【完結】 外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ノベルバユーザー542862

怪物学会視察 Ⅶ


──ジャヴォーダン城、郊外の森

フレデリックの危機報告は、ジェノン鉱山山頂のタイタンが塔を狙撃した直後に、すべての鬼席へと伝えられた。

「怪物学会は野蛮な暗殺を仕掛けてきた! フレデリック様の予想通り、ルール無用の原始的で非道な奴らだ!」

森を揺らす大声だった。
木々から鳥たちが飛びたっていく。

声は語りかける。ジャヴォーダン郊外の森で待機していた血の騎士たちへ。

集団の先頭に立つ男が大声を発している。

身長2mを超える巨体だった。
筋肉質な身体は、鎧を纏っていない。その鋼の筋肉こそが鎧とでも主張してるようだ。

「我々は秩序を守るための報復へ移行する! 血の騎士たちよ、怪物学会のすべてを破壊し尽くせ。モンスターも、魔術師もすべてだ! これは正義を守るための戦いだ!」

男の咆哮に、血の騎士たちもまた咆哮で答えた。

「突撃ぃぃい蹂躙せよ!」

血の騎士たちを率いて、先頭の巨漢──第四鬼席『審判者』ローデンが走りだした。

一歩一歩が地を揺らす巨人の突進は、森を軽々と踏破して、誰よりも速くジャヴォーダン城の城壁に到達する。

パワフルなタックルで城壁に突っ込んだ。
ローデンは城壁の存在に気がついていないかのように、いとも容易く城の守りを突破した。

一方、第四鬼席に追いつけない血の騎士たちは、城外にある森でトレントたちによる歓迎を受けていた。

「トレントだ、トレントたちが木に紛れているぞ!」
「これで隠れてるつもりなのか……?」
「多い! なんて数だ!」
「まさか、この森全部……?」

主人の城を守るべく、トレントたちは根っこを地面から持ち上げて、血の騎士たちを絡め取っていく。

「通常のトレントより根の力が強い……! これが怪物学会のモンスターか!」
「2人一組で根を切り落とせッ!」 ローデン様を追う必要はないッ!」
「時間をかけろー!」

世間一般で言う雑魚に分類されるトレントたちだが、怪物学会のトレントは少し厄介だ。
とはいえ、統率の取れた熟達の血の騎士たちは、このトレントたちには少々荷が重い。

血で強化されたフルプレートの鎧に身を包み、最強の証たる造血剣を装備した騎士たちの戦闘力は凄まじい領域にある。

冒険者ランクで言えば、ひとりひとりがプラチナ等級とダイヤモンド等級の間ほどの、高い実力の持ち主だ。

「邪魔な古木どもめ!」
「道を開けろ! 抵抗するだけより悲惨な報復が待っているとわからんのか!」

トレントたちが砕かれ、ただの物言わぬ屍となり、自然に還っていく。

一箇所に集められ、火を放たれ、燃やされ、炭にされ、まとめて処分されていく。

この血の力を身につけた侵略者たちを追い返すには、より大きなモンスターが必要なようだった。

「で、でかい奴がいるぞ!」
「エルダートレント……! エルダートレントが混じっているぞ!」
「恐れず叩き切れ! 所詮は古木にすぎん!」

勇敢な血の騎士が造血剣で、エルダートレントを大上段から斬りつける。

──ガァン

造血剣が弾き飛ばされ、地面に突き刺さった。

「か、硬いッ?!」

血の騎士たちの造血剣ですら、大きく、硬く、強いエルダートレントにはまるで歯が立たない。

「怪物学会はモンスターを品種改良しているというが、まさかこれほどとは……っ!」
「隊列を組みなおせ! 上級騎士たちを前へ! 幹を直接狙うなよ!」

血の騎士たちはエルダートレントたちへ、数人でまとまって対処を始める。
だが、エルダートレントは長い年月で知恵をつけたとされらトレントたちだ。

知性のある彼らは事前に受けたアルバートの指示を覚えていられる。ゆえに、彼の従い包囲網をしいて、血の騎士たちを追い詰めた。

見たことのない統率のとれたモンスターたちの動きに、騎士たちの顔に焦燥感が現れだした。

「どこかに使役術者がいるはずだッ! 遠くはない! 探して殺せぇええ!」

通常ならば、血の騎士たちでも容易に倒せるのがエルダートレントというモンスターだ。
だが、ジャヴォーダン城の森にいるエルダートレントたちは並の強さではない。

怪書により呼び出されるモンスターたちは、その種が持つ″最高のポテンシャル″を持って生まれてくる。

ゆえに通常なら冒険者ギルドに、ゴールド等級の脅威度と分類されるエルダートレントたちは、プラチナ等級以上の脅威度になっているのだ。

だが、そんな強靭なエルダートレントさえ一撃のもとに屠る戦士たちが、血の騎士たちにはいる。

「デカブツが暴れてるな。退け、道を開けろ」

鋭い目つきをした男が大声で言った。
後方から聞こえてくる声に、血の騎士たちは慌てて道を開ける。

まだ若い騎士が聞く、「あの人は誰ですか……?」壮年の騎士が「候補者様だ、目を合わせるな!」とピシャリと言い放つ。

『血の一族』を守る使命を持つハンドレッド家には、特別な血の騎士たちがいる。
通常の騎士よりも高い実力を認められている上級騎士たちとも違う。

ひとつ階級が異なる彼らは、″候補者″と呼ばれている。

その実力は、ダイヤモンド等級パーティが連携して討伐に掛かるモンスターを、単騎で討ち取るレベルだ。

「皆、伏せろぉおおお!」
「援護射撃くるぞぉぉおお!」

遠くの騎士たちがそう叫んだ。
エルダートレントを最前線で抑えていた3人の騎士は、顔を見合わせて、いっせいに頭を下げる。

直後、紅蓮の輝きが騎士たちの頭上を通り過ぎていった。

矢だった。矢尻が血で作られた【練血式】と呼応する特別な矢だ。

「鬼狩りの矢」

赤い波動をまとった矢がエルダートレントに直撃する。矢尻は付与された術式によって、血を一気に気化させ、蓄えた熱を外へ放出した。

体積の膨らんだ熱い血煙は、エルダートレントの体を発火させる。

エルダートレントは天敵たる火の魔力に、本能的な拒絶をしめ大暴れをはじめる。

木の根で拘束していた血の騎士を解放し、さらに他のトレントたちを軒並み薙ぎ倒して、なお痛みにのたうち回る。

すぐに続く第二矢が飛んできた。

今度のソレは血を発火には使わず、硬質化させ、形状を調整した貫通特化型の矢だった。

エルダートレントの幹に虚空が空いた。
その背後にいたトレント5体にも一斉に風穴が穿たれた。

「なんという破壊力だ……」
「流石は候補者様」

まわりの騎士たちは、候補者たちの群を抜いた戦力に、差をマジマジと感じる。

「鬼席に近づくと言うことは、こう言うことだ。強そうな獲物はすべて我々、候補者が相手取る。お前たちは有象無象を狩っていけ」

長距離から速射しながら、その候補者は言った。黒赤の大弓を持つ、切れ長の目の男だ。

「お前らも行け、思ったよりもモンスターが多い」
「し、しかし、我々は『鷹の目』様の身辺警護の任がありますので……」

その言葉に切れ長の目の男は、大弓を構えるのをやめて、側近の顔を見る。

「鬼席に警護がいるのか? ローデンには警護はいないが?」

そして、再度、鬼狩りの矢を放ち、。400m先のエルダータレントを爆発四散させる。

側近は震えながら頭を下げ、「ご武運を……」と言い残すと前線へ走っていった。

後方にひとり残された切れ長の目の男──リングストン・ハンドレッドは、専用の高台から狙撃を続ける。

リングストンの目には、城の中から、ファングやレッドファングなどの下級モンスターたちがワラワラと出てきているのが見えていた。

「怪物学会のモンスターたちには、爆死をプレゼントするだけだ」

百発百中の鬼狩りの矢は、次々とファングたちを肉の塊に変えていった。

「もっと一気に来い、めんどくせぇ」

リングストンは脇目で矢の本数を数えながら、出来るだけ効率的に敵を殺すべく狙いを変えた。

「ローデンさんよ、玄関が小さい……ぜッ!」

鬼狩りの矢が放たれたのは、『審判者』ローデンがタックルで空けた城壁、その穴の横だ。

見事命中して、爆発が城壁を襲う。

「んあ? 思ったより硬いな……貫通が方が良さそうか」

リングストンは少し不機嫌になりながら、ふたたび矢をつがえた。

「っ」

その時、ソイツが見えた。

先程、『審判者』ローデンが空けた穴から堂々たる足取りでやってくる人影。

遠目から見ても″デカい″とわかる。
青い肌をしたソイツは、ゆっくり大地を踏み締めながら歩いてくる。

『鷹の目』リングストンは、ソイツを見て驚愕に口が空きっぱなしになってしまった。喉が張りつき、脂汗がにじむ。

候補者たる彼が、ここまでの動揺を見せることは滅多にない。

それほどにソイツの存在が信じられなかった──より正確に言うならば、ソイツが片手に持っているモノの存在が。

「あ、あれは……ローデン……」

ソイツは片手に、ピクリとも動かない鬼席を、その首根っこを掴み引きずっていたのだ。

戦場の血の騎士たちは、目の前のトレントやファング系モンスターに夢中で、まだ真の脅威には気がついていない。

まずい。
あんな化け物と戦うなんてダメだ。

指揮官としての直感が、リングストンに血の騎士たちと、鬼席ですら敵わない化け物を、絶対に接敵させてはいけないと伝えていた。

「『鷹の目』様! また新手が来ています!」

慌てふためく騎士の報告に「あとにしろ、優先順位がある」と涼しげな顔で応じる。

今はアレを討つ。
やれるのは自分だけだ。

リングストンは全霊の魔力を込めた貫通特化型の鬼狩りの矢を放った。

矢は一呼吸の内にソイツに届いた。
必殺能力で言えば【練血式】の奥義にも匹敵する自信のある最大最強の一撃であった。

しかし、相手が悪かった。

全力の一矢は、ソイツの頭部に命中した。
だが、魔力の込められた矢尻は砕け、ただ火花を散らして弾かれるだけに終わったのだ。

遥か遠方での真っ向勝負の敗北に、リングストンは唖然としてしまう。

「よ、要件を言え……」

リングストンは、報告しに来た騎士に動揺を悟らせないように言葉を絞り出す。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いようですが」
「要件だけ言え。はやく」
「……わかりました」

報告に来た騎士は、それ以降押し黙る。

リングストンのイライラが加速する。

今はアレをどうにかしなくてはいけないのに!

化け物から目が離せなかったが、弓で狙いをつけながら、報告に来た騎士へ向き直った。

「時間を無駄にするな!」と怒鳴ってやるつもりだった。けれど、リングストンもまた振り向くなり黙りこくってしまった。

そこには、黒い影がいたから。

「…………は?」

リングストンの思考が停止する。

見つめていれば飲み込まれそうな真黒。
揺らめく影は、暗黒で塗りつぶされた口元に、白い歯をのぞかせている。三日月のようにニヤリと笑っているのは誰にでもわかった。

「な、なんだこい──」

リングストンは殺気を感じとる。
慌てて距離を取り、弓で狙いをつける。

影は目にとまらぬ速さで接近してきた。

「触るな!」

リングストンは前蹴りで影を押しやり、距離をとる。同時に高台から飛び降りる。

追ってくる影。
リングストンは宙空で弦を引き絞る。

魔力の充填率は20%……。
だが、この距離なら十分だ!

リングストンは鬼狩りの矢を、ゼロ距離で影へ向かって放った。

だが、影は巧みな動きで身をひねり、矢を躱してしまう。

「何ッ?!」

達人の動きだった。
到底、知性乏しきモンスターのしていい回避行動ではない。

リングストンは決死の覚悟で腰の造血剣に手を伸ばす。

しかし、遅かった。

影は大きな隙を見逃すことなく、どこからともなく取り出したダガーを、リングストンの腹に突き刺してしまう。

「ぐぶ、は……ッ、こ、このクソモンスターが!」

抵抗するリングストン。

だが、彼の身体は6本もある黒腕により、頭を押さえられ、口を押さえられ、肩を押さえられ、首を掻き切りられてしまう。
加えて、影は首の切り口に、黒い触手のような手を突っ込んで首の骨を握力でへし折ると、そのまま喉仏を引っこ抜いてトドメを刺した。

残虐な早業だった。

「きゃっきゃっきゃっきゃっきゃ」

対象を殺害し終えると、影──影害獣は笑い出す。
死亡した遺体に何度もダガーを突き刺している。

「死体で遊ばない。プロの掟」

その声が聞こえると、影害獣はピタリと動きを止めて、飛び退くように起立した。

6本腕の異形であるが、立てば確かに人型であるとわかる。

どこからともなく現れたユウは、弟子の仕事を確認し終えて「悪くない」と上機嫌になる。

「マスターも喜ぶ」
「きゃっきゃ!」
「さ、遊撃続行。指揮官っぽいの狙い目」

ユウはパンパンと手を叩く。
立たされていた影害獣は地面を這いずり、戦場へ戻っていく。

「あなたたちも出番。マスターを喜ばせて」

ユウの影から、影害獣たちがワラワラと出てくる。皆、一度起立してベコリとユウへ頭を下げると、先程の1匹と同様に戦場へ散っていった。

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