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【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜

ノベルバユーザー542862

第18話 ジークタリアス:赫の獣 後編

長めです
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冬の世界、その氷のドームの内側で。
黒色の大剣をもつ魔剣士と、大爪と残虐の象徴を口に生え揃えた六足獣がむきあう。

外から傍観するは、新旧老若、多数の冒険者たち。

場の熱が高まるように氷の向こう側でも、こちら側でも緊張が場を支配しはじめている。

「む、パスカルが氷結界を使ったと聞いたが、もう始めてるみたいだな」

頭上から声とともに、ひとりの青年がふってくる。
大業物の刀を腰にたずさえる彼は、もう一人の魔剣士オーウェンだ。

「あー! もうアイン様、戦いはじめちゃってるじゃないですか!」

オーウェンの小脇に抱えられて、やってきたデイジーが声をあげた。

「オーウェン、デイジー、来たんだね。2人とも、危なそうだったら、加勢してあげて」

2人を心良くむかえ、マリーはともに氷のドームのそばで、中の戦いを観戦することにした。

「ゴルゥウ」
「オラァア!」

氷片を散らし、激しく硬爪と魔剣アインの刃がぶつかりあう。

尋常の方法では追えない獣の速さ。
高速移動に特化したフォルムと、人類とはわけが違う高密度の筋肉、さらに生物が進化のなかで獲得した残像を残すほどの加速を補助する魔法。

目にも止まらぬ機動力をみせるグレイグの角ばった鱗に、鎧や肌を撫でられるだけで、じりじりとアインの怪我が増えていく。

だが、彼も魔剣士としての意地があるのか、確実に攻撃を当ててみせる。

それでも、頑強なグレイグはほとんど傷ついているようには、見えなかった。

「ここだ! ≪アイン・スティンガー≫」

苦しさに歪められた紅瞳でなんとかグレイグをとらえながら、魔力の放射で動きを先読みして攻撃を

が、直感頼りの予測刺しにもグレイグは敏感に反応し、体をひねってアインの牙突をさばいてしまう。

目を見開き、たった一回技を見られただけで見切られたことに、アインは驚愕を隠せない。

それは致命の隙だった。

「ッ、なんて動きしやが、ウガァ!?」

グシャリっという音と共に、氷ドームの綺麗な壁を粘性の赤がパレットに変える。
アインの肩の肉がえぐられ、血と肉が飛散したらしい。

「ぅ、ぐ、そ……!」
「グロゥウゥ」

氷のドームのサイズに慣れてきたグレイグは、強靭な肉体をいかして、より効率的な立体軌道でアインを追いつめはじめていたのだ。

(動きが……速くなってる……!)

相手の力量の変化に、アインは唇を噛みながら『ごうの構え』から『やわらの構え』に大剣を持ち替えた。

魔剣の担い手として、そして女神に与えられた【英雄】という役目をまっとうする為に、彼はこんなところで負けるわけにはいかないのだ。

勝つ必要がある。
そのために、プライドを曲げて攻勢を捨てる覚悟が、彼にはあった。

「グロゥウ!」

ーーギィンッ

降ってくる筋肉の塊を、大剣を斜めに構え、足を地面に埋めながら受け流す。

だが、それでも足りない。
かするだけで肉が裂ける、鎌鼬かまいたちと化した獣にアインは防戦一方だ。

肉体から蒸気のようなものまで、あがりはじめ、『赫の獣』グレイグの運動力か飛躍的にあがっていく。

時間が経つごとに、目に見えていく悪い結末の予感に、氷のドームの周りが騒がしくなりはじめた。

「アイン様っ! オーウェン、オーウェン様! 早く助けないとアイン様が死んじゃいます!」
「俺がいく、パスカル、頼む」

オーウェンの言葉に、パスカルは鷹揚に手をあげる。

「オーウェン、霊薬よろしく」
「ああ」

オーウェンは、マリーから満帆に中身の詰まった霊薬瓶をうけとり、氷のドームに手をあてた。

背後で、パスカルの軽快な指パッチンが響く。
すると、氷のドームが一部開き、オーウェンがそこから即座に戦いへと参戦した。

その時だったーー、

「っ」

入ってくる瞬間を狙い、ちいさな入り口から、氷のドームの外へ逃げようとするグレイグ。

「ゴルゥウッ!」
「ふッ!」

オーウェンは目にも止まらない速斬りで、グレイグの片目を斬り飛ばし、脱出を阻止。
さらに強烈な回し蹴りを、グレイグの胸部にたたき込み、ドームの中心に押しもどした。

「おぉお!」
「嘘だろ……?」
「あの体格差をモノともしないなんて!」

体長5メートル強の魔物を蹴り飛ばす剣士の姿は、圧巻の一言。

まわりの冒険者たちから、低迷気味だったドラゴン級冒険者の誇りを取り戻し、称賛を勝ち取っていく。

オーウェンが参加して、アインがマリーの霊薬で治癒を完了するなり、ドーム内の戦況は一変した。

「≪アイン・エグゼドライブ≫!」

アインの強力な魔力斬り。

逆手に持ち替えた魔剣で、グレイグの最も硬い胸部の鱗を叩く。

同時に、オーウェンは吹き飛ぶ巨体に微動だにせず、抜刀するなり、正確にアインの攻撃が叩きこまれたのと同じ場所へ、刀をはしらせた。

「ゴルゥウ、ァ!」

グレイグの頑強な胸部の鱗がひび割れて、鮮血が氷のドームに飛び散った。

「ははは、やっぱり俺たちは最強のコンビだぜ。オーウェン、俺に合わせてくるなんて、流石だな」
「ああ。ただ、今のはもっと深く斬り込めば良かったと後悔してる。さっきの一撃で決めれたかもしれない」

オーウェンは血をはらい、土に血をかけて納刀しながら、残念そうに言った。

楽しそうに笑うアインとは対照的に、オーウェンは油断なく手負いの獣と睨みあう。

「ゴルゥウゥゥウー!」
「っ」

二歩、三歩、オーウェンから距離をとり、急に遠吠えをはじめたグレイグ。

ふと、オーウェンは妙な胸騒ぎを覚えて、氷のドームの外へ目をやった。

「っ!」

冷静な表情をくずし、驚愕に目を見開くオーウェン。

それは、絶望の色を知ったから。
氷のドームの外に貼りついている、無数の真っ赤な獣たちと目があってしまったから。

「ぁ」

誰も声を出すことができない。

氷のドームのなかの、オーウェンとアインは天井いっぱいに貼りつき、なかの自分たちを覗き込んでくる、赤く光る眼をただ見つめるばかり。

外は、より濃厚で純粋な恐怖によって支配されていた。その事実に手練れの2人でも固まったのだ。

皆が一斉に気がついたのかと思うほど、まわりの冒険者たちはみんな、声をあげることすらできなくなっていた。

誰が予想できたのか。

この10日間、何度も遭遇し、多くの冒険者が食べられ、殺されてきた、赤い悪魔が″特別な個体″ではなく、ひとつの種として″群れ″を為しているなんて。

「お前ら、急に動くんじゃないぞ。ゆっくり、ゆっくり、ドームから離れろ」
「ぁ、ぁ」
「びっ、ぅ……」

水色の瞳を見開き、腰を落ち着けていたパスカルが慎重に静かな声で、されどよく通る声で、冒険者全体に指示をだしていく。

氷のドームの一番近くいたマリーは、かたわらで涙をながし、震えあがりながらも、自分の口を押さえるデイジーを抱きかかえ、一歩、また一歩と氷のドームから距離をとりはじめていた。

「ゴルゥ」
「……」

あかけもの』の一匹が、マリーとデイジーへグイッと顔をむける。

「んーッ、んーッ!」
「しぃー……」

目線を逸らし、悶えるデイジーの口を押さえて、彼女の顔も背けさせる。

テクテクと動きだすグレイグたち。
マリーが後退する倍以上の速さで、呑気に昼の散歩をするようにどんどん近づいていく。

パスカルはそれを見て、眉をひそめ目を閉じて一考。

「チッ、てめぇら! 走れぇえ! やりたくねぇけど≪再構築さいこうちく≫!」

パスカルの怒号で緊張の糸は叩っ斬られた。

同時、口から血の塊をはきだす。
右手の甲へ、さらなる神秘を要求した結果だ。

ブチブチと音を立てて、血管が破裂するのもいとわず、一度展開した冬の世界を、編集しはじめる。

氷のドームは粉々に砕けちり、アインとオーウェンが走って逃げるスペースを確保しながら、より広範囲に、より多くの対象を捉えられるように世界をつくりなおすのだ。

もはや余力ないゆえに、代償は大きくつく。

「がはっ、ぁ、あ゛あ゛ァァア゛ッ!」

「ゴルゥウ!」
「ゴラァゥゥウ!」
「グラゥウ!」

迫りくる赫色の恐怖をまえに、氷の封印は編纂へんさんされた。

「ぁ、間に合った、か……がふっ」

パスカルの鼻先数十センチまえに、出来た氷のおり

内側からグレイグたちに噛みつかれ、ひっかかれ、体当たりされて、今にも壊れそうな封印式はなんとか形を成した。

「ぁ、ぁ……ぁ」
「パスカル! 早く逃げないと!」

全速力で逃げさる冒険者たちのなかで、マリーは充血した目を見開き、落ちてしまいそうな右手を、震える左手でささえかかげつづけるパスカルに駆け寄った。

「はは、いや、無理だ……この、封印式は、綻びが多す、ぎる……、おっさんが、ここに残らないと、次のひと呼吸すら、足止めできねぇん、だ……ごほっ」

ヒクヒクと痙攣させ、パスカルは血を吐いて、泣きながらスキルを継続させつづける。

あんまりの姿に、マリーは口を開きかけるが、それが彼をより苦しめ、最悪には彼の苦しみの意味すら奪ってしまう行為だと思いいたると、決して軽々しいことなど言えるはずもなかった。

「パスカル、すまない」
「ぅ、ごめんね……ッ」

オーウェンは悔しさに顔を歪ませて、玉の涙をながすマリーの手を引いて走りだした。


⌛︎⌛︎⌛︎


足元が遠く、遠く、遠くなっていく。

「ぐほっ……ぁ、ぁぁ、くそ、なことに、なった、なぁ……」

柄にもないことをしてしまった。
お気楽に、苦労せず、ひょうひょうと生きてきたはずなのに、冒険者なんかになったせいで、くだらない世話焼き心が育ってきてしままったのか。

地面をずりながら、爪先ひとつぶんだけでも、何とか死から離れようとする。

みっともねぇ、ダセェ、はやく死にてぇ。

どうして俺がこんな目に。

普段ならスキルをぶっ放して、あとはチカラ自慢のやつに活躍を譲ってやれば、それで全て解決、完璧な形でおさまると言うのに。

血のあとを残しながら、震える手を無理やりにでもあげ続け、気持ちとは裏腹に本能が1秒でも生存を諦めない。

俺はそういう人間だ。
生き汚くて、誇れることなど興味がない。

んなのに、どういうわけかなぁ。

「はぁ、はぁ、ぅ、痛ぇ」

グレイグ達から距離をとり、何とか木陰に身を隠すことができた。

緊張の糸がすこしだけ緩み、封印式が崩壊する。

同時、俺は自身の疑問の答えにたどりつく。

「ぁぁ、あの坊主達、か」

冒険者ギルドで、我が身ではなく、自分の考えを尊び、【英雄】の傲慢・愚かに立ち向かった少年たち。

暗い空気を「なんぼのもんじゃい!」と一蹴して、俺ですら揶揄するばかりで、まともに対処できなかったのに、ギルドの空気まで変えてみせた。

あぁ、あんな子供にほだされるなんてーー。

「そりゃ、焼きも回るってことだなぁ、いや、でも……悪くはない、気分だなぁ……」

「ゴルゥウ……」

ゆっくりと近づいてくる終わり。

俺はその瞬間に、みっともなく泣き叫ばないように、瞳をそっと、されど固く閉じ、口を手でおさえた。

最期くらい、格好良くしたって良い。

「…………」

……。

「…………」

……。

意識が朦朧もうろうとしてきた。
おい、赤いの。このままだと、勝手に死んじまうぜ。

「…………ん」

いつしか、気配の接近を感じられなくなっていたことに気づく。

おかしいな。

ーーサクサク、サクサク

かわりに遠くで聞こえる、雪を踏みわける足音。

「なんだ、赤い奴もいっぱいいるのか。絶滅した白いのに似てるが……うーん、崖下じゃ、メジャーな形状なのか……いや、でも、ちょっと大きいか?」

「ぁ、ぅ……」

独り言をつぶやく男の声も聞こえる。

どこかで聞いたことのあるような声だな。
妙に耳に馴染むのに、しばらく聴いてないような……。

「っ、」

そうか、冒険者が残っていたのか!
馬鹿野郎が!
逃げるのではなく、ビビって隠れることを選んだ結果、俺より先に見つかっちまったんだ!

「ゴルゥウ!」
「ゴラァアアッ!」
「グルゥアッ!」

胃が縮みあがる、おぞましい声。
まずい、殺される。

そして、次は俺の番ーー。

腹をくくり、いよいよ終わりをさとる、
そんな時、不思議な音が聞こえた。

ーーパチン

これは?
洞窟の奥深くで、鐘を打ったかのような……形容しがたい乾いた音が、爽快感すら与えてくれる。

若かった頃、まだ首都で若い娘のナンパに明け暮れていた日々、劇場で美しい演奏を一曲聴き終えたあと、たしかこんな気分になれたのを覚えている。

途絶える意識の隙間で、そのあとに爆音や、骨が砕け散る音、頑強な鱗が無慈悲にも粉砕される音を聞いたような、聞かなかったような気がしたが、もうどうでもいい。

今はただ、この気持ちに身をゆだねてーー。

「……気配が、消えた」

チャブチャブと、水溜りのうえを歩く足音のほか、すべての気配が消失している。

あの腹を空かせた唸り声はもう聞こえない。

一体、何が起こったんだ。

軋む骨、冷たさに焼ける肌の痛みに耐えて、せめてひと目だけでも、理解不能の状況を、明確にしようと、木陰からわずかに向こう側をのぞく。

「よし、とりあえず、回収回収。お前らは将来の金策に役立ってもらうからな」

俺を我が目を疑った。

血の池のうえで、無数の赫の獣のしかばねが転がっていることに。

呑気な独り言を喋り、数十体にもおよぶ巨大な獣を、指を鳴らしながら、ゴミ拾いの広いのボランティアでもするかのようにどこかに消し去っていく、その男に。

そして、その男の横顔に、見覚えがあったことにだ。

「嘘、だろ、……ま、くす……?」

その姿を見たのを最後に、俺は体力の限界を迎えて、意識を手放してしまう。

あと、もう1秒、もう一度だけ、その顔を見ようと懸命に踏ん張るが、ダメだった。

俺は困惑と疑問の海に、ゆっくりと沈んでいった。

ああ、マックス。
お前こんなところで何してんだよーー。


第二章 赫の獣 〜完〜

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