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忠誠をささげた騎士団に斬り捨てられた雑用係は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で最強となり成りあがる

ノベルバユーザー542862

第8話 熱素の変化術


師匠が浮雲邸にやってきた日の午後。

「《ホット》」

無詠唱でとなえて木の枝に魔術をかける。
手のまわりがいっしゅんヒヤリとして、次の瞬間には枝は発火した。

師匠が見たいというので、何度もやっているわけだ。
もう100回以上はやったので、そろそろ満足してくれてもいいはずだ。

「詠唱を省略しないでください」
「なくても問題ないですよ」
「いいから。これは師匠命令です」

まだ続けるというのか。
仕方ない。
魔術の師匠には決してさからっちゃいけないと、吟遊詩人も語っていたしな。
満足するまで繰り返すしかあるまい。

──2時間後

「はあ、はあ……ふ、不死鳥の魂よ、
炎熱の力を与えたまへ──《ホット》」

師匠に見えるよう枝をかかげる。

彼女は黄色い瞳をじーっとむけてくる。
眉間にしわがよっていて、あきらかに不満そうだ。納得いっていない顔であった。

「はあ……もういいです。ヘンドリック」

来た、ついに来た!

「っ、しし、師匠もしかしてついに?」
「いいですよ。あなたに何かしら特別な才能があることは認めましょう」

師匠の口調がやわらかい。
これは凡才と言われていた俺を、すこしは評価してくれるということだろう!

「しかし、それはヘンドリックが魔法使いである証明にはなりません。これからはその私の知らない《ホット》という名の魔術に関しては、いったん頭から忘れることにします」
「…使っちゃダメなんですか?」
「そうです。わたしのやり方で、一から魔術を学びます」

ふむ。
それは困る。

「では、まずこの9ヶ月でどんな魔導書をつかい、どのような勉強をしてきたのか見ます」
「見るんですか?」
「見るって言ってます。いちいち聞きかえしてるとこうっ、ですよ」

ちっちゃい指でデコピンされた。

「師匠、当ててます」
「当てるつもりでしたから」
「当てるつもりだったんですか」
「当てるつもりだったって言ってます。さっきからわざと聞き返してません? あんまふざけてると……」

師匠の瞳がギロッと光る。
いかん、なぜかちょっかいを掛けたくなってしまう……なんだろう、この気持ちは。

「すみません。ふざけてました」
「こほん。次はないですよ、いいですね」
「ホッ…」
「これからわたしは、わたしの持つ全ての術をあなたに教えるつもりです。そのための準備をしましょう。さあ、はやく教科書を持ってきなさい」

納得し、うなずく。
俺は自室から魔導書を3冊もってきた。

それぞれ、
『第一式魔術全集』『回復魔術 入門』
『第二式魔術全集』
と表紙に書かれている。

勉強のために欲しい言ったもので、全部ラテナが持ってきてくれたものだ。

フクロウがどうやって教材を調達したかは知らない。女神の力でなんとかしたらしい。

「その歳でエーテル語を読めるのですか?」
「勉強しました!」
「そうですか。先の遅延魔術といい、少しは見どころがありますね」

感心したように彼女はうなずく。
やった。賢者に褒められちゃった。

「ボロボロの魔導者は魔術師の誇りです。こちらもよく勉強してきたようですね」
「結構、頑張ってます」
「ふむふむ……興味深いです」

師匠は金色の瞳でじーっと俺の顔を見つめてくる。そんなに見つめられたら恥ずい。

やがて、彼女はパタンっと本を閉じた。

「魔術を使ってみてください。もちろん、例の《ホット》という名のオリジナルスペルではない魔術ですよ」

あ、まずい。

「ん? どうしましたか?」
「……師匠、僕、ほかの魔術使えないです」
「無詠唱、加えてオリジナルスペルを持ってるのに、ほかの魔術が使えないんですか?」
「ぅ……」
「意味不明ですね」
「すみません、ぐすん…」

師匠は「やれやれ、仕方ないです」と言って、魔術師ローブのポケットからブレスレットを取り出した。

民族的装飾がついていて、とても綺麗だ。

「これはチャームと呼ばれる、いわゆるお守りです」
「お守りですか」
「チャームを装備すると精神力が増して、魔術を使用しやすくなる効果があると言われています。ただ……」
「ただ? ただ何ですか?」
「精神力が低いと、″廃人″になると言われていますので、安全な手段ではありません、それに魔術の効力を高める品でもないので、一般的な魔術師は使用しないものです」
「やめときます。死にたくないです」

俺は速攻で拒否した。
俺は才能ないんだ。
変なことしないほうがいいだろう。

師匠は「そうですね、無理に使う必要はないです」といって、チャームをポケットにしまってくれた。

「まあ、安心してください、ヘンドリック。カリーナさんは回復魔術をつかえるんです。きっとあなたにも素養がありますよ。わたしが必ず一介の魔術師にしてあげますからね」
「師匠っ」
「そうしないとお給料でませんし」
「ひとこと余計だと思われます、師匠」
「わたしは正直なだけです。ふん」

師匠はツンと澄ましてそういうと、本日の授業を終えた。

──夕方

剣の稽古もおえて、部屋へ帰ってくる。

「ヘンドリック、チャームをつけるべきです!」

俺の帰りを待っていたラテナが叫んだ。

「聞いてたんだ。でも、チャームは危ないってさ。廃人になる可能性があるんだ」
「らしいですね。でも平気ですよ、ヘンドリックならば、ね」

ラテナは女神形態に変身して、ベッドにぱふんっと腰をおろした。

「どういうことだ? 俺なんて特に精神力弱いと思うだけど」
「ヘンドリックは1日1万回感謝のホットを7ヶ月も継続している、いわば精神力の怪物ですよ。いまさら世間一般の人間とは比べものにならない領域の強靭な精神を持っているはずです」
「む、まじで? 知らないうちにメンタル化け物になってたのか……」

言われてみれば最近、ウィリアムに構ってアピールされてもイライラしなくなったな。
これも俺が精神的に成長しているおかげなのかな?

「わかった、明日試してみる」
「その息ですっ!」

ラテナはニコッと微笑み、俺の頭を撫でてくれた。

これはお返しをしてやらないとな。

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──翌朝

「チャームをつけさせて欲しい、ですか」

師匠は物珍しい目で俺をみる。

「昨日はつけないと言ってましたが?」
「それは…その。何事も試してみないとわからないと思って」
「ふむ。わたしから言っておいてなんですけど、あまりオススメしませんよ。生徒に廃人になられるのは、師匠として嫌ですからね」
「師匠は僕のことが心配なんですか?」
「指導者として当然です。死んだらお給料が出ないかもしれませんから」

師匠は俺のことが心配か。
すこし嬉しくなってしまうな。

師匠はムッとして「なにか?」と怖い顔して問いかえして来る。そんな表情もこれまた愛らしい。俺の師匠は最高だ。

「それじゃチャームをお願いします、師匠」

師匠はすこし迷ってから、ポケットからチャームを取りだして手渡してくれた。

ブレスレット型チャームを手首にはめる。

その瞬間、脳裏にスパークが走った。

追加の思考回路とも言うべきか。
魔術の発動プロセスをサポートする、新しい知覚の芽生えを感じていた。

なるほど。
そういう感じか。
これなら器用なことができそうだぞ。

「ヘンドリック、どうですか? 気分が悪くなったりしませんか?」

師匠は心配そうに聞いてくる。

「……たぶん、大丈夫です。うん、というか、これ凄いですね。新しい世界が開けた気がします」

俺はいま最高に頭が冴えている。

「そうですか。たいていは拒絶反応を起こすんですが…‥平気ならいいです」

ホッと胸を撫でおろし、師匠は安心した顔をする。

「とりあえず、火の魔術を使ってみます」
「わかりました。それでは、わたしの火種を使わせてあげます」

師匠から小型ランタン型魔導具『火種』を受け取って片手にもった。

集中だ。
何より大切なこと。

呼吸を整えて、精神統一。
ここにすべてをかけろ。

俺はただしく詠唱をとなえる。
まずは火属性第一式魔術の《フレア》だ。

「赤き火炎、我らの始まり、
波動をここへ──《フレア》」

詠唱をすると、俺の頭のなかで複雑なプロセスが高速で処理されていった。

火炎の大きさ、勢い、熱さ、持続力。
調整を施して、手のひらのうえに魔力を集中させる。

そして──

「……………………だめでした」

熱風をおこす《フレア》をとなえても、俺は魔術発動にこぎつけられなかった。

やはり、才能限界なのだろう。
俺の容量は《ホット》でほぼ満帆なんだ。

「そうですか。……うーん、これは魔術師になるのは難しいかもしれませんね……」
「っ、師匠、さっきと言ってることが違いますよ」
「さすがに《フレア》をとなえて現象すら起こせないとなると、ため息をつくしかないです」

師匠の言葉はあまりにも厳しい。
こんな露骨に言われると心が折れそうだ。

「でも、僕には《ホット》があります……これでなんとでもしてみせます」
「……」

師匠は俺の顔をじーっと見て、金色の瞳をふせる。深く考えこむようにして、ひとつ指をたてた。

「あくまで仮定の話です。もしヘンドリックが《ホット》をつかって木の枝の発火現象を起こしているとしたら、それは《ホット》の本来の威力を大きくうわまわった火力をだしている、ということになります」
「そうです、僕は《ホット》という魔術の規格で発火にこぎつけたんですよ」
「あまりにも突拍子がない話です」

師匠は「不死鳥の魂よ、炎熱の力を与えたまへ」と詠唱して、手元の″油揚げ″をあたためる。
カリーナがおやつに出してくれたものだ。

「『炎の賢者』であるわたしの《ホット》でも食べ物を温めるのが関の山です」
「それはそうかもです。けど、僕が初等魔術で発火を起こせることは、もう証明してます」

俺が間違ってるなんて言わせない。
フォッコ師匠がいかに可愛くて、凡才を好まないとしても、俺は決して諦めない。
俺は生まれに屈しない。

「はあ……もうわたしの弟子は頑固ですね。いいですよ、もしその仮説が事実だとしたら、あなたは″熱素を自在にあやつれる″途方もない才能があるのかもしれません。火属性式魔術なら、わたしの得意とするところ。力を貸しますよ、あなたの無謀な挑戦に」

師匠は「給料が安ければこんなことしてません」言いながらもやる気をだしてくれた。

「ありがとうございます」
「礼は結果をだしてからにしてください。具体的に、あなたはどう魔術師になろうとしてるんですか。第一式魔術なら最低でも5種類つかえないと『炎の魔術師』を名乗ることはできませんよ」
「普通のアプローチがだめなので《ホット》を存分に生かそうと思ってます」
「? つまり?」

俺はニコリと微笑み、剣術の訓練でつかう人型の藁へ息をふきかける。

その息に対して《ホット》をつかった。
藁人形はチリチリと焦げて発火した。

「ッ」
「ほら、これなら《フレア》と同じじゃないですか?」

要は熱風を作れればいいんだろう。

「……通常そこまで熱くないです。第一式魔術の《フレア》に着火性能はないんですから」
「え?」

フォッコは険しい顔で「どれほどの高温が……?」とちいさな顎に手をそえた。

どうやら、火力面において俺の《ホット》はかなりの高熱を再現できるらしい。

感謝のホットの成果が出たわけだ。

「ま、いいでしょう。それを《フレア》として認めてあげますよ」
「よしっ。師匠も話がわかりますね!」
「こら、気安く頭を触るんじゃないです。師匠ですよ、歳上なんですよ、背も高いんです」
「最後のは嘘だと思います」
「……っ、こうですよ、こうっ!」

デコピンが来るかと思い身構える。
だが、容赦なく杖で突かれた。
完全な不意打ちだ。
クソ痛かった。


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3日後。
ヘンドリックは『炎の魔術師』になった。




          

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