【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第63話 アインの手紙
これはアインからの手紙だ。
今となっては、手紙を届けてくれたあの人物が、秩序が薄くなったジークタリアスで、すっかり有名となった噂の人物……悪いことをした罪人を必ず制裁するという、都市伝説の噂人『正義の死神』だったとわかるのだが、当時はそんなこともわかるわけもない。
ただ一言、アインからの遺言「すまなかった、と、ありがとう、らしい」という言葉を受け取り、彼は姿を消してしまった。
俺は手紙を開いて、もう何度目になるかわからない、再読をしはじめる。
これは焼け焦げた東の丘のふもとで、彼が発見され、そしてオーメンヴァイムへ移送されるまでの、わずかな時間のあいだに、檻のなかで書き記した手紙だ。
書かれているのは、俺がアインとの決闘を制した後、確かに『沈黙の聖鉄』をはめられたはずの彼が、どうやって神殿地下を抜けだしたのか。東の丘でなにがあったのか。あの集団パニック事件を誰が手引きしていたのか、そして、その者の正体が何なのか。
アインは両手が拘束された状態と、残されたわずかな時間のなかで、必死に文字をつづったのがうかがえる汚い文字で、彼の知る限りの事態を教えてくれていた。
手紙によれば、集団パニック事件を手引きした者の正体は『左巻きの魔女』と呼ばれる、おさない少女の姿をした″バケモノ″だ。
その姿にまでは言及されてはいない。
ただ、彼女の手下には、俺でも確実な勝利が収められないと、アインが感じるほどの怪物たちがいるらしいと書かれていた。
アインはその『左巻きの魔女』から、彼女の研究している成果物のチカラを受けて、命と引き換えに俺を殺すための悪魔の契約を結んだらしい。
文の最後のほうには、この『左巻きの魔女』が崖下の世界にて、なにか人間にとってよくない研究をしていることが漠然とかかれており、そして、文は途中で切れている。
どうやら、ここで時間切れとなったようだった。
しかし、最後に本文とは空欄をはさんで短い文が書き加えられていた。
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全てをつづるには時間がなさすぎる
ただ、マックス、すまなかった、
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途切れた文章は、アインがこの手紙に本当に書きたかった事が、自身の行いへの後悔と謝罪だったのだと、俺に教えくれることとなった。
彼は残された時間を、自身のわずかばかりの名誉回復ではなく、自分がいなくなった後の世界のため、崖下の世界に潜む脅威について書きつづったのだろう。
彼は褒められる人間ではない。
犯した過ちが消えることはなく、私欲のために、俺や皆を裏切った罪は極めて大きい。
【英雄】を剥奪された、この街の恥として、死んで清々したとさげすまれるだろう。
俺だって、未だにアインが嫌いなままだ。
ただ最後の刻、彼は″英雄″だった。
これは確かな事だ。
「ご主人、なに見てるんだー?」
「いや、なんでもない。さあ、みんな来そうだ。紅茶を淹れてあげたら喜ぶぞ」
俺は手紙をしまい、外から聞こえる足音を親指で指し示し、ジークを給仕につかせる。
この手紙に書かれている事を知っているのは俺とマリー、神官の数名と、高位神官や神官長などの役職者たちだけだ。
神殿からこの事は他言しないように口止めされている事を考えれば、おそらく彼らは、アインの手紙に″深い意味″を感じ取っている。
現に1ヶ月ほど前に『聖歌隊』と思わしき人物が、神殿にやってきたとマリーは言っていた。
普通、それほどの最高位聖職者がやってくれば、騒ぎになるのが常なのだが、そうはならなかった。
つまり、お忍びというやつだ。
『聖歌隊』が何をしに来たのかはわからない。
そもそも彼らが来ることは、ある種、象徴としての権力者である聖女や、その護衛ごときには教えられていないのだ。
きっと、『左巻きの魔女』に関しては神殿勢力が独自で対応しようとしているのだろう。
神殿がそう判断したのならば、ひとりのソフレト国民として、俺はその意向に従うだけだ。
⌛︎⌛︎⌛︎
その日のお昼。
「さっ、マックス、一緒に師匠のもとへいくわよ!」
みんなが昼食に出かけた『蒼竜慈善団』の事務所のなか、マリーは書類を放りだして、百合の剣をもつと元気よく言った。
「やっぱり、マリーも来るの?」
「む、なにその不満そうな顔。行くに決まってるでしょ! マックスは目を離すとすぐに勝手に努力しはじめるんだから。もう、たまったもんじゃないわ! ただでさえ、勝手に崖下に行って、勝手に強くなって、勝手に『限定法』とかいう凄い技身につけて帰って来たんだから、これ以上強くなるのを本当は禁止したいくらいなんだからね!」
マリーは早口にまくしたて、壁際に追い込んでくる。
そんな出し抜こうと思って、勝手にやったわけじゃないのだが……。
ただ、アルス村で剣術を鍛えていた時は、たしかにライバルみたいな関係ではあった。
マリーのほうが才能ありすぎて、だんだんとライバル感はなくなってしまったけれど……また、マリーが俺のことをライバル視してくれるのは嬉しいことだ。
しかも、今回はあくまで俺のほうが総合的な強さで上回っているというのも、なかなか気分がいい。
「さあ、勝手に道場に行かず、わたしの後ろをついてくるのよ」
「はーい、了解でーす、聖女様」
「ふふ、うむ、よろしい!」
⌛︎⌛︎⌛︎
その日の道場での鍛錬の休憩中。
師匠が気まぐれでだしてくれた、師匠の家庭園芸の成果であるスイカをつまみながら、俺とマリーは縁側で涼しい風をあびていた。
まっしろな雲が泳ぐ蒼穹の空で、太陽は燦々と輝き、うだる暑さをあたえてくる。
「夏じゃな」
ハサミで庭の手入れをする師匠は険しい顔しながら、ふと、つぶやいた。
「ですねー」
マリーは冷えた霊薬瓶を胴着の隙間から、胸元にあてて、ふにゃっとしながら答える。
俺は視線が引っ張られそうになるのを抑えながら、師匠の声に相槌を打つ。
「ときに小僧、『神聖祭』とはなんだ」
「……え?」
「あ」
師匠の唐突な質問かつ、予想外の質問に思わず黙る。
「どうした、早く答えないか、ぶち殺すぞ」
「ぁ、すみません……師匠も、そういうの興味あるんだなーって思いまして……」
俺は視線を泳がせながら、フォローをいれる。
「なんじゃ、何がおかしい」
師匠はハサミを動かす手をとめて、聞いてくる。
マリーは答える。
「『神聖祭』は国中から聖女や、参加が要請された特級クラスの女の子ーーつまり、巫女たちが出るお祭りなんですよ……」
「そうか。そういう側面もあるんじゃな」
師匠は淡々と答えて、ふたたびハサミを動かしはじめた。
俺はなんとなく気まずくなって、スイカをひと口食べる。
どうしてこっちがこんな変な空気にならないといけないのか。
ああ、にしてもそうだ。
「もう近いんだよなぁ……『神聖祭』」
「そうだね、マックス……」
俺は不安だった。
なにせ10年に一度開かれる祝祭には国中から尊き方々が来られるのだ。
そんな中に、尊さの塊であるマリーはともかく、俺のような男が聖女の護衛者として参列してもよいものか、と。
『神聖祭』は10日後。
『聖都』アクアテリアスで行われる。
ほかの『聖女の騎士』たちに舐められないよう、なによりマリーの品格に傷をつけないよう俺がしっかりしなければならない。
「マリー、乱取りしよ」
「ん、いいわよ!」
スイカをかじっていたマリーは、むしゃむしゃと早食いして木刀を手に立ちあがった。
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