【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第7話 半狂乱と強くなる理由


岩陰に待ち伏せる。

巨大ダンゴムシが来る。

シャベルで殴る、丸っこくなる。

そうしたら、今度は地面を転がして我が家の前までお連れする。

1分〜3分待って、顔をだしたら魔槍をぶっ放して″おいしい経験値″になってもらう。

「ふふふ」

俺はこの究極のルーティンを1日1回必ず行うようになった。


ーー最近のスケジュールは、基本的にそのすべてがレベリングに費やされる。

朝起きて、朝食を食べ、2時間ほど散歩して、3時間ほど新しい海底へ進出し、マッピングを進める。

安全圏の散歩中は出来るだけ肉体に負担をかけるように、腰に魔槍と巨大ダンゴムシの死骸をくっつけて歩き、すこしでも経験値を多く稼げるように工夫を凝らす。

マッピングが終わり我が家に帰り、食事を済ませると、次はお待ちかねの時間だ。

1日1回のボーナス経験値を獲得しに夜の街へ繰りだすのだ(翻訳:発光群生地の中央へ行く)

「のぞのぞ、のぞのぞ」
「ひゃっほーい!」
「ぐぎい?!?!」

俺は嬉々としてダンゴムシをシャベルでぶっ叩き、我が家へと気持ちよく帰還して、意気揚々とそのあとに巨海虫を爆殺する。

口惜しいが、魔槍の魔力放射は俺には1回しか出来ないので、ダンゴムシボーナス経験値は1日にそう何回も出来るものではない。

「はあ、ほんとうに残念だ」

俺は爆殺した死骸を回収して、我が家にもどり、甲羅とお肉をわける作業を行う。

そのあとは、ダンゴムシの硬く丈夫な甲羅を捨てるのがもったいなくて作った、深海特製ダンゴムシワイルドフリーウェイトを使い、身体をみっちり鍛えて、追い込みをかける。
(翻訳:甲羅の重みで筋トレをする)

前腕が悲鳴をあげるまで。
上腕が泣き出すまで。
三角筋がメロンになるまで。
背中が鬼の顔になるまで。
腹筋が爆発するまで。
下半身が燃えあがるまで。

肉体と一対一の論争を繰り広げる。
(翻訳:極限まで筋肉を追い込む)

これらの筋トレはもちろん、我が家のなかではなく、すべて海底で行うメニューだ。

たまにダンゴムシがやってくるので、そういう時はシャベルで殴っておいかえす。

すべてのトレーニングが終われば、俺は全身がパンプアップした状態で我が家に帰り、そこでミスター・タンパク源とマザー・タンパク源ーー巨大ダンゴムシ肉ーーを存分に頬張って肉体の筋肉痛を急速に回復させいく。

そうして、発光植物の繊維でつくりだした布団に潜り、1日がんばった自分へのご褒美に俺は『ステータスチェッカー』を起動して、自分のステータスを確認するのだ。






⌛︎⌛︎⌛︎






俺はただひたすらに強くなろうとした。

無心に、無我夢中に、没頭した。

そうしなければ、耐えられなかった。

戦い続け、戦い続け、戦い続け。
戦い続け、戦い続け、戦い続け。

過酷すぎる環境を、俺は味方につけようと、それは決してネガティブなものなんかじゃない、と言い聞かせて自分を洗脳した。

朝も夜もない。
話す相手もいない。

生きるために、同じ味を胃に詰め込む。

時間は限りのない。
時間の区切りもない。

俺は暗い海の底で、人知れずもがいた。








⌛︎⌛︎⌛︎








ーー30日後

「……」

俺は我が家のさらに地下に建設したろ過水プールに体を浮かせていた。

「俺、何してんだろ……」

毎日繰り返される充実してるようで、変化に富んでいるようで、どこまでも非日常なようで、変わりない日常になりつつある日々。

たまにこうして余暇を過ごそうと、気晴らしをしても、モヤモヤした気分がなくなってくれることはなかった。

自分への洗脳が解けたのは、鍛えている最中にいだいたある″焦り″が原因だ。

ーー時間がかかり過ぎる

「……」

俺はプールに浮きながら、『ステータスチェッカー』を起動してみた。

現在のステータスが表示される。

エイト・M・メンデレー
性別:男性 クラス:【槍使い】
スキル:〔そよ風〕〔収納〕
ステータス:変異 Ⅰ
レベル60(St35+EX25)
体力 2956
持久 4390
頑丈 2807
筋力 3481
技術 4555
精神 5015

レベリングの成果は確実に出ている。

レベルアップの速度は要求される経験値が増えたせいか、極端に遅くなったが、それでも、1レベルアップの重みが跳ね上がった。

ステータスの項目がやや不穏な感じだが、こんな生活をしていれば状態異常のひとつにでもなる。気にするほどの事ではない。

各ステータス値が4桁に乗ってしばらく経つことも、すこし前の俺のことを考えれば、破格の結果だと言えるだろう。

しかし、俺が欲しいのは数字ではない。
俺は『ステータスチェッカー』をポケットにしまい、瞳をとじた。

俺はまだこの海底を満足に歩くことが出来ない。

もう1ヶ月以上もスタート地点から動いていないのに、あの時見た占い師やマクスウェルのように歩くことはできないのだ。

海底で死ぬほど辛い散歩をして、血とゲロを吐きながら筋トレをして、意味わからない生物をなんとも口に放りこんでるのに、まだ海底すらまともに歩けない。

俺は思う。

果たして『海底都市』とやらは、どれほどの距離にあるのだろうか、と。

占い師が距離を教えてくれればよかったが、あの老人はとりあえず西に進めとしか言っていなかった。

方角はキチンと地面に刻んである。

マッピングの途中で様子見してみたりもしたが、どう考えても目的地は近場ではない。

おそらく『海底都市』にたどりつくためには、発光群生地を抜けた、暗闇をずっと進むことになる。

俺の予想では、数時間、数十時間ではきかない。

おそらくは数日の旅路となるだろう。

果たして、今の俺にそれに耐えうるだけの体力があるだろうか?

問題は他にもある。

このダイダラボッチ海峡には、あの巨人が複数体生息していることだ。

発光群生地から遠目に見えたので間違いない。
マクスウェルは「光より速く攻撃すること」でやつの攻撃を防ぎ、さらには一撃でもって返り討ちにしていた。

しかし、俺にはそんな事できない。

暗闇を歩いていて、たまたま遭遇してしまえば、それだけで俺はおしまいだ。

アレの身長は目測で1000メートルくらいはあったので、もしかしたら、足元のゴミクズと勘違いしてくれるかもしれないが、それでもマクスウェルをして「蒸発させられていた」と言わしめる攻撃力には、恐怖を禁じ得ない。

まだまだ、問題はある。

それは″アレ″よりも、もっと現実的な問題だ。

俺は発光群生地のまわり暗闇に、巨大な魚が泳いでいるのも目撃していたのだ。

あれも相当にデカかった。
流石に″アレ″ほどではないにしろ、牙の生えそろった頭部が見えてから、尻尾が俺の横を通り過ぎるまでに、何十秒もかかっていた。

おそらく、100メートル……150メートル、あるいは200メートルくらい体長があるのかもしれない。

あの巨人なら俺を見逃しても、たぶん巨大魚の深海生物は俺を見逃してはくれない。

俺が『海底都市』にたどり着くためには、『海底をまともに歩ける』ことが必須条件。

これは単純に余裕を持って散歩できる、と言うだけでは、もちろん不十分だ。

迫りくる脅威をはらいのけ、日夜歩き続け、あと一歩の瞬間まで集中力を切らさない精神力が要求される。

海底をまともに歩くとは、そういう事だ。

俺がそれを身につけれるようちなるまで、いったいあとどれだけの年月がかかるのか。

まったく、見当がつかなかった。

俺はろ過プールからあがり、

体を拭いて、シャベルを手にもち、我が家の外へと出た。

今は、ただ頑張るしかない。

「……はぁ」

しかし、そうは言い聞かせても、目の前に立ちはだかる深海という恐ろしい世界が、俺を絶望に震えさせて仕方がない。

俺はマッピングに出かけず、ただ、ぼーっと我が家の前の地面に書かれた1ヶ月前の俺の文字「海底都市へ向かえ→!!」という矢印つきの字を眺める。

「……なんで、こんなに頑張らないといけないんだ……」

俺は無意識のうちに、呟いていた。

「なんで、こんな思いしてまで、生きなくちゃいけないんだ……?」

胸の内側から、今まで封じ込めていた感情が波となって溢れ出してきた。

俺の瞳の奥から、熱い涙がぽたぽたとこぼれてくる。

「ゔぅ、なんで、俺、頑張らなくちゃいけないんだよ……っ、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、毎日、頑張ってるのに……まだ、頑張っていうのかよぉ、ぉ……! もう誰も待ってないのに!」

嗚咽がもれ、呼吸が乱れる。
肺が痙攣して、不細工な鼻水をすする音が自分にも聞こえる。

もうラナは俺のことなど待ってはいない。

ラナとジブラルタは、死んだ俺の事などとっくに忘れて、新しいパーティとして仲良く手をとりあい勇敢な冒険にいどみ、夜には同じベッドのうえでお互いを強く求めあっている。

ラナは俺のすべてだった。
俺は彼女がいたから頑張れたんだ。

6年間も冒険者になるのを我慢して、毎日ずっとずっと基礎の繰りかえし練習。

彼女のためなら、喜んで死ねる。

そう断言できるほどに、ラナの事を愛していた。

彼女は、俺の、すべてだったんだ。

「うぅ、クソ野郎が……ふざんけんなよ、なんで、てめぇが気持ちよくなるために、俺がこんな、海底で、汚ねぇ虫の肉を食って、まわりを泳いでるバケモノどもに怯えなきゃいけねぇんだよ……! ふざけるなよ、ふざけんなよ!」

悔しさ、悲しさ、怒り。

もしもうちょっとだけ早く、勇気を出してラナに告白でもしていれば、運命は変わったのかもしれない。

ラナは俺のことを意識してくれて、あんなクソ野郎をパーティに入れなかったかもしれない。

そうすれば、俺は海に突き落とされることなく、幸せな人生を歩めたかもしれない。

だが、現実は後悔ばかりだ。
すべて俺の妄想となってしまった。

俺が意気地なしだったばかりに。

「もう、死のう……どうせ『海底都市』にはたどり着けない……占い師のじいさんには悪いが、そこへ行ったって俺の人生は何も始まらない。それどころかもう終わってんだ!」

俺は地面に刺しておいた魔槍を見つけ、手に取り、その先端を自分にむけた。

魔力を解放すれば、一撃で楽になれる。

ラナとの幸せな日々を思い描いて死のう。

せめて幸せな、あの頃を胸に抱きしめておけば、辛くならずに済むはずだ。

熱い日差しのした。
8歳の出会いの海岸を思いだす。

『だいじょうぶ!? 顔がまっさおだよ!』

優しい白い手が、俺の頬を包んだ。

俺はまだ、あの温かさを覚えてる。

「ラナ……ずっと、好きだった、ずっと、ずっと出会った時から大好きだったんだ……思えば、君が男の子のころから好きだった……いや、1秒も男だった時間なんてないかもしれないけど」

俺は黒槍の先端を口くわえて、自分の無意味な人生をふりかえった。

占い師
期待に応えられなくて申し訳ない。

師匠。
あなたの素晴らしいスキルがあっても、俺ごときには無理でした。

そして、ラナ……。

「……」

俺は最期に想う言葉を探しながら、涙でいっぱいの視界で魔槍を眺める。

ラナが魔槍を俺に貸してくれた日のことを覚えてる。

「俺は、君の相棒に……なれなかった……」

槍をくわえたまま、俺は目を閉じる。

記憶のなかのラナは、槍を俺にたくし、平らな胸を張って、にーっと笑っている。

ごめん。

ごめん。

ごめん。

「…………ぅ?」

脳裏をつっかえる思考。

ただの破片、片鱗、ひとつのノイズ。

俺は多幸だけの記憶のなかに、ふと、そんな違和感を感じた。

もう死ぬのだから、どうでもいい。

そんな風に思いながらも、何かが俺をひきとめる。

俺に自殺の最後の一手を打たせない。

なんだ?
この違和感は?

思えば、ずっと心のどこかに引っかかっていた。

当たり前のようにあるのに、本来当たり前ではないもの。

はじめはラナの事かと思った。
幼馴染としていつもそばにいて、その幸せさに気がつかなかった俺のマヌケさと愚か。

「……ぁ、」

しかして、違うことに俺は気がついた。

違和感の正体を見つけたのだ。

当たり前にいて、当たり前じゃない物。
それは……やはりラナだった。

いいや、正確に言えば違うか。

「……」

俺は口にくわえていた魔槍を、口からだして「何汚してんだ」と自分を殴りながら、丁寧にその先端をぬぐった。

そして、両手に乗せて、まじまじと見る。

「なんで、この槍、まだここにあんだ?」

違和感の正体。
それは、ラナから貸されていた魔槍だ。

本来なら俺が死んだら、召喚権をもっている彼女がこの魔槍ラナを、彼女自身がつかうために手元に呼び寄せるはずだろう。

ジブラルタと付き合って、俺をうっとおしく思っていたなら、なおのことそうするはずだ。

そうでなくても、冒険者稼業をしてる彼女が40日以上もスキルを使わない事なんてないだろう。

この槍は俺が深海にやってきた時から、変わらずにずっとそばにい続けてくれていた。

そういえば、ラナに魔槍の召喚権を貸されてから、たまにお互いに使う場面で、連続で召喚しまくり、奪いあっていたことがある。

あの時、偽物の主人である俺にも、彼女がギルドの酒場で槍を召喚して、売られた喧嘩を買っていた状況がなんとなく伝わってきた。

ならば、槍の本来の持ち主ならば、俺なんかよりも槍の詳しい所在がわかるんじゃないか?

それに、思えば暖房器具として魔槍を使ってる時、俺はまったく疲労を感じず魔力を消費していなかった。

しかし、無からエネルギーが生まれる事などありえない。

あの熱量は誰かの魔力が必ず使われていたはずなのだ。

「ラナ、そこに、いるの……?」

俺は凍える冷たさのなか、ただ唯一ほんのり温かい魔槍を抱きしめる。

もちろん、槍が喋るはずがない。

しかし、放ち続けられる温かさだけで十分であった。

ラナはきっと魔槍をわざと召喚していないんだ。

漠然と遥か海のしたにある事を知っていて、俺がこの1ヵ月、日に一度、魔力放射をしていることにきっと気がついているんだ。

彼女は信じてくれている。
俺が海の底で生きていることを。

それは、ジブラルタと恋仲にあって、奴が言うように俺をうっとおしく思っていたのならありえない行動だ。

奴の言葉は嘘だった。

ラナはまだ俺を″相棒″だと、思って……、

「ゔぅ、ラナ、ぅぅ、……」

俺は魔槍を抱きしめ、今度は悔しさや、悲しさや、怒りではない、ぎゅーっと温かくなるような嬉しさの涙に視界が見えなくなった。

ああ、師匠はわかってたんですか?
すべてがお見通しなんですか?

彼の言葉を思いかえす。

『俺は世界を救ってくる。君は……君を待っている彼女のもとへ戻ってやれ』

俺は涙をぬぐい払った。

「絶対に帰ってやる……!」

俺は決意をまったく別次元の強さにあらためて、魔槍とシャベルを二刀流にしながら、発光群生地の中央へとむかった。

悠長にしてる時間はない。

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