【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する
第33話 変質した表層神秘
ファリアを連れてカジノの外へ出る。
『液体金属』が近くにある反応がしたので、俺は近くの倉庫を探してラナと合流した。
「あ、ファリアちゃん、助けられたんだ!」
ラナはさっそく、俺の後ろに控えるファリアの手を握って嬉しそうに笑った。
ファリアはやや困惑していたようだが、すぐに打ち解けてくれた。
奴隷としてオークションに出される時に面識があったようだ。
「よかったよかった、心残りだったんだよね、ファリアちゃんのこと」
「えへへ、ラナちゃんも無事なようで良かったです!」
「まあね、わたしのエイトは優秀だから!」
ラナは胸を張って俺の肩に手をまわしてくる。
「む」
ファリアは何やら喉を鳴らし、瞳から光を無くして俺の顔を見てきた。
「エイトさん、いえ、エイト様は、ファリアの事を助けに来てくれたわですよね」
「……うん、そうだけど…」
「オークション会場でファリアにウィンクしてくれましたもんね。ほら、こうやって格好良く」
ファリアはバチコンっとまぶたを閉じて魅惑的なウィンクを飛ばしてくる。
すると、なぜかラナの俺の肩に回す腕の力が強まった。
「エイトはわたしの相棒。ね?」
「う、うん、そりゃ…」
「ちょっと、顔似てるからって乗り換えたりしない固い絆で結ばれた相棒。ね?」
ラナの目が怖かった。
これは怒ってらっしゃる。
あかんて。ラナさん、違うんだよ。
「ちょっと、ラナちゃん、近くない? ファリアのエイト様ですよ?」
ファリアはラナと反対側から、俺に腕を絡ませて薄い胸を押しつけてくる。なんという天国だ。これぞ両手に花という奴なのでは?
「エイト、なにニヤけてるの?」
「ぁ、にやけてないです。本当に。……………すみませんニヤけましたラナさん」
「裏切り者!」
腕をすっごいつねられ、幸せ気分から現実に引き戻された。
うぅ、綺麗な花にはトゲがあるってか。
「ん、スマホが振動してるますよ、エイト様!」
電話に出るとガアドの声が聞こえてきた。
「さっきの警報、説明してもらおうか?」
何やら『地上のアナザー』の脱走を受けて、ガアドは俺がした事に勘づいたらしい。
俺はオークション会場で知り合いを見つけて、それを助けるために小峰マクレインを殺害したことを伝えた。
「やはりそうか……」
「すまなかった。トラブルは俺としても起こしたくなかったが、でも、どうしても助けないといけなくて…」
「…………お前の大切な人だったのか?」
ガアドの確認するような重たい声。
俺はかたわらで見守ってくるラナへ視線を向けて「ああ」と一言だけ返した。
ガアドは納得したように「わかった」と返してくる。
「ガアド、悪いニュースばかりじゃない。あんたの娘を助け出すことに成功したぞ」
「っ、本当か?」
俺は隣でわくわくしてるファリアにスマホを渡した。
彼女はひったくるようにスマホを受け取ると楽しそうに父親に報告し始めた。
俺とラナはそれを隣で見守る。
「この子をガアドのもとに届ければ、あとはウォルターを倒して、返すもの返してもらって、それで海底の冒険もおしまいかぁー」
「気が早いんじゃないか、ラナ。まだ、何があるかわからないじゃん」
「そう? さっきのカジノでのエイトの強さ見てたら、もう何も恐くないんじゃない?」
「見てたのか」
「入り口からね。ドカン、バコンって凄い音してたよ。今のステータスがどんくらい上がってるのか楽しみだよ」
「あとで確認してみようか」
「賛成!」
俺とラナがおしゃべりしていると、ファリアが父親への安心メッセージを終えた。
俺はスマホを受け取り、電話を代わる。
と、その時、
──ヂリ
「っ、」
通信が繋がった雑音が放送から聞こえた。
何かが始まると思い、俺は身を固める。
聞こえはじめた放送の声は俺やラナにも理解できる言葉に翻訳されていた。
「こんにちは、アルカディアに侵入した異世界の羽虫くん。知っているぞ、お前はこの海底都市を破壊するために、このパシフィック・ディザステンタを殺しにきたのだろう?」
俺たちに話しかける放送だった。
否、俺というべきか。
「だが、そうはさせない、羽虫よ。我々は決して負けないのだよ。なあ、アルカディア市民の諸君、鋼とエネルギーの科学文明を知らぬ猿に、アルカディアの力を思い知らせてやろうじゃないか、ええ? お前が何を企んでいるのはわかってるのだ『終焉者』。我々は戦う。勝つのは我々だ。恐れたか? だが、もう遅い。どこへ逃げようとも、追い詰めて潰してやる、ははははっ、ははははは!」
パシフィック・ディザステンタの放送は高笑いの途中でブチリッと切断された。
何か盛大な勘違いをされてるな。
俺たちはただアルカディアから出たいだけなのに。なんだよ、『終焉者』って。
「エイト、今の放送のことは気にするな。さっさとこちらへ戻ってこい。脱出のための準備を整えながら待っているぞ」
ガアドはそう言って通話を切断した。
──しばらく後
俺たちはは『中央発電区』をあとにして『水道管理区』に戻って来ていた。
「ぅあああ、ぁ、ァア」
近づいて来た落伍者を止めて、ぶん殴って気絶させる。
「ひゃーハハハハッララダァ!」
「2人とも伏せろ!」
連射式の銃を乱射する遠巻きの落伍者から、俺は2人を抱えて物陰に隠れた。
隙間から『液体金属』を飛ばして、薄く伸ばした膜を使って、落伍者の首を斬り飛ばして絶命させた。
「その武器凄いね、そんな使い方できるんだ、エイト」
「たくさん練習したからな。集中力使うけど物の切断くらいなら余裕かな」
ラナの称賛に鼻を鳴らして立ちあがる。
「あれ? なんかこれ止まってないですか?」
「ん?」
ファリアが空中で静止している弾丸を指差していた。
その弾丸はわずかに振動しており、くるくると音を立てて回転しているのがわかる。
俺はその弾丸を止めている働きに連動して、自分の『液体金属』を操るときの感覚が刺激を受けていることに気がつく。
「俺が銃の弾丸を止めてるのか……」
「わお! もしかして、エイト様って遠隔念動力も使える超能力者なんですか!?」
「ん、いや、俺は超能力者じゃないぞ?」
思えば、ファリアには俺の正体を話していなかったな。
俺はファリアに自分は海底人類では無いことを教えた。
ファリアはえらく驚いて「地上から来たんですか?!」と目を輝かせて聞いて来る。
うなずくとファリアは夢見心地のような顔で胸の前で手を組んで「いいなぁ、いいなぁ♪」と一人頬を染めて楽しそうにしはじめた。
「あ、すみません! 勝手に妄想に入っちゃいました。その力の事でしたね!」
俺はサイキから聞いた『磁力』なる概念について、ファリアから簡単に教えてもらった。
「磁界と電流、か。……ファリアって頭良いんだな」
めちゃくちゃ難しい学問的な言葉を並べるファリアに俺もラナも感心していた。
「アルカディアじゃ、15歳以上の市民全員が何らかの学位を持ってるんですよ。『ここで芸術と科学が新しく生まれる。我々は上位世界の偉大なる一員なのだ』ってパシフィック・ディザステンタはよく演説するんです」
「芸術と科学、ねぇ…」
話半分に聞きながら、俺の〔そよ風〕の正体を確かめるように、空中で止まっている弾丸の方向を変えて遊ぶ。
「パパは理学博士だから、パパに聞けばもっと何かわかるかもしれないですよ!」
「確かに、ガアドは頭が良さそうだ」
スキルの正体を突き止めるため。
また、何よりファリアを無事に届けるため、俺たちは酒場への帰路を急いだ。
──しばらく後
俺たちは酒場に到着していた。
入店するなりカウンターでグラスを磨いていたガアドは、銃を手に取ってむけてくる。
が、すぐに自分の娘が帰って来たと知ると銃を置いて、駆け寄り彼女を強く抱きしめた。
「よかった……! よかった、ファリア。すまなかった、パパが不甲斐ないばかりに!」
「ううん、パパはちゃんと助けを寄越してくれたじゃん! いいんだよ、結果オーライだからね!」
ガアドとファリアの再会を見届けた後、俺とラナはすぐに奥の部屋に通された。
ガアドはラナの顔を見て、すぐに彼女が何者なのか察したようで、特段何かを聞いてくる事はなかった。
「ん、キングはどこだ?」
俺は酒場の奥の部屋な避難していたはずのキングの姿がない事に言及する。
ガアドは俺の方を見て気まずそうな顔をした。
「彼のことだが……」
言いにくそうなガアドの顔で、俺はキングについてカジノに侵入する前にした電話の事を思い出した。
「まさか売ったのか? そうなんだな?!」
俺はガアドに胸ぐらに掴みかかる。
なんていうクソ野郎だ。
自分の娘のために、他人の親友を平気で端た金に変えやがった。
人間のクズめ、死ねばいい。
まさか、そこまで外道だなんて、本当に信じられないゴミだ。最悪の汚物野郎だよ、この人でなしのウジ虫うんこ腐れジジ──、
「ぐぎぃ!」
「…………ん?」
内心でガアドに対して暴言を吐きまくっていると、扉のほうから声が聞こえてきた。
入ってくる丸みをおびたフォルムは、過酷な遠征を共に乗り越えた竹馬の友キングであった。
「キング!」
「ぐぎぃ!」
キングを抱きしめると「遅かったぜ、相棒」と透かした彼の声が聞こえくる(注意:エイトは極めて特別な訓練を積んでます)
「ぇ、ええ……エイト、なんでダンゴムシと喋ってるの……?」
ラナが瞳のハイライトを消して、俺が見た事もなジト目を送ってくる。
「エイト様………………この子すっごく可愛いですね!」
「そうだろう? ファリアはキングの良さがわかるタイプの人間だったか!」
「……」
嬉しそうに丸まるキングと、俺とファリアはスキンシップを取って互いに親睦を深めあった。
ラナは信じられないモノを見る目で「わたしがおかしい……? おかしいのはわたしなの?」と自分の中で何かと葛藤しているようであった。
──しばらく後
「よし、よーし……」
「ぐぎぃ!」
ラナがキングと一生懸命仲良くなろうとしている頃。
俺はガアドから〔そよ風〕の分析結果を聞いていた。
「電子、かもしれない」
「電子? それが俺のスキルの正体なのか?」
「おそらくな」
ガアドはホワイトボードを引きずって来て、ペンで視覚的に説明し始める。
「無から有は生まれん。質量保存の法則。化学の基礎だ。海水から人間の生存に必要な酸素を得たということは、すなわちそれは海水を分解して、水素と酸素に分離させたということ。あと幾ばくかの塩化ナトリウムか。『液体金属』を操り、銃弾を止めた事を考えれば、磁力操作の超能力と似たスキルと考えたいが、分子を分解してることを考慮するに、エイトのスキルは、よりミクロな世界に干渉してると考えるべきだ。すなわち、エイトのスキルは『電子操作』と考えるべきかもしれない」
ガアドはそう結論付けたあとに「もっとも、仮説に過ぎないがな」と言って、違ったとしても責任は取らないぞ、と言わんばかりに肩をすくめた。
まあ、電子操作だか、磁力操作だか知らないが、ようは何ができるかが重要だ。
「金属ならだいたい操れる。いままでは意識の外だったから試そうともしなかっただろうがな。それと電気の流れも操作可能なはずだ。海水の電気分解で生成した水素と酸素で、2トンの水圧に押し勝てるほどパワフルな電子コントロールなんだ。それくらいは余裕なんじゃないか?」
ガアドほそう言って「本当に電子が操作できるなら、出来ないことの方が少ないがな……」と意味深げにつぶやきながら、ホワイトボードを片付けはじめた。
「なんか凄い事になってるね。一度『ステータスチェッカー』で確認してみたら?」
ラナはすっかり慣れた様子でキングのうえに優雅に座って言ってくる。
俺は賛成し『ステータスチェッカー』を取り出して、その薄いガラスに親指の血を採血させて、現在のステータスを確認してみた。
ビピッと音が鳴り、ステータスが表示される、
エイト・M・メンデレー
性別:男性 クラス:【槍使い】
スキル:〔電界碩学〕〔収納〕
ステータス:変異 Ⅲ
レベル68(St35+EX33)
体力 8963
持久 12680
頑丈 8452
筋力 10931
技術 14093
精神 16714
「……え?」
「……壊れてる?」
俺とラナは規格外の数字にポカンとして顔を見合わせた。
──────────────────────────────────
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