【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第74話 鈍感系でも恋愛をする
じっと見つめてくるマリーの蒼翠の瞳を、真正面から受けとめる。
「マリー、それってどういう……」
「マックス、覚えてる? むかし、わたしがふざけてマックスの唇にチューしたら、マックスが真っ赤になって倒れちゃった事件」
「……覚えてるよ。あれは、すごく……心臓に悪かったね」
師匠の道場で稽古終わりに、マリーにいたずらされた時の話だ。
当時、圧倒的にマリーよりレベルが下だった俺は、マリーに押し倒されて、いいようにチューされてしまった。
もちろん、死ぬほど嬉しかった。
だが、実際に鼻血が出過ぎて貧血気味になって死にかけたので、ちょっとトラウマだ。
尊さのオーバーフロー。
ご褒美の過剰摂取は危険なのだ。
「あれって、マリーがからかってしたんだったよね。今にして思えば、本当に悪い冗談だったなー」
俺は愛想笑いしながら、本当は俺が今でもあの時の唇の感触を忘れないように、当時の気持ちを書きつづった1冊分のキス感想ノートを、大事にしまっていることはおくびにも出さない。
そんな事知られたら、キモがられて俺は死んでしまう。
俺はただ、マリーのとなりにいられれば十分なんだから。
「……マックス、実はさ、あれはからかったわけじゃないのよ」
「? というと?」
「もちろん、マックスの反応を見たくてあんな風に言っちゃったけど、本当は違う。あれはわたしなりの″告白のつもりだった″わ」
「………………へ?」
思考が追いつかない。
マリーの綺麗な顔が、どんどん赤くなっていくのがわかるくらいに高揚していく。
「あはは、なんか熱くなって来たわね。やっぱり、恥ずかしいわ、こういう事言うのって」
「ぇ、え? ぇ? あれ? つまり、、え? いや、マリー、それって、どういう……」
俺はどもり、上手く口が動かせない。
マリーは、はにかんで笑い、俺の唇に人差し指をたてて置いてきた。
すると、熱くなる頭がすこしだけクリアになって、マリーの緊張した愛らしく整った顔がよく見えた。
「マックス」
「……」
「そこ、動くんじゃないわよ」
マリーはベンチに座る俺をすみに追いつめて、体をがしっと小さい手で捕まえてくる。
今は俺のレベルが無いので、マリーの凄まじいホールドには1ミリもさからえない。
「強い強い……っ、そんな、強く掴まないで……!」
「こら! マックス! 動くなって言ってるでしょ! わたしのチューが嫌なわけ!?」
マリーは真っ赤な顔で、怒ったように言うと、俺のおでこに彼女自身のおでこをぶつけてきた。
「……っ」
至近距離で深緑の泉を映したような瞳が、俺を見つめてくる。
「マックス……わたしは、マックスが好き」
俺、夢でも見てんの?
妄想力が強すぎて具現化させる能力に目覚めたの?
俺はマリーの熱い吐息を浴びながら、そのまっすぐな瞳とひたすら見て、真意をさぐった。
これはからかってるワケじゃない?
そうして、ようやく馬鹿な俺は気がつく。
ああ、マリーも同じだったのか……と。
俺はそれ以上、言葉を重ねる必要がないと感じていた。
もう完全にわかりあえた。
「……」
「……」
俺とマリーほお互いの呼吸音を、聞きあえる数センチの距離で鼻の頭をくっつけあい、唇と唇のあいだにある、最後の″距離″を埋める。
この数センチを縮めるのに、長く時間がかかった。
あの森の鍛錬の時間と似ている。
わずか100分の1秒縮めるのに、何日も、何週間も、何ヶ月もの時間を費やした。
俺はようやく辿り着こうとしてる。
その果てに。
俺はマリーのふっくらした唇を見つめ、マリーもきっと俺の唇を見つめている。
そんないい知れぬ確信。
俺は息の温かさを感じながら、数センチを詰める。
と、その時。
「……答えは?」
俺が黙ってマリーの唇に辿り着こうとしたとき、マリーは静かに聞いてきた。
彼女の瞳を見ると、俺の目を見ていた。
「乙女が勇気出して、告白したのに、答えもかえさないなんて、ズルいわ」
「……」
もっともな言葉にグサリと胸を刺される。
俺は臆病で、本来なら俺から頼みこんで告白するところを、聖女であるマリーにやらせてしまった。
それなのに、沈黙に甘えようなど……。
「……」
いや、だからこそ、なのか?
「マックス?」
「マリー」
答えない俺に、マリーが不安そうに聞いてきた瞬間。
俺はマリーの名を一言呼び、彼女の唇に俺の唇をかさねた。。
「んっ」
驚いた様子のマリーの唇を、食べるようにゆったりとハムハムする。
尊さに自我を失い亡者となって死なないよう意識を保ち、熱く熟れた、収穫をじらされつづけ果実にじっくり、時間をかける。
「んぱ……っ、はぁ、はあ」
一連の儀式がおわり、顔を離す。
「これが答えだよ、とか言ったら怒る?」
俺は聞いてみた。
すると、マリーは耳で赤くして「もう、どこでそんな言葉覚えてきたの……!」と手をぶんぶん振ってご立腹になってしまった。
マリーのご機嫌を取るために、ここはしっかり言葉にもしておこう。
「マリー、俺もマリーのこと大好きだった」
「ふ、ふーん♪  知ってるわよ! そうやって、そうやって、まだわたしを恥ずかしがらせて楽しむ気なのね!」
「え? いや、マリーを本当に大好きだから、しっかり言葉にしておこうと思って」
マリーが聖女として、個人である俺に好きという感情を向けないよう、頑張っていたのだ。
俺が言葉にしなければ、男がすたる。
「あー! もう、マックス、口を閉じなさい! わたしだけこんなに嬉しくて、恥ずかしがらせるなんて、マックスは、ほんとうに悪いマックスだわ!」
マリーはそう言うと、俺の脇に手をさして、俺を持ちあげて、壁際に叩きつけてきた。
「ぐへっ」
聖女様はよろめく俺を壁ドンしで固定してくる。
「待たせたぶん、返してもらうわよ」
この後、俺はつま先だちしてくるマリーに、たくさん好き好きアピールのちゅーをされてしまった。
レベル差100の前では、俺はただマリー尊さに、断続的に気絶しておもちゃにされるしかないのであった。
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