妙な空気感を、笛を口加えたまま鳴らして離さないオーウェンと、場を和ませようと騒ぎ出した老羊ルナがぶち壊してくれる。

俺はマリーの手を力強く握り、いっしょに朝食を食べようと誘うことにした。

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