忠誠をささげた騎士団に斬り捨てられた雑用係は、自分だけが発見した【炎氷魔法】で最強となり成りあがる
第4話 魔導書
ここのところ俺は剣をふりつづけている。
ほかに戦うチカラを知らないからだ。
日に数時間、毎日のように剣をふる。
すこしずつ新しい体にも慣れてきている。
奴隷、雑用係だったころにくらべて、日々の生活はおどろくほど″楽″だ。
苦しい事があるとすれば早起きである。
俺の親父であるウィリアムは、息子の俺といっしょに朝練をしたがるのだ。
今まで知らなかったが、彼は息子──俺──が大好きでしかたないらしい。
いや、母親も妹もたいがい、俺のことを異常なくらい構ってくる子思い、兄思いだが。
「よし、今日も元気出していくか」
朝練のため早起きする。
「……ん? なんだこれ」
頬をたたいて気合をいれてると、俺の枕元に一冊の本が置いてあることに気がついた。
「まさか本か? はじめ見たな……」
金持ち貴族の家にしかない、まぼろしの物品にして人類の叡智が刻まれし物。
吟遊詩人がたまに街で語っていると、彼らの歌のなかには、よく古代の魔法が書かれた伝説の魔導書とかが出てくるものだった。
本当に本が存在するとは。
これは驚きだ。
「おはよう〜、ヘンドリック〜」
ラテナがぐっと翼をのばして、止まり木から枕元におりてくる。
「あ、気がついたー? それは私からのプレゼントですよ。こほんこほん、寝起きなので声が……んっん。それは、いわゆる魔導書です」
「これが歌に聞く魔導書なのか」
「そうですよ、凄いでしょう? 残された女神パワーをつかって頑張って探したんですから、大事につかってくださいね」
最高だ。
うちのラテナはやっぱり最高だ。
すこし前に策があるとか言ってから、夜中こそこそ抜け出しているのは知っていたが、これを探すためだったのか。
「ありがとな、ラテナ。大好きだぞ!」
俺が頭を撫でてあげようとすると、彼女は急に女神形態へフォルムチェンジした。
何事かと撫でるための手をとめる。
いきなり変身したのでこわかった。
すると彼女は「や、辞めちゃうんですか?」と向こうから赤髪をくっつけてきた。
俺は苦笑いしながら、頭を撫でてあげた。
「ふくふくっ、やったあー!」
ラテナは実に気持ちよさそうに、さらさらな赤髪を差し出してくれた。
女神になっても、俺の相棒は昔とおなじように、なでなでが大好きらしい。
さてさて、それじゃ魔術の勉強を始めようじゃないか。
──転生から1ヶ月が経過した
7歳である俺の1日のスケジュールは基本的にすべてがフリータイムだ。
せいぜい、朝ごはん、昼ごはん、夕ごはんの時間と父との剣の稽古の時間が決まっているくらいで、他にやる事はたいしてない。
──朝早い時間
俺はラテナといっしょに、郵便受けを確認しにいく。
ウィリアムが当主の浮雲家はとても裕福なので、週にいっかい″新聞″が届く。
これは世の中の出来事を把握するのに、とても役立つ貴族のツールだ。
兵舎にいた頃は上級騎士以上しか読ませてもらえなかったので、雑用係の俺にとってはずっと読みたかった物のひとつだ。
郵便受けで立ち読みする。
大見出しにはなにやら隣国との情勢がかかれていた。
「アルカマジ魔術王国と通常通商条約締結?    アルカマジと、か」
俺はラテナのほうを見る。
「ようやくと言ったところですね。騎士王国と魔術王国は数年前まで、小競り合いが続いていましたから、これで平和になるといいです」
「通商が通常化ってことは、むこうの魔術がはいってくるのか?」
「そうでしょうね。まあ、魔術師は″世代を重ねる必要がある″ので、アライアンス産の魔術師がすぐに出てくるとは思いませんが。魔導具や魔導書のたぐいは今までより手に入れやすくなるかもしれないですね」
「ふーん」
世の中、変わっていくんだな。
アライアンス騎士王国は圧倒的な武力で侵略を繰りかえしてきたが、ついに話し合いをする時代が来たということだろうか。
「まあこれくらいかな」
「不死鳥騎士団のことは載ってなかったですね」
「ああ。期待してはなかったけど、残念だ」
俺の死など公にはされない。
わかってはいてもやるせない。
「……今はただ頑張ろう」
俺は新聞を折りたたんで、屋敷のなかへもどった。
─────────────
──────────
日々行っなている庭での父との訓練。
木剣同士が激しく打ち鳴らされた,
「てぃやあ!」
「ストップ。──よし、ヘンリー、今日はこれくらいにしておこう」
本日の剣の稽古がようやく終わった。
実践形式の乱取り稽古をしたわけだが、さすがにウィリアムは強すぎる。
子どもの体ではいろいろ無理があるのはわかっているが、もし俺が前世の身体でやっても瞬殺されていることだろう。
上級騎士の実力をわからせられた気分だ。
「はあ、はあ、腕が動かない…。アイガスターは、もっと強いのか? ウィリアムと同等くらいだとは信じたいな……ふぅ」
接近戦は絶望的かもしれない。
俺は息を整えて深呼吸をする。
ウィリアムはタオルで額の汗をぬぐって話しかけてきた。
「大したもんだな。蘇ってからのお前めちゃくちゃ強くなってて驚いたぞ。大人のフィジカルで来られたらヒヤッとする場面もたくさんあった。秘密の特訓でもしてるのか?」
「はは……そうですかね。父さんの指導がいいだけですよ。今日も1日ありがとうございました」
木剣を訓練用武器ラックへしまって、俺は足早に屋敷のなかへともどった。
帰り際ウィリアムは「やはり、うちの子は天才か……」と、ぶつくさとつぶやいた。
──しばらく後
稽古がおわり部屋にもどって来た。
自室ベッド下から魔導書とエーテル語の教本をひっぱりだして言葉の勉強をはじめた。
エーテル語は貴族たちが書類のやり取りで使っている″文字″のことで、紙に記録されている情報はこれがないと解読できない。
この2週間まじめにエーテル語の勉強に取り組んできたおかげで、ようやくひとつ目の魔術の詠唱と、その符号的魔術式について理解できそうなところまでやってきている。
さあ。
記念すべき第一の魔術を習得しよう。
「《ホット》──物をあたたかくする魔術」
理解した魔術は、いかにも初級らしいかわいらしいものだった。
最初はこんなものだろう。
いずれはおとぎ話の魔法使いみたいに、火炎の球とか飛ばしてみたいが、まだ我慢だ。
「不死鳥、炎熱……よし、いける」
俺は読めるようになった詠唱を練習したあとに、唱えてみることにした。
対象はキッチンからもってきたコップだ。
両手でつつみこんで唱える。
「不死鳥の魂よ、
炎熱の力を与えたまへ──《ホット》」
体のなかから力が抜けていくような気がした。兵舎での訓練あとの虚脱感に似ている。
激しい訓練をしたあとは決まって、泥のうえでも眠りたくなるものだった。
これが魔力をつかった感覚か。
「むむ、すこしぬくいな」
「お兄ちゃーん、あそぼー!」
ちょうどいいところに俺の妹のセレーナが部屋へ入ってきた。
父親と同じオレンジ色の瞳。
母親によくにた艶やかな黒髪。
短髪短パン半袖と元気そうな格好の、俺の自慢の妹であり、浮雲家の長女である。
せっかくなので、彼女に俺の魔術を確かめてもらうことにする。
「このコップ持ってみて、レナ」
「わあ、ぬくぬくしてて温かーい!」
「やっぱりそう思うか?」
「お日様にあててたからあったかいのー?」
セレーナはベッドに腰掛ける俺のよこにピタッと体をよせてすわった。
頭を撫でてあげると嬉しそうに破顔する。
なんなんだろう、この可愛い生物は。
うちのラテナと良い勝負をする。
「実は兄ちゃんの魔術なんだ、これ」
「えー!? お兄ちゃんって魔術がつかえたのー?!」
「たくさん勉強したからな」
俺はそう言って、セレーナの持つコップをちいさな手のひらのうえから包んで、もう一度同じ《ホット》の魔術をつかった。
じんわり温かさが生まれて、ポカポカとコップが温まる。
「えぇえ! お兄ちゃんすごいっ! どうやったのー!?」
セレーナは大興奮で「教えて教えて!」と俺の服をひっぱってくる。
魔導書を手に持ち「全部書いてあるよ」と教えてあげた。
すると今度は「お兄ちゃん、字が読めるのー?!」とさらにびっくりされてしまった。
何言っても全力で驚いてくれるのは、なんとも嬉しいものだ。
「レナも6歳だもんな。勉強すれば絶対に文字が読めるようになると思うよ」
「わたしも魔術つかえるかなー?」
「俺に出来たんだ。絶対できるさ」
俺の言葉にセレーナは大喜びだった。
嬉しそうな妹の顔を見ていると、それだけでこっちまで幸せな気持ちになれる。
「それじゃ、いっしょに勉強するか。学びの事ならウィリアム様も許してくれるだろう」
この日より、俺はセレーナとともに、順風満帆な兄妹の時間を過ごしはじめた。
          
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