【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第54話 稽古と邂逅
「痛ェェェ……っ!」
俺はタタラをふんで後退する。
木刀の鈍い先端に肩の肉をえぐりとられた。
「あの小娘なら、腕を斬り飛ばしても、何とかなるんじゃろう? ちょっと斬られた程度で大袈裟じゃな、小僧。ぶち殺すぞ」
師匠は傷ひとつない木刀の先端を布でぬぐい「儂は5時には起きてるから、今日から勝手に来て勝手に帰れい」と言って道場を出ていってしまった。
今日の稽古は、ここまでという事らしい。
「嘘だろ……俺、一応『測定不能』なんだけどな……」
正直、もうあんなじいさんの師匠くらい簡単に超えちゃうかもな! とか思ってた。
剣術じゃ、敵わないにしてもレベル差で何とかこうにか……いや、何とかなってないって事は、師匠ってめちゃくちゃ強いって事だよな。
スキルを使わなかったにしろ、まだまだ上には上がいるという事か。
俺はこれから獲得できるさらなる強さにほくそ笑み、肩の痛みに耐えながら、道場から逃げるようにかえった。
ーーこの日より、俺の拙い剣術を鍛え直す日々がはじまった。
⌛︎⌛︎⌛︎
新暦3056 4月末
修行再開から2週間ほど。
「そろそろ時期じゃな。これより銀狼流のもっとも基礎的な技にして、墓場までもちこめる万能の技『即撃』を教える」
道場に戻り、銀狼流の剣術等級がぐんぐん伸びてきた頃。
俺は以前では考えられなかっ『技』を、ついに師匠から教えてもらえる事になった。
これもいつのまにか爆あがりしていたレベルのおかげだ。
剣術等級にはそもそも、獲得するために必要とされふ最低レベルがある。
高レベルであるほど、必然的に高い技能を、高い身体能力で身につけやすいため、獲得できる剣術等級も高い位のものとなる傾向がある。
各剣術等級の獲得に必要な最低レベルは下記のように言われている。
上段の竜 ?
下段の竜 ?
ーーーーー
上段のポルタ ?
下段のポルタ ?
ーーーーー
上段の鬼 レベル100〜
下段の鬼 レベル80〜
ーーーーー
上段の熊 レベル60〜
下段の熊 レベル45〜
ーーーーー
上段の猫 レベル30〜
下段の猫 レベル15〜
剣術等級獲得の最低レベルをクリアしていても、才能がない奴は永遠に『猫』だろうし、血を飲むような努力をするなり、類い稀なセンスがあれば、逆にレベルが足りなくても高い剣術等級を獲得するに至ることはあるだろう。
これは、あくまで基準である。
ちなみに俺は12レベルでも確かに剣術等級を持っていたので、一般常識からすれば″奇跡″のような存在だった。
これは自慢だ。
「小僧、殺す気て打ってこい」
師匠は遊びなく、そう言った。
冷たい道場のなか、真剣を手にして、どうすれば、目前のじじいを殺れるか考える。
レベル差を活かし、さらに真剣と木刀という武器の差もいかすにはーーやはり上段からのパワーに任せた斬りか。
これで木刀こと叩っ斬る。
「はぁあ!」
雄叫びで気合いをいれ、刃を振り下ろす。
「悪くない選択じゃな。だがーー」
師匠のちいさな賞賛。
彼の手にかるく持たれた木刀に、俺の真剣な刃が触れた瞬間。
気がつくと。
俺の体は宙を舞っていた。
「ぐへっ!」
胸に鋭く、かつ鈍い痛みがはしる。
道場の壁に叩きつけられながら、すぐに起き上がる。
胸元を見下ろすと俺の道着が真っ赤にぬれて、胸に肉のえぐれた傷が出来ていた。
それを知ると、今度は激痛が襲ってくる。
「ぐぅ、痛ッ?!」
もはやスキルによる攻撃を疑うほどの、神がかった剣術。
俺は背中をザワザワさせる苦しみに、悶えながら指を鳴らして緑の果実を取りだして胸の傷にかけた。
ーージュウワワ
「ぐっ……! 師匠、今のが、『即撃』ですか?」
「そうじゃな。小僧はそのスキルであらゆる外敵を仕留められるじゃろうが、″通用しない敵が出てくるかもわからない″。五体に技を覚えさせておいて損はないじゃろう」
「そう、ですね。でも、正直、ドラゴン一発で倒せるんで……『即撃』の出番はないかも、です。というか師匠、どうやって木刀で俺にダメージを? ドラゴンに殴られても、耐えられるくらいレベル高いんですけど、俺」
かねてより気になっていた質問をする。
「剣術を高めれば、レベル差など簡単にくつがえせるという事じゃ」
「……ちなみに、師匠は何レベルなんですか?」
「儂のレベル? そんなもの……まあ、儂に剣を抜かせて生きてたら、いつか教えてやらんこともないぞ」
師匠は木刀についた血をぬぐうべく、縁側へ移動、雨戸をあけて、乾いた布を降り注ぐ雨で濡らしてふきはじめた。
師匠に剣を抜かせたら。
真剣って事だよな?
スキルを使えば、なんとかなる気がするが……。
「人生は何が起こるか、わからない」
師匠は厳格な声音でいった。
なにかに、お怒りになられてるようだ。
「小僧、お前の知る世界はひどく小さくて歪じゃ。儂からしたら、奇妙で仕方がないその常識はいつか小僧の味方ではなくなるやもしれん。だから、五体に技に染み込ませろ。それが出来ないなら、もう出ていけ。二度とここへもどって来るな」
「……すみません」
この人は俺の心が読めるのか、と幾度も考えてきたが、確信した。絶対この人、心読めるわ。
「格好良く戦うために、足運びだけそれっぽく仕上げたい。浅い、狭い、小さい。嘆かわしいことじゃな」
師匠はそう言うと俺の血で染まった手拭いを、道場の端っこへ投げ捨てて、再び木刀を構えた。
胸の傷がある程度癒えた頃。
俺は真剣を片手に、再度師匠を殺しにかかった。
⌛︎⌛︎⌛︎
暗い部屋のなか、部屋の隅で膝をかかえる男がいる。
あたりには散らかったまま片付けられてない食器が、床のうえに散乱し、羽虫の音が鳴り止まずにあった。
そんな部屋のなか。
ひとりの少女の姿があった。
少女は無邪気に笑い、部屋の隅に痩せ細った男ーーかつての英雄アイン・ブリーチに話しかける。
「こんにちは、あなたがアインなのねぇ! うんうん、興味深いわぁ。あなたは、こんな暗い場所で何しているのぉ?」
少女の問いかけにアインは答えない。
声が届いているかも怪しい反応に、少女は不満そうに頬を膨らませ、手を2回叩いた。
彼女の影が流動するように蠢き、実体となって暗い部屋に形をもつ。
それはどんどん大きくなっていき、簡単に天井に届くと、前足をついて少女の背後に現界した。
″黒い獣″であった。
不思議な空気にさそわれて、アインは顔をあげ、うつろの眼差しで″黒い獣″を見る。
「ッ! ぁ、ぁ、ああぁあああ!」
アインは目の前に現れた巨大なバケモノに、本能的恐怖を覚えたのか、尋常ではない怯え方をしはじめた。
「ようやく気づいてくれたのね!」
楽しげに言う少女。
「嫌だ、嫌だぁあ! ぁぁぁあァァァァァ!?」
少女の声を無視し、奇声を上げはじめたアイン。
その反応に、少女は冷ややかな眼差しを向けると「静かにして」と低い声でつげた。
すると、少女の背後の黒い獣は、床を這って、逃げだそうとするアインの服を摘んで、いともたやすく放り投げてしまった。
壁に強烈に背中を打ちつけ、棚を倒しながら、地面に転がる。
アインは痛みにうめき、骨と皮だけになった弱い体を抱いて、口をパクパクさせる。
明暗を繰り返す視界。
アインは心の奥底から蘇ってくる幼少期の恐さを思い出していた。
強い者には敵わない。
ゆえに逃げるしかない。
「アイン、やっと静かになったわね!」
「ぅ、だ、誰だ、お前は……?」
「私? 私ったら、えーと、なんて言うのかしらねぇ! まあ、いいわぁ、私のことは気にしない! 私はアインのことが聞きたいなぁ。どうしてこんな暗いお部屋にいるの?」
「……俺は、英雄だったんだ、英雄だったんだよ、つい最近まで……」
アインは少女の背後の危険な獣を意識しながら、口を必死に動かす。
「あら? それじゃあ、もう英雄じゃないの? どうして英雄のじゃないのぉ?」
少女はたずねる。
「…………ッ、全部、全部、あいつのせい、だ、あいつのせいなんだ……! マックス、マックス! お前がいなければ、よかったんだ!」
「わぁ! これは奇遇ねぇ、実はね、私もマックスの事が大嫌いなのぉ」
少女は喜色満面の笑みでアインの感情に暗く澱んだ共感をしめした。
そして「どこだったかなぁ」と言いながら、ポーチをまさぐり、薄汚れたガラス瓶を取り出した。
その汚れたガラス瓶の中には″緑色の液体″が入っている。
「アイン、私たちは仲間よ。同盟を組みましょ? マックス死んでほしい同盟。だから、特別にいいものを貸してあげる。これは″チカラ″だから、ね」
少女は不敵に微笑んだ。
「な、なんだ、それ、やめろ、やめろ……やめろぉぉおオオ!?」
アインを無視して、少女はガラス瓶の蓋に大きな注射器を刺し、中の液体を大量に摂ると、それを雑にアインの胸に突き刺した。
深々と刺さる太い針に、アインは悶えて、叫ぶ。
数秒の後、アインは気を失った。
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