【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第42話 運び屋の劣等感と桜泥棒
新暦3056年 4月2日
ーー神威の騎士団長アルゴヴェーレと、『聖女の騎士』マクスウェルの歴史的決闘からしばらくしたある日。
「そろそろ、お花見の季節じゃない?」
澄みわたる青空の下。
壊れた建物の屋根で昼食をとっているとマリーが、東の丘を指差して言った。
ジークタリアスには春の風物詩として、ここでしか見られない大変貴重な花を鑑賞するイベントがある。
その昔、遥か東方から持ち帰られたという伝説をもつ花の名は″桜″と呼ばれており、4月に入ると決まってみんなこの花のことを思いだし、またその萌芽を心待ちにするのだ。
「今年はマックスが『聖女の騎士』になってくれたから、いっしょに花見しても陰口言われないね!」
「そうだね、マリー。いつも『聖女の朝起こし係』の権限をフル活用して、マリーのそばにいる事を正当化してたけど、今年は大義があるからね」
「ふふん♪ ……あのさ、マックス」
改まった様子のマリーは、手をもじもじさせながら急に歯切れ悪くなった。
「マックスはさ、……わたしと一緒にいて楽しい? 昔から、ずっと一緒にさ……ほら、いてくれるじゃない?」
「…………」
まずいまずいまずいまずい、
唐突に答え方次第で、爆発しそうな質問が来たぞ。
マリーと一緒にいて楽しいか?
楽しいに決まっているだろう。
だけど、そう答えたなら、きっとマリーは俺の卑しい憧れと、密かにいだく想いに気がつく。
聖女である彼女は一方的に向けられる俺なんかの気持ちを断ち切り、今度こそ捨て去るかもしれない。
彼女は俺があわれな【運び屋】であり、幼馴染だから特別に厚意に扱ってくれているだけだ。
俺は、マリーに余計な期待をしてはいけない。
しかして、この質問の本質は別にあるのかもしれない。
もしかしたら、マリーは俺がマリーのことを好きなのを知っているのかも。
だから、鬱陶しがって言質を取りに来てる可能性。
その場合、俺自体がマリーのそばにいる事が迷惑になるわけだが……そうはないと信じたいなぁ……。
「マックス? ねえ、マックス、なんで黙っちゃうの……?」
「ん、ああ、ごめん。マリーと一緒にいて楽しいかって? ーーそりゃ、もちろん。俺たちずっと、そう……アルス村にいた頃から、ずっと一緒じゃん? それに、最近は昔の約束もちゃんと守れるようになってきたから、楽しいんだよ。うん、他意はないよ?」
「……そうだよね! わたしたちは一緒にいて当たり前だから、一緒にいてくれるん、だよね! うんうん、それって凄く……凄くいいと、思うわ!」
「っ」
マリーは張り付いたような笑みで、あはは、っと下手くそな笑い声をあげた。
俺はそれを見て心の奥で、何かが、ひび割れた音を耳の裏に聞いていた。
今の答えはマリーが望んだものではなかった。
つまるところ、マリーは俺と一緒にいる事を良い事だと思っていないんだ。
マイナス方向ばかりに働く観察眼に、俺は辟易し、頭を抱えこんだ。
何とかしないと。
何とかしないと。
俺がただ一緒にいることは、彼女の望む事ではなく、また楽しい事でもないんだ。
そりゃ、そうだよな。
マリーならいくらだって一緒にいる相手を選べる。
俺と一緒にいるのは、幼馴染に優しい聖女、という偶像をまわりが求めているから、そうあれかし、と【クラス】が定めてくれているからだ。
「ま、マリー……俺は、マリーの役に立てるよ?」
彼女には、俺の価値を教えないといけない。
「ん、それってどういう意味、マックス?」
「俺はマリーの騎士、絶対にマリーのことを守り通す! だから、俺のことは、本当に変に気を使わなくていいからね?! ただの剣として使ってくれていいからね? だからさ、俺はマリーを守る事以外は望んでないから……マリーも好きな人と時間を過ごして、いいから……」
自分で言っていて、すごくテンションが下がってきた。
マリーが他の人と一緒にいるところなんて、見たくないに決まっているのに、何でそうと俺は言えないんだろう。
「マックス、もしかして、わたしが聖女として気を使ってマックスと一緒にいると思っているの?」
「……かなぁ、て」
「もう、それは大きな間違いだわ! わたしは聖女である以前に、マリー・テイルワットなのよ! マックスの側にいたいからマックスと一緒にいるの!」
「本当に……?」
「本当にきまってるじゃない! それじゃなに、わたしは聖女として気を使って、【英雄】のアインと結婚でもすればいいわけ?」
ん、確かに。
この理論だと、そうなっちゃうのか。
絶対に嫌だ。アイン殺す。
「それじゃ、マリーは俺と一緒にいて楽しい?」
「っ、…………」
え?
「マリー? 何でそこで黙るの?」
ついさっき体験したような感覚。
デジャヴってやつか?
「……ノーコメント」
「え?」
「だから、ノーコメントよ。わたしは聖女だから、マックスにこの気持ちを伝えちゃダメなの! ぅぅ、これで察して、んひぃぃ……ッ!」
顔を真っ赤にして変な声をあげて、マリーは足早に走りさっていってしまう。
「ノーコメント……察しろとな。また、難解すぎる課題を出されてしまった……」
否定はされなかっただけ数は浅い、か?
⌛︎
⌛︎
⌛︎
その日の夕方。
誰かが叫んだ「桜が咲いてる!」と。
朝のマリーの予想は的中し、街の復興作業が着々と進むなか、ジークタリアスはいよいよ桜開きをむかえたのだ。
東の丘のうえ、遠くに見える一本の桜の木。
雲のおよぐ夕焼け空を背に、鮮やかに咲き誇るピンク色。
街の皆は和やかな気持ちで、明日の花見を企画して、おのおの家へ帰っていっていく。
⌛︎⌛︎⌛︎
その日の晩、俺は自室の二階から夜空を眺めていた。
新月の夜、ひたすらに真っ暗な闇に星々が輝くさまは、海原をわたる小舟を見下ろしているかのよう。
ただ、眺める俺も、暗い潮に悩んでいるのだが。
「マリーは俺のこと嫌いなのかなぁ……ノーコメントって聖女として、一緒にいて楽しくない、なんて言えないって意味だよなぁ……」
夜の風を受けながら、窓辺で突っ伏す。
悩んでも仕方ないのは、わかるのだが、こればっかりは仕方ない。
マリーの存在は俺にとって大きすぎる。
明日、花見の時に全力で接待して、彼女に楽しい時間を過ごしてもらう……このくらいしか解決策が浮かばないのが、もう敗北者なのだろうか。
いや、いい。
俺は自分のできる範囲で、マリーを幸せにしよう。
「そのためにも、明日の花見には美味しいお弁当を作ってーー」
「ご主人、ご主人」
「ん? ぁ、ジークか。そんなところで何してんだ?」
顔をあげると、窓の外に夜に溶け込むような色合いの″竜人″が、小さめの翼でバサバサと飛んでいることに気づいた。
「ここのところ翼を広げる機会がなくて、夜の飛行を楽しんでいたんだ。人間と融合しているとはいえ、空が恋しくなるのがオレというドラゴンだ」
「なるほど」
窓からジークを迎え入れて、人間形態へともどる彼をぼーっと見つめる。
「あ、そーだ、ご主人、僕、空を飛んでいたら不思議なものを見つけたんだぞ!」
「不思議なもの? キラキラ光る物と、美しい物が好きなんだよな。宝石でも落ちてたのか?」
「違うんだ、東の丘にある大きな木を、″小さな箱″に仕舞いこんで持っていく怪しいやつを見たんだ! フハハハっ、凄いだろ!」
東の丘の大きな木?
それって桜の木じゃないか?
しまって持っていく……?
「ジーク、ちょっと東の丘まで飛ばしてくれ」
「へ? どうしていきなり……」
俺はぼけっとするジークを窓から放り投げ、ドラゴンに変態させると、その大きな背中に飛び乗った。
⌛︎⌛︎⌛︎
東の丘に到着すると、そこに見慣れた人影を発見した。
その私服姿は以前と変わらない。
蒼瞳の青年は、すこし痩せたように見えた。
「オーウェン……どうしてこんなところに?」
俺は丘の真ん中に立っていたはずの桜の木が、綺麗さっぱり引っこ抜かれた、地面の穴を見つめて言った。
「マックス、勘違いするな。俺は桜を掘り起こしてない」
「じーっ」
「そんな怪しむ視線を向けられてもな……それよりも、マックス、こっちから質問したい事が山ほどある。まず、その後ろの男。今ここに飛んでくるのががっつり見えたぞ。この前街を襲ったドラゴンじゃないか」
オーウェンは俺の背後のジークを指差して言った。
「オーウェン、執行猶予をやってオーメンヴァイムにいれないでやったろ? 見逃してやってくれよ、こいつは兄弟の仇を取るために、仕方なくジークタリアスを襲った可哀想なやつなんだよ」
「まずひとつ、俺はいま、刑務所に入れられた方が、幾分かマシだと思える生活をおくってる。ゆえにマックスの言い分は矛盾している。そして、ふたつ、俺が怒ってるのは、ジークタリアス市民を代表してじゃない。個人的にそのドラゴンに焼き殺されそうになったことだ」
「……ジーク、謝りなさい」
「ごめんなさい……あの時は、人間なんていくら殺しても正当化されるって思って調子に乗ってました……本当にごめんなさいだぞ……」
オーウェンは起伏のない表情のまま、ため息をつき「別にもう気にしてない」とそっけなく、ジークとの過去を水に流してくれた。
「ところで、オーウェン……お前、どうしてこんな所にいる」
「今から、ちょうど、この桜を盗んだ奴を追おうと思ってな。誰かが事態を察知して、来ないか少し待っていたところだ。そしたら、ほら、マックスが竜に乗ってあらわれた」
まるで、俺がこの丘に来る事を確信していたかのような口調だ。
「今から″ボトム街に持ち去られた″桜の木を取りもどす。これは俺という人間の、下がりきった世間の評価を稼ぐための慈善活動だ。マックス……と、そこのドラゴン、協力してくれないか?」
「オーウェン……お前って過去のことはあんまり気にしないタイプなんだな。昔から、変わってたけど……俺が今、どんな気持ちがわかるか?」
アインほどでは無いにしろ、オーウェンの事だって十分に嫌いになってしまった。
昔は仲が良く、信頼しあえる仲間だと思ってたのに、すべてこいつが裏切ったんだ。
何か訳があるとしても、同郷の幼馴染を迷いなく崖から突き落とせる理由なんてろくなもんじゃない。
「マックス、お前の気持ちを完全にわかってやることはできない……追放のことは、ひたすらに言葉を重ねて謝罪する他ない。本当にすまなかったと思ってる」
クソ。オーウェンめ。
またこんな反省しやがって。
俺がそう言うことやられると、許しちゃう人間だとわかってやってるんじゃないだろうな?
やめろよ、そんなに誠意をこめて、本当にやりたくなかったけど、仕方がなかったなんて、辛い裏事情の香りを漂わせるなよ。
「あー、あー、わかった、わかった! もういいよ、俺も追放のことはいったん水に流す。重い罰だって受けてるしな。ただ、許した訳じゃない。そこを勘違いしないなら……一緒に桜の木を取り戻そう」
「マックス、ありがとう。……はは、いやむしろ、マリーにお礼を言うべきか。なにかと噂の『聖女の騎士』は、彼女のために綺麗な桜を見せたいから頑張るのだろうしな」
オーウェンは皮肉げに薄く微笑み、刀の鞘口を指でいじりながら、歩きだした。
俺も隣についていく。
「マックス」
「なんだよ」
「いろいろ悩みはあるだろうが、長い間、お前たち2人を見てきた俺に言わせれば今の状況は……というか、昔からなんだが、お前らはやく結婚しろ、とでも言いたい、じれったい感じだ」
「……いきなりなんの話してんだ?」
「ご主人、こいつ街歩くたびに、市民たちに悪口言われて、泥投げられてるんで、頭おかしくなってんだぞ」
そうかぁ、オーウェン、お前も狂っちゃったのか。
だけど、同情なんてしてやらないからな。
これはお前の罪なんだから。
俺とジークは、半眼をむけてくるオーウェンへ、はやく良くなるよう祈りながら、ボトム街へとおりる事にした。
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