【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第94話 異端者たちの救世 後編
『限定解除』
マックスはその言葉に、道中シュミーとオーウェンから教わった『限定法』の可能性のひとつについて思い出した。
どうしても勝てない敵に遭遇したら、その時『限定法』でスキルを使用するスキルホルダーには″最後の選択肢″が甘えられる。
それが『限定解除』と呼ばれる物だ。
『限定解除』することで、スキルホルダーは限定にそわずとも、同等のスキルパワーを行使することが出来るようになり、多くの場合、それはパワーアップに繋がるそうだ。
だが、一度『限定解除』を使うと、スキルホルダーは大きな代価を、″世界に払う″ことになる──。
「死ぬがいい、人間よ」
マックスは間延びした時間のなか、これまでの人生を振り返っていた。
すべてを守るために、そして未来を守るために力を練り上げた。
やろう。
──それが、ただひとりの好きな人と一緒に生きるためという、大義なき理由だとしても、マックスは今、この瞬間死ぬわけにはいかなかった。
──さよなら、俺のスキル
マックスは最大の覚悟で持って、あれほどまでに極めた指パッチンを捨てた。
その瞬間、ハイロゥから展開され続けていた使徒、実に数千体から『聖域の光槍』が投擲された。
それは腕力で投げる槍ではない。
かつてただ一撃で、神を分離させたもうた、悪しき邪神すら滅した槍だ。
その槍はソフレト共和神聖国内でのみ、無限に加速され、使徒たちの手を離れた瞬間、すべてを置き去りにして光速に達する。
すべての槍が神となりつつある魔女シェリルの敵である、すなわち神敵マックスとオーウェンを破壊せんとした。
「ん? なんだ、あれは──」
しかし、使徒たちの放った槍はひとつもマックスたちには届かない。
なぜなら、マックスとオーウェンのを囲むように、収納空間が展開されていたからだ。
ずっと開きっぱなしの空間の断絶。
それは、いかに光といえども決して越えること叶わない無敵の壁であった。
そして、同時に最強の攻撃手段になり得る。
マックスが自分たちを守るように球体状にポケットを開いてる。つまり、それは、入り口であり出口なのだ。
「あ」
その事に気がついた使徒たちは、わずかに体をこわばらせた。
だが、彼らにできたのは、せいぜい、死を悟って諦める、その程度のことだけだった。
すべての使徒たちへむけて、マックスの入り口であり出口であるポケットから、光の槍が返還されることで、神話の軍隊はあっけなく壊滅を迎えた。
「今なら何でも出来そうだ。記念に少し遊んでおくか」
マックスはパラパラらと地上へ落ちていく使徒の死体を眺める、
次に天上へあがっていこうとふる魔女を見て、ポケットの入り口を視界一杯に展開した。
マックスのポケットは、どれだけ離れていても、見えていれば、また距離感がわかれば、どこへでも展開することができる万能だ。
そのため、マックスは青空にうかぶ神化した魔女を取り囲むように、合計して312,530,001,199,500,639,529個のポケットを展開した。燃費の良いスキルでもこれ以上はやや辛かった。
だが、どちらにしろ、もはや『限定法』の制限がないため、やりたい放題である。
「よし、これで、今度はあっちにポケットを展開してっと」
マックスは今度は遥か遠くに見える山を見て、そこに直径数十キロに渡る巨大なポケットを展開する。
それで山を覆い隠すように被せて、自分の意思で融通が効く〔世界倉庫〕に取り込めば、弾、を確保完了だ。
マックスは〔世界倉庫〕内で、空気で圧縮した海水の水圧カッターで、山を無数の岩石弾に加工して、次々に乱気流で打ち出していった。
もちろん、たくさんストックしていた丸太も全力で撃ち放題だ。
撃ち漏らした弾は、また別のポケットに入って再利用され、半永久的に乱気流で撃ちまくられる。
そうして、マックスはいくつもの山を崩して、神化して巨大になった魔女に、人類が再現しうるなかで、最高峰の火力を叩きつけた。
いつしか、山ごと乱気流で打ち出して、マックスが調子に乗りだした頃。
「準備完了だ、マックス。これで俺の溜め込んだ経験値すべてを15秒だけの限定的10,500レベルに変換する『経験値バースト』が使える」
精強なオーラを纏うオーウェンは、ゆっくりとまぶたをあけて、空を見上げる。
「ん……? 魔女はどこだ?」
「あそこに残骸あると思う」
マックスは数分前にとっくに決着がついたことを伏せたまま、巨山を指差す。
そこには、マックスがいろんなところから持ってきた残骸によって、数千メートル級の山が築かれていた。
オーウェンは口をポカンとあけて「何が起こったんだ……」と自分が集中してる間に起こった出来事を知りたがった。
「まあまあ」
マックスは薄く笑い、遠くに見えるとんがった山を自分たちの足元に召喚して、それをエレベーター的足場として、巨山のテッペンへ素早く移動した。
巨山のテッペンには、3人が寝ていた。
ひとりは女神ソフレト。
ひとりは女神シュミー。
ひとりは魔女シェリル。
「う、ぐ、ぅ……≪黒筆≫!」
魔女はマックスとオーウェンの到着を受けて、お腹に空いた傷を手で押さえながら、最後の抵抗を見せた。
しかし、マックスは槍の矛先すべてにポケットを展開して、いったん取り込み、次に影目掛けてすべての槍を返してしまう。
結果、黒い影は自らが放った黒槍で、自分自身に無数の穴をうがってしまった。
「ああ……そんな…ランカ!」
魔女は悲しそうに叫ぶ。
黒い影はだんだん小さくなり、最後には黒い鳥──カラスの姿になった。ぐったりとしていて、もう生きているようには見えない。
どうやら、あのカラスを何らかの手法で影として展開して、強力な影の術を使っていたようだ。
「にゃーご!」
「ん」
黒い鳥の死体。
その影からついに最後の刺客が現れる。
「ダメ! そいつは可愛い黒猫でも容赦なく殴るクズ──」
魔女が何か言いかけたと時、マックスはすでに黒猫ミーシャをぶん殴っていた。なぜかそうしないといけない気がしたからだ。
「にゃごーん?!」
「ミーシャぁあああ!」
黒猫は遥か彼方の空へ飛んでいった。
さらば、ミーシャ。
「魔女、諦めろ。もう終わりだ。お前の手駒はこれで尽きただろ」
這いずって逃げようとする魔女を、オーウェンは刀を抜き、刃で通せんぼする。
「クリス、クリスは……! 手を振るだけで山を蒸発させる吸血鬼なら、あんた達なんか余裕だわぁ!」
「たぶん、そいつどっか行ったぞ」
「あのクソビッチがぁあ!」
魔女は地面を小さな拳で叩き、唇を噛んだ。
「高い金払ったのに…これだから外部戦力は嫌いなのよ……信念がない奴は最後の最後で信用ならないからぁ…!」
「人選ミスだな。諦めろ」
「クソ、クソクソ! 完璧だったのに……! 何も問題はなかった! どんな敵が来てもパワーだけでどうにでも出来た! 駒が欠けても補う作戦をいくつも考えた! 何十年も森の奥にこもって準備したのよ! 私はぁ!」
魔女はがむしゃらに暴れて、体の傷が痛くなったのか、苦しそうな顔をして壁にもたれかかる。
マックスは思う。
確かに魔女の準備は凄まじかった。
用意した戦力には絶望するしかない。
彼女が培って育てた黒い獣、白い生物、枯れた指、ダメ押しの外部戦力。
黄金の錬金術ソラール、吸血鬼クリス。
すべての戦力がもうわずかにでも上手く機能していれば、きっと魔女の勢力は圧勝だっただろう。
「うぅ、なんでぇ……なんでぇよぉ……!」
魔女は嗚咽をもらしながら、涙を溢れさせた。年相応の子供のように泣きじゃくる。
確かに泣きたくもなる。気持ちはわかる。何年も何十年も頑張って準備した計画が、未来視したチート剣豪の暗躍で台無しにされたんだからな。
「ジュニスタの言ったとおりだったわ……不確定の崩壊因子…どんなに準備して、盤石な舞台を整えても、ダメな時は、ダメなんだわ…」
ふてくされ、いじける魔女。
「ふふ、そうだ。思い出したわ。あなた達忘れてない? 大事なこと。それがある限り、別にあなた達の勝ちってわけじゃないのよぉ?」
「ん? なんのことだ」
「アクアテリアス。最後の枯れた指たちがあの街を滅ぼしに行ったってことよぉ、はははっ…」
思い出して、マックスはハッとした顔になった。
「オーウェン! オーウェン、はやく『亜空斬撃』してくれよ! まずい、みんなが!」
「落ち着け、マックス。向こうは平気だ」
オーウェンの余裕の表情を受けて、マックスは困惑した。
────────────────────────────────
「うわぁ! 流石はご主人の師匠なんだぞ!」
ジークは老剣士を見て、嬉しそうにはしゃいでいた。
「ふん、もっと斬らせんかい。駄竜が」
ただいま巨大なドラゴンを斬撃飛ばして、一撃でしとめたインナミコサブロウは、道端に剣を放り捨てた。
「およよ? ご主人の師匠はその刀を使わないのかー?」
「これを抜かせる奴はおらんじゃろ。この程度の駄竜なら拾ったなまくらで十分」
ジークはインナミのあまりにも渋すぎるイケおじっぷりに「僕も達人になるんだぞ!」といった。
「ところで、このドラゴン、僕とよく似てるけど……」
ジークは堕ちてきたドラゴンの顔を見る。
過去を記憶からそのドラゴンの正体をつかんだ。
「パッパ?!」
「……フッ、息子にトドメを刺されるのも悪くない」
「いやいやいや、パッパ! 何してんだぞ?! パッパは死んだはずぞ!」
「ただの謀だ。お前の兄弟も魔女に献上し、さらなる絶対者として崖下の世界を支配するつもりが……はかない夢だった」
ジークは目を潤ませて、自分がいままで慕っていた父親竜ジークタリアスが、ジークの兄弟を『枯れた指』になるための生贄に捧げたことを知った。
「うああああああ!」
「……見てられんな」
インナミは力なく首をふり、歩き出す。
向かう先は、彼が駄竜と呼び斬り捨てたジークタリアスと共にきた、線の細い青年──枯れた指がひとり、破壊王レドモンドのもとだ。
とは言え、レドモンドはすでに″夢の中″だ。
「どうじゃ、マリー」
インナミはレドモンドと対峙していた、マリー・テイルワットへ声をかけた。
「わたしの友達がなんとかしてくれました。どうやら彼の使うっていう爆弾は起動しないみたいです」
マリーはそう言って、デイジーを見る。
デイジーはピンク色の球を得意げに投げて遊び「さりげなく、転がしておくと、意外と勝手に幻術にかかってくれるんですよ!」と言い、にししっと笑った。
「やるじゃないか、若いの。そういうスキルもあるんじゃな。わしも気をつけようか」
「えへへ、マックス先輩と聖女様の師匠様に褒められちゃいました!」
「デイジー凄いわ! マックスなんて一度も褒められたことないのに!」
女子には甘いインナミの褒めに、デイジーは照れるのだった。
マックスはその言葉に、道中シュミーとオーウェンから教わった『限定法』の可能性のひとつについて思い出した。
どうしても勝てない敵に遭遇したら、その時『限定法』でスキルを使用するスキルホルダーには″最後の選択肢″が甘えられる。
それが『限定解除』と呼ばれる物だ。
『限定解除』することで、スキルホルダーは限定にそわずとも、同等のスキルパワーを行使することが出来るようになり、多くの場合、それはパワーアップに繋がるそうだ。
だが、一度『限定解除』を使うと、スキルホルダーは大きな代価を、″世界に払う″ことになる──。
「死ぬがいい、人間よ」
マックスは間延びした時間のなか、これまでの人生を振り返っていた。
すべてを守るために、そして未来を守るために力を練り上げた。
やろう。
──それが、ただひとりの好きな人と一緒に生きるためという、大義なき理由だとしても、マックスは今、この瞬間死ぬわけにはいかなかった。
──さよなら、俺のスキル
マックスは最大の覚悟で持って、あれほどまでに極めた指パッチンを捨てた。
その瞬間、ハイロゥから展開され続けていた使徒、実に数千体から『聖域の光槍』が投擲された。
それは腕力で投げる槍ではない。
かつてただ一撃で、神を分離させたもうた、悪しき邪神すら滅した槍だ。
その槍はソフレト共和神聖国内でのみ、無限に加速され、使徒たちの手を離れた瞬間、すべてを置き去りにして光速に達する。
すべての槍が神となりつつある魔女シェリルの敵である、すなわち神敵マックスとオーウェンを破壊せんとした。
「ん? なんだ、あれは──」
しかし、使徒たちの放った槍はひとつもマックスたちには届かない。
なぜなら、マックスとオーウェンのを囲むように、収納空間が展開されていたからだ。
ずっと開きっぱなしの空間の断絶。
それは、いかに光といえども決して越えること叶わない無敵の壁であった。
そして、同時に最強の攻撃手段になり得る。
マックスが自分たちを守るように球体状にポケットを開いてる。つまり、それは、入り口であり出口なのだ。
「あ」
その事に気がついた使徒たちは、わずかに体をこわばらせた。
だが、彼らにできたのは、せいぜい、死を悟って諦める、その程度のことだけだった。
すべての使徒たちへむけて、マックスの入り口であり出口であるポケットから、光の槍が返還されることで、神話の軍隊はあっけなく壊滅を迎えた。
「今なら何でも出来そうだ。記念に少し遊んでおくか」
マックスはパラパラらと地上へ落ちていく使徒の死体を眺める、
次に天上へあがっていこうとふる魔女を見て、ポケットの入り口を視界一杯に展開した。
マックスのポケットは、どれだけ離れていても、見えていれば、また距離感がわかれば、どこへでも展開することができる万能だ。
そのため、マックスは青空にうかぶ神化した魔女を取り囲むように、合計して312,530,001,199,500,639,529個のポケットを展開した。燃費の良いスキルでもこれ以上はやや辛かった。
だが、どちらにしろ、もはや『限定法』の制限がないため、やりたい放題である。
「よし、これで、今度はあっちにポケットを展開してっと」
マックスは今度は遥か遠くに見える山を見て、そこに直径数十キロに渡る巨大なポケットを展開する。
それで山を覆い隠すように被せて、自分の意思で融通が効く〔世界倉庫〕に取り込めば、弾、を確保完了だ。
マックスは〔世界倉庫〕内で、空気で圧縮した海水の水圧カッターで、山を無数の岩石弾に加工して、次々に乱気流で打ち出していった。
もちろん、たくさんストックしていた丸太も全力で撃ち放題だ。
撃ち漏らした弾は、また別のポケットに入って再利用され、半永久的に乱気流で撃ちまくられる。
そうして、マックスはいくつもの山を崩して、神化して巨大になった魔女に、人類が再現しうるなかで、最高峰の火力を叩きつけた。
いつしか、山ごと乱気流で打ち出して、マックスが調子に乗りだした頃。
「準備完了だ、マックス。これで俺の溜め込んだ経験値すべてを15秒だけの限定的10,500レベルに変換する『経験値バースト』が使える」
精強なオーラを纏うオーウェンは、ゆっくりとまぶたをあけて、空を見上げる。
「ん……? 魔女はどこだ?」
「あそこに残骸あると思う」
マックスは数分前にとっくに決着がついたことを伏せたまま、巨山を指差す。
そこには、マックスがいろんなところから持ってきた残骸によって、数千メートル級の山が築かれていた。
オーウェンは口をポカンとあけて「何が起こったんだ……」と自分が集中してる間に起こった出来事を知りたがった。
「まあまあ」
マックスは薄く笑い、遠くに見えるとんがった山を自分たちの足元に召喚して、それをエレベーター的足場として、巨山のテッペンへ素早く移動した。
巨山のテッペンには、3人が寝ていた。
ひとりは女神ソフレト。
ひとりは女神シュミー。
ひとりは魔女シェリル。
「う、ぐ、ぅ……≪黒筆≫!」
魔女はマックスとオーウェンの到着を受けて、お腹に空いた傷を手で押さえながら、最後の抵抗を見せた。
しかし、マックスは槍の矛先すべてにポケットを展開して、いったん取り込み、次に影目掛けてすべての槍を返してしまう。
結果、黒い影は自らが放った黒槍で、自分自身に無数の穴をうがってしまった。
「ああ……そんな…ランカ!」
魔女は悲しそうに叫ぶ。
黒い影はだんだん小さくなり、最後には黒い鳥──カラスの姿になった。ぐったりとしていて、もう生きているようには見えない。
どうやら、あのカラスを何らかの手法で影として展開して、強力な影の術を使っていたようだ。
「にゃーご!」
「ん」
黒い鳥の死体。
その影からついに最後の刺客が現れる。
「ダメ! そいつは可愛い黒猫でも容赦なく殴るクズ──」
魔女が何か言いかけたと時、マックスはすでに黒猫ミーシャをぶん殴っていた。なぜかそうしないといけない気がしたからだ。
「にゃごーん?!」
「ミーシャぁあああ!」
黒猫は遥か彼方の空へ飛んでいった。
さらば、ミーシャ。
「魔女、諦めろ。もう終わりだ。お前の手駒はこれで尽きただろ」
這いずって逃げようとする魔女を、オーウェンは刀を抜き、刃で通せんぼする。
「クリス、クリスは……! 手を振るだけで山を蒸発させる吸血鬼なら、あんた達なんか余裕だわぁ!」
「たぶん、そいつどっか行ったぞ」
「あのクソビッチがぁあ!」
魔女は地面を小さな拳で叩き、唇を噛んだ。
「高い金払ったのに…これだから外部戦力は嫌いなのよ……信念がない奴は最後の最後で信用ならないからぁ…!」
「人選ミスだな。諦めろ」
「クソ、クソクソ! 完璧だったのに……! 何も問題はなかった! どんな敵が来てもパワーだけでどうにでも出来た! 駒が欠けても補う作戦をいくつも考えた! 何十年も森の奥にこもって準備したのよ! 私はぁ!」
魔女はがむしゃらに暴れて、体の傷が痛くなったのか、苦しそうな顔をして壁にもたれかかる。
マックスは思う。
確かに魔女の準備は凄まじかった。
用意した戦力には絶望するしかない。
彼女が培って育てた黒い獣、白い生物、枯れた指、ダメ押しの外部戦力。
黄金の錬金術ソラール、吸血鬼クリス。
すべての戦力がもうわずかにでも上手く機能していれば、きっと魔女の勢力は圧勝だっただろう。
「うぅ、なんでぇ……なんでぇよぉ……!」
魔女は嗚咽をもらしながら、涙を溢れさせた。年相応の子供のように泣きじゃくる。
確かに泣きたくもなる。気持ちはわかる。何年も何十年も頑張って準備した計画が、未来視したチート剣豪の暗躍で台無しにされたんだからな。
「ジュニスタの言ったとおりだったわ……不確定の崩壊因子…どんなに準備して、盤石な舞台を整えても、ダメな時は、ダメなんだわ…」
ふてくされ、いじける魔女。
「ふふ、そうだ。思い出したわ。あなた達忘れてない? 大事なこと。それがある限り、別にあなた達の勝ちってわけじゃないのよぉ?」
「ん? なんのことだ」
「アクアテリアス。最後の枯れた指たちがあの街を滅ぼしに行ったってことよぉ、はははっ…」
思い出して、マックスはハッとした顔になった。
「オーウェン! オーウェン、はやく『亜空斬撃』してくれよ! まずい、みんなが!」
「落ち着け、マックス。向こうは平気だ」
オーウェンの余裕の表情を受けて、マックスは困惑した。
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「うわぁ! 流石はご主人の師匠なんだぞ!」
ジークは老剣士を見て、嬉しそうにはしゃいでいた。
「ふん、もっと斬らせんかい。駄竜が」
ただいま巨大なドラゴンを斬撃飛ばして、一撃でしとめたインナミコサブロウは、道端に剣を放り捨てた。
「およよ? ご主人の師匠はその刀を使わないのかー?」
「これを抜かせる奴はおらんじゃろ。この程度の駄竜なら拾ったなまくらで十分」
ジークはインナミのあまりにも渋すぎるイケおじっぷりに「僕も達人になるんだぞ!」といった。
「ところで、このドラゴン、僕とよく似てるけど……」
ジークは堕ちてきたドラゴンの顔を見る。
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「パッパ?!」
「……フッ、息子にトドメを刺されるのも悪くない」
「いやいやいや、パッパ! 何してんだぞ?! パッパは死んだはずぞ!」
「ただの謀だ。お前の兄弟も魔女に献上し、さらなる絶対者として崖下の世界を支配するつもりが……はかない夢だった」
ジークは目を潤ませて、自分がいままで慕っていた父親竜ジークタリアスが、ジークの兄弟を『枯れた指』になるための生贄に捧げたことを知った。
「うああああああ!」
「……見てられんな」
インナミは力なく首をふり、歩き出す。
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とは言え、レドモンドはすでに″夢の中″だ。
「どうじゃ、マリー」
インナミはレドモンドと対峙していた、マリー・テイルワットへ声をかけた。
「わたしの友達がなんとかしてくれました。どうやら彼の使うっていう爆弾は起動しないみたいです」
マリーはそう言って、デイジーを見る。
デイジーはピンク色の球を得意げに投げて遊び「さりげなく、転がしておくと、意外と勝手に幻術にかかってくれるんですよ!」と言い、にししっと笑った。
「やるじゃないか、若いの。そういうスキルもあるんじゃな。わしも気をつけようか」
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