【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第67話 ドラゴンパンチ 前編
ーージーク視点
「おい、じいさん! 僕に神殿の場所を教えるんだ!」
晴天の空にもまけない、鮮やかな蒼を見に纏った高貴そうな青年がいる。
実際に高貴かはこの際、置いておいて、彼のことを知らないアクアテリアス市民は、キラキラ輝く氷のごとき髪と、どんな女性も虜にしてしまう美貌を持つその青年の事を、きっと勘違いしてしまうことだろう。
『神聖祭』のためにやってきた、どこかの権力者、あるいは高位聖職者の方だと。
もちろん正体は、低知能ドラゴンだ。
「神殿なら、この通りをまっすぐ行って『灯台』のなかに建てられていますよ。たぶん『灯台』の中には、神官様たちがいますので、どうぞ道をたずねてみてください」
ジークに道をたずねられた露店の店主は、心良く彼へ神殿の行き方をおしえた。
ジークは軽く手をあげ「道案内、大義である!」と最近覚えた″大義″という言葉を使って礼をした。
通りをいく女性たちの視線を集めながら、ずんずん進んでいくジーク。
「ん?」
ジークは何かを感じとった。
鼻をヒクヒク動かして、血の匂いを嗅ぎわける。
彼が興味をいだいて、路地裏にはいってみると、なにやら剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてきた。
何者かが、戦っているらしい。
ーーギィン!
「聖女様を連れてはやく『灯台』まで逃げろ! ここはオレが抑える!」
誰かが叫んだ。
「へへ、逃すかよ!」
「近寄るな! 薄汚い暗殺者どもめ!」
ジークは物陰からなにが起こっているのか観察する。
路地裏では、フルプレートの金属鎧を着た騎士と、短剣、長剣、あるいはかぎ爪にいたるまでアウトローな雰囲気をもつ男たちが戦っていた。
騎士のなかでも、ひとりだけヘルメットをかぶっていない屈強な青年が、剣を縦横無尽の見事な剣さばきでふりまわし、敵の3、4人を相手とっている。
青年の後方では、美しい女性を護衛して逃走する騎士の一団がいる。
どうにも、あの腕利きの青年が敵の足止めを買って出ているようだ。
ジークは奥に見える美しい女性が「もしや聖女なのでは?」とドラゴンの鋭い知覚で感じ取る。
ドラゴンは美しい物や、キラキラした物には鼻が効き、この本能的能力は人間にも問題なく発揮される。
こと宝と言って差し違えない聖女たちは、ドラゴンの鼻ならばすぐにわかるのだ。
「ぐっ! ロンギヌス! まずい、こっちも塞がれた!」
「なに! クソ、貴様らどこの都市の暗殺者だ! なぜ【豊穣の聖女】様を狙うんだ!」
「さてな。それを教えちゃ、こっちもプロ失格なわけだ。悪いが死んでもらうぞ、高貴なる『聖光の騎士』さんよ」
アウトローたちのリーダーはそう言った。
女性を守る騎士たちの、その前後を塞ぐように、敵が戦術的に展開している。
さらには、人数では圧倒的に騎士たちがふりだ。
「ぐああ!」
「気をつけろ! こいつら毒を使うぞ!」
「へへ、今更気がついても遅いっての」
「大人しく聖女を渡してもらおうか!」
男たちは投擲物による牽制と、素早いヒットアンドアウェイで、騎士たちが本領発揮できる剣術の戦いにはつき合わない。
自分たちの得意な領域で、毒のついた刃をふるい、一撃でも喰らえば命を奪われるプレッシャーを与えて、精神的にも騎士たちを追い込んでいるのだ。
ジークは心のなかで「余計な事をしない」とオーウェンに言いつけを与えられていた事が足枷となり、なかなか動けずにいた。
しかし、彼は決断する。
これは人助けであり、正義の行いだと自分を奮い立たせたのだ。
ジークは手のなかに、蒼い大杖を召喚し、物陰から飛びだした。
「フハハハっ、僕が助けてやろうか!」
「なんか変なのが来たぞ!」
「新しい聖女の護衛か? 面倒だな」
「お前らは、あのガキを相手してやれ!」
青年と戦っていたアウトローたちのうち、2人ほどがジークの対処にまわされる。
アウトローたちは毒がついた刃をちらつかせ、ジークの恐怖心を煽りながら、じわじわと詰めよった。
「ハッ!」
アウトローのひとりが短剣を投げた。
同時にもうひとりが、低姿勢で駆け込んできて剣をジークの足に当てにくる。
命を断つ攻撃ではない。
削るための攻撃だ。
ジークは息ぴったりのプロフェッショナルの連携に、ポカンっと突っ立って反応できない。
「もらった!」
毒のついた短剣がジークの肩に深々と刺さってしまった。
さらに、駆けこんで来たアウトローの、鋭利なひと刺しがジークの足をかすめた。
ニヤリと笑い、アウトローたちは自分たちの勝利を確信した。
彼らの使う毒は即効性かつ、強力なもの。
人間であれば、かすっただけで目まいを起こし、戦闘を継続できず、もろに刺されれば、確実に死んでしまうだろう。
「痛ったぁああ?!」
叫ぶジーク。
「……」
「……」
毒の効き目をまつ暗殺者たち。
ーー10秒経過
「めっちゃ痛いぞ、もう許さないぞ!」
怒るジーク。
「……え?」
「あれ? 毒塗り忘れた?」
不安になり始めた暗殺者たち。
ーー20秒経過
叫びだしたジークを、アウトローたちは怪訝な眼差しで見つめる。
攻撃の直撃から20秒経っても、目の前の青年はいっこうに「痛い」以外の反応を示さない。
それどころか、ジークは涙目で肩にささった短剣を抜いて、「えいっ!」とアウトローに投げ返した。
アウトローは素人丸出しの投げナイフを、鼻で笑い避けようとしたがーー、
ーードグシャアッ!
「…………は?」
2人並んで立っていたアウトローの片割れの、ひとりの肩が爆発して、血の雨をあたりに降らせる。
肩から先を投げナイフの運動エネルギーで、破壊されたアウトローは当たり前のように即死してしまった。
尋常ではないパワーで投げられたナイフは、人の反応速度を越えた速さで、アウトローを襲ったのだ。
仲間の血で汚れたアウトローは、倒れた仲間を見下ろし、ポカンとしている。なにが起こっているのか理解できていなさそうだ。
「もう許さないぞ、お前ぇええ!」
「ヒィ……っ?!」
ジークは血を浴びながら、走りだした。
アウトローは本能で気がつく。
目の前の存在が、暗殺者ごときには手に負えない遥かなるバケモノなのであると。
「……す、すみませーー」
「ドラゴンパンチ!」
「くぁあ?!」
ーーバゴォンッ!
ジークの雑な大振りが炸裂した。
腹を正面から打たれたアウトローは、まっすく吹っ飛んでいき、仲間の2、3人を巻き込んで、地面に転がって白目をむく。
空気の爆発に、路地裏にいた騎士も暗殺者たちも全員が、その発生地へふりかえった。
そこにたつ血を浴びた蒼い青年は、人間の姿をしながら、ドラゴンの力を持つ人外だ。
そんな彼の瞳は、キリッとした目で暗殺者たちを睨みつけていた。
どうやら、キレてしまったらしい。
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