【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第70話 陥落


「バカなことを。戦略核兵器に匹敵するエネルギーだぞ?」
「伝説の英雄マクスウェルの〔収納しゅうのう〕とは、彼″個人が保有″する世界の名前だ。彼はそこで神であり、その世界の広さは本人ですら把握してないという」

俺は海底でのマクスウェルとの邂逅を思いだす。

あの人は俺にチカラを貸してくれた。
それはきっと、俺が忘れていたからだ。

本来なら使える『十界ノ祝福』

女神に用意された10個の強力なスキル。

ただしく記憶を取り戻していれば、俺はそのすべてを使い、詳細な目的を達成するためアルカディアに侵入するはずだった。

ガアドの期待を背負って……。

「父さん、ごめんなさい」

俺の父親ガアド・メンデレー。
ゼロによってマリシアを殺され、失意のまま生きながらえた。港での一件以来、俺も死んだと思っていたのだろう。

「終焉者、目つきが変わったな」
「ようやく終焉者がアルカディアにたどり着いたんだ、深海都市の王よ」

身体をまっすぐむける。

俺は自分の体に満ちあふれる巨大なうねりを感じていた。

「なんて覇気だ、俺に生存を諦めさせようというのか…?」

氷室はあとずさり、冷や汗をうかへる。

震える足で彼は「冗談じゃない」とささやき、あたりの氷に命令をだして、全方位から氷柱をくりだしてきた。

俺は指を擦りあわせる。

ポケット空間におさめて置いた圧倒的な熱エネルギーの一部が解放されて、港の氷の多くを溶かした。

氷室は俺の放熱をつかって、全身を焦がすほどに炎を手元にあつめることで火球をつくりだし、こちらへむけて放ってくる。

手で鷲掴みして、投げかえす。

「な──?!」

神速で投じた火球に氷室は反応が間に合わない。おおきく吹っ飛ばして、NEW HORIZON斜塔から港へとたたき落とした。

俺は自分の手を見下ろす。
信じられないパワーだ。
万物を掌握したような気さえする。

「女神がチューニングした人間の力か」

個人の努力でたどり着くには難しい領域だろう。

しかし、より大事なこと──アルカディアで為すべき使命そのものが思い出せない。

俺は頭をおさえる。

ダメだ。
ノイズのようなモノが走って、あの記憶の続きを見ることはできない。

「とにかく……今は氷室を殺す…それで、それで……」

いいや、違う。
少し思いだした。
俺のミッションは殺してはいけない。

アルカディアのリーダーの捕獲だ。

「ぅ、ぐふ、ぅぁ……っ」

地面のうえで片膝をつく氷室のもとへ、俺はひとっ飛びして近づいた。

彼は恨めしそうに見上げてくる。

「アルカディアの王、お前を捕獲する」
「なっ──」

スキル発動〔心界碩学しんかいせきがく

錆びついてしまった禁忌的能力をつかうと、俺の手のひらは淡く灰色にひかった。

その手で氷室の魂と形容するべきモノを鷲掴みにして、肉体から引きぬいた。

ポケット空間にしまう。

氷室の肉体はピタリと糸の切れた人形のように動かなくなる。

一応、この体も魂とは別のポケット空間にしまっておく。

「……」

俺は凍りついた潜水艇を見つめた。
もう誰も生きてはいないだろう。
ほかのリーダー達を捕まえにいくことにした。


────────────
───────────


──3時間後

俺はアルカディアを陥落させた。

ウォルター・ブリティッシュ。
パシフィック・ディザステンタ。

このふたりのリーダーは海底都市のどこにも見当たらず、発見する事は出来なかった。

都市から逃走したものだと思われた。

残っていたおのおの私兵部隊は片付けたので、これでこの都市の戦力は民間のもの以外、残されてはいない。

「終わった、全部」

使命はおわり。
命の意味も消失した。

「……」

ため息をつき、かつてを懐かしむ。
涙すらこみ上げてきそうだった。

目に見えるすべてが、自分の生まれ故郷であり、壊した結果。そこに哀愁を感じてしまうなんておかしなものだ。

そうなんだ。

8年ぶりに故郷に帰ってきたのに、俺がやってることは破壊と崩壊の水先案内人。

悪いとは思わない。
悪いなんて思考できない。

そもそも、なにが良い事なのか、どうなのか判断するための記憶はいまど足りない。

本当にやりたい事は、なんだ。

港の適当なベンチに腰掛けて、ステータスチェッカーをとりだす。

情報からなにか思い出せるかもしれない。

──ピッ

エイト・M・メンデレー
性別:男性 クラス:【終焉者】
スキル:〔電界碩学〕〔熱界碩学〕
〔時界碩学〕〔生界碩学〕〔光界碩学〕
〔空界碩学〕〔死界碩学〕〔動界碩学〕
〔深界碩学〕〔心界碩学〕〔技能奪取〕
〔技能分譲〕〔借り物〕〔収納Ⅱ〕〔増強〕
〔筋肉硬化Ⅴ〕〔骨鋲〕〔女神恩寵〕
〔超再生V〕〔精神力V〕
ステータス:変異 V
耐性:氷結
レベル234(St200+EX34)
体力 800,539
持久 1,014,063
頑丈 839,031
筋力 1,001,713
技術 1,141,079
精神 1,739,710

ステータスを眺めても大した事は思い出せなかった。

そのに羅列された超常のスキルと数字の大きさは、すべてが『終焉者』のものであり、エイト・M・メンデレーのものではない。

漠然とした自己矛盾だけがあった。

「…………ラナ」

自分がすべきこと。
考えたときに最初に思い浮かんだのは、彼女の名前だった。

港をフラフラ駆けだして、潜水艇のもとへむかった。

氷室の氷によって潜水艇ごと閉じ込められていた。

俺は熱を放射して潜水艇を解放する。

扉を力尽くで引き剥がすと、凍りついた船内の様子が見てとれた。

俺はすべてを失ったのだと悟った。

アホみたいだ。
俺は結局、なにがしたかったんだ。

終焉者ではない。
そうさんざん否定して置いて、ようやく記憶を思い出したとたんに使命を遂行する?

エイトの目的はどうした。
ラナといっしょに地上へ帰るんだろ?

最強のチカラ。
そんなものは虚しいだけだ。

(ぐぎぃ)

「っ、グランドマザー」

俺は凍りついて補強された耐圧ガラスの向こう側に、おおきな蠢く影をみつけた。

思念で話しかけてくる。

(ぐぎぃ)

「まだ生きてる?」

(ぐぎぃ)

「こうなる気がしたから保護魔術を掛けておいた?」

「ぐぎぃぃいいいいいいィイ!」

耐圧ガラスと氷の補強材が、咆哮だけで軒並み割れていく。

俺は複合スキルのなにかを、意図せずとも発動させて、付近の深海の水すべてに指令をだして息のできる空間を確保した。

グランドマザーは節足を器用に動かして潜水艇をもちあげる。

「ぁ、この絵面」

神殿都市から帰ってきたとき、ちょうどグランドマザーにこんな持ち方をされた。

もしかして、あの時に神秘の術を?

「ぐぎぃぃいいいいいいィイ!」

グランドマザーが叫ぶと潜水艇がぴかっと光をはなった。

船体を地上におろす。

「な、なな、なに? なんか今すごいピカってしたけど」

ハッチを開けてちいさなラナが飛び出してくる。

俺は膝から崩れ落ちた。

よかった。
本当に、本当によかった。

「あ、パパ、エイト様が放心してますよ」
「ぐぎぃ」

キングにまたがったファリアも出てくる。

「今の光ですこし混乱しているが……どうやら、氷室阿賀斗を倒せたようだな」

ガアドはあたりの惨状を見渡して「こりゃ凄い」と言いながらやってくる。

「どうした、エイト」
「……ぁ、いえ、なんでもないです」

思わず敬語で対応してしまう。

ガアドはいぶかしむ表情をしたが、特になにか突っ込まれることはなかった。

グランドマザーを見あげる。

(ぐぎぃ)

すこし時間を潰しておけ、と言われた。

向こうは向こうでやる事があるようだ。

グランドマザーが体の向きをかえてどこかへいってしまう。

「エイト、すごいわ、アルカディア最強の超能力者を倒しちゃうなんて。つまり、エイトがアルカディア最強って事じゃない」

ラナが大変嬉しそうに腰に抱きついてきた。
キラキラした瞳で見上げてきて、誇らしそうにしてくれている。

この笑顔を守らねば。

「ラナ、すこし……話をしないか」
「ん? いいけど、改まってどうしたのよ」
「いや、その、俺と出会った時のことを聞きたいんだよ」

俺はそれだけ言って、ラナと手を繋いで潜水艇からすこし離れることにした。

「浜辺でエイトを見つけたときのこと? うーん、以前話した通りだと思うけど」

ラナが語ってくれたのは、これまでと遜色のない俺と彼女との不思議な出会いについてだ。

ある日、浜辺に打ち上げられていた俺を、たまたま裏口から遊びにきていたラナが見つけた。

俺たちはいっしょに大きくなり、2年の月日をともにしたあと、里親に引き取られた。

そうだ。
里親……俺は、里親の顔を……。

覚えていない。

曖昧な記憶がフタをして、いままで意識を向けることすらできなかったが間違いない。

俺は里親など知らない。

ラナの家から里親にひきとられ、そして再び『拝領の儀』でラナと再会するまでの期間
、俺の記憶はほとんどない。

きっと、その時間の間に、何かがあったんだろう。

浜にうち上げられていたのは、きっと奇跡に違いない。

酸素街の港で潜水艇ごと爆破された俺は、なにかの偶然で浜までたどり着いた──。

「いや、そんなことありえるのか……?」

ランチャーの威力を考えれば即死もある。
なのに、8,000mの深海から浜辺にたどり着いただと?

……。

かろうじて思いだせる事はある。

暗い海を登っていくだけの欠けた記憶。
なにか硬くて大きな背中に乗って……。

なんとなく、それが母親との古い記憶のような気はする。

母さんが守ってくれたのか?

「エイト、大丈夫? すごく顔色が悪いけど……」

ラナはちいさな白い手で、俺の手を握ってくれる。
やわらかな温かさが今の俺にとっては、なによりも嬉しい。

このぬくもりが俺の証明だ。
記憶がなくても、エイトは存在する。
それだけわかればいい。

「ラナ」
「なーに?」
「好きだ」
「…………ふぇ?! なによ、いきなり!」
「もう勿体ぶるのやめようと思って。好きなんだ、君のこと」

思わず手に頬をスリスリしながら本音が漏らす。

対等な相棒スタンスが、こちらから告白などしたら崩れてしまう。

けど、もうどうでもいい。
曖昧な俺のそばに彼女さえいれば、俺は俺でいられるんだ。

「ふ、ふーん! そう? わたしのこと好き? 好きかー。なら仕方ないわー」

満面の笑みで薄い胸をはるラナ殿。
嬉しそうにしてらっしゃる。

「エイトがそんなに、す、すす、好きだって言うなら結婚を前提にお付き合いからはじめてもいいわ。ええ、そうしましょう。まあ、相棒という関係は壊れちゃうけど、これは仕方のないことよね!」
「ラナ。俺と付き合ってほしい。君を永久に大切にする。どんな困難も君と乗り越える。相棒以上の関係になってくれ」
「ふぁあ!?」

ラナの顔が朱に染まる。
頬は高揚して、湯気すら出そうだ。

これは俺にもわかる。
照れているんだな。

「恥ずかしがってる?」
「ッ、な、なにその挑戦的な質問は! エイト、忘れてないわよね、わたしの方が5歳も歳上なのよ!」

と、身長150cmのちみっこは両手を振りあげて猛抗議だ。
頭を撫で撫でしてやると「はぅん…」と喉を鳴らして、気持ちよさそうにおでこを擦りつけてきた。

どうやら、肉体年齢的アドバンテージがあることをお忘れのようだ。ふ。

俺はラナを抱っこして潜水艇へ戻ることにした。

だいぶ話しこんでしまったが、3人はどうしてるだろうか。

「エイト、すこし話がある。ふたりきりで」
「ちょっとちょっと、わたしのエイトよ。声かけるならわたしを通してくれる?」

戻ってくるなり声をかけてきたガアドは「なんかあったな?」とラナの浮かれた態度を見て耳打ちしてくる。

まさか告白したなんて、実父に言いたくないので、俺は「なにもないです」とだけかえした。

「ラナはファリアと遊んで待っててくれ」
「扱いが6歳児なのよ! 身体は12歳、精神は21歳なんだからね!」
「はーい、ラナちゃんはファリアと遊びましょうね! 一段落したので特別に尻尾さわらせてあげますよ〜!」

ファリアの人魚化した下半身に、ラナは目をキラキラさせて「さわるー!」と駆けていった。

ガアドとともにNEW HORIZONの近くまで歩いてきた。

高々とそびえ立つ斜めった潜水艦は、これが船であることを忘れさせる大きさだ。

「なかにはまだ乗員が多く残ってるだろう。壊すにしても奴らを逃してからにしたほうがいい」
「どうして?」
「侵略者の命なんざ知ったこっちゃないだろうが、あまりむやみやたらと人を殺すものじゃない」

ガアドは煙草を口にくわえる。

「ん、ライターを落としたかな」
「……火、使いますか?」

俺は指先に熱エネルギーを収束させて、赤い炎を発火させる。

ガアドは驚いたような顔をして「助かる」と煙草の炎をもらった。

ヂィっとくわえた先が赤く灯る。

「はあ。仕事を終えたあとの一服は格別だ」
「……」
「安心しろ、コカスモークじゃない。ただの煙草だ」
「……」
「……。なんか言ったらどうだ。エイト」
「言うって、なにを」
「いろいろ、聞きたいことがあるんじゃないのか。終焉者とか、母親とか、父親とか」

ガアドは遠くを見ながらそう言った。

          

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