【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第71話 胸騒ぎ
ーー夜
『余剰街』も『灯台』も、アクアテリアス全体の主要な通りは、大きなにぎわいを見せていた。
今夜は『神聖祭』の前夜祭であるからだ。
明日から本格的に、始まるのは、この国中の国民があつまる10年に一度の祝祭だ。
アクアテリアスには数日で、本来の都市人口の10倍以上の人間が入って来ている。
街は晴れやかに飾られ、物はたくさん流通し、夜は大人たちが連日お酒を浴びるように飲んで、食べて、めでたい日を祝う。
ただ、その影で悪い人間もまた犯罪をおかし、この都市の治安は少し悪くなっている。
「マックス、昼間はほんとうに大変だったわね」
夜風に黄金の髪を揺らしながら、マリーは言った。
俺たちが今いるのは『灯台』の外壁だ。
地上100メートルのここからは『余剰街』全体の明かりが灯された大きな通りが一望できる。
まさに金貨100枚の夜景だ。
「マックスは絶対に正しかったと思うわ。あんなクズには、もっと制裁が必要なくらいだし」
「マリーがそう言ってくれるなら、俺も自信が持てる。いや、まったくもって後悔はしてないけどさ」
俺は自分の手にかけられた『沈黙の聖鉄』をもちあげて、ヘリのうえに重たい手を「よっこいしょ」っと乗せた。
手枷は明日朝には外れる。
この鉄はただの嫌がらせと、″彼ら″のせめてもの憂さ晴らしなのだ。
「それじゃ、ちょっとわたしは街を見てくるわね!」
外壁テラスの入り口で、オーウェンとデイジーが待っているのを見て、マリーは手を振って夜の街にくりだしていった。
俺は留守番だ。
手枷をつけたまま、通りを歩くわけにはいかないしな。
静かになった夜のテラスで、俺は街を眺める。
そうして、俺は昼間の出来事を回想していた。
⌛︎⌛︎⌛︎
ーー【豊穣の聖女】を返還した後
ウィンダが俺たちの無実を主張してくれたことで、俺たちを殺そうと憎んでいた、神殿騎士たちに剣をおろした。
野次馬の市民たちや、神官たちは、ジークを奇異の視線でながめていた。
″表″にもどった本人は、特に気にしてるふうではなかった。
ただ、ウィンダがジークの手に抱きついて「この方がウィンダをお救いなさってくれたのですよ!」と言うものだから、市民たちの視線はいつのまにか純粋なる称賛へ、ミラエノアスの神殿騎士たちの視線は、また殺意の色へと変わってしまっていたが。
拍手で俺たちが讃えられるはじっこで、気まずそうなミラエノアスの神殿の者たちは、すぐにウィンダと、倒れた神殿騎士たちを連れて下がろうとしていた。
俺は彼らへ、忠告をすることにした。
「高位神官殿」
「……なんだ、恩着せがましく褒美でも要求するのか?」
実はハゲていたことを部下たちの前で盛大にバラされてご立腹なのか、彼は俺を睨みつけてきた。
どちらかって言うと、賠償をして欲しいところだが、今は市民が見てるので、あまり強情な姿勢は見せないでおこう。
とりあえず、俺はヒゲの神官に感謝してもらう気はなく、またそのことへ俺が謝る気もなかったので無視することにした。
ただ、疑問を晴らしたかっただけだ。
「どうして、あれほどに大きな炎な球を出したんですか? あやうくウィンダ様にまで被害が及ぶところでしたが」
「……貴様らが大人しくが対話に応じていれば、ああはならずに済んだと言うのぉ〜。なんじゃ、ワシのせいだとでも言いたいのか? 元はと言えば勘違いさせた、貴様らのせいではないか」
意味のわからない言葉をならべるヒゲの高位神官。
このクソジジイ……。
ただ黙って『巨木葬』でも撃ち込んでやろうか?
「ルグニス様、マクスウェル様方を責めるのは間違っていると思います」
俺が怒りに指を鳴らしそうになると、ヒゲの高位神官ーールグニスのとなりに立つウィンダは、彼をいさめてくれた。
だが、ルグニスは本来うやまい、かしずくべき【豊穣の聖女】を見ると、眉をひそめ怪訝な顔で「……わかりました、聖女様」と言うだけだ。
なにか様子がおかしい。
ウィンダもそれを聞いて、こわばった表情のままこちらは向き直った。
彼女は俺たちへ顔を向けると、緊張した顔をほがらかにして微笑み、かるく手を振って別れをつげてきた。
「なんだか、おかしな感じなんだぞ。あの聖女様からは怖がってる感じがしたんだぞ」
ジークは言った。
彼の所感がいかほど的を射ているか、現時点では判断つかない。
だが、俺は彼の意見とおおむね一致していた。
「マックス、あのルグニスとか言う高位神官は危険だな。今すぐに追うべきだ」
オーウェンは蒼瞳をこちらへ向けて、顎をくいっと動かし言ってきた。
俺はオーウェンとジークをその場に置いて、胸騒ぎにしたがい神殿入り口へむかった。
何人かのアクアテリアス神殿騎士が「え? 通していいのかな?」という顔で俺を見てきていたが、初日の登録で俺が『聖女の騎士』だとわかっている彼らは、特別に声をかけて、俺の入殿を止めてくる事はなかった。
「あ、マックス!」
「マリー様、おはようございます」
マリーの声が聞こえるなり、ふりかえり、聖女の騎士モードで綺麗なお辞儀をした。
マリーは神殿外で騒ぎがあったことを聞きつけて、出てこようとしていたとのこと。
俺が今さっき起こった不毛な争いの事情を説明すると、マリーは【豊穣の聖女】らしき人物をさっき見かけたと言った。
「それにしても、マックス、中に入ってよかったの?」
「たぶん、罰を受ける……と思います。でも、あのルグニスとか言う神官のことが気になるんです」
俺がそう言うと、マリーはうなずいて普段あまり話さないが、場所は知ってるという彼女の部屋へ案内してくれた。
部屋の手前にくると、扉が開いてひとりと少女が出てきた。
緑色の髪。水色の瞳。
ウィンダではない。
ただ、彼女にそっくりであった。
少女は瞳に憂いをうかべていて、今にも泣きそうだった。
「あなた達は……?」
少女は俺たちに気がつくと、目をキリッと鋭いものにかえて、身構えた。
おそらく、ウィンダの世話係と思われる彼女は、先日、自らの主人が襲われたせいで、過敏になっているのだろうと予測できる。
そういえば、仲の良い神官が神殿からウィンダを出したとか言っていたが、この子の事なのかもしれない。
俺は彼女を心配させまいと、一歩下がりマリーに任せることにした。
しかし、その時だったーー部屋のなかから怒鳴り声が聞こえてきたのは。
「もう役にたたんくせに、ワシにデカイ面をするな! 貴様がこの『神聖祭』の場で死んでおけば、それだけで悲劇の都市として箔がつくと言うのに!」
「ごめんなさい……許してください……ッ」
怒鳴るのはルグニスの声だった。
か細い声で謝るのはウィンダの声であった。
部屋の外にいた俺とマリーは唖然として、何がどうなってるのかわからなかった。
少女は目元をふせて、唇を震わせる。
ーーベヂン!
「っ」
部屋の中から、またも音がした。
同時に少女は堪えきれなくなったように、口を開いた。
「お願いします、お姉ちゃんを、助けて……」
その一言で、俺はなにが起こっているのか理解した。
「マックス!」
「はい」
マリーの一言で、俺は部屋の扉を破った。
現在、他の都市の人間が、暗殺未遂された聖女の部屋へ無断で入室するなど、何があっても、決してしてはいけないことだ。
だが、そんな事、起こり得る最悪をまえにすれば、踏み越えられない規制線ではない。
部屋のなか、ベッドのうえで赤くなった頬をおさえ、涙を瞳にうかべるウィンダの姿があった。
そのうえに覆いかぶさるように、大きな体があった。
礼服を脱ぎかけたルグニスだ。
彼はこちらへ驚愕のまなざしを向ける。
「マクスウェル様……! そんな、だめです、ここに来ては、マクスウェル様の立場が…」
「き、貴様はさっきの! ええい、神殿に立ち入り、聖女の部屋に侵入をはかるとは! なんたる事か! 信じられん! 約定を違えるとるとは! やはり貴様は賊なんだな! はっはは、これはもう言い逃れのできない大罪だ!」
俺はべちゃくちゃ喋りながらも、冷や汗ダラダラのルグニスのもとへ歩いて行く。
俺は拳を固く握りしめた。
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