【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第89話 やる気はない
血鬼流の使い手をしりぞけたオーウェンは、聖女謹製最高級霊薬をぐいっと飲み、体の傷を癒しながらマックスのいる戦場へともどった。
なんだかんだで斬り合いながら移動していたらしく、それなりに時間がかかった。
オーウェンが戻ってきたとき、ちょうどマックスは最後の『聖歌隊』の足元に『巨木葬』を打ちこんで、地形破壊しながら隊士を無力化していた。
土と岩と砂利が、木っ端微塵に吹き飛んだ木々の燃えかすと灰と共に降ってくる。
「マックス、遠くに山が見える」
頭についた土を手で払い落とし、オーウェンは派手すぎるマックスの戦い方を揶揄するように、すっかり視界が良くなった森の先を指差した。
「あ、オーウェン、無事だった?
「それなりに苦戦したが、このとおりだ」
オーウェンはそう言って無事なことを告げると、壊れた木の上で呑気に座っている残りの白コートたちをみすえる。
彫りの深い顔の男と、黒髪の少女だ。
「お前たち、仲間はみんなやられたぞ」
マックスは指を鳴らして、2人の座る木を適当な物を射出して爆破した。
2人とも危なげなく、その場を飛びのいて攻撃をかわす。
「怖いねぇ、Mr.スナップフィンガー。私たちは攻撃をしかけず見守っててあげたのに、こんな仕打ちするのかい」
彫りの深い顔の男は、肩をすくめると「空間閉鎖は解除されてるだろう?」と言って、オーウェンのほうを見た。
あの妙な束縛感があたり一帯から消えたことを確認して、マックスは彫りの深い顔の男へ向き直る。
男は言う。
「行きたいなら、行くといいさ。止めはしない。私も彼女も」
「どうして行かせてくれる?」
「さあ。どうしてだろうか」
彼は怪しげに微笑んだ。
マックスは先に行かせてもらえるなら、それで構わないと思い、オーウェンに移動をお願いする。すっかり気を失っているシュミーのことも心配だったし、この場を早く離れることは最善のように思えたからだ。
オーウェンは敵を警戒──特に腰に簡素な剣を下げた黒髪の少女に、特別な注意を払いながら『亜空斬撃』を行った。
ぐわんっとこの世ものではないような、甲高い音がして、次元の裂け目が生成される。
「どうやってるの。それ」
ふと、黒髪の少女がオーウェンにたずねた。
オーウェンは表情に出さずとも、意外なことを聞くと思いながら、心良く教える。
「空間と時間のもつれを斬ってこじ開けるんだ。目が特別じゃないとできない」
「そうなんだ。……その目だと見えやすいんだろうね。でも、斬ることが出来れば、その目がなくてもできる」
オーウェンは怪訝な顔で「理論上は」とだけ肯定した。
「おい、オーウェン。良いのかよ。その必殺技みたいなの簡単に教えちゃって」
「知ったくらいでマネできる技であるわけがないだろう。この目があっても数百年単位……いや、とりあえず長い修行が必要だ」
オーウェンは言葉を途中で切り、さっさと次元の裂け目に足を踏み入れた。
3人が次元の向こう側に消えていったあと、荒れた森のなかで少女は剣をぬいた。
装飾がいっさいない剣だ。
だが、見るものがその刃を見れば、それがこの世界の金属でない、隕石に含まれる鉱物で鍛えられた刃だと気がついたかもしれない。
「こんな感じかな」
少女は虚な眼差しで、剣を振った。
すると甲高い音が鳴り、彼女の目の前に、黒い光が裂けて開かれた。それはオーウェンの『亜空斬撃』とほぼ同じ類いの次元の裂け目であった。
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