【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜
第41話 伝説のはじまり
長めです
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
神威の騎士団長アルゴヴェーレ・クサントス。
彼のもつ武勇伝は数知れない。
伝説のはじまりは青年時代に遡る。
それは故郷の村を守るため、空を飛ぶ怪鳥を地上から槍をなげ、撃ち落としたという奇想天外の話だ。
この時、彼は若干18歳。
若くして英雄は巨大な力の片鱗を見せていた。
彼を『超人』に至らせたのは、25歳の頃の首都を襲ったドラゴンとの一騎打ちである。
悪知恵の働くドラゴンは【華の聖女】をさらい、首都を大火につつむと、彼女をつかって騎士たちと順番の決闘大会を開催した。
聖女を人質に取られてはなす術のなかった『神威の十師団』は、その場に居合わせた3つの師団から各団長がドラゴンへと挑んでいくことになる。
しかし、ドラゴンは強力無比かつ、狡猾であった。
負けそうになると聖女を盾にし、問答無用で決闘場としていた城を遠隔から破壊した。
そうした決闘ではない、姑息で、卑劣な手段で団長たちを惨殺していったという。
すべての団長たちの想いを継いで、ドラゴンに挑んだ4人目の騎士にして、最後の決闘者こそが当時一介の騎士を務めていたアルゴヴェーレ・クサントスだ。
神殿騎士として首都の神殿に勤めていて彼は、首都を襲ったこの悪しきドラゴンを、聖女を傷つけず見事打ち倒し、首都を救ったのであった。
これを気に『竜殺し』『4人目の騎士』『大英雄』ーーそして、畏怖畏敬をこめた『超人』の名を彼は手に入れ満場一致で神威の騎士団団長へと就いたのだ。
⌛︎⌛︎⌛︎
その日、ジークタリアス中を予想だにしないニュースが駆け巡った。
「え゛ッ?! ちょっと前に実は生きていたで街を騒がせたアイツが!?」
「ああ、そうだぜ! 街を襲ったドラゴンを追い返したジークタリアスの新しい英雄と、あの『超人』アルゴヴェーレ・クサントスが戦うんだってよ!」
どこから話を聞き及んだのか、男たちは、瓦礫のかたづけを放りだしてすぐさま中央広場へとかけていく。
「え? マックスと団長さんが……」
男どものはしゃぎようを小耳に挟んだマリーは、警護していくれている神威の騎士へ顔を向けるが、彼らも肩をすくめるばかりで、事態がわからない。
「中央広場って言ってたわね。行ってみましょう」
マリーは急ぎ、来た道を引きかえしはじめた。
⌛︎⌛︎⌛︎
「騎士団長様、前方がすごい事になってますけど……」
俺は顔を引きつらせて、正面に待ち構えて大歓声をあげている群衆を指さした。
「おうとも、ダークエコー君。せっかくの歴史的な立ち合いだ、ギャラリーは多い方が伝説になりやすいものだ。未来の大英雄くんへ、先輩からのアドバイスだぞ」
アルゴヴェーレはウィンクしてにぃっと白い歯を見せて笑う。
この群衆は彼の部下が集めたものか。
よく見たら後ろに付いてきているのが、パスカルだけになっている。間違いなさそうだ。
「して、ダークエコー君、お互いに負けられない立場なのは私も重々承知している。君はホームであるジークタリアスの新しき英雄として、そして何より『聖女の騎士』として格好悪いところは見せれない」
アルゴヴェーレの意地悪な笑顔に、俺はまんまとハメられたと悟った。
さっきは第七師団のメンツが立たないなどと言っていたが、いつのまにか負けた時のダメージが俺のほうにも帰ってくるようになってしまっている。
これじゃ俺のメンツが立たなくなる。
いや、正直言うと、別段こだわってはないが。
「わかるぞ、その気持ち。聖女様の手前じゃ格好悪いのは嫌だよな。私も嫌だ。第七師団の騎士たちにもいつまでも誇れる団長でいたい。首都に戻った時、うざったい貴族……おほん、失礼、お貴族様たちからヤジを飛ばされるのも我慢ならない。ゆえに、お互いに本気は出さずにいこうじゃないか」
「本気をだすか、ださないかなんて、どうやって判断するんですか?」
「互いにスキルの使用を禁止しよう。武器だって、もちろん禁止だ。私は剣聖流の剣術等級″下ポルタ″まで取っているし、スキル〔重打〕は攻撃に重さを乗算する効果をもってる……つまり禁止すれば、戦力は著しく低下するわけだな、これが。対して君のスキルは知っているぞ、〔収納〕なんだろう? それならスキルを禁止されても痛くはない。条件は平等、私からのハンデだなんて思わなくていいからな」
アルゴヴェーレはすぐ近くに中央広場を見据え、歓声の中で俺にだけ聞こえるように言ってきた。
確かに彼の言ってることは正しい。
だけど、ひとつ大きな勘違いをしている。
俺のスキルは禁止されると、俺自身の戦力が9割ダウンするということだ。
この条件どうするか。
″本気を出さない″という手厚い保険を互いに受けられるが、封じられるモノがあまりにも大きすぎる。
「さあ、着いたぞ、ダークエコー君」
「……着いちゃった」
悩んでいると群衆の真ん中にたどり着いてしまった。
ふむ、まあ、いいか。
流石に『超人』アルゴヴェーレ・クサントスに本気で勝てるなんて思ってない。
さっきは負ける気がしないなんて思ったけど、考えなおせば勝てるわけがない。
国民みんなが知ってる大英雄なんだ。
アルゴヴェーレも同じだ。
負けるなんて思ってないだろう。
保険はすべて俺に有利なように働いていると思って言ってくれたんだし、俺の名誉を傷つけない為の配慮なんだ。
ありがたく受け取っておこうじゃないか。
「騎士団長様、さっきの条件で、もちろんいいですよ。それではお願いします」
「そうこないとな。私も罪悪感があるというモノだよ。して、かの英雄パスカル・プリンシパル殿、よろしければレフリーをしてくださっても?」
「え? おっさんで……俺で、いいんですか?」
珍しく真面目モードのパスカルは自身を指差して、たずねかえす。
パスカルへ「もちろんです、よろしくお願いします!」とアルゴヴェーレは快活にお願いした。
ついでに、彼に氷結界による安全な試合会場の準備も頼んだ。
パスカルは群衆たちへ、今回の決闘がスキル使用禁止であったり、武器の使用が禁止なことを伝えながら中央広場に十分な広さの空間を確保し、そこに透明度の高い氷のドームを展開した。
「はぁ、はぁ……ふぅ、よし、こんなもんか。そんじゃ選手入場〜!」
だんだんノリノリになって来たパスカルの掛け声に、群衆が湧き立つのが聞こえる。
音まで完全遮断する封印式だったが、ドームの中にいても今回は外の音が聞こえるな。
やろうと思えばいろいろ細かい調整が効くらしい。
便利なことだ。
「ん、マリー」
氷のドームの外で、人混みが分かれて出来上がった分け目に驚きを隠さない様子のマリーを発見する。
彼女が見ている。
よし、全力で頑張ろう。
「ほら、賭けた賭けたぁあー!」
「俺はアルゴヴェーレに銀貨2枚!」
「こっちは俺たちの英雄に金貨だ!」
「馬鹿野郎め、『超人』の凄さを知らねえんだな!」
「はは、盛り上がってるじゃないか。では、そろそろ始めようダークエコー君。拳と拳の決闘だ!」
「よし、どっちとも準備は良さそうで。それじゃーーーーファイッ!」
パスカルの一声に、群衆のテンションは最高潮を迎える。
「……」
「どうした、このまま睨み合うだけで良いのかな?」
パスカルの合図が出ても、俺は動かなかった。
まず技能の時点で劣っているだろう観点から、どうやって打ち込めばいいかわからないし、通用するかもわからない。
銀狼流らしい動きが使える″カウンター″こそが、俺が唯一それっぽく動けるアクションだろう。
はあ……思い返してみると俺、指パッチンだけ練習していたから、他の技能がとんでもなく疎かになってる。
やっぱり、少し考えないといけないかも。
「では、こちらからいくぞーー瞬き禁止だッ!」
「っ」
アルゴヴェーレの足元が大爆発を起こす。
意識の切れ目に彼が姿を消した瞬間、俺の体は後方へ吹っ飛ばされてしまっていた。
ーービギィ!
「うわッ!?」
「ドームにヒビが?!
「これ壊れんじゃねえのか?!」
背中から走る激震。
不穏な音に、さっきより大きく聞こえる群衆たちの悲鳴と心配する声が上書きされていく。
「えぇ……三式だけど、まさかヒビ入るなんて……」
レフリーを務めるパスカルも若干引き気味だ。
「む、やり過ぎたか? おい、ダークエコー君、大丈夫かな?」
アルゴヴェーレの案ずる声に、俺はむくっと顔を上げて「平気ですよ」と一言かえした。
思ったより全然痛くはない。
これくらいなら問題なく耐えられる。
よかった、よかった。
手加減してくれたのかな?
「よいしょっと」
「……ふん、もろに入ったと思ったが、見た目より頑丈だな、ダークエコー君は」
「へへ、ありがとうございます、騎士団長様。これでも″測定不能″なんですよ」
「ああ、なるほど……そうだろうね。私も″測定不能″だったからわかるよ」
にこやかに告げて、再びアルゴヴェーレの足元の石畳みが、踏み切りで爆発を起こす。
あ、避けれそう。
目が慣れたおかけで、今度は見えた。
「っ!」
アルゴヴェーレの右ストレートをスウェイで避ける。
目を見張る彼と目があう。
凄い気迫だな。
続いて脇腹に打ち込まれる左フック。
こっちは避けれない。
ーーバンッ
空気の破裂する音。
アルゴヴェーレの拳が音の壁を越えてるのか?
「うっ!」
吹っ飛ばされて、また氷のドームにヒビを作ってしまった。
俺が右へ回避することを読んで、それを刈り取る″左″を置いておいたのか。勉強になる。ちょっと痛い……。
「よいしょっと」
「……ッ」
めり込んだ体をドームから抜いて、もう一度、拳を握って構える。
「マックス、お前平気か? 流石に攻撃を受けすぎなんじゃ……」
「パスカル、まだ平気だと思う。そんな痛くないから」
「ッ、そんな痛くない? ……ほう、私のボディをまともに受けて立っていられるなんて、これはもしや……いや、良いーー次は本気でいく」
アルゴヴェーレの表情が変わった。
薄く称えていた笑顔は消え、顔色は真剣そのもの。
ーー嵐のような連打だった
俺は、何度も何度も攻撃を入れさせてしまった。
ただ、幾十と打撃を受けて、ドームな端っこに吹き飛ばされているうちに、彼の速さを目で追えるようになっていた。
次は右で頭、左でボディ。
「っ!」
聞こえるのは悲鳴。
やめてあげてくれ、という懇願。
氷ドームの外側から、俺の身を案じて、もう戦いをやめるよう群衆たちから声があがっていた。
見てくれは、相当に酷いものだったらしい。
一方的すぎる、イジメだった。
しかして、そんな時。
俺ははじめてアルゴヴェーレの左ボディを、腕を差しこんでガードする事に成功した。
「ダークエコー、君は、見えてるのか……ッ!」
「ちょっとですよ、あ、ココらへんならカウンターが……」
焦りの表情を浮かべるアルゴヴェーレの甘い左ストロートを見逃さない。
俺は首をふってアルゴヴェーレの巨大な拳を避ける。
代わりにずっと温めていた俺の右を彼の胸に打ちこんだ。
顔を狙いたい。
だが、技術がないので大きな的で我慢だ。
「ガァッ!?」
良い具合に入ったパンチ。
今度はアルゴヴェーレの巨体が吹っ飛んでいく。
ーーメキメキィイッ
「嘘だろ! 絶対破れるってッ!?」
「離れろ、みんな早く離れろォオ!」
轟音をたてて氷ドーム″全体″に放射状の亀裂がはしり、危険を察知した群衆が距離をとりはじめる。
幸いにも氷のドームは持ち堪え、アルゴヴェーレが外へ吹っ飛んでいくことはなかった。
「ぁ、ぐ、ぅ……」
「? 騎士団長様……?」
氷に埋まった体を重苦しく抜き、アルゴヴェーレが氷の破片が飛び散った地面に膝をつく。
「はぁ、はぁ……凄いのをもらってしまったな……ぅぅ、はぁ……」
なんて、オーバーリアクションなんだ。
俺に華を持たせようとしてくれてるんだろうが、流石にうさんくさいだろ。
嬉しいけど、リップサービスが過ぎるって。
「ぅ、はぁ、動かない……もうダメだな…………仕方ない。レフリー! ここまでだ。この決闘は私の降参負けだ!」
「「「「「…………え?」」」」」
氷のドーム内外が静まりかえり、冬景色の中央広場を涼しい風が抜けていく。
すぐ後に、その場は爆発的な歓声につつまれた。
彼の厚意で勝ってしまった。
流石は大英雄アルゴヴェーレ。
俺に譲ってくれるなんて。
どこまで懐が深いのだか。
ありがとうございます。
賑わいがとどまることを知らない中、俺は粋なはからいをしてくれた、ひざまづく騎士団長へ手を差し伸べた。
⌛︎⌛︎⌛︎
「団長も人が良いですね、後輩相手に勝ちを譲るなんて」
ジークタリアス市民たちに囲まれてお祭り騒ぎをする若い青年を見ながら、第七師団副団長アルフレッド・クルガーはそういった。
かたわらで建物の残骸のうえに腰を下ろし、胸をさするアルゴヴェーレは「いいや、譲ったんじゃない」と疲れた様子で……されど楽しげに答えた。
彼はとなりで首をかしげるアルフレッドへ、胸を抑えていた大きな手をどけて見せる。
「皮膚が青紫に変色してる……」
「胸の骨がいくつか粉砕されたみたいだ」
「カウンター気味だったとはいえ、団長に一撃でこんなダメージを与えるなんて……あの青年、それほどの打撃テクニックをもっているようには見えませんでしたが……っ、まさか、レベル差? ……何者なんですかね、彼は」
「さぁな。きっとまだ無名の英雄というだけなんだろう。骨格も体格も別段優れているわけじゃない。……あの若さでこれほどの力を手に入れるためには、想像を絶する困難に向き合ったはずだ」
アルゴヴェーレは手早く鎧を着込み、傷を隠して立ちあがる。
「アルフレッド、きっとあれは次の時代の物語だ。伝説のはじまりに立ち会えた幸運、いやはや、俺も決闘を挑んでよかったよかったっ! よし、傷も治った! では、街の復興に戻ろうか!」
「いえ、団長、治るわけないでしょう? まずは治療からですよ?」
豪快に笑い飛ばすアルゴヴェーレを、アルフレッドは力いっぱいに神殿へと引きずっていった。
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「面白い!」「面白くなりそう!」
「続きが気になる!「更新してくれ!」
そう思ってくれたら、広告の下にある評価の星「☆☆☆」を「★★★」にしてフィードバックしてほしいです!
ほんとうに大事なポイントです!
評価してもらえると、続きを書くモチベがめっちゃ上がるので最高の応援になります!
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神威の騎士団長アルゴヴェーレ・クサントス。
彼のもつ武勇伝は数知れない。
伝説のはじまりは青年時代に遡る。
それは故郷の村を守るため、空を飛ぶ怪鳥を地上から槍をなげ、撃ち落としたという奇想天外の話だ。
この時、彼は若干18歳。
若くして英雄は巨大な力の片鱗を見せていた。
彼を『超人』に至らせたのは、25歳の頃の首都を襲ったドラゴンとの一騎打ちである。
悪知恵の働くドラゴンは【華の聖女】をさらい、首都を大火につつむと、彼女をつかって騎士たちと順番の決闘大会を開催した。
聖女を人質に取られてはなす術のなかった『神威の十師団』は、その場に居合わせた3つの師団から各団長がドラゴンへと挑んでいくことになる。
しかし、ドラゴンは強力無比かつ、狡猾であった。
負けそうになると聖女を盾にし、問答無用で決闘場としていた城を遠隔から破壊した。
そうした決闘ではない、姑息で、卑劣な手段で団長たちを惨殺していったという。
すべての団長たちの想いを継いで、ドラゴンに挑んだ4人目の騎士にして、最後の決闘者こそが当時一介の騎士を務めていたアルゴヴェーレ・クサントスだ。
神殿騎士として首都の神殿に勤めていて彼は、首都を襲ったこの悪しきドラゴンを、聖女を傷つけず見事打ち倒し、首都を救ったのであった。
これを気に『竜殺し』『4人目の騎士』『大英雄』ーーそして、畏怖畏敬をこめた『超人』の名を彼は手に入れ満場一致で神威の騎士団団長へと就いたのだ。
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その日、ジークタリアス中を予想だにしないニュースが駆け巡った。
「え゛ッ?! ちょっと前に実は生きていたで街を騒がせたアイツが!?」
「ああ、そうだぜ! 街を襲ったドラゴンを追い返したジークタリアスの新しい英雄と、あの『超人』アルゴヴェーレ・クサントスが戦うんだってよ!」
どこから話を聞き及んだのか、男たちは、瓦礫のかたづけを放りだしてすぐさま中央広場へとかけていく。
「え? マックスと団長さんが……」
男どものはしゃぎようを小耳に挟んだマリーは、警護していくれている神威の騎士へ顔を向けるが、彼らも肩をすくめるばかりで、事態がわからない。
「中央広場って言ってたわね。行ってみましょう」
マリーは急ぎ、来た道を引きかえしはじめた。
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「騎士団長様、前方がすごい事になってますけど……」
俺は顔を引きつらせて、正面に待ち構えて大歓声をあげている群衆を指さした。
「おうとも、ダークエコー君。せっかくの歴史的な立ち合いだ、ギャラリーは多い方が伝説になりやすいものだ。未来の大英雄くんへ、先輩からのアドバイスだぞ」
アルゴヴェーレはウィンクしてにぃっと白い歯を見せて笑う。
この群衆は彼の部下が集めたものか。
よく見たら後ろに付いてきているのが、パスカルだけになっている。間違いなさそうだ。
「して、ダークエコー君、お互いに負けられない立場なのは私も重々承知している。君はホームであるジークタリアスの新しき英雄として、そして何より『聖女の騎士』として格好悪いところは見せれない」
アルゴヴェーレの意地悪な笑顔に、俺はまんまとハメられたと悟った。
さっきは第七師団のメンツが立たないなどと言っていたが、いつのまにか負けた時のダメージが俺のほうにも帰ってくるようになってしまっている。
これじゃ俺のメンツが立たなくなる。
いや、正直言うと、別段こだわってはないが。
「わかるぞ、その気持ち。聖女様の手前じゃ格好悪いのは嫌だよな。私も嫌だ。第七師団の騎士たちにもいつまでも誇れる団長でいたい。首都に戻った時、うざったい貴族……おほん、失礼、お貴族様たちからヤジを飛ばされるのも我慢ならない。ゆえに、お互いに本気は出さずにいこうじゃないか」
「本気をだすか、ださないかなんて、どうやって判断するんですか?」
「互いにスキルの使用を禁止しよう。武器だって、もちろん禁止だ。私は剣聖流の剣術等級″下ポルタ″まで取っているし、スキル〔重打〕は攻撃に重さを乗算する効果をもってる……つまり禁止すれば、戦力は著しく低下するわけだな、これが。対して君のスキルは知っているぞ、〔収納〕なんだろう? それならスキルを禁止されても痛くはない。条件は平等、私からのハンデだなんて思わなくていいからな」
アルゴヴェーレはすぐ近くに中央広場を見据え、歓声の中で俺にだけ聞こえるように言ってきた。
確かに彼の言ってることは正しい。
だけど、ひとつ大きな勘違いをしている。
俺のスキルは禁止されると、俺自身の戦力が9割ダウンするということだ。
この条件どうするか。
″本気を出さない″という手厚い保険を互いに受けられるが、封じられるモノがあまりにも大きすぎる。
「さあ、着いたぞ、ダークエコー君」
「……着いちゃった」
悩んでいると群衆の真ん中にたどり着いてしまった。
ふむ、まあ、いいか。
流石に『超人』アルゴヴェーレ・クサントスに本気で勝てるなんて思ってない。
さっきは負ける気がしないなんて思ったけど、考えなおせば勝てるわけがない。
国民みんなが知ってる大英雄なんだ。
アルゴヴェーレも同じだ。
負けるなんて思ってないだろう。
保険はすべて俺に有利なように働いていると思って言ってくれたんだし、俺の名誉を傷つけない為の配慮なんだ。
ありがたく受け取っておこうじゃないか。
「騎士団長様、さっきの条件で、もちろんいいですよ。それではお願いします」
「そうこないとな。私も罪悪感があるというモノだよ。して、かの英雄パスカル・プリンシパル殿、よろしければレフリーをしてくださっても?」
「え? おっさんで……俺で、いいんですか?」
珍しく真面目モードのパスカルは自身を指差して、たずねかえす。
パスカルへ「もちろんです、よろしくお願いします!」とアルゴヴェーレは快活にお願いした。
ついでに、彼に氷結界による安全な試合会場の準備も頼んだ。
パスカルは群衆たちへ、今回の決闘がスキル使用禁止であったり、武器の使用が禁止なことを伝えながら中央広場に十分な広さの空間を確保し、そこに透明度の高い氷のドームを展開した。
「はぁ、はぁ……ふぅ、よし、こんなもんか。そんじゃ選手入場〜!」
だんだんノリノリになって来たパスカルの掛け声に、群衆が湧き立つのが聞こえる。
音まで完全遮断する封印式だったが、ドームの中にいても今回は外の音が聞こえるな。
やろうと思えばいろいろ細かい調整が効くらしい。
便利なことだ。
「ん、マリー」
氷のドームの外で、人混みが分かれて出来上がった分け目に驚きを隠さない様子のマリーを発見する。
彼女が見ている。
よし、全力で頑張ろう。
「ほら、賭けた賭けたぁあー!」
「俺はアルゴヴェーレに銀貨2枚!」
「こっちは俺たちの英雄に金貨だ!」
「馬鹿野郎め、『超人』の凄さを知らねえんだな!」
「はは、盛り上がってるじゃないか。では、そろそろ始めようダークエコー君。拳と拳の決闘だ!」
「よし、どっちとも準備は良さそうで。それじゃーーーーファイッ!」
パスカルの一声に、群衆のテンションは最高潮を迎える。
「……」
「どうした、このまま睨み合うだけで良いのかな?」
パスカルの合図が出ても、俺は動かなかった。
まず技能の時点で劣っているだろう観点から、どうやって打ち込めばいいかわからないし、通用するかもわからない。
銀狼流らしい動きが使える″カウンター″こそが、俺が唯一それっぽく動けるアクションだろう。
はあ……思い返してみると俺、指パッチンだけ練習していたから、他の技能がとんでもなく疎かになってる。
やっぱり、少し考えないといけないかも。
「では、こちらからいくぞーー瞬き禁止だッ!」
「っ」
アルゴヴェーレの足元が大爆発を起こす。
意識の切れ目に彼が姿を消した瞬間、俺の体は後方へ吹っ飛ばされてしまっていた。
ーービギィ!
「うわッ!?」
「ドームにヒビが?!
「これ壊れんじゃねえのか?!」
背中から走る激震。
不穏な音に、さっきより大きく聞こえる群衆たちの悲鳴と心配する声が上書きされていく。
「えぇ……三式だけど、まさかヒビ入るなんて……」
レフリーを務めるパスカルも若干引き気味だ。
「む、やり過ぎたか? おい、ダークエコー君、大丈夫かな?」
アルゴヴェーレの案ずる声に、俺はむくっと顔を上げて「平気ですよ」と一言かえした。
思ったより全然痛くはない。
これくらいなら問題なく耐えられる。
よかった、よかった。
手加減してくれたのかな?
「よいしょっと」
「……ふん、もろに入ったと思ったが、見た目より頑丈だな、ダークエコー君は」
「へへ、ありがとうございます、騎士団長様。これでも″測定不能″なんですよ」
「ああ、なるほど……そうだろうね。私も″測定不能″だったからわかるよ」
にこやかに告げて、再びアルゴヴェーレの足元の石畳みが、踏み切りで爆発を起こす。
あ、避けれそう。
目が慣れたおかけで、今度は見えた。
「っ!」
アルゴヴェーレの右ストレートをスウェイで避ける。
目を見張る彼と目があう。
凄い気迫だな。
続いて脇腹に打ち込まれる左フック。
こっちは避けれない。
ーーバンッ
空気の破裂する音。
アルゴヴェーレの拳が音の壁を越えてるのか?
「うっ!」
吹っ飛ばされて、また氷のドームにヒビを作ってしまった。
俺が右へ回避することを読んで、それを刈り取る″左″を置いておいたのか。勉強になる。ちょっと痛い……。
「よいしょっと」
「……ッ」
めり込んだ体をドームから抜いて、もう一度、拳を握って構える。
「マックス、お前平気か? 流石に攻撃を受けすぎなんじゃ……」
「パスカル、まだ平気だと思う。そんな痛くないから」
「ッ、そんな痛くない? ……ほう、私のボディをまともに受けて立っていられるなんて、これはもしや……いや、良いーー次は本気でいく」
アルゴヴェーレの表情が変わった。
薄く称えていた笑顔は消え、顔色は真剣そのもの。
ーー嵐のような連打だった
俺は、何度も何度も攻撃を入れさせてしまった。
ただ、幾十と打撃を受けて、ドームな端っこに吹き飛ばされているうちに、彼の速さを目で追えるようになっていた。
次は右で頭、左でボディ。
「っ!」
聞こえるのは悲鳴。
やめてあげてくれ、という懇願。
氷ドームの外側から、俺の身を案じて、もう戦いをやめるよう群衆たちから声があがっていた。
見てくれは、相当に酷いものだったらしい。
一方的すぎる、イジメだった。
しかして、そんな時。
俺ははじめてアルゴヴェーレの左ボディを、腕を差しこんでガードする事に成功した。
「ダークエコー、君は、見えてるのか……ッ!」
「ちょっとですよ、あ、ココらへんならカウンターが……」
焦りの表情を浮かべるアルゴヴェーレの甘い左ストロートを見逃さない。
俺は首をふってアルゴヴェーレの巨大な拳を避ける。
代わりにずっと温めていた俺の右を彼の胸に打ちこんだ。
顔を狙いたい。
だが、技術がないので大きな的で我慢だ。
「ガァッ!?」
良い具合に入ったパンチ。
今度はアルゴヴェーレの巨体が吹っ飛んでいく。
ーーメキメキィイッ
「嘘だろ! 絶対破れるってッ!?」
「離れろ、みんな早く離れろォオ!」
轟音をたてて氷ドーム″全体″に放射状の亀裂がはしり、危険を察知した群衆が距離をとりはじめる。
幸いにも氷のドームは持ち堪え、アルゴヴェーレが外へ吹っ飛んでいくことはなかった。
「ぁ、ぐ、ぅ……」
「? 騎士団長様……?」
氷に埋まった体を重苦しく抜き、アルゴヴェーレが氷の破片が飛び散った地面に膝をつく。
「はぁ、はぁ……凄いのをもらってしまったな……ぅぅ、はぁ……」
なんて、オーバーリアクションなんだ。
俺に華を持たせようとしてくれてるんだろうが、流石にうさんくさいだろ。
嬉しいけど、リップサービスが過ぎるって。
「ぅ、はぁ、動かない……もうダメだな…………仕方ない。レフリー! ここまでだ。この決闘は私の降参負けだ!」
「「「「「…………え?」」」」」
氷のドーム内外が静まりかえり、冬景色の中央広場を涼しい風が抜けていく。
すぐ後に、その場は爆発的な歓声につつまれた。
彼の厚意で勝ってしまった。
流石は大英雄アルゴヴェーレ。
俺に譲ってくれるなんて。
どこまで懐が深いのだか。
ありがとうございます。
賑わいがとどまることを知らない中、俺は粋なはからいをしてくれた、ひざまづく騎士団長へ手を差し伸べた。
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「団長も人が良いですね、後輩相手に勝ちを譲るなんて」
ジークタリアス市民たちに囲まれてお祭り騒ぎをする若い青年を見ながら、第七師団副団長アルフレッド・クルガーはそういった。
かたわらで建物の残骸のうえに腰を下ろし、胸をさするアルゴヴェーレは「いいや、譲ったんじゃない」と疲れた様子で……されど楽しげに答えた。
彼はとなりで首をかしげるアルフレッドへ、胸を抑えていた大きな手をどけて見せる。
「皮膚が青紫に変色してる……」
「胸の骨がいくつか粉砕されたみたいだ」
「カウンター気味だったとはいえ、団長に一撃でこんなダメージを与えるなんて……あの青年、それほどの打撃テクニックをもっているようには見えませんでしたが……っ、まさか、レベル差? ……何者なんですかね、彼は」
「さぁな。きっとまだ無名の英雄というだけなんだろう。骨格も体格も別段優れているわけじゃない。……あの若さでこれほどの力を手に入れるためには、想像を絶する困難に向き合ったはずだ」
アルゴヴェーレは手早く鎧を着込み、傷を隠して立ちあがる。
「アルフレッド、きっとあれは次の時代の物語だ。伝説のはじまりに立ち会えた幸運、いやはや、俺も決闘を挑んでよかったよかったっ! よし、傷も治った! では、街の復興に戻ろうか!」
「いえ、団長、治るわけないでしょう? まずは治療からですよ?」
豪快に笑い飛ばすアルゴヴェーレを、アルフレッドは力いっぱいに神殿へと引きずっていった。
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「面白い!」「面白くなりそう!」
「続きが気になる!「更新してくれ!」
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