忠誠をささげた騎士団に斬り捨てられた雑用係は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で最強となり成りあがる

ノベルバユーザー542862

第20話 謎の男


店主に話を聞いた魔術学校とやらへ向かう。
言われた通りに近づくに連れて、街の雰囲気がすこしずつ変わっていく。
活気あふれる王都という雰囲気から、どこか落ち着いたような静かさがあり、しかしながらこの場にいる者たちの目は決して暗いというわけではない。
集まる人種がガラッと変わったととらえるべきだろう。

フォッコ師匠のような魔術師然としたローブに身を包んでいるものが、ちらほらと見受けられる。
冒険者ギルドにもわずかだが魔術師はいたけれど、そちらにいる者たちよりも、かなり老成した印象を受けた。
店の看板には俺が探し求めた『魔導具』という文字や『触媒専門』などという見慣れない文字が見受けられる。

間違いない。
ここは魔術街だ。
アルカマジからやってきた本場の魔術師たちが、他国であるアライアンスで身を寄せあってコミュニティを形成しているのだ。

俺は第一目標を達成したとして、大きく息を吸って口笛をふいた。

よし。
これでラテナは音を聞きつけて、この魔術街までやってくるだろう。

俺はラテナといったん合流するため、手頃な通り脇のベンチに腰をおろす。

ベンチに先に座って新聞を読んでいた外套を着た男が、驚いたように目を見開いて話しかけてきた。

「すごいです。それほどに若いのに……とてつもなく練度の高い魔力です」
「練度の高い魔力? 無知なものですみません、それはどういう意味ですか?」

ベンチに腰掛けながら、俺は問いかえす。
男は新聞を折りたたみ「ほう、口調も達者だ」と声をもらした。

「魔力には練度がある、ということです。蒼海に踏みこみ卓越した術をおさめた魔術師と、神秘の芽生えを知ったばかり魔術師とでは、内在する魔力の質がちがう。私はそんな差を見極める特別な才能があるんです」

俺は男の目をみる。
彼の右目……淡く青紫色に光っているように見えた。

さては、こいつ。

「魔眼ですか」
「その通り。普段は人にペラペラと話さないのですが、あなたは普通とはかなりちがうと見えたのでお話しました」
「その目には魔力が見えているんですか」
「はい。魔力魔眼、セッティングされた魔術や魔術師のもつおおよその魔力量と質、魔導具の性質など見極めることができます」

え、アホほど強くない?
なにそれ俺も欲しいんだけど。

「それって生まれつきですか?」
「ええ、残念ながら今のところ後天的に開発された魔眼の中に魔力魔眼ほど能力の高いものはありませんね」
「そうですか」

ふむ。
魔眼の開発とか、いろいろ聞き捨てならないこと言ってるけど、本場アルカマジでは常識なんだろうな。
もっといろいろ話したい感じはするけど、とりあえず呑気に話してる暇もなさそうなので、そろそろ行くとしよう。

「少年、いえ、賢者どの。最後にひとつ、名前だけでもお聞かせ願えますか」
「……いえ、無理ですね」
「賢者であることは否定しないと?」
「それについても、ノーコメントです」

俺はこれから国賊になるんだ。
そうほいほいと個人情報は漏らさないほうがいい。

「そうですか、残念です。その若さでかの領域にいるとなると、適切な機関で適切な修練と研究にはげめば、魔術世界を代表することも夢ではないでしょうに」
「間に合ってます」

俺は向こうからやってくるラテナに軽く手をあげて、ベンチをたつ。

「ノーフェイス・アダムス」
「?」

男はとっさにつぶやいた。
振り返ると、彼は人差し指と中指で黒い名刺をはさんで、それを差し出して来ていた。

「気が変わったのならそのカードをご連絡ください。ノーフェイス・アダムスはいつでも才能ある人材を歓迎しています」

男は無表情でそう言った。
なんとも怪しげな勧誘だが、カードを受け取る分には問題ないか。
それに、強力な魔眼をもっているような人物だ。
将来、魔術世界に身を置くときに、なんらかの繋がりとして利用できるかもしれない。

俺はそう思い、黒いカードを受け取ってポケットにしまった。

「あれヘンリー、その人は?」
「いくぞ」

ラテナに目であいずを送り、彼女の手をにぎってさっさとベンチから離れた。

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