【完結】努力の怪物が指パッチンを極めたら世界最強に〜スキル【収納】の発動を指パッチンに″限定″したら無限の可能性が待っていた〜

ノベルバユーザー542862

第1話 捨てられた男


ーー新暦3055年 12月

体の芯まで凍りつく。
冷たい、つめたい、冬の水。
全身の熱が死に侵されてとけていく。
恐怖と寒さに震えながら、俺は川の流れにあらがえず、捨てられたゴミとなんら変わらず流される。

過ぎ去った遠い過去が脳裏にチラつく。
走馬灯か。ほんとうにあったんだなーー。


⌛︎⌛︎⌛︎


幼馴染マリーの声が聞こえてくる。

「マックス、マックス! ほら、順番が来たよ! 起きて起きて!」
「起きてるよ、もう。そんなに急かさなくても、みんなもらえるよ。僕はなんだっていいんだ」
「もう、マックスたら。そんなんじゃ、立派な冒険者として活躍できないわ! 将来は邪悪なドラゴンとか、魔の覇王を倒すって決めてるのにー!」

ぷんぷんご立腹なマリーが可愛い。
ただでさえ可愛いのに、そんな顔されたら、神殿に集まった、ほかの男子たちが恋に落ちてしまう。

クラスもスキルも関係ない。
そんな風にすかしているけど、僕だって本当はマリーと一緒に勇敢で誇りある冒険の旅に出かけたいと夢を見ている。

(どんな【クラス】と〔スキル〕が貰えるか、すごく楽しみだ!)

内心、とてもワクワクしてた。

神殿のなかで、″女神″様がやってくるのを待つ。

俺たちの国、ソフレト共和神聖国では子どもたちは10歳になると神殿へおもむき、そこで女神様から特別な贈り物をうけとる。

この『拝領はいりょうの儀』で受けとれる贈り物はふたつ。

その人がもっとも輝けるお役目【クラス】と、
女神様からの贈り物〔スキル〕だ。

マリーの番がきた。
とっても綺麗な女神様が近づいてくるなり、マリーは背筋をピンと伸ばし、練習してきたお辞儀をする。

女神様は優しく微笑んだ。

「……まあ! あなたはとても良い才能を持っているのですね! マリー・テイルワット。あなたのクラスは女神に仕えることを許されるほどの、特別なクラス【施しの聖女】、与えられるスキルも極めて貴重な〔錬成霊薬れんせいれいやく〕です。あなたは神に愛されています。『拝領の儀』のあとお話がありますから、残っていてくださいね♪」
「ぇ、聖女、様ですか、わたしが……?」

「すごい! あの可愛い子、聖女様になるだ!」
「凄いね! アルス村の子は凄いスキルばっかだ!」
「可愛くて、聖女様だなんて、もう勝ち目ないよ……!」

周囲の子どもたちから絶賛の嵐。

しかし、マリーは言い渡されたクラスに動揺して、僕の方をむいてくる。
小声で「こんなの、絶対戦えないわ……!」と悲しそうな顔で言ってきた。
僕はこう返した。「仕方ないから、僕が君を守る、よ……」と。僕が絶対戦士っぽいクラスをひく!

女神様が目の前にくる。

「……ぁぁ、あなたは、そうですね、これも重要なお役目です」

女神様が何かを察したように、やや投げやりに、口早になった。

「クラスは【運び屋】、スキルは〔収納しゅうのう〕。将来は、おのずと見えてくるでしょう……ふ」

最後にちょっと笑われて、僕の『拝領の儀』はおわる。
マリーとは時間の掛けられたかたが、えらく違うじゃないか。

不思議と目の奥から、何かが込みあげてきた。

「ぅぅ、何も、期待なんか、してなかったし! なんでも、なんでもよかった、し……ぅぅ」

(なんだよ、なんなんだよ、【運び屋】って……!)

「あっはは! あいつ【運び屋】で、〔収納しゅうのう〕って、もう荷物持ち確定じゃんー!」
「あの子、かわいそうだねー!」
「あははは、アルス村の子なのに、全然すごくなーい!」

嘲笑とあざけりが響く神殿が、羨望せんぼうした聖地から一転して、今すぐに去りたい忌む地獄にかわる。

「ぐすん、ぅぅ、泣かないで、マックス! わたしたち、2人で頑張ろう……! 2人なら、だいじょうぶ、2人なら、絶対に平気だよ……!」

「マリー……、僕が、僕が守る、よ……ぅぅ、ぅ」

頭をなでてくれるマリーの胸をかりて、僕は見てくれなど考えず、悲しみの池に沈んでいった。


⌛︎⌛︎⌛︎


冷たい。冷たい水が死ぬ俺に起きろと伝える。

まだ、死なせてくれないのか。

「ぶはぁ!」

死に体で全力のひとかき。
無様に水面に口をちかづけ一呼吸。

冷たい激流は容赦なく、これは俺の葬式だ。

意識が遠のく、数分前の人生の急落へとーー。


⌛︎⌛︎⌛︎


俺たちが活動する街ジークタリアスは、通称『崖の都市』と呼ばれるほど、断崖絶壁を兼ね備えた街だ。

吹きぬける風が、背筋を硬くする、夜の冒険者ギルド裏手で、俺は自分との問答をつづけていた。

こいつの言う通りなのか……。
客観的に見れば、俺は、もうーー。

「何度も言わせんな。もうわかってるだろうが。マクスウェル・ダークエコーじゃ、あきらかに、決定的に、致命的に、救いようがなく、真の英雄である俺たちとは不釣り合いだ」

黒色の大剣を背負うたくましい青年が、面倒くさそうに俺の肩をおす。

紅瞳の彼の名前はアイン・ブリーチ。
ひと世代にひとりしか現れないという伝説のスキル、〔魔剣まけん〕のにして、俺の所属する冒険者パーティ『英雄クラン』のリーダーだ。

「マックス、ここはおとなしく引いておけ。アインはどんな手を使っても、お前を排除する用意がある」

アインの背後、崖側のベンチに座するのは、これまた見事な大業物の刀を抜身でもち、ちらつかせる二枚目の青年。

蒼瞳の彼の名前はオーウェン。
俺やマリーとは同郷、さらにこの世代に現れたもうひとりのスキル〔魔剣まけん〕の保有者だ。

俺のいた「英雄クラン」には、世代を代表する実力者が集まりすぎていた。
俺と彼らとーーそして、マリーとの間には、足元に見える断崖より、決定的な差があるのだ。

「125、122、82、そして、12。これ何の数字がわかるよな?」

アインは背中の大剣を軽くぬいて、地面の芝生に突きたてる。

俺は答える。

「俺たちの、レベル……」

様々な経験を通して人は成長する。
こと戦いは、人の成長をうながすのに適してる。
これらの経験は、ギルドで視覚化され、経験はチカラとなりソフレトの戦士たちには『レベル』が与えられる。

これは個人の強さを簡単に示す指標であり、基礎能力値はレベルの上昇にともなってあがる。

レベルが15開いたなら、もう生物が違う。

これはこの国に生きる者にとっては、当たり前すぎる常識だ。

「レベルだけじゃない。クラスも、スキルも、全てが俺たちとお前の住む世界を分けてる。逆に問いたいんだが、今まで『英雄クラン』にいて恥ずかしくなかったのか? 『パーティに荷物持ちは1人は必要だ』ーーーそんなのどこのビギナー冒険者の話だよ。お前もマリーもずっとそんなこと言ってきた。だけどさ、マックス、お前が一番よくわかってるんだろ?」
「俺は、俺はマリーを……まも……」

言葉が続かない。
絶望的な現実が、俺にさきを語らせない。

「ぅぅ、ぁぁ、待て、頼むから、まだまだ、俺は強くなれるんだ……ッ! 必ず、必ず、強くなってやるから! このパーティにふさわしい戦士にーー」
「よく独力で12レベルまで成長したとも思う。すごいよ、褒めてやる。ーーーーで、それがどうしたんだよ? 例え、お前なんかがこのアイン・ブリーチと同じ125レベまでたどり着いて、何になる。お前はどこまでいっても【運び屋】に変わりはない。【英雄】にはおろか、【求道者】のオーウェンに敵うはずもない。いや、むしろ平凡クラス【剣士】【戦士】あたりでも、同レベなら絶対に勝てない」

アインは大剣をその場に突き刺して、ゆっくりと歩きよってくる。

「マリーはこっちを選んだ。お前はいらないってさ」

耳元でささやくアインの声。

「待てよ、それ、どういう……」

俺の胸に押しつけられる一枚の紙。
それは、パーティ内投票で除名処分を行うために使われる書類だった。

「ッ、ぁ、嘘だろ……除名者、マクスウェル・ダークエコー……同意者、3人……」

アインとオーウェンはもちろん、マリーの筆跡で確かに署名されている。

俺は、俺は、もういらないーーーー。

「荷物持ちご苦労さん。マリーもお前の顔なんか、もう見たくないだろうよ」
「っ!?」

アインの平手ひと押しで、俺の体はふわりと浮いた。

内臓が浮き、つま先から死神が這い上がってくる。

「達者でな、マックス」
「また会おう」

崖上から見下ろしてくる、アインとオーウェン。


俺はただ落ちていく。


落ちていく。


落ちていく。


不思議と彼らの行為に対する怒りはなかった。
当然の結末と受け入れてしまったか。

湧く、どうしようもない悔しさ。
どこに、ぶつければいいか分からない癇癪かんしゃく

それらを発散する術を、知ることなく俺の意識は断絶した。

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コメント

  • 抹茶ラテ!

    普通に面白い!
    こうゆうの好き✨

    0
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