【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第84話 『聖歌隊』第七審問者ナイスガイ
「あいつが『聖歌隊』、神殿最高位聖職者」
「そのようだ」
俺とオーウェンは、おびえるシュミーを背後に隠して立った。
「んあ? んだー、てめぇらは。このナイスガイ様と邪魔をしようってんのか?」
「そうだと言ったらどうする?」
オーウェンは挑戦的に澄ました笑顔をみせる。
『聖歌隊』ナイスガイは、一瞬目を丸くして、すぐに堪えきれないように笑い出した。
「はははっ! いいぜ、これで少しは楽しめそうだぜっ、と──領域展開だ」
静かな声でナイスガイは告げて、鉤爪を左右十字にクロスさせた。
「すべての戦いに終わりを
貴方の戦いに安らぎを
私が願い、私が祈り、私が下す
貴方に主の愛が与えられますように……ライプンっ、と」
祝詞を告げて、ナイスガイは怪しく微笑んだ。
その瞬間、彼の背後の開け放たれた両開き扉が勝手に閉じて、蜘蛛の巣のような黒い亀裂が聖堂の壁を覆い隠していく。
「俺のスキルは〔封印〕。出口がひとつしかない、この異空間に対象者を1時間とどめることで、標的の魂を物質化して永久に封印することができるぜ、と」
ナイスガイは自慢げに鼻を鳴らす。
「あんた、自分の能力を明かすなんて何考えてるんだ? 情報は伏せたほうがあんたの有利になるだろうに」
俺は腕を組んで、敵の狙いをさぐる。
しかし、ナイスガイは「と思うじゃん?」とへらへら笑うだけだ。
「こいつが俺様の『限定法』だからなぁ。相手に俺様の組みあげたスキル構築を教えることで、この異空間は第二、第三の効果を獲得するぜ、と」
「『限定法』だって? 『聖歌隊』はみな限定の使い手なのか?」
「ん、なんで、てめぇ『限定法』のこと知ってんだ、わりと貴重な知識のはずだが……」
ナイスガイはうろんげな眼差しを俺に向けてくる。
俺は「どうしてだと思う?」と問い返しながら、スッと右腕をもちあげる。
「あ? 何しようって──」
──パチン
あほうに口を開けっぱなしのナイスガイの顔面に、俺はポケット空間から手頃な大きさの石を射出した。
轟音と爆発が起こり、聖堂を包み込んでいたナイスガイのスキルパワーが崩壊していく。
砂埃が収まると、聖堂の入り口方面半分が消しとんで、洞窟が崩落しているのが見えた。
「やべっ……殺しちゃった? すこし強く打ち出し過ぎたかな?」
「敵は『聖歌隊』だ。遠慮はいらない」
「ぁ、が、ぅ……」
俺とオーウェンは崩れた岩に、下半身が岩に埋まったナイスガイに近寄る。
とっさに鉤爪でガードしたらしく、ナイスガイの顔には特に傷らしきものはなかった。
が、不意打ち気味の石の衝突に、脳を強烈に痛めたらしく、意識はもうろうとしている。
「よかった、死んでない」
「『聖歌隊』は敵だ。マックス、次からは武器を射出して殺すんだ」
「いや、こいつら勘違いしてるだけだろ? 魔女が敵なら、もしかしたら協力出来るかもしれないじゃん」
「はあ……無駄だと思うがな」
オーウェンは腕を組んで、力なく首を振る。
躊躇なく神殿勢力の大上司を殺せだなんて、流石に出来るわけがないだろうに。
それに、単純に人殺しをしたいわけじゃないし、無力化できるならそれで十分だ。
「ぅぐ、て、めぇ、ら……なに、もんだ……」
虫の息のナイスガイは、目を絶望に見開いて聞いてくる。
俺とオーウェンは顔を見合わせ、それからともにナイスガイを見下ろした。
「罪人だ」
「運び屋です」
「ふざけ、ん──」
オーウェンは刀を抜き、ナイスガイの首に峰打ちでトドメを刺した。
俺はなんとなく後味が悪い気がして、オーウェンに問いかける。
「なあ、別にここまでやらなくても話し合えばわかってくれるんじゃないか?」
「殺意85%くらいの攻撃をしといて何を言う」
「いや、攻撃してから、やっぱり、やり過ぎかなって思ってさ……そもそも、こいつらは魔女を操ってると思ってる『夜の教会』のリーダーであるシュミーを勘違いで殺そうとしてるんだろ? だったら『聖歌隊』も魔女が起こした混乱の被害者みたいなもんだろ?」
「だが、夜の女神を殺される、何よりまずい」
オーウェンは納刀してこちらへ真摯な目を向けてくる。
俺は遠くで腰を抜かしてるシュミーを見て、声が聞こえてないことを確かめて、オーウェンに耳打ちした。
「もし、もし仮に魔女に奪われるまえにシュミーを殺したとしたら、どうなるんだ?」
「っ、マックス、お前……」
「いや、だから、仮にだって。魔女がシュミーを手に入れて、文明崩壊するくらいならっ、そういう手段もあり得る、ていうひとつの正論がありそうだろ?」
「はあ……あくまで仮定の話だと。まあいい。夜の女神は死んだらだめだ。彼女が死ぬと神格が漏れてしまう。アダムが言っていたことだから定かではないが、きっと神格をシュミーの中にキープすることが最善手なんだろう」
とりあえず、夜の女神が死ぬことは魔女の利益につながると。
よかった、それなら心配はない。
最悪の場合、女神をどうこうしちゃう選択肢があるのかと思って焦ってたところだ。
「それと、マックス」
「なんだ」
「『聖歌隊』には気を使う必要はない。こいつらは皆、破綻者だ。人間の命を自らの正義に酔って奪うことをいとわない下郎ばかりだ」
「神殿勢力の懐刀、か。……はあ、なんでもいいよ、もう。俺はただ『ジークタリアスの夜明け』を止めるために動く。そうすれば、魔女も倒せて、脅威は消えて、マリーと安泰に暮らせるんだから。……けど、極力こいつらは殺さない。魔女の配下は仕方ないにしても、『聖歌隊』と殺し合うのは不毛だ」
「……わかった。極力、だな」
思考を単純化して難しい課題を後回しにする。
もともと、地に足ついてないような状態で付いてきてしまった戦いだ。
深くは考えず、踏み込まず、幼馴染が必要としてる俺という戦力を提供してやる。
俺にとっては、そういう闘争だ。これは。
「ちょ、ちょっと、アンタたち話し込んでないで、手貸しなさいよ……!」
「ん、腰を抜かしていたのか」
へにゃーっと床に座りこみ、涙目の女神様が助けを所望していた。
オーウェンは駆け寄り、シュミーの手をひいて、ゆっくり立たせてあげた。
「な、なによ、ソフレトの奴、マジでアタシの事を殺そうとしてるわけ……最低、最悪よ、あの化乳女神、ずっと友達でいようねだなんね……結局、嘘だったんだわ……!」
シュミーはポロポロと涙を流し、鼻をすすり、長椅子を足で蹴って怒っていた。
なにやら女神ソフレトに向けて怒りの感情を燃やしているらしい。
「絶対に生きて、仕返してやる! オーウェン! マクスウェル! あんた達、今からアタシの信者なんだから全力で守ってよね!」
「別に信者じゃないですよ」
「俺もな」
「いいから! アンタたちだってアタシが死んだら困るんでしょ?! それなら信者みたいなもんよ!」
暴論でシュミー教の信者にされた俺たちは、詳しい事情を彼女に話し、とりあえず生きててもらう事と、魔女に捕まってはいけないことを伝えた。
彼女は「あーアダムの話って本当だったんだ……」と以前から、例の占い師から『ジークタリアスの夜明け』についての話だけは聞いていたようだったが、信じてはいないようであった。
「で、あのジジイはどこいるのよ」
「え? 女神様、どこにいるか知らないんですか?」
「知らないわよ。教会の外に追い出してたら、いつのまにか本当に出て行っちゃったんたもの」
そういえば、あの占い師、教会から締め出しくらってるとか言ってたな。
すねて旅にでも出たんだろうか。
俺はオーウェンの顔を見てみるが、オーウェンもしばらく会っていないらしい。
「たまに手紙は届くがな。未来の内容が見えたから、追加情報を知らせる、とか言って家のポストに入っている」
「あくまでオーウェンに動いてもらうスタンスなのか……」
すこし考えた結果、アダムとの合流は必須ではないと結論づけて、保留することにした。
まあ、何はともあれ夜の女神は保護したのだ。
これで気兼ねなく、魔女を迎え撃てるというものだ。
「マックス、シュミー、いったん魔女の工房を壊しに行くぞ」
「待ちなさいよ、アタシはこの教会にいたほうが安全なのよ!」
「アダムから夜の女神を教会に置きっぱなしにしとくな、と言われてる。神格をひとつを手にいれた魔女相手に『夜の教会』の結界領域は効果がない」
「それに、女神様、さっき普通に『聖歌隊』が入ってきてましたし、ここそんなに安全じゃないのでは?」
「違うわよ! ずっとずーっと魔女っ子たちも『朝の教会』連中もここは見つけられなかったんだから! 今日がおかしいんだからね!」
住まいのセキュリティ不全を嘆く女神と共に、俺たちはオーウェンの作り出した次元の裂け目を通って魔女の工房とやらへと行くことになった。
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