【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜

ノベルバユーザー542862

第87話 聖歌隊 前編


オーウェンの開いた次元の裂け目を抜ける。
到着したのは、我らの都市ジークタリアスのアッパー街……ではなかった。

「まだ森のなかじゃない。どうしたのよ、ど変態剣豪」

シュミーの質問にオーウェンは、自分の刀と手を見て、なにかを確かめている。

「どうやら、あの空間に何らかの制限があったみたいだ」

オーウェンは確信を持って背後を指差した。
指差す先には、赤い布と人骨、小枝を組み合わせて作られたトーテムが設置されていた。

「魔女は結界のなか、あるいはより広範囲に渡って″森からの脱出を拒む呪詛″を撒いてるようだ」

オーウェンの分析にシュミーは「そういえば、さっきから魔力を差し向けられてる気がするわ」と言った。
かつてのジークタリアス帰れない事件。
なるほど。どうやらアレは魔女のせいだったようだ。
ずっと見られている気がしたが、もしその相手が魔女であったのならば、スキル以外のなんらかのおかしな術を使っていたと考えることが出来る。
大方、結界内で大量の実験道具──グギィを殺されて、俺を恨んでいたのだろう。

「まあいい。どのみち俺の『亜空斬撃』のほうがうえだ。次は魔女の妨害分も考慮して、調整する」
「さっすが、ど変態剣豪ね。ささ、はやくジークタリアスに連れて行ってちょうだい。アタシ久しぶりに街に行くから、楽しみなのよ」

シュミーはウキウキしていた。
道中、この女神は、その身の大切さゆえに外を出歩くことが許されない境遇にあったとは嘆いたいたのを聞いている。
女神とえど、人並みに出かけたり、食べ歩きしたり、服を見たり、おしゃれな景色を見にいったり……そういう事をしたいんだとか。
シュミーは人間以上に、人間っぽい経験に憧れているのである。

オーウェンが再び『亜空斬撃』を行った。

「いくぞ」

俺たちは次元の裂け目に足を踏み入れて、ようやくジークタリアスへと帰還する事となった。

「……ん?」

──否、帰還は出来なかった。

俺たちが抜けた黒い光の先。
そこはまだ深い深い森のなかだったのだ。

「ねえ、ど変態剣豪、なにしてんのよ!」
「……」
「ちょっと、アタシの話聞いてるの? まだ全然、森のなかなんですけどー!」
「……」

オーウェンはシュミーに一切反応しない。
かわりに険しい顔で、強烈な違和感を感じているかのように自分の手を見下ろしている。

「マックス、何か変だ」
「……そうだな。なんか、この空は……ほんとうにわずかだが″息苦しさ″を感じる」

オーウェンの違和感の正体を、俺はより明瞭な感覚の不自由さで知覚していた。
それは、俺が空間系スキルホルダーとして、それなりにこの分野について鋭い直感を培ってきたことに起因している。

「女神様、どうやらこの空間は″閉鎖″されてるようです。俺のそばを離れないでください」
「ちょちょ、それって敵に捕まったってことじゃ……!?」

苔むした大木に囲まれるなか、俺はシュミーの手を握り、全方位を警戒する。
オーウェンも同様に油断なくあたりを見渡していた。

「そうか、やはり空間系スキルを使っての移動を試みたか」

「っ」
「誰だ」

声が聞こえてきて、俺とオーウェン、シュミーはその方向へ首を向ける。

俺たちの視線の先。
緑深き、木の根のうえに白いコート姿の者たちが立っていた。

全部で3人。
ひとりは赤い髪と瞳……隻腕の男。
ひとりは血走った目をした大男。
ひとりは刈り込まれた頭のこれまた巨漢。

「『聖歌隊』第三審問者アラッド」

隻腕の男がそう言った瞬間、敵のひとりがさっそく動きだす。
血走った目をした大男だ。
その大男は手を大きくふりあげると、それを地面に思いきり叩きつけのだ。いきなりの謎すぎ行動。それほ、直感的に何かが足元から攻撃してくる予感となっていた。

「女神、女神殺させろ、はやく綺麗な臓物を見せてくれ!俺にお前を決めさせてくれ!」血走った目の男は言う。
「狂人か」

その血走った目の大男の狙う先、シュミーを庇いながら、俺は指を鳴らし、大男の顔面を高威力の乱気流で狙い撃たんとした。
続いて危険そうな足元を、シュミーを抱いてすぐに飛びのこうとする。……が、異変がおさまったので、特に移動する事なく立ち尽くすことにした。

──俺の攻撃が速すぎたらしい

血走った目をした大男は、声ひとつあげず吹っ飛んで、俺のポケットの入り口を絞った乱気流を、間近で受けて、そのまま行ってしまった。気絶したと見て間違いない。

「ゴッドハンドが落ちたか」
「速いな」

仲間の死に、ほかの2人はさして動揺した風には見えない。
ただ、淡々とただいまの一幕を見届けただけだ。

どうやら残りの連中は話ができそうだと思い、俺はオーウェンに目配せして、対話を試みてみる事にした。
が、先に口を開いたのは向こうだった。

「お前たち、何者だ」

刈り上げ頭の怖い顔の男が聞いてきた。

「無益な死から、女神を守る者だ」

俺は答える。

「無益な死。否。その女神を殺すことは、ソフレト共和神聖国の後の安泰に繋がる。これ以上に大切なことはない」
「あんた達の目的は『左巻きの魔女』の討伐だろ? かの魔女はすでに夜の女神の支配下にない。完全に独立した脅威なんだ。夜の女神を殺す必要ないはずだ」

俺は叫び、訴える。
神殿勢力の階位的に、自分より遥かに上位に存在する『聖歌隊』を相手によく喋れたものだと自分を褒めてやりたい。
本当は、会ったこともないこの重役たちが、こわくてこわくて仕方がないんだ。

「我々の目標を看破し、先んじて夜の女神の身柄を保護した手腕は見事だ。だが、だからといって、根源的な脅威である、異端の女神を生かす理由はない」

刈り上げ頭の巨漢は、白いコートの袖のなかから『つか』だけを取りだして、左右の手に握った。
彼が『柄』を手にした瞬間、柄から金属の棒がスーッと伸びていき、刈り上げ頭の巨漢は両手に硬質な金属杖きんぞくじょうを握っていた。

「魔力で杖身じょうしんを編み上げてるみたい……マクスウェル、気をつけなさい」

シュミーが小声でアドバイスをくれる。

「頼むから、こんな不毛な事はやめてくれよ……俺たちの敵は『左巻きの魔女』なはずだ。夜の女神はもう『朝の教会』とやりあう気なんかないんだぞ?」
「ほう、古い呼び名を知ってるのか。ならばお前も危険因子だ。存在する教会はひとつだけ。そこに餌も夜もない。……異端者、女神を渡せばこの場は見逃してやってもいい」

刈り上げ頭の巨漢は、金属杖でシュミーを指す。
俺は考える。
はじめ、こいつらには明らかに強行する気配があった。
だが、今、あの刈り上げ頭の巨漢は俺との交渉を試みている。
この意味を考えるんだ、

まずひとつ目。
俺の指パッチンを見て、ビビって、戦闘によって俺たちに勝てないと判断した。
……いや、そういう感じではない。こいつらにはやろうと思えば、いつでも暴力に訴える凄みがある。少なくとも、戦闘で100%勝てないかもしれない、と思い始めたくらい、か。

となると……。
理由のふたつ目。
時間を稼ぎをしている、か。

「マックス、早めに決断した方がいい」
「くっ…まだ、カードはある。やっぱり、こんな不毛な殺し合いはしたくない」
「……」

オーウェンに沈黙の許可をもらい、俺は最後の説得にかける。
いきなり、口に出しても信じてもらえる可能性は低い。だが、言わない選択肢はない。

「アクアテリアスで、女神ソフレトが、魔女にさらわれた」
「もう少し、マシな嘘をつけ」速攻で俺の言葉は否定された。

だが、諦めない。
「本当だ。アクアテリアスは『灯台』もろとも魔女が外国から招き入れた、神秘の使い手によって、壊滅状態にあるんだ。パレードを魔女の軍勢に襲われて」
「ならば、なぜ、お前はここにいる。『神聖祭』のパレードは予定通りなら昨日の昼行われた。空間系スキルで長距離を短時間で移動できるとしても、行動が意味不明すぎる。それほどの強さがありながら、魔女に襲われて、国のために戦わず、なぜ異端の女神を護衛している。すべての辻褄があっていない」

聖歌隊員の正論に打ちのめされる。
やはり短時間で説明して、理解を得ることはとても難しい状況だ。

オーウェンの未来視のこと。
魔女の目的が、国落としではなく、その先にあること。
俺がジークタリアスの『聖女の騎士』で、神殿勢力上層以外で、魔女の存在を唯一知っている数少ないなかのひとりであること。

そのすべてが絡みあって、現在がある。
まったく信頼のない彼らを納得させ、説得することは、とても出来そうにはない。

「マックス、時間だ。決断しろ」
「マクスウェル…」

「……チッ、俺たちが世界を救ってやるから、引っ込んでろって言ってんだよ!」

──パチン

俺は指を鳴らして、俺たちと『聖歌隊』のあいだに『巨木葬』を落とした。

爆裂する暴風域に大木が根こそぎ吹っ飛んで、俺たちの身体も飛ばされる。
俺はシュミーを落とさないように小脇に抱えながら、オーウェンとともに嵐のなかを駆け抜けた。

「オーウェン!」
「ああ」

隆起して崩壊する地盤と、中空を舞う木の根、顔の横を飛んでいく岩の破片と、目も開けられない暴風。
オーウェンはそんな状況ですら、刀の一閃で『亜空斬撃』を行った。
しかし、オーウェンの切り裂いた空間は、わずかに黒く光っただけで、次元の裂け目は現れなかった。

俺とオーウェンが顔を見合わせると、頭上から声が聞こえてきた。

「無駄だ、あたりいったいは俺のスキルで閉鎖済みだ!」

「っ」

声の方へ顔を向ける。
すると、敵意の位置が変わった。

俺が顔を向けたのとは正反対。
俺の意識がわずかでも動いた瞬間に、俺の背後からそれはせまってきていた。

俺はすかさず指を鳴らして、乱気流で愛剣を射出して、背後から現れた危機を排除する。
パキンっ、という音がした。
見れば地面に金属杖が転がっていた。

「ほう、反応するか」
また声が聞こえた。

「っ、そこだ!」

俺は声に反応して動く。
だが、今度は聞こえた声とは、まったく反対側へむけて、彼は乱気流の空気弾を飛ばす。

「うっ……!」

うめき声。
手応えがあった。
見れば、今しがたうめき声が聞こえた空間が、歪んでいるのを、俺はほんの僅かな時間だけ目撃することができた。

ファーストコンタクト。

「マックス、どうだ」
「デカい方の能力はだいたい、わかった」

俺とオーウェンは背中あわせになって、うなずき合う。

最初の『巨木葬』による被害がおさまり、打ち上げられた地面と木々が、みんな地上へ戻ってくる頃。

俺たちは目の前にたつ、隻腕の男と刈り上げの巨漢と相対する。

「空間を閉鎖してるスキルホルダーは、あんただ」

俺は刈り上げの巨漢を指差す。

「あんたさえ倒せば、俺たちはどこへでも逃げられる」

挑発的に言って、相手の焦りをさそう。
見たところかなり、あの隊士は、こまめな空間移動術を使えるとみえる。となれば、ただ速さだけを追求した俺の空間スキルより、頭を使うはずだ。冷静さを欠いてくれれば、それだけだやりやすくなるだろう。

「俺も…………見えたぞ、異端者。お前……『限定法』をおさめているな? 右手で何かしているんだ。…音からして、おそらくは指パッチン。それが、スキル発動の符号なのだろう? ええ?」
「っ、見えたのか……」

これまで見切った人間が、師匠くらいしかいなかったものだから、わずかに動揺する。

落ち着け、マックス。
完全に見えてるわけじゃない。
いや、むしろ、ほとんど見えてない。
やつは右手のモーションと、音から推測しただけだ。
別に隠そうとしてたわけじゃないし、やろうと思えば乾いた音だけからでも、指パッチンだと特定することも出来る。

「強がるなよ、刈り上げ野郎。そっちは最初から腕なしの相棒がいるだけ。悪いがこっちの剣士は最強だ。この戦い余裕だぜ」

肩をすくめてみせると、オーウェンは応えるように刀をチャキっと鳴らした。

すると、刈り上げ頭の巨漢は、おかしくて仕方がないように含み笑いをする。

彼が笑ったわけはすぐにわかった。
そいつらは全方位からやってきていた、
俺とオーウェンは周囲へ視線だけ動かす。

俺たちを取り囲むように、ずらっと現れた人影たち。
白いコートを来た人間が追加で8人。
敵の増援が到着してしまってらしい。

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