【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第43話 霧街の孤影 前編
「オーウェン、それで桜泥棒はどこへいったんだ?」
「ボトム街だ。おそらく犯罪組織が関わってるんだろう」
オーウェンは左手の鞘に納まった刀の柄で、崖の方を指し示した。
ボトム街の犯罪組織、冒険者ギルドや都市政府すら手を焼く危険で狡猾な連中たちだ。
「剣豪! 悪党たちは、どうしてただの木なんか盗むんだ?」
「覚えておけ、ドラゴン。あれはこの国には生えていないとても貴重な木だ。国内にはおそらくあの一本しかない。ゆえに盗むだけの価値があり、欲しがる輩も同様にいる、ということだ」
「フハハっ、木なんか欲しがるなんて、おかしい人間だ! 森にたくさんあるのにな!」
「…………おい、マックス、こんなドラゴンをペットにして良いのか?」
「ジークは人間形態だと残念な感じなんだよ。あんまり触れてやらないでくれ」
「そうか……。お前、ジークって言うんだな。俺も名前で呼んでいいか?」
「剣豪ならば良い、許してやろう!」
オーウェンとジークはさりげない握手をかわす。
「ん、ところで、ボトム街に降りるのに、なんで『大螺旋階段』から遠のいてるんだよ。下に降りるにはアレしかないのに」
「奴らがこっちの方に歩いていったのが視えたから、としか言いようがないな。……よし、ここらへんまでだ。おい、ジーク、あの場に残っていた匂いをここから追えるか?」
「フハハっ、僕はドラゴンだぞ、不可能はない!」
ドラゴンというか犬としての役割を期待されているわけだが、ここは言わぬが花か。
ジークは鼻をひくつかせながら「むぅ、こっち、いや、こっち……やっぱりこっちかなぁ」と優柔不断な案内で、俺たちを民家へと導いていく。
誰もいない家のなかを、注意深く探してみるが、何か特別なものは見当たらなかった。
「犯罪組織の住処なのか? しばらく使われてない様子だけど……ボトム街に行ったんじゃなかったのかよ」
「……結果は間違いない。桜を盗んだ男は、すぐにボトム街降りる。これは確かだ」
「……?」
オーウェンの奇妙な物言いに、俺は首をかしげた。
ふと、鼻をクンクンさせていたジークは壁際の棚に顔を近づけて「この裏に空洞があるぞ!」と声をあげた。
言われてみるがままに、棚をどかしてみるとその先は、階段となっており、くるくると螺旋を描いているようで、どこまで続いているのかはわからなかった。
そこでは、巨大な穴を前にしたような、気流のかなでる自然な音色が、不気味に湧き上がってくるばかりだった。
「そういうことか」
オーウェンは納得いったようにうなづいた。
「この階段……ただの地下室への階段というわけじゃ無いだろう。空気のなかに、ほのかだが″霧″の香りがまじっている。おそらくは、ボトム街へ降りるための直下螺旋階段」
「っ、てことは、ボトム街の犯罪組織は大螺旋階段以外の、崖上と崖下を繋ぐ通路をもっているってことか? これは……ひとつだけじゃ、無いんだろうな」
「そうだろうな、マックス。だが、今は不正ルートを潰すことが目的じゃない。ジーク、桜泥棒はこの先でいいんだな?」
「フハハっ、ドラゴンは間違いないっ!」
らしいので、俺とオーウェンはジークを信じて降りてみることにした。
螺旋階段は異様なほど長かった。
階段の幅1メートルそこいらの狭い通路が、無限にとぐろを巻いて、断崖のなかに仕込まれていると考えると、モグラや蟻の巣にでも迷いこんだ気分になった。
しかして、終わりはくるものだ。
気がついた時には、足元がうっすら靄がかかるくらいの、深い霧のなかに俺たちはいた。
その事実に、俺は螺旋階段が本当に崖下の世界に繋がっていたのだと実感した。
螺旋階段の終わりは、無人の倉庫となっており、そこには大量の木箱が山のように積みあげられている。
「犯罪組織のアジト、か?」
「どうだかな。外に人の気配があるが」
俺とオーウェンは顔を見合わせ、ジークへ視線をなげる。
すると、ジークは「あいわかった!」ばかりに、再び鼻をヒクヒクさせて、道案内しはじめた。
「ん」
無人倉庫から一歩外にでると、さっそく人と遭遇。
酒に酔っているらしく、頬は赤らんであり、不衛生そうな汚れた服に、血がわずかに付着している。
暴力を生業とする臭いが、プンプンしてきた。
「ひっく、うぇえ〜! おつかれさ〜ん! 本当にめでたいよなぁ〜、ボトム街でも噂の″桜″がおがめるなんてよぉ〜、ひっく、うぇえ!」
酔っ払いは片手に持った酒瓶をふりまわして、千鳥足でどこかへと行ってしまった。
オーウェンとうなづきあい、ジークに先を急がせる。
もはや、ここに桜が持ち込まれたことは疑いようがない。
あれは、国内にたったひとつしかない桜の木。
盗んだ事も大罪だが、こんな日の光が届かない場所で枯らせてしまうのは、ジークタリアスの大きな損失だし、きっとマリーもひどく悲しむ。
絶対に取りかえさなければ。
「……あれ。オーウェン」
「ああ」
薄い霧が立ちこめる廊下のさきに、剣を腰にさげた2人の男を発見する。
すぐ近くの金具のついた木の扉を守っているらしい。
「あーあ、見張りかったりぃな〜! どうして俺らがこんな事しなくちゃいけねんだか」
「仕方ねぇだろ、俺たちゃ下っ端、仕事を選べねぇ。道端で野垂れ死ぬなら、いくらでもこき使われるつって、我らが『孤影の騎士』に仕えたんだ」
暇そうに話しこむ二人を見据え、オーウェンは刀へ手をかけた。
まだだいぶ直線距離がありにも関わらず、″やれる″自信があるらしい。
確かに『剣豪』様ならできるんだろうな。
ーーパチン
でも、俺にだってできる。
もう魔剣士たちの背中を見つめてる俺じゃないんだ。
「な、なに、が……!」
「ぅぐ、ぇ」
彼らの顔横の空間にポケットを開き、頭を気圧で弾いて意識を奪った。
俺は意図せずドヤ顔をしてたんだと思う。
オーウェンがジトっとした目を向けて来る。
「……凄まじいな。これなら俺はなにもしなくて良さそうだ」
「流石はご主人、これこそ僕を従えた一撃だ!」
抜きかけていた剣を納め、オーウェンは力なく首をふり、ジークは無邪気に満面の笑みをうかべる。
気絶した見張りたちのふところをまさぐり、鍵を見つけて、金具のついた扉のなかへ入ると、俺たちは驚きの光景に目を見張った。
石で囲まれた背の高い天井をもち、壁際にいくつもの松明が掛けられた、明るい空間。
中央には、ふかふかの土が敷いてあり、部屋全体はそれ自体を使った植木鉢のようになっていた。
そして、松明の灯りに照らされる、美しい桜が植えてあるのであった。
毎年見ているからわかる。
これは、ジークタリアスの東の丘にあったはずの桜の木だ。
「おい、こら、誰が勝手入ってきて良いって言った…………ぁ?」
桜の木の近く、ジョウロを片手に持つ、顔に傷のあるイカツめのハゲが、こちらへ振りかえり、とぼけた声をあげる。
「て、てめぇら、『孤影組』のやつじゃねぇな! どっから入りやがった?!」
「答える気はない」
俺がスッと右腕をもちあげるより早く、オーウェンが突撃、男の手に持つジョウロを一瞬で輪切りにして、背後にまわり膝を蹴ってくずさせる。
あまりの早業にジョウロ内の水が、土のうえにばらまかれて、初めて、その男は自分が殺されかかっていると理解したらしい。
わなわなと首元につきつけられた魔剣に、冷や汗かいて怯えはじめた。
「フッ……今度は俺のほうが速かったな」
「別に競ってないし。やろうと思えば俺のほうが早いよ。まじまじ、全然、競ってないから」
今度はオーウェンが動きだすより早く、指を弾いてやろう。
得意げに笑い、何気に子供っぽいところがあるオーウェンに微笑ましい気持ちになりながら、冷や汗をダラダラ流す男に詰め寄る。
「お前はボトム街の犯罪組織の連中か?」
「ひぃ、そ、その聞き方、さては、桜の木を取りかえしにアッパー街から来たのか?! くそっ、あの時間なら目撃者はいないって言ってたのに!」
「いいから答えろ」
オーウェンが刃をかたむけ、チャキっと鳴らす。
「ひぃ! そうだ、俺は、お前たちのいう犯罪組織の一員で間違いない!」
「この桜を盗んだのはお前の意思か? 誰が盗んだ? こんな建物のなかで木が生きられると本気で思ってるのか?」
早口に質問攻めするオーウェン。
その横で俺は、指を弾いて桜の木を収納できるのか試してみる。
ーーパチン
……入らない。
「盗むわけがねぇ! 全部、うえからの命令だ! 俺は桜を奪ってきて、ここに植えただけだ! 部屋の中じゃ、長く生きられぇだろうからって、ちょっと世話をしてて……本当にそれだけなんだ、信じてくれぇえ!」
「ふむ」
オーウェンは涙目のハゲ男をじっと見つめると、片手で首元をつかみ、部屋の隅に放り捨てた。
これ以上の情報は見込めないと判断したらしい。
「マックス、桜を持ち帰れそうか?」
「ダメだな。幹を切断した木なら収納できるけど、やっぱり地面に埋まってると、ちゃんと″生物″に判定される」
「そうか」
オーウェンは一言答え、近くですすり泣くハゲ男へ再び刃を突きつけた。
「な、なんだよォオ! やっばり殺そうってのか?!」
「違う。お前が持ってきたのなら、責任を持って、お前が戻せと言っているだけだ。できるんだろう、お前のスキルなら、生きている木を持ち運ぶ事が。そうじゃないと、あのサイズの扉からこの部屋に桜を運びこむのは不可能だ」
刀で扉を指し示して、オーウェンは言った。
ハゲ男は渋々といった様子で、震える足で立ちあがり、桜の木の近くへと寄る。
しかし、なかなかスキルを発動しない。
「ぅ、ぅう……! やっぱり、出来ねぇ! ボスに、殺されちまう……!」
桜の幹に手をつけながら、ハゲ男は膝をつき、ブンブンと首をふる。
オーウェンはハゲ男の首元に刃を置いて、強制的にスキルを使わせんと脅す。
それを黙って見ていると、ふとーーーーハゲ男の首がズルっとズレて土のうえに落ちた。
「うわぁあ!? 首が落ちだぁあ?!」
騒がしいジークが跳ねるのを横目に、俺とオーウェンはゆっくりと部屋の入り口に顔を向ける。
「やぁ、すまないね。使えないクズをこれ以上生かしておく理由が思いつかなんだ。ーーさあ、それじゃ次は君たちの番だ。侵入者をこれ以上生かしておく理由が思いつかないからね」
足音もなく扉のまえに立つ男は、軽薄な声でそういうと、両手を二回叩きあわせた。
すると、松明の灯りがふっと消えて、部屋は暗黒につつまれてしまうのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「面白い!」「面白くなりそう!」
「続きが気になる!「更新してくれ!」
そう思ってくれたら、広告の下にある評価の星「☆☆☆」を「★★★」にしてフィードバックしてほしいです!
ほんとうに大事なポイントです!
評価してもらえると、続きを書くモチベがめっちゃ上がるので最高の応援になります!
「【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1,392
-
1,160
-
-
176
-
61
-
-
6,681
-
2.9万
-
-
66
-
22
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
5,039
-
1万
-
-
5,217
-
2.6万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
8,191
-
5.5万
-
-
2,534
-
6,825
-
-
3,152
-
3,387
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
3,548
-
5,228
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
62
-
89
-
-
6,199
-
2.6万
-
-
89
-
139
-
-
218
-
165
-
-
265
-
1,847
-
-
1,295
-
1,425
-
-
2,860
-
4,949
-
-
6,675
-
6,971
-
-
614
-
221
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
65
-
390
-
-
3万
-
4.9万
-
-
344
-
843
-
-
213
-
937
-
-
450
-
727
-
-
6,237
-
3.1万
-
-
62
-
89
-
-
76
-
153
-
-
3
-
2
-
-
10
-
46
-
-
29
-
52
-
-
1,863
-
1,560
-
-
3,653
-
9,436
-
-
14
-
8
-
-
1,000
-
1,512
-
-
183
-
157
-
-
187
-
610
-
-
108
-
364
-
-
83
-
250
-
-
33
-
48
-
-
47
-
515
-
-
71
-
63
-
-
86
-
893
-
-
10
-
72
-
-
2,629
-
7,284
-
-
398
-
3,087
-
-
477
-
3,004
-
-
2,951
-
4,405
-
-
104
-
158
-
-
7
-
10
-
-
1,301
-
8,782
-
-
17
-
14
-
-
6
-
45
-
-
9
-
23
-
-
18
-
60
-
-
27
-
2
-
-
7,474
-
1.5万
-
-
4,922
-
1.7万
-
-
116
-
17
-
-
88
-
150
-
-
614
-
1,144
-
-
9,173
-
2.3万
-
-
215
-
969
-
-
3,224
-
1.5万
-
-
2,430
-
9,370
「ファンタジー」の人気作品
-
-
3万
-
4.9万
-
-
2.1万
-
7万
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
1万
-
2.3万
-
-
9,711
-
1.6万
-
-
9,545
-
1.1万
-
-
9,448
-
2.4万
-
-
9,173
-
2.3万
コメント