【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜

ノベルバユーザー542862

第92話 人間の婚約者探しをする吸血姫は、暇つぶしに行動をともにしていた魔女の敵に無事に好みの童貞を見つけた

──マックス視点

「ごふぁ?!」

マックスは痛みを思い出していた。
全身の骨が軋む音。頬の骨が砕けた音だ。

久しぶりのダメージをもらったのは、オーウェンが魔女を倒しにいくのと入れ替わりで、マックスとシュミーのほうへ、その女が向かってきたときだ。

マックスですら目で追いきれない速さだったが、優れた超直感で、マックスは乱気流の弾をぶつけることで女の攻撃を防いでいた。
本心では『巨木葬』やそのほか〔世界倉庫せかいそうこ〕に納められている撃ち出す用武器の数々を使いたかったが、オーウェンがいること、ジークタリアスという街がマックスの攻撃射程に入ってしまっている事が、マックスの攻撃手段の制限に繋がった。

もし『巨木葬』が流れ弾でジークタリアスに飛んでいったら、数百、数千人が死ぬ可能性すらあるのだ。
うかつには撃てなかった。

「ぁ、あれ、首、首、ついてる……?」

マックスは目を白黒させて、叩きつけられた荒野のクレーターの真ん中で自分の首がついているか確認する。
自分の命があることを確かめ終えると、自分がシュミーを置いてきてしまったことに気がついた。

「女神様!」

クレーターをのぼり辺りを見渡すと、向こうのほうで白くて巨大な怪物に掴まれて抵抗しているシュミーの姿が見えた。
同時に視界に入ってくる者もいる。
白い怪物とシュミーより、ずっと近く、目の前で腕を組む女だ。
恐ろしく美しい顔をしており、瞳は赤く、爪は尖っていて黒い。

何度かの攻防を重ねて、マックスはもう自分の速さが彼女に通用しないことをさとっていた。マックスは冷や汗をかきながら、シュミーを助ける余裕などなく、全集中力を目の前の女にそそぐ。

「お前、本当に人間なのか?」

不思議と、マックスが最初に尋ねたのはそんなことだった。
マックスは本能的に、彼女が人間種ではないことを見抜いていたのだ。
女は指でふっくらした唇をなぞり、怪しげな顔で答える。

「吸血鬼って、言ったら、あんたはどうするのかしら?」

女はそう答えた。
マックスはノーリアクション。
言葉の意味がわからないから。

女は自分の言った『吸血鬼』という言葉に対して、なんらかのリアクションを俺が取るものだと思っているようだった。

「へえ〜本当に何も知らないだ。この国の人間って」
「何のことだ」
「ふふ、いやね、普通は吸血鬼って言ったら、たいていは震えあがって生存を諦めるものなのよ」
「……お前も魔女が外から連れてきた助っ人ってわけか」

マックスは、女の指がどれも骨と皮だけの枯れたような形状になってない事を見て言った。目の前の吸血鬼を名乗る女は、黄金の錬金術師とおなじく外国勢、そしてまた彼女も恐ろしい強さをもっている。

「あんた、マクスウェル・ダークエコーって言うんでしょ? ふふ、意外に好みなのよね。あんた私の眷属になりなさいよ。そうしたら生かしてあげるから」

吸血鬼は前屈みになり、豊かな胸元を腕で挟んで魅力的ポーズで籠絡しにかかる。

「それはできない。俺は彼女がいるんだ」
「人間でしょ? あたしのほうが美しいよ」
「でも、俺の彼女のほうが可愛い」
「すぐにしわくちゃに年老いて死ぬわよ?」
「馬鹿なことを。ともに老いて、ともに終われることは俺の喜びだ」

マックスは生唾を飲み込んで、緊張感で急速に喉が乾いていくのをごまそうとする。

──俺は勝てない?

そんな心の声がマックスの心中に聞こえはじめていた。

あれだけ鍛えたスキル。
狂うほど練りあげた強さ。

それが、この女には通用しないかもしれない。

「ふふ、怖いんでしょ? 人間は死んじゃうものね。当然よ。あたしって若い吸血鬼だから、まだその気持ち覚えてる。だからわかるよ。ほら、怖いなら委ねちゃいなよ。あんたの力強い瞳は気に入ったわ」

吸血鬼は手を伸ばし、マックスの震える右手に白い指を絡ませる。
マックスの頬に口づけし、耳に舌をからませる。
吸血鬼はマックスが諦めたと確信して、胸を押しつけるように抱きしめた。

「……浮気はできない」
「え?」
「死にたくない、怖い、だけど、マリーを裏切ることは、彼女と生きれない事はもっと恐ろしい」

マックスは吸血鬼を力一杯に抱きしめた。

「あんた何を……」

困惑する彼女の背中で、マックスは目の端に涙をうかべてマリーの事を思いうかべた。
そして、指を鳴らした。
狙うは女の背面から放つ愛用の剣だ。

──グシャリ

肉を裂き、骨を穿つ音。吸血鬼の女を抱きしめたマックスごと、剣がすべてを貫いた。

「あんた、私ごと自滅しようってわけ?」
「ごはっ、俺の武器撃ち、痛ぇな……!」

マックスは口から大量に吐血し、あまりの衝撃力におぞましさを感じていた。今までこんな威力を撃ちまくってたのか、と。

だが、これで吸血鬼に致命傷を与えた。
聖歌隊の隊士より、遥かに堅い耐久力と素早さを持っていようと、これは効くはずだ。

「あんた……もう俺の攻撃速度に対応し始めてたから……こうさせてもらったぜ…」

マックスはだんだんと冷たくなっていく腕で吸血鬼を最後まで離さない。

「あら、素敵。惚れたじゃない」
「……?」

吸血鬼の女は、元気そうな声でマックスの耳にささやき、そして、マックスの唇にその唇を重ねた。
吸血鬼の女はマックスの口から溢れる血を、とろりとした顔で舐めとっている。
びっくりするマックス。
が、次の瞬間、強引に引き抜かれる剣によって、マックスは激痛をあじわう。

「うぐぁ?!」

マックスは胸を押さえて、荒野のうえに転がった。
傷ついた肺に直にはいってくる空気が、狂おしいほどに痛む。
吸血鬼の女は体にささった剣をぬいて、そこについた血を舐めると、胸に空いた穴をみるみるうちに再生させていく。怪物の神秘であった。

「こんなんで死ぬわけないじゃん。あんた本当に何も知らないのね。可哀想な人間」
「ぁ、ぁ……そん、な…」
「吸血鬼はね、心臓に銀の杭を刺さないと死なないのよ。人狼と悪魔とならんで完全な生命体。あなた達が生まれる遥か以前から生きる古代の怪物。たとえ細胞すべてを破壊されても、空気中の塵からでさえ瞬時に再生する。人間なんかとは次元が違う生物なのよ」

吸血鬼の女は地面に横たわるマックスを抱きあげる。
マックスは絶望しながら、なんとか指を鳴らして自分ごと『巨木葬』で消滅させようと考えた。
力の入らない腕で、吸血鬼の女を抱きしめて今度こそ殺そうとする。

「あらあら、お可愛いこと」

マックスは歯を食いしばり、指を鳴らした。
その瞬間、3メートル頭上から巨大な丸太が自分めがけて降ってきた。
すべての終わりだと思い目をつむる。

──遠くで爆発音がした

「……??」

マックスは自分がまだ死んでない事を確認して、目を開ける。
すると、ずっと遠くの荒野が大爆発して土煙を空高く上げているのが見えた。

「本当に可愛くて、愛おしくなっちゃったわ」
「っ、なんで、なんで……」
「攻撃を避けただけ。ちょっと、大袈裟に避けすぎちゃったけど。それくらいの″凄み″があったわよ、マクスウェルの攻撃」

吸血鬼の女はマックスの頬をべろぺろ舐めて、黒い髪の毛を撫でると「良く高めたわね」と楽しげに笑いかけた。

「でも、それが人間の限界よ。マクスウェル、あなたの輝き、気に入ったわ。だから、これはプレゼント。いつか返しにあたしのところへ来なさい」

吸血鬼はマックスの胸の傷に手をかざす。
すると、傷は赤い泡を吐きながら、瞬く間に再生していった。
マックスは胸の熱さにうめくが、やがて痛みは治まった。

「どうして……お前は、魔女の手下じゃ?」
「えいっ」
「?!」

吸血鬼の女は、マックスの剣で服の胸に空いた穴をごうかいに破ってみせた。
豊かな双丘が、ぽろんっとこぼれ出して、マックスは鼻血をだして視線をそらす。

「妹が言ってたの。人間の童貞狩りが楽しいって。こんなんで喜んじゃうのなら、確かに何しても面白いわよね」
「ぃ、意味がわからない!」
マックスは心から叫ぶ。

吸血鬼の女はマックスを解放した。
マックスは慌てて飛び起き、距離をとって右腕を適度に緊張させて構える。

そして、すぐに『巨木葬』で吸血鬼の女を直上から消し飛ばそうとした。

「無駄だってば」
落胆したような吸血鬼の声。

極少時間で頭上からせまる巨大な丸太。
一撃で天気すら変えてしまうほどのエネルギーの塊だ。
しかして、吸血鬼の女は腕を振っただけで『巨木葬』を真正面から蒸発させて無力化してしまった。
加えて半径100m以上の地面が爆風でめくれあがり、放射状に破壊の波がまきおこる。
マックスは踏ん張り、こらえきった。

「マクスウェル、これで眷属の誓いはなったわ。しばらくしたら、あなたは吸血鬼の肉体になる。もしそれでも人間の女とともに暮らそうだなんて考えるなら、あたしを殺してみなさい」

吸血鬼の女はそう言うと、マックスに近づき、頬にもう一度口づけをした。
そして、体を無数のコウモリに変え、空へと散開させて、消えてしまった。
その姿はまるで、魔女が体を無数のカラスに変える魔術に似ており、およそ魔女がより上位存在である吸血鬼を参考に、かの魔術を行使しているのだと、マックスは直感的に思った。

「って、そうだ、シュミーを助けないと!」

謎すぎる吸血鬼にふりまわされてしまったが、当初の目的は変わらない。

「っ! なんだ、あの光は……!」

マックスは遠く離れた荒野で、輝く光源を見つけた。
天気の悪くなった空を塗り替えるように青空に変えて、それはうえへ、うえへと上がっていった。

          

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