【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第82話 女神シュミーのもとへ
「で、さっそく移動係を倒したわけだけど、このあとはどうするんだ? もうマリーのところ帰っていいのか?」
「ダメだ。出来立てカップルには申し訳ないが、もうすこし働いてもらう」
オーウェンからこの後の方針を聞く。
「いくつか目標を設置しよう。こんな感じに。わかりやすいだろう?」
最終目標:『ジークタリアスの夜明け』を阻止する
中間目標1:『聖歌隊』を撤退させる
中間目標2:シュミーの保護
中間目標3:アダムと合流
中間目標4:『枯れた指』の殲滅
「最終目標は絶対達成するとして、出来れば夜の女神シュミーも優先的に保護しておきたい」
「ふーん。それじゃ保護しようぜ。どこにいるんだ?」
「……わからない」
「じゃあ、諦めるか」
「もうすこし頑張ろうか、マックス」
オーウェンは俺の肩を押さえて、顔を覗きこんでくる。
「マックスは以前に彼女に会ったはずだ」
「いや、会ったって言っても、すぐに消えちゃったし……オーウェンこそ、ミステリィ貰ってるんだろ?」
「俺は寝ぼけてる間に、勝手に神秘を見出されただけだ。ほとんど、会ったなんて言えない」
「え?」
「アダムが勝手に、俺にミステリィを押し付けてきたんだ。だから何も知らないと言ってる」
オーウェンの文言を聞いて、つくづくあの占い師がとんでもない野郎だと思えた。
人を崖から突き落として、そのあと平気な顔して「これには何かの縁がある」とか臭い演技をしたり、寝てる人間に勝手にスキル的なのを与えたり、やりたい放題だ。
「オーウェン、おまえも被害者だったのか…」
俺は同情して、オーウェンの肩に手を置いた。
その瞬間──
「そうさっ! 俺は被害者なんだ! うぐぐぅ、俺ほど可哀想な人間はそうそういない! はっきりいって、生きてる保証があった崖から落ちたマックスなんかとは比べ物にならないくらい辛い間に合ってきたんだ!」
「ッ!?」
突然、なにかが爆発したオーウェンに思わずギョッとする。
少しして、オーウェンは自分がなにを言ったのか、ようやく自覚が出てきたらしく、咳払いして頬を赤らめた。
「…取り乱した。話を戻そう」
「お、おう」
「女神シュミーの保護は大事なことだ。なぜなら女神ソフレトですら持て余してる最高位聖職者たち『聖歌隊』が異端である『夜の教会』の制裁に出動してるからだ」
落ち着きを取り戻したオーウェンは淡々と言った。
「? 『聖歌隊』ほ魔女の討伐に出てるんだろ? なんで、そのわけわからん『夜の教会』を制裁なんかしてるんだよ」
「魔女が属しているのが、朝か夜か、と考えたとき『夜の教会』側に寄ってるからだろう。アインの残した手紙で『左巻きの魔女』……というより″魔女″が動き出したとわかった時点で、神殿勢力はまず『夜の教会』が自分たちを打倒しようとしてると考えた」
「うーん、わからないな。神殿勢力はどうして、そんなに『夜の教会』を意識してるんだ?」
「もっとわかりやすく言おう。はじめソフレト共和神聖国ができる前、この地にはいくつかの宗派があり、それらは『朝』か『夜』かに二分されていた。現在の神殿勢力は言うならば『朝の教会』だ。女神ソフレトは、朝の女神ということになる。つまり、宗派の競争において『夜』は負けて、徹底的に存在を消されてきた。そう『異端者』と呼び、神殿が嫌う者たちこそが『夜の教会』の残党だ」
「っ、異端者ってそういう意味だったのか……どうりで、神殿が朝のお祈りを大事にしたりすると思った」
「? マックス、もしかして疑問を抱けていたのか?」
オーウェンの意外そうな問いかけに首をかしげる。
「人は当たり前だと思うものを疑うことは出来ない。それこそ、小さな頃から刷り込まれてきた洗脳にも近い信仰なんかは特にそうだ。それに疑問を抱けるということは……マックス、お前には『異端者』の資質があるのかもしれないな」
「疑問ってほどじゃなかったけどな。朝でも夜でも、どっちでも良いんじゃいかって思っただけで」
「それが、凄いことなんだ」
オーウェンは嬉しそうにうなずく。
「ん、待て、だとしたら、もしかして……そうか、マックス、わかったぞ」
「うぇ、なんだよ」
「マックス、お前、これまでに『夜』にまつわる品をどこかで手に入れているだろう?」
「いや、そんなの手に入れてないけど」
「嘘だ。必ず持っているはずだ。ソレは欲するものではなく、ソレは必要される運命に引き寄せられる。新米異端者たるマックスは今このタイミングで女神シュミーに会いたいはずだ」
「…正直、それほどでも」
「いや、会いたいはずだ。絶対に、絶対だ」
「……会いたくなってきたかも」
「よし、ならば、ある。マックス、ポケット空間から怪しい物をすべて出せ」
オーウェンに言われて、なにかれ構わず俺は暴かれてしまった。
「これは?」
「返せ! それはマリーの温もりが残ってる枕だ! ポケット空間の時間経過しない効力を使って無限に温もりを維持してんだから!」
「それじゃ、こっちは?」
「それもマリーのパンケーキの食べ残しだ! いつか食べるかもしれないだろ!」
「これは……マックス、ダメだろ」
俺の秘密の収集物を許してくれたオーウェンからついにアウトが出た。彼は靴下を汚そうに持って、俺に見せてくる。
「マックス、どんなに好きでも服まで盗み出したら異常だ」
「それ俺の靴下な。別に汚くないから」
オーウェンがホッと胸を撫で下ろして、『夜』にゆかりがありそうなアイテム探しは続いた。
「……これだな、凄まじい夜の力を感じる」
オーウェンはついに真面目な声をだす。
彼が手に持っていたのは『黒いロザリオ』だった。
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