【完結】平凡クラス【槍使い】だった俺は、深海20,000mの世界で鍛えまくって異世界無双する

ノベルバユーザー542862

第5話 海底洞窟と飲み水


俺は無我夢中で地面を掘り続けた。

高い水圧で固められた海底は、シャベルで掘るには硬く、所詮は砂ゆえに掘った後は崩れやすいという最悪の性質をもっていた。

しかし、ポケットを使った穴掘りを始めてから、作業効率は飛躍的に向上した。

足元の砂をポケットにいっぱい詰めて、穴のうえまで運んで、砂を捨てる。

この作業の繰り返しだ。

視界の外で、ポケットの入り口を移動させるのには、初めのうちは苦労したが、使っていたらすぐに慣れた。

ポケット空間は感覚的に60キロくらいの砂が入りそうなスペースがある。

筋力を使わないシャベルとしては、破格の性能であった。

「よし、こんなもんか」

俺は海底に掘った穴の底から頭上を見上げる。

わずかな明かりの見える穴の入り口は遥か遠くにあった。

ざっと20メートルは掘っただろう。

丈夫な天井として岩盤を採用した海底洞窟をつくるわけだが、水圧が及ぼす影響が正確に測れないため、どれくらいの深さを確保すればいいのか、いまいち判断はつかない。

20メートルは海育ちとしての勘で導き出した深さだ。

「次は横に掘り進めてっと」

俺はドライフルーツを口にくわえて、ポケット穴底の横壁に押しあてた。

ポケットが満帆になれば、穴の上に入り口を移動させて砂を捨てる。

そうして、何回も何回も俺は単純作業を繰りかえした。

20メートルの縦穴から、今度は数メートル横穴を掘り進め終えた。

俺は今度は斜め上に掘り進めることにした。

岩盤を屋根にした空間ができたことを、俺はペタペタと壁を触って確認する。

俺は確証をもって、次の段階に移行した。

次の段階。
それは体を休めるための空間をつくる事だ。

俺は自分の体に、まだ薄く空気の層が残っているのを確認する。

そして、水で満たされたポケットの入り口を、俺のお腹と水平になるように開いて、空気の層の内側に入れることで、ポケット内の水をすべて排出した。

「冷たっ!」

凍える水で体が濡れてしまった。
まあ、これは想定内だ。ここからさらなる体力消耗が懸念されるが、それでもポケットを空洞にしないといけない。

何故ならポケットに″バケツ″の役割をしてもらわなくては、海底洞窟は作れないからだ。

海底洞窟構築のための、手順はこうだ。

①海底洞窟(予定空間)内の海水を空のポケットにいれる。

②20メートル上で、ポケットを開いて、内側の海水を排出して、ポケットを空にする。


これを繰り返す。

そうすることで、俺は海底洞窟(予定空間)内の海水を減らしていき、俺を守る空気の層から生みだされた空気で、深海20000mの世界に空洞をつくりだすことに成功した。

何時間、あるいは何十時間かかったかわからない。

しかし、俺はたしかにやり遂げた。

深海ゆえに空洞内の寒さは恐ろしいものだったが、それでも平気で100時間近く極寒の海水に囲まれていたことを考えれば、ここは天国に思えた。

俺はもうふらふらした足取りで、硬い地面に寝転んだ。

びしょ濡れになった服を広げて、地面のうえに広げて、アイテムを並べる。

残された食料はドライフルーツという名の水圧に萎んだ果実が3つ。
水分と栄養をある程度補給できるが、それにしても、たったこれだけでは、あまりにも心許なさすぎる。

道具は黒い小箱。
師匠のシャベル。
俺の『ステータスチェッカー』。

それと大きくて持ち運び不便だった魔槍が海底洞窟の入り口に放置されているだけ。

他には何もない。

「はあ、これから、どうすれば……」

俺は途方に暮れながらも、溜まりきった疲労によってすぐに眠くなってしまった。

体を酷使しすぎた。

今は、ただ、すこし休もう。






⌛︎⌛︎⌛︎






俺はゆっくりと目を覚ました。
海底洞窟内は非常に暗いので、自分が目を開けているのか、あるいは開けていないのか不安になった。

「洞窟は崩れてない、な……ふぅ」

最悪の事態にはならなかったようだ。
ただ、まだまだ安心などしてられない。

あれから何時間たった?

思考が安定すると、初めはそんな疑問が起こった。
が、すぐにどうでもよくなった。

俺はもう時間なんて気にしても仕方がないのだ。
こんな海の底では、俺がどれだけ寝過ごそうと、気にするものなどいるはずもないのだから。

俺はため息をつき、濡れた服をおいた地面をまさぐる。

触ると服がある程度乾いていることに気がついた。

湿気が高く、風もないこの空間で乾くほど、俺は長い時間暗闇のなかで眠っていたようだ。

幸いにも体の調子は悪くない。

俺は生乾きの服をすぐに着て、今後の方針を考えることにした。

俺は占い師の言った『海底都市』を目指さないといけない。

ただ、そのためには少なくとも海底をまともに歩けるようになる必要がある。

今にして思えば、占い師が初め、俺を見捨てるようにスタスタ容赦なく歩いていたのは「今のままでは絶対に『海底都市』にたどり着けない」という事を、俺自身に理解させるためだったのだろう。

ゆえに俺はより強靭きょうじんなステータスを手にいれる必要がある。

それが成された時、きっと俺は黒い小箱を開ける資格を得るのだろう。

「……」

俺は黒い小箱を無くさないよう、肌身離さず大事に胸ポケットにしまった。

続いて、俺は現状の自分を知るために歯で指先を噛み切って、その血を『ステータスチェッカー』に採血させた。

ピピッと音が鳴り、『ステータスチェッカー』が起動して、淡い光が海底洞窟に貴重な光源をあたえた。

このギルド製の最新魔導具が丈夫に作られていてたすかった。
問題なく起動してくれるようだ。

画面に俺のステータスが表示される。

エイト・M・メンデレー
性別:男性 クラス:【槍使い】
スキル:〔そよ風〕〔収納〕
ステータス:正常
レベル36(St35+EX1)
体力 79
持久 80
頑丈 67
筋力 96
技術 98
精神 100

「……!」

『ステータスチェッカー』のレベル欄を見て俺は目を見開いた。

俺のレベルが上がっているのだ。

ずっとレベル35から上にいけなかったのに、たしかに″レベル36″と表記されてる。

「そういえば、占い師のじいさんは俺のレベル上限を解放したとかなんとか……まさか、その恩恵がもう現れてるのか?

海底に来て、一番嬉しいかもしれない。

まさか、深海を動きまわるだけでレベルアップするって言ってたのは本当だったのか。

女神からの″追加の基礎力″であるレベルは、人間の経験、とくに戦いに身を置く事であがっていくという。
ただ、それ以外にも″貴重な体験″や″過酷な経験″を得ることで、人間のレベルがあがるとも聞いたことがある。

深海20000mを散歩することは、それだけで果てしなく貴重かつ、過酷な経験となるために、俺のレベルはあがったのだろう。

「ただ、なんだ(St35+EX1)って……合わせてレベル36って事だろうけど、こんな表記見た事ないな」

一見して意味不明な表記だが、まあ、そんなに気にすることではないだろう。

大事なのは俺のレベルがあがったという事だ。

俺はこの事実から、今後の方針を定めた。

最終的な目標はもちろん地上への帰還。
そして、ジブラルタをぶっ殺す……かはその時の自分に任せるとして、必ず復讐をすることだ。

中間の目標は『海底都市』に向かうこと。
占い師はそこへ向かわなければ、俺の人生は始まらないとさえ言った。
俺はその意味を確かめなければならない。

直近の目標は……強くなることだ。
そうしないとこの海底を横断する事はできない。

ただ、それよりもさらに火急の問題がある。

食料が無い。
喉が渇いた。
寒くて死にそうだ。

解決するべき課題は山積みだ。
俺はなによりも生き残っていかないと、これらの問題を解決できないのだから。

「はあ……喉が渇いたな…………おや?」

生唾を飲みこんで乾きをごまかそうとすると、ふと、足元から水が湧いている事に気がついた。

「やばっ! 海水が別の場所から入り込んだのか!?」

俺は大慌てて『ステータスチェッカー』のはなつ淡い光をあてて、水漏れの箇所を探しはじめた。

すると、どうにも足元には海底洞窟の出口へとつながる水辺と、その反対側にまた″別の水辺″がある事に気がついた。

もうひとつの水辺は、直径30センチほどの穴となっている。

「こんな穴掘った記憶ないけど…………あ、もしかして……」

俺は恐る恐る、その穴に指先をつっこんで、それから指を舐めてみた。

「……しょっぱくない」

俺はその事に気がつき、穴の正体にたどり着く。

やった。
これは水脈だ。

おそらくは、海底の砂によって何百年、何千年もの長い時間をかけて、ろ過された海水が溜まっていたのだろう。
人類に見つかることなく、暗い海の底で、か細く息づいていたソレを、俺は偶然にも掘り当ててしまったのだ。

「美味い! 美味いぞ、水だ!」

俺は大喜びで穴に両手をつっこみ、水をすくって何杯もごくごくと飲んだ。

喉の渇きが癒されてホッと一息をつく。

最大の問題が予期せぬ幸運によって解決されてしまったことに、俺は自分がまだ女神ソフレトに見放されていないと確信する。

いける、俺はまだ大丈夫だ。

ドライフルーツをひとつ口に放りこんで、俺はシャベルを手に持って海底洞窟の出口へむかった。

相変わらず海水に浸かると勝手に発動する空気のバリアが、十分な厚みを取り戻していることを確認して、俺は極寒の暗闇へともどる。

探すは食料だ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品