【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第57話 古い記憶
「マリーが攫われた?!」
神殿に戻った俺は泣きじゃくるデイジーに、なにがあったのかを聞いた。
「すまん、マックス、その時はちょうど俺も鍛錬しに事務所を空けていた」
「うっ、いや、俺も鍛錬しにだし、オーウェンを責めはしないけどさ……あのクソ野郎、まだ諦めてなかったのかよ、ていうか、あんな状態で家を出られたのか?」
「いいや、少なくとも今朝会いに行った限りでは、状態は悪化していただけだ。まともに歩く体力すらないと思ったんだがな……」
オーウェンと俺のもとへ、険しい顔の神官たちが詰め寄ってくる。
「マックス、これはあの【剥奪者】に執行猶予を与えた君の責任だ。早急に聖女様をあの罪人の手より無事奪還するんだ!」
「『聖女の騎士』としてこれ以上の醜態をさらすな。わかったな?」
神官たちは、眉をひくつかせて、指を俺に突きつけてくる。
俺は歯を食いしばり「……わかってます」と一言だけ返した。
このまま怒りを飲み込もうとも思った。
ただ、俺もむしゃくしゃしていた。
固まってイライラをぶつけてくる神官たちの目をまっすぐに見つめる。
「……あんたらは、何やってたんだよ?」
「なに? その反抗的な目はなんだ、マクスウェル・ダークエコー!」
「貴様、聖女様の腰巾着のぶんざいで、我々、女神につかえる神官に意見するというのか!」
詰めよってくる神官たち。
「俺だって人間だ。手の届く範囲しか守れない。あんたたちは神殿にいたんだろ? なら、よほど俺よりも手が届いたはずだ。なんで守ってくれなかったんだ……聖女様のことを」
「っ、貴様、反省の色はないのか?! あの【剥奪者】は悔しいが、なみの罪人ではない。仮にも元英雄だ。常人では敵わないのが道理だろう!」
自分たちの無力さに歯を食いしばる神官たち。
こんな言い合い、建設的じゃないな……。
彼らの言っている事は正しい。
マリーを攫われたことへのストレスを、俺も彼らと同じように八つ当たりしてしまった。
「すみません……」
俺は落ち着いて、一言謝る。
「……ふん、別に構わんさ。私たちもすまなかったな。とにかく、今は一刻もはやく【剥奪者】の居場所を突きとめ、聖女様を救うことが肝要だ! 街中へ神殿騎士を派遣、都市政府に衛士たちを動かさせるんだ!」
神官の声がけにより、神殿と都市政府による大規模なアイン捜索がはじまった。
俺とオーウェンもまた捜索に派遣され、ミスター・クソ野郎との戦闘が予想されることを念頭に、事にあたるよう指示を受ける。
「マックス先輩、オーウェン様、すこし、いいですか。ジーク後輩のことでお話が」
捜索に出ようとする俺とオーウェンを引きとめ、デイジーが鎮痛な面持ちで言ってきた。
俺たちは彼女のあとについて、神殿の裏手へとまわった。
⌛︎⌛︎⌛︎
「ぐぅう! はぁ、はぁ、この痛みは……なんだ……、喉が乾く、腹が減った……!」
水の滴り落ちる音と、苦痛にあえぐ男の声に、マリーは目を覚ました。
自分が寝かされていることを、判然としない頭で認識して、起き上がろうとする。
ーージャラ
「これは……」
マリーは手首にはめられた手枷を持ち上げて見る。
「ぐっ、はぁ……マリー起きたか……はぁ、はぁ、それは『沈黙の聖鉄』だ。いまのマリーにそれを破壊する力はないだろうよ」
「ッ、アイン! なんのつもり、こんな事したら、本当に神殿に殺されるのがわからないの?!」
マリーは目をキリッと鋭くして、囚われながらも、必死に手枷を壁に叩きつけて、拘束から逃れようとする。
だが『沈黙の聖鉄』により、スキルとレベルを奪われた今の彼女は、よく鍛えられた肉体はしていても、通常の人間と同じ身体能力。
金属を引きちぎったり、叩き壊したりすることなど到底かなわない。
マリーは一通りの脱出を試みて、そのすべてが徒労に終わると、疲れたように、ふたたび寝かされていたベッドに腰掛けた。
冷めた頭であたりを見渡してみる。
湿った地下室。
点滅しながら照らす魔力灯。
その奥に、史上最低の友人の姿を発見することができた。
「ぇ……」
マリーはふつふつと滾る怒りをぶつけようとしたが、それよりも、彼のその異様な見た目に思わず息を呑んだ。
先ほどまでまとっていた強靭なオーラはなりを潜め、そこにいるのは今にも死にそうな骨と皮の、年老いた老人だったのだ。
乾いた泥のように、肌はひび割れ、咳き込むたびに砂が剥がれ落ちる。
しかし、輝きをもつ翠瞳だけは死なず。
何か強烈な執念だけが、彼の命を繋ぎ止めているのだと、多くの命を看取ってきたマリーにはわかった。
「げほ、がはっ……ぁぁ、マリー、すこし、話をしないか……」
「……その体、どうしたの?」
「あはは、これか……? どうやら、俺もハメられた、みたいなんだぜ、へへ、がほっ! ぁぁ……マックスを殺すための力だなんて言ってたが、何のことはない、これは悪魔の力だ。知らないうちに、俺はとんでもない代償を払わされてたらしい……ぐふっぅ、ぅ」
(マックスを殺すため、って……)
「アイン、ふざけるのも大概にして。これ以上何かする気ならわたしがあんたを殺しーー」
「マリー、かりにも聖女なら言葉は選べや……なぁ?」
(この男……本気でぶっ殺したくなってきた……)
「俺さ、最近、よく昔のことを思いだすようになって来てたんだ。部屋の隅でこうやって膝を抱えてるとさ、夢のなかで″黒い獣″が追いかけてくるんだ……」
「……? 何のことを話してるの……?」
「真っ白い、どこまでも続く廊下……逃げて、隠れて、仲間を犠牲にして……俺は″英雄″になったんだ……最後に笑うんだよ、顔も覚えてないアイツが、君は僕たちの英雄だって……俺は、俺は英雄に憧れて、そしてなったんだ……」
アインは遠い目でひび割れた自身の手を見下ろす。
「さっき子どもにあった……良いドラゴンがいてもいいだろうってーー存外に、納得しちまった……」
マリーは目を揺らし、呼吸が細くなっていくアインに焦燥感を感じていた。
彼は自分自身で、何か新しい事実に気づきかけてるのだろうか……。
そんな、前向きなマリーの優しさは、彼女に悪漢の命をおしませる。
「アイン……私の〔錬成霊薬〕なら、その傷を治せるかもしれないわ。もし罪をつぐなう気があるならーー」
「マリー」
聖女の言葉をさえぎり、アインはゆっくりと腰をあげた。
「俺は、マックスを殺す、あいつが答えを持ってるんだ。俺は、俺の生きてきた正義が正しいのか、見つけないといけない……この世界で、この世界で生かしてくれた、仲間たちのためにもな……」
「仲間たち……?」
アインは翠の魔力粒子を手元に凝縮し、魔杖を召喚する。
そして、勢いよく天へと突きあげた。
ーーゴロォンッ
「きゃあ!」
雷が天井を突き破ってアインに避雷し、そのボロボロの体を焼きつくす。
しかし、アインは倒れない。
それどころか、若返り、オーラを増していくようだった。
「はぁ、はぁ、まだ耐えれるな」
「っ!」
緑雷を見にまとい、さっきとは見違えるほど覇気を取りもどし、健康な肌色に変貌をとげたアインへ、マリーは異常性を感じずにいられない。
彼はマリーをつなぐくさり手刀で断ち切り、片手に抱くと、赤く火照り雨がはいってくる天井の穴から勢いよく飛び出した。
⌛︎⌛︎⌛︎
ーーマックス視点
デイジーに連れてこられた神殿の裏手。
神官が管理する墓地となっている、その敷地の一角、俺たちの目の前にあるのは掘り返され、埋められた土盛り。
なにが埋まってるのか、察してしまう、不吉な土盛りだった。
「これは……?」
嫌な予感を持たずにはいられないが、俺は勇気を持って聞いてみた。
「ドラゴンの墓、です……ジーク後輩は、アイン様からマリー様と私を守るために戦って……」
「っ、嘘、だろ……」
足元がぐらつき、思わず膝をついて、雨に濡れてぐちゃぐちゃになった泥に手をあてる。
お前、そこにいるのか?
なんて、どうしてこんな事に……。
あのアホみたいな笑い声はもう聞けない。
過酷な労働をさせられた、尻尾を引っ張られて弄ばれただなんて愚痴だって、もうこぼすこともない。
お前、自分の罪を精算するって、言ってたじゃねぇかよ。
無意識に泥をかき分けようとしていた手が、背後から伸びる厚い手のひらに止められる。
「マックス、ジークの事はとても残念だが、今はアインを止める必要がある」
「オーウェン……」
雨に打たれながら瞬きひとつしない蒼瞳が、自分が今何をすべきなのかを強制的に考えさせてくる。
「アインを、探そう」
なんとか言葉をつむぎ、ジークに背を向けて歩きだす。
かつての友人に対する慈悲はない。
見続けた背中、あこがれへの同情もない。
天を覆う暗い雲すら払う、まっくろな憤怒が俺のなかで燻りはじめていた。
お前はもう……だめだ。
「っ、ここにいたか! 『蒼竜慈善団』!」
焦りの表情で走ってくる神官。
何か厄介なことが起こったようだ。
「俺たちは今からマリーを探しにいくところだが……何かあったんだな」
「そうさ、厄介なことになった。どういうわけか、街中の市民が、聖女様を捜索する神殿騎士団を襲いはじめたんだ! それもひとりひとりが強力すぎる! 今、神威の騎士たちや、冒険者たちにも応援を要請してるが、なにぶんギルドが開いてないから居場所を探すに手間取ってるんだ! 今すぐお前たちの力が必要だ!」
市民が暴徒になった?
このタイミングで?
いったい何が起こってるんだ……。
「どういうことですか? なんで市民たちが邪魔をするんでしょうか」
デイジーは、首をかしげて問う。
「わからない、とにかく急いで街へ出てくれ!」
神官は切羽詰まったように言って、俺の手をひいてくる。
俺とオーウェン、そしてデイジーうなづきあい雨のふる墓地を駆けだした。
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