【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第45話 霧街の孤影 後編
自身の闇を言及されるオーウェンは、黙ってそれを聞きいる。
何も感じてないような、起伏のない表情を見て、ドゥアはニタリと微笑んだ。
(クールぶってるが、確実に効いてるぞ、ふふ。仲間を殺し、街を騙して英雄を気取りだなんて、こいつの本性は獣のように醜いクズだ。剣の腕は確かだが、それも私には敵わないーーこいつは問題なく殺せる)
「どうした? その魔剣で斬りかかってこないのかな? では、こちらからいくぞ?」
オーウェンは冷めた表情で刀の先をふって、言外に「はやくこい」と伝える。
「チッ、生意気な若造が!」
ドゥアは床を踏みくだき、初撃とは比べ物にならない速さでオーウェンとの間合いを殺した。
目を見張る『剣豪』。
ドゥアはオーウェンの刀の間合いギリギリでブレーキを掛けると、左手にもった剣を滑らせるようにふる。
その瞬間、ドゥアの腕が″ブレる″ような幻覚をまとい、残像を作りだした。
オーウェンはその斬撃に見覚えがあり、同時に現状では防御困難ゆえに、後ろへと大きくバックステップして″音を捨てた剣先″を二撃避けきる。
「ほう、『二重奏』を凌ぐか。流石、ではこっちはどうだ?」
逃げるオーウェンにすかさず追いすがるドゥア。
今度は目にも止まらぬ剣先で、首筋、右脇腹、左脇腹の3箇所同時に斬りこんでくる。
オーウェンは太ももを、鮮やかに斬られながらも、またしても凌ぎきった。
「血鬼流を極めた者は、その速すぎる剣筋ゆえに、同時に複数箇所を斬り落とせるというが……ふむ」
感心したように、つぶやくオーウェン。
「ほほぅ、やるじゃないか」『三重奏』をかわしたやつは久しぶりだ。そうだ、このドゥアは血鬼流の伝説を体現した男だ。元神殿騎士も捨てたものじゃないだろう?」
ドゥアは楽しげに笑い、ふたたび足軽にオーウェンへ接近。
同時に襲いくる苛烈な刃に、オーウェンの体の傷は増すばかりだ。
「どうした、どうした! このまま出血で倒れられたんじゃ面白くないぞ! 久々に骨のあるやつに会えたんだ、この私を楽しませてくれよ!」
高笑いして、腕をしならせ、剣を走らせるドゥア。
またしてもあの不可避の『三重奏』がせまる。
「……伝説はーー」
オーウェンは口を開きかけーーーーふと、剣を鞘に納めてしまった。
瞬間。
笑顔を詰まらせたドゥアの剣が、残像を霧散させ、オーウェンの首筋に優しくふれて、止まった。
オーウェンは冷たい刃の感触を気にせず、言葉をつづける。
「伝説では血鬼流の奥義『血尸斬り』は四十四の刃を重ねて放ったという」
「ぁ、ぁぉ……ッ」
ボソリとつぶやくオーウェンは、首筋に突きつけられた刃をを指でどかし、呑気に歩いて扉へと向かう。
驚愕に目を見開くドゥア。
その腕が、ずシャリと重たい音をたて、血の糸を引きながら肩から流れ落ちた。
それだけではない。
ドゥアのもう片方の腕、右くるぶし、右膝、左膝、左脇腹から右肩にかけて、そして左の首筋もーー。
すべてから同時に血を吹き出して、ドゥアが声にもならない苦痛を奇音にしてはき、絶命していく。
「お゛ぅ、えん、貴様、は……一体……ッ!?」
「ただの罪人だ。正義のため、不確かな行き止まりを越えるため……そうのたまって、長年の友にすら手にかけたクズの仲間だ」
オーウェンはそう言い残して部屋を出ていった。
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