【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜

ノベルバユーザー542862

第43話 霧街の孤影 前編


「オーウェン、それで桜泥棒はどこへいったんだ?」
「ボトム街だ。おそらく犯罪組織が関わってるんだろう」

オーウェンは左手の鞘に納まった刀の柄で、崖の方を指し示した。

ボトム街の犯罪組織、冒険者ギルドや都市政府すら手を焼く危険で狡猾な連中たちだ。

「剣豪! 悪党たちは、どうしてただの木なんか盗むんだ?」

「覚えておけ、ドラゴン。あれはこの国には生えていないとても貴重な木だ。国内にはおそらくあの一本しかない。ゆえに盗むだけの価値があり、欲しがる輩も同様にいる、ということだ」

「フハハっ、木なんか欲しがるなんて、おかしい人間だ! 森にたくさんあるのにな!」

「…………おい、マックス、こんなドラゴンをペットにして良いのか?」

「ジークは人間形態だと残念な感じなんだよ。あんまり触れてやらないでくれ」

「そうか……。お前、ジークって言うんだな。俺も名前で呼んでいいか?」

「剣豪ならば良い、許してやろう!」

オーウェンとジークはさりげない握手をかわす。

「ん、ところで、ボトム街に降りるのに、なんで『大螺旋階段』から遠のいてるんだよ。下に降りるにはアレしかないのに」

「奴らがこっちの方に歩いていったのが視えたから、としか言いようがないな。……よし、ここらへんまでだ。おい、ジーク、あの場に残っていた匂いをここから追えるか?」

「フハハっ、僕はドラゴンだぞ、不可能はない!」

ドラゴンというか犬としての役割を期待されているわけだが、ここは言わぬが花か。

ジークは鼻をひくつかせながら「むぅ、こっち、いや、こっち……やっぱりこっちかなぁ」と優柔不断な案内で、俺たちを民家へと導いていく。

誰もいない家のなかを、注意深く探してみるが、何か特別なものは見当たらなかった。

「犯罪組織の住処すみかなのか? しばらく使われてない様子だけど……ボトム街に行ったんじゃなかったのかよ」
「……結果は間違いない。桜を盗んだ男は、すぐにボトム街降りる。これは確かだ」
「……?」

オーウェンの奇妙な物言いに、俺は首をかしげた。

ふと、鼻をクンクンさせていたジークは壁際の棚に顔を近づけて「この裏に空洞があるぞ!」と声をあげた。

言われてみるがままに、棚をどかしてみるとその先は、階段となっており、くるくると螺旋を描いているようで、どこまで続いているのかはわからなかった。

そこでは、巨大な穴を前にしたような、気流のかなでる自然な音色が、不気味に湧き上がってくるばかりだった。

「そういうことか」

オーウェンは納得いったようにうなづいた。

「この階段……ただの地下室への階段というわけじゃ無いだろう。空気のなかに、ほのかだが″霧″の香りがまじっている。おそらくは、ボトム街へ降りるための直下螺旋階段」

「っ、てことは、ボトム街の犯罪組織は大螺旋階段以外の、崖上と崖下を繋ぐ通路をもっているってことか? これは……ひとつだけじゃ、無いんだろうな」

「そうだろうな、マックス。だが、今は不正ルートを潰すことが目的じゃない。ジーク、桜泥棒はこの先でいいんだな?」

「フハハっ、ドラゴンは間違いないっ!」

らしいので、俺とオーウェンはジークを信じて降りてみることにした。

螺旋階段は異様なほど長かった。

階段の幅1メートルそこいらの狭い通路が、無限にとぐろを巻いて、断崖のなかに仕込まれていると考えると、モグラや蟻の巣にでも迷いこんだ気分になった。

しかして、終わりはくるものだ。

気がついた時には、足元がうっすらもやがかかるくらいの、深いきりのなかに俺たちはいた。
その事実に、俺は螺旋階段が本当に崖下の世界に繋がっていたのだと実感した。

螺旋階段の終わりは、無人の倉庫となっており、そこには大量の木箱が山のように積みあげられている。

「犯罪組織のアジト、か?」
「どうだかな。外に人の気配があるが」

俺とオーウェンは顔を見合わせ、ジークへ視線をなげる。

すると、ジークは「あいわかった!」ばかりに、再び鼻をヒクヒクさせて、道案内しはじめた。

「ん」

無人倉庫から一歩外にでると、さっそく人と遭遇。
酒に酔っているらしく、頬は赤らんであり、不衛生そうな汚れた服に、血がわずかに付着している。

暴力を生業とする臭いが、プンプンしてきた。

「ひっく、うぇえ〜! おつかれさ〜ん! 本当にめでたいよなぁ〜、ボトム街でも噂の″桜″がおがめるなんてよぉ〜、ひっく、うぇえ!」

酔っ払いは片手に持った酒瓶をふりまわして、千鳥足でどこかへと行ってしまった。

オーウェンとうなづきあい、ジークに先を急がせる。

もはや、ここに桜が持ち込まれたことは疑いようがない。

あれは、国内にたったひとつしかない桜の木。

盗んだ事も大罪だが、こんな日の光が届かない場所で枯らせてしまうのは、ジークタリアスの大きな損失だし、きっとマリーもひどく悲しむ。

絶対に取りかえさなければ。

「……あれ。オーウェン」
「ああ」

薄い霧が立ちこめる廊下のさきに、剣を腰にさげた2人の男を発見する。

すぐ近くの金具のついた木の扉を守っているらしい。

「あーあ、見張りかったりぃな〜! どうして俺らがこんな事しなくちゃいけねんだか」
「仕方ねぇだろ、俺たちゃ下っ端、仕事を選べねぇ。道端で野垂れ死ぬなら、いくらでもこき使われるつって、我らが『孤影こえい騎士きし』に仕えたんだ」

暇そうに話しこむ二人を見据え、オーウェンは刀へ手をかけた。

まだだいぶ直線距離がありにも関わらず、″やれる″自信があるらしい。

確かに『剣豪』様ならできるんだろうな。

ーーパチン

でも、俺にだってできる。
もう魔剣士たちの背中を見つめてる俺じゃないんだ。

「な、なに、が……!」
「ぅぐ、ぇ」

彼らの顔横の空間にポケットを開き、頭を気圧で弾いて意識を奪った。

俺は意図せずドヤ顔をしてたんだと思う。
オーウェンがジトっとした目を向けて来る。

「……凄まじいな。これなら俺はなにもしなくて良さそうだ」
「流石はご主人マスター、これこそ僕を従えた一撃だ!」

抜きかけていた剣を納め、オーウェンは力なく首をふり、ジークは無邪気に満面の笑みをうかべる。

気絶した見張りたちのふところをまさぐり、鍵を見つけて、金具のついた扉のなかへ入ると、俺たちは驚きの光景に目を見張った。

石で囲まれた背の高い天井をもち、壁際にいくつもの松明が掛けられた、明るい空間。

中央には、ふかふかの土が敷いてあり、部屋全体はそれ自体を使った植木鉢のようになっていた。

そして、松明の灯りに照らされる、美しい桜が植えてあるのであった。

毎年見ているからわかる。
これは、ジークタリアスの東の丘にあったはずの桜の木だ。

「おい、こら、誰が勝手入ってきて良いって言った…………ぁ?」

桜の木の近く、ジョウロを片手に持つ、顔に傷のあるイカツめのハゲが、こちらへ振りかえり、とぼけた声をあげる。

「て、てめぇら、『孤影組こえいぐみ』のやつじゃねぇな! どっから入りやがった?!」

「答える気はない」

俺がスッと右腕をもちあげるより早く、オーウェンが突撃、男の手に持つジョウロを一瞬で輪切りにして、背後にまわり膝を蹴ってくずさせる。

あまりの早業にジョウロ内の水が、土のうえにばらまかれて、初めて、その男は自分が殺されかかっていると理解したらしい。

わなわなと首元につきつけられた魔剣に、冷や汗かいて怯えはじめた。

「フッ……今度は俺のほうが速かったな」
「別に競ってないし。やろうと思えば俺のほうが早いよ。まじまじ、全然、競ってないから」

今度はオーウェンが動きだすより早く、指を弾いてやろう。

得意げに笑い、何気に子供っぽいところがあるオーウェンに微笑ましい気持ちになりながら、冷や汗をダラダラ流す男に詰め寄る。

「お前はボトム街の犯罪組織の連中か?」
「ひぃ、そ、その聞き方、さては、桜の木を取りかえしにアッパー街から来たのか?! くそっ、あの時間なら目撃者はいないって言ってたのに!」
「いいから答えろ」

オーウェンが刃をかたむけ、チャキっと鳴らす。

「ひぃ! そうだ、俺は、お前たちのいう犯罪組織の一員で間違いない!」
「この桜を盗んだのはお前の意思か? 誰が盗んだ? こんな建物のなかで木が生きられると本気で思ってるのか?」

早口に質問攻めするオーウェン。

その横で俺は、指を弾いて桜の木を収納できるのか試してみる。

ーーパチン

……入らない。

「盗むわけがねぇ! 全部、うえからの命令だ! 俺は桜を奪ってきて、ここに植えただけだ! 部屋の中じゃ、長く生きられぇだろうからって、ちょっと世話をしてて……本当にそれだけなんだ、信じてくれぇえ!」

「ふむ」

オーウェンは涙目のハゲ男をじっと見つめると、片手で首元をつかみ、部屋の隅に放り捨てた。

これ以上の情報は見込めないと判断したらしい。

「マックス、桜を持ち帰れそうか?」
「ダメだな。幹を切断した木なら収納できるけど、やっぱり地面に埋まってると、ちゃんと″生物″に判定される」
「そうか」

オーウェンは一言答え、近くですすり泣くハゲ男へ再び刃を突きつけた。

「な、なんだよォオ! やっばり殺そうってのか?!」
「違う。お前が持ってきたのなら、責任を持って、お前が戻せと言っているだけだ。できるんだろう、お前のスキルなら、生きている木を持ち運ぶ事が。そうじゃないと、あのサイズの扉からこの部屋に桜を運びこむのは不可能だ」

刀で扉を指し示して、オーウェンは言った。

ハゲ男は渋々といった様子で、震える足で立ちあがり、桜の木の近くへと寄る。

しかし、なかなかスキルを発動しない。

「ぅ、ぅう……! やっぱり、出来ねぇ! ボスに、殺されちまう……!」

桜の幹に手をつけながら、ハゲ男は膝をつき、ブンブンと首をふる。

オーウェンはハゲ男の首元に刃を置いて、強制的にスキルを使わせんと脅す。

それを黙って見ていると、ふとーーーーハゲ男の首がズルっと土のうえに落ちた。

「うわぁあ!? 首が落ちだぁあ?!」

騒がしいジークが跳ねるのを横目に、俺とオーウェンはゆっくりと部屋の入り口に顔を向ける。

「やぁ、すまないね。使えないクズをこれ以上生かしておく理由が思いつかなんだ。ーーさあ、それじゃ次は君たちの番だ。侵入者をこれ以上生かしておく理由が思いつかないからね」

足音もなく扉のまえに立つ男は、軽薄な声でそういうと、

すると、松明の灯りがふっと消えて、部屋は暗黒につつまれてしまうのだった。

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