【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第41話 追跡者たち


準備が終わった俺たちは、倉庫エリアから街の中央へ移動してきていた。

「わあ、見て見て! でっかい猫ちゃん!」
「本当だね、すごく立派な猫だ」
「にゃごん(ぐぎぃ)」

キングを引き連れて、人通りの多い街中歩いてみたが、見たところキングの正体に気がついている者はいない。みんな注目してくるが、それはデカいアルゴンスタを連れているからではなく、デカい猫を連れている事によるものだ。
『カモフラージュ』凄まじい効果である。

「ねえねえ、お姉ちゃん、この猫触っていい?」
「ダメですよ〜この猫ちゃんは触ると呪いにかかる事で有名なんですからね!」

ファリアは可愛く脅して、興味津々な子供たちを追っ払う。
子供たちはケラケラ笑い「逃げろー!」と言って走り去っていった。

「平和な街だな。ここは」
「『水道管理区』とは大違いだよ。みんな笑顔だし、落伍者がいるようには見えないよ」

ラナは子供達の背中を見送って、ガアドに問いかける。

「『統括港都市』は氷室阿賀斗のお膝元だ。シャドーストリートになるのは最後だろう」
「シャドーストリート……そういえば、酒場の男たちもそんな事言ってたな」

俺がアルカディアにやって来た時、そうそうに撃ち殺そうとして来た男たちを思い出す。

「アルカディアでは一般に落伍者が住民の半数を越えた街をシャドーストリートと呼ぶ。都市機能が死んだ街だ。現在、完全にシャドーストリートと化しているのは『酸素街』と『植物園』『水道管理区』だ」
「それじゃ、逆に生きてる街は?」
「ここ『統括港都市』『中央発電区』だな」
「2つだけ……」
「最初に言っただろう。アルカディアは死にゆく街だ。『終焉者』が手を下さずとも、近いうちに崩壊する。生きている都市にいる連中は、その現実から目を背けて今を謳歌しているに過ぎない」

ガアドは、楽しげに笑い屋台のまえでいっしょにドーナッツを食べる親子を、冷たい眼差しで見つめていた。
アルカディア。死にゆく街。臭い物に蓋をし続けて、今だけを生きる。その先に待つものは破滅だけ。……ガアドは怒っているのだろうか。彼も海底都市の一員なはずだ。
娘の救出と引き換えに、俺たちを海底都市から逃してくれるという話だったが、もしかしたら、その事に戸惑いを感じているのではないだろうか。

俺はガアドの横顔を盗み見る。
この男……最後の最後、土壇場で裏切るかもしれない。娘ファリアは、もう奴隷の身から解放されている。アルカディア全体を敵に回してまで、俺たちを最後まで支援してくれる理由がない。

「……」
「どうした、エイト。眉間にしわが寄ってるぞ」
「そうか? そういうあんたこそ、険しい顔をしてるが」

ガアドはこちらへ振り向いてくる。
何を考えているのか、わからない目だった。
ただ、その目は──。
冷たいようで、とても優しかった。

「『終焉者』がいなくても、この街は崩壊する。いいな。これは確実だ。避けられない未来。それゆえに『終焉者』は必要ない」

ガアドは繰り返して言う。
俺の目を見つめて。
俺は眉根をひそめる。

「まあ、そういう事だ。エイト、行くぞ。そうそうにアルカディアから脱出するのだろう」
「もちろん」

ガアドの背中を追って歩きだす。

ファリアは「エイト様が地上にいくなら、ファリアもお供します!」と頭を擦りつけようとしてくる。当然、こわーい顔したラナに止められ、ガアドも眉をピクリと動かした。が、特段何か言ってくることは無かった。

いや、それはまったく別の事を気にしていたのかもしれないが──。

──しばらく後

賑やか、かつ平和な街を進む俺たちは、ガアドの案内で、怪しげな雰囲気の路地にはいった。
路地を進んで扉に入ると、その先には大勢の男たちが騒ぎ立てる、むさ苦しい空間となっていた。
一見して、冒険者ギルドの夜の酒場を思いだす。喧嘩がたえず、酒瓶で誰かが殴られたら、それが喧嘩パーティの始まりの合図だ。我らが番長ラナが、他の都市から来た身の程知らずな喧嘩屋を、のめすのが恒例行事であったか。

「で、ガアド、こんな場所に何しに来たわけ」

ラナは棘のある言葉でいった。
レディとしてこういう場所は好まないのか。
ただ、声は心なしかわくわくしている。
もしかしたら、冒険者としての日々を思い出しているのかもしれない。

「ラナ君、私たちの目的は氷室阿賀斗が所有する、特別な潜水艇の奪取だ。だが、当然のようにそこいらの港に、その潜水艇が置いてあるわけじゃない。わかるね?」
「それじゃ、どこにあるんだ?」
「謎だ」
「「…………」」

ガアドの自信たっぷりの「謎だ」に、俺もラナも口を開けてほうける。
キングは「あんまり舐めてると、その奥歯ガタガタ言わせて一曲弾くぞ」と喧嘩腰になる始末だ。ステイ。ステイ。

「まあ、待て、お前たち。だから、まずは潜水艇の場所を教えてもらう」
「誰にだよ」
「トーナメントを仕切るオーナーだ。氷室グループの幹部でな、そいつを尋問すれば有力な情報が聞き出せるはずだ」
「なるほど。それじゃさっそく、殴り込みをかけると──」
「違う。やめろ。ここは『統括港都市』だ。氷室は『終焉者』が自分を殺しにくると思っているだろうから、きっとこの街に戦力を集めている。下手したら、もうこの拳闘会場にも『ハンターズ』の刺客がいるかもしれん。うかつに暴力に訴えるのは賢明じゃない、エイト」

ガアドは指をたてて注意をうながす。
ついでに、俺の隣で魔槍を召喚仕掛けていたラナにも、厳重注意の視線をむけた。
俺とラナは肩をすくめて「で、どうすんの?」とハモりながら問う。
ガアドは薄く笑い、親指でむさ苦しい男たちの、さらに奥にある掲示板を指差す。
そこには「拳闘トーナメント受付」と書かれている紙が貼ってあった。

「あれに出て優勝してこい。およそ活躍した選手には、オーナー側から接触があるはずだからな」

ガアドは笑い、俺とラナの肩に手を置く。

「拳闘トーナメント受付をまもなく締め切ります! 参加する方は急いでくださーい!」

俺はラナのために男たちをかき分けて、受付へとむかった。


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──追跡者の視点

黒いコートに身を包んだ集団がいる。
港近くに立ち並ぶ倉庫エリアを、堂々と歩き、倉庫の管理者に聞き込みをしているようだ。

「怖ぇな…ありゃ、関わらない方がいい」
「ハンターズが終焉者を倒すために動いてるって本当だったんだ」

漁関係者たちは、遠巻きにハンターズの姿を見て、出来るだけ関わらないようにしている。これはアルカディア市民の共通のスタンスだった。なぜなら、ハンターズと聞けば悪い噂が絶えない危険な集団だからである。

そんな怖がられるハンターズ達のうち、遠巻きに自分たちを眺める漁関係者を見て、肩をすくめる男がいる。
男はコートをひるがえし、部下を引き連れて、倉庫の中へと足を踏み入れた。中には仲間たちが数名、現場を調べていた。
彼らは男が倉庫に入ってくるなり、行っていた作業を中断して、彼へと向き直る。
男は顔をあげた。顔には深い傷があり、目は厳しく、長い闘争のなかに身を置いてきた人間特有のオーラをもっている。

「少佐、紫色の粉。ここで『カモフラージュ』を使ったようです」
「ナノマシンの区間移動の記録を調べたところ、最後にここを示していたようです」

部下たちは次々と傷のある男に報告をはじめた。一通りの報告を聞き終えて、傷のある男は、しゃがみ込み、倉庫の端に捨てられた注射器を拾いあげる。

「ナノマシンを無力化したか。……専用の技術者がいたはずだ。この注射器から叛逆市民は特定できたな」
「はい。こちらに」

傷のある男は、部下の案内で、倉庫の奥、椅子に縛りつけられた男に近寄る。その男は恐怖に涙を流し、ズボンの股をぐっしょりと濡らしていた。
傷のある男は、彼の口を塞いでいたガムテープをはがす。

「本当に…っ、本当にっ、何も知らないんだ……! 俺は、俺は何も知らない…!」
「誰にあの注射器を売った」
「お願いです……、何も知らないんです…!」
「何度も聞かない。生きるか死ぬか。お前が選べ」
「ぅぅ、知らないんだ……、本当に、なにも…なにも、知らないのに…っ」

憐れな男は泣きじゃくり、傷のある男の質問に対して首を横に振るだけだ。

「この男、『カモフラージュ』の応用操作で記憶を飛ばされているようです」
「『カモフラージュ』? ああ、確かそんな事もできたか…。忘却効果。相当な使い手だな。こんなマネができる奴はアルカディア中を探してもそう何人もいない。となれば……」

傷のある男は遠い記憶を遡るように、頭に手を当て思案げにする。しばらくの沈黙。すぐのち、すすり泣く男の声だけが響くなか、傷のある男は顔をあげ、背を向けて倉庫入り口へ歩き出した。

「ま、待ってくれ! 俺は、俺はどうすれば……!」

泣きじゃくる男は呼びかける。
だが、傷のある男が特段何か指示することはなかった。
ハンターズは、それが彼の意思だと理解していた。
黒コートの一人は、腰に剣のように差してあった小銃を抜いて、片手で泣きじゃくる男の頭に銃口を突きつける。

「ヒィ……っ、ま、待ってくだ、俺は、ほんとうに、何も──」

火薬と撃鉄の音。香る煙。
反響する銃声に声はかき消された。

「捜索範囲を拡大する。市街地を中心に探せ」

傷のある男は、倉庫エリアからハンターズを移動させはじめた。黒コートの者たちは迅速に指示に従い倉庫から出ていく。

「何を考えている、ガアド」

傷のある男は、遙か高い天井を見上げて、かつての知り合いの名前を呼んだ。










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