【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第79話 猫、烏、狼、鯨、竜、魔女……剣豪
「マックス、もう平気だわ……みんなの治療に戻らないと」
腕のなかのマリーはそう言って、顔をあげてくる。
感傷的な気持ちの俺たちは、月明かりのしたで、しばらく見つめあっていた。
「なんだ、まるでカップルみたいだな」
「っ」
ふとした瞬間、声がかかる。
声の主人のほうへ顔を向けると、そこで蒼瞳の馴染み深い顔が足音立てずに歩いてきていたのがわかった。
「オーウェン! 生きてたのか!」
「オーウェン、オーウェン……よかったぁ……!」
マリーは心底安心したように俺の胸に脱力してもたれかかって来る。
「他のみんなは? ジークや、デイジーや、氷結界のほうは誰か見なかったか?」
「すまないな、俺もしばらく気絶していて、さっき目が覚めたところなんだ。適当に歩いていたら、ここへたどり着いた」
オーウェンは抑揚のない声でそう告げる。
「だが、道中、あの紫髪の少女を見つけたぞ」
オーウェンは手に持つ、黒い獣毛にまみれた生首を地面に転がした。
「これは、パレードを襲った奴……」
「そのオリジナルだ。おそらくは2ヶ月前のジークタリアスでのパニック事件にいた個体だろう」
「え? オーウェン倒しちゃったのか?」
「ああ。問題だったか?」
オーウェンは生首を手で指し、気安い様子で肩をすくめた。
「それにしても、やっぱりその少女ってのが魔女なのか……ジークタリアスにも居たし」
「それじゃ、あの黄金の錬金術師とかって男は『左巻きの魔女』と仲間ってことなのね」
「そうなるな。俺はアイツは知らなかった……だが、結果は収束する。あの錬金術師は、『左巻きの魔女』が外側からいれた″味付け″、舞台を狂わせるための因子だ」
オーウェンは神妙な顔つきでのべる。
俺とマリーはうんうんもうなずいていたが、ちょっとした引っかかるような違和感に襲われる。
「あれ? オーウェンって『左巻きの魔女』のこと言ってたっけ?」
俺はとっさに聞きかえしていた。
「……ああ、でなければ、俺が知るはずないだろう?」
オーウェンは淡々と応える。
まあ、それもそうか。
神殿に口止めされてたから、マリー以外には言っていなかったと思ったが、オーウェンには口を滑らせてしまっていたか。
「ねえ、オーウェン、それでさっき魔女に会った言ってたけど、どうなったわけ?」
マリーはじれったそうに問いかけた。
オーウェンは顎に手をあてて、思案げな顔をする。
「一応、戦ったさ。だが、どうせここでは倒せないだろうから、適当にあしらったのだが……うっかり、狼と、鯨を倒せてしまってな」
「凄いわ、オーウェン、魔女の戦力を削ったってことね!」
「……ああ」
流石はオーウェンだ。
ひとりでどれだけの戦力と戦ったか分からないが、こうして不吉の黒獣の生首を持ち帰って来てる以上、相手に大きな損害を与えたんだろう。
オーウェンはほとんどケガしてないようだし、楽勝だったに違いない。
「魔女自身には逃げられた『なんでまたアンタなのよ!』って怒ってたが……奴はかなり多くの手勢を用意してるようにみえたな」
「ソフレト共和神聖国への宣戦布告って言ってたもんな……あの黄金の錬金術師ふくめ、ほんとうにこの国すべてを敵にまわして、勝利するだけの戦力を整えてるんだろ」
「最悪なことになったわね……でも、とにかく、今は出来るだけ生存者たちを集めないといけないわ。神殿勢力が完全に崩壊してないことに賭けて、組織を動かせる人間を探さないと!」
マリーの言葉に、俺とオーウェンは目を合わせ、同時にマリーへ向きなおる。
「どうしたの、2人とも?」
「いや、その組織を動かせる人間についてだけど」
「現状、マリー以外に適任者はいないだろうな」
聖女であるマリーこそが混乱を打破するための鍵だと俺もオーウェンも考えていた。
神殿勢力の組織系統は、神官のひとりやふたりが見つかったところで取り戻せる、ちいさな規模ではない。
これまでの組織運営は望めない。
あまりにも≪黄金錬成≫による被害が大きすぎたからだ。
俺はポケットから黄金のコインを取り出し、視線を落とし、歯を食いしばった。
奴は、絶対に許さない。
「マリー、混乱してる人民をまとめられるのは聖女しかいない」
俺の言葉にマリーは顎に手をあてて深く考えこんだ。
それからしばしマリーは思案し、蒼翠の瞳に力を宿すと俺たちの案にうなずいてくれた。両親を失った悲しみ、すべてを台無しにされた怒り、それらに蝕まれんとする、幼馴染の強さに、俺も励まされる。
避難所を中心とした安全圏の確保・構築、および≪黄金錬成≫の生き残りを集めることが、当分の俺たちの任務となった。
マリーは避難所にて動ける者たちを導き、団結させ、荒んだ心を癒し、それぞれに役目をあたえて希望を持たせた。
「マックス、ちょっといいか、話がある」
人々を指導するマリーを眺めていると、俺はオーウェンに呼び出された。避難所をより発展させようと働く人々の横をぬけて、避難所の外の瓦礫の山を歩いた。
空にはうっすらと明るさが戻って来ていて、絶望の1日を乗り越え、新しい1日が始まろうとしていた。
これは新しい朝だ。
「マックス」
「なんだよ、話って」
オーウェンは壊れた灯台のふもとで、水平線を眺め口を開いた。
「このままではジリ貧だ。『左巻きの魔女』のやとった錬金術師のチカラは絶大、あんな避難所を作ったところで、やつらがその気になればすべての努力は無に還る」
「……だろうな」
俺はオーウェンの言葉を一言で肯定し、彼と同じように太陽が昇ってくる薄暗い水平線の向こうへ視線を投げた。
そんなことはわかっていた。
マリーにはああ言ったが、敵の攻撃力を考えれば、現状のソフレトは、奴らの指先ひとつの采配ですべてはひっくり返りうる。
根本的な解決を謀らないといけない。
「『左巻きの魔女』は宣戦布告って言ってたが……」
「あれは文字通りの意味だ。あの魔女は国を壊す。いや、どちらかと言うと、神を壊す」
オーウェンの言葉に俺は怪訝に彼の顔を見る。
「マックス、あいつらの狙いは女神ソフレトだ」
「女神様を殺せば、そりゃ国は壊れるだろうな。それで目的達成だ。最悪もう女神様だって、さっきの一撃で……」
「いいや、違う。マックス、あいつらが国を壊すのも、神を壊すのも、すべては手段に過ぎない。奴は『死界のヒモ』を獲得すること、ただその一点のみを最終目標としてる」
オーウェンの確信をもった物言いに俺は、この男が常々感じていた違和感の正体を知っていると思った。
「オーウェン、お前……なにを知ってるんだ?」
「マックス、俺たちは『ジークタリアスの夜明け』を回避できる最善手なんだ」
「オーウェン、答えろよ。お前はなにを知ってる? どうして魔女の目的も、なにもかも、そんな透かしたような目で見られるんだ」
オーウェンの肩をつかみ、問いかける。
彼は俺の瞳を見つめて来た。
「っ」
オーウェンの瞳の色。
普段は鮮やかな蒼なはず色が、今はまるで夜の星空をうつしたイロになっていた。
それはどうしようもなく美しかった。
「マックス、すまない。俺は嘘をついていた。俺はスキル〔魔剣〕なんてもってないんだ」
「え? だって、その刀……」
「こいつはただの業物の刀だ。……俺が持っているのは瞳だ。過去と未来を見通す目ためのな。そして、こっちのは〔夜の瞳〕──」
オーウェンはそう言って、自分自身の瞳を指差した。
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