【完結】 外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ノベルバユーザー542862

港湾都市 Ⅶ


プロトタナトスが自壊して海の藻屑となっていくのを見届けながら、アルバート率いるNEW CONTINENT号は帰港した。

「やはり、持続力は戦闘型キメラの最大の難点だな。たった一発の攻撃で膨大な時間、金、魔力コストを使い捨てるなんて非効率すぎる」
「あんなに強かったのに、最後には必ず死んじゃうなんて、なんだか可哀想ですよ……どうにかしてあげられないんですか?」
「何とか出来るならとっくにしてる。ふん、まあ、任せておけ。このアルバート・アダンに不可能はない」

アルバートはプロトタナトスの弔いとして、銀の鞄を海へ投げ入れる。

「ご苦労だった。安らかに眠れ」

アルバートはしばし瞑目し、港をあとにした。

NEW CONTINENT号の船員達に、嵐の中で何を見たのかは、口外しないことを金を積んで契約させた後、アルバートは引き上げたお宝を物色した。

船の残骸が防波堤となって積み上がっていた海底には、遠国の見たこともない工芸品や、武器、鎧、服、モンスターの素材、酒、食べ物など本当にたくさんの物が沈んでいた。

アルバートはその中から金になりそうな物を何点か選んで、ティナや、他の使用人たちのプレゼントとして懐にしまいこんだ。

「残りはお前たちで好きにしろ」

アルバートは最後にひとつ、とある魔術家の家紋が描かれた鞄を手にとると、残りをすべて船員達で分配させた。

その後、アルバートは貿易ギルドへ顔をだして、クラーケンの討伐完了を報告した。

「ば、バカなことを言うな! 出港してからたった4時間しか経ってないじゃないか!」
「4時間で十分だった。それだけの話だ。それにお前たちも嵐を見ただろう?」
「むぅ、たしかに先程、沖に嵐が発生したが、すぐに止んだじゃないか。倒した証拠を見せてもらわんと、これで信用するわけには……」
「サルベージしてある。遺体が見たいなら、港に行ってみろ」

貿易ギルドはすぐにアルバートが嘘をついていない事を認めざる終えなくなった。
これまでの謝罪をするとともに、彼らはそのまま貿易の運営再開を約束した。

──数日後

連日の貿易ギルドとの交渉に疲れが溜まってきた週末。

アルバートは寝ぼけたまま、ティナに着替えをさせてもらい、礼服を着込んでいく。

「今日の予定には『さかな博士』とだけ書かれていますが、どこかの魔術師とお会いになるのですか?」
「ああ……」

アルバートは寝ぼけ眼をこすり「今日だったかぁ……」とちょっと億劫な気分になるのだった。

さかな博士の家へと向かう。
オトモはティナと、遠巻きに追跡させているユウの2人だ。

「なんだか静かな場所ですね」

さかな博士の家は、ラ・アトランティスでもかなり人通りの少ない閑散とした場所にある。
近くの船着場には、船は一隻もなく、近所の子供の遊び場としての機能しかもたない。

「今日も子供もいないがな」
「本当にこんなところに魔術師が住んでるんですか?」
「まあ、変わった人だから……」

喋っているとあっという間にさかな博士の家にたどり着いた。

ドアをノックする。
返事はない。

「魔術家の当主として、勝手に入るわけにはいかないか」

さかな博士はあれでも魔術師、つまり貴族である。
ゆえにアルバートは教養ある者として、一定の礼節に則って行動しなければならない。

そんなこんなで1時間ほど家の前で待機した。

この間、何度も玄関をノックした。

「いないのか? 自分で呼んでおいて……」

アルバートは少し苛立ちはじめる。

「俺も暇じゃないんだ。失礼させていただこうか。いくぞ、ティナ」

そう言いアルバートは立ち去ろうとした。
が、背後で玄関扉が開く音がしてふりかえる。

さかな博士がいた。
相変わらず白衣を着ており、薄ら笑いをうかべて、とっても楽しそうだ。

「ずーっとここにいたヨン、チミぃ」
「無駄な事しないでください」
「大肝臓物語ィイ!」

さかな博士は機敏な動きでティナに近づくと、その白い手を握り「くんくんくんくん!」と鼻に押し当てて匂いを嗅ぎまくる。

ティナはビクッと震えながらも、不快感を顔に出さないように必死に取り繕う。

あくまで貴族。
我慢するほかない。

「うちのメイドに何してんだ」

アルバートは強化した腕でさかな博士の顔面を掴みにかかる。ミシミシと頭蓋骨が軋む音が響いた。

「うがぁあああああ?! アルバートくぅーん! アルバートくぅぅーんッ、たちゅけてー! たちゅけてよ、アルバートくぅぅうん!」

ティナから引き剥がし解放する。

「大丈夫か」
「アルバート様ぁぁ!」
「いいないいなぁ、やっばり、エドガーの孫だよねぇ、可愛い女子にもモテるんだろうねぇ」
「くだらない話です。我々はともに魔導を行く者、色恋になど時間を割く余裕はない運命にある」
「くぅぅう、カッケェ、さすがはエドガーの孫ォォオ! もうショタでもいいやぁあ!」

アルバートは襲いかかってくるさかな博士をアイアンクローで撃退する。

「よろしい、では、チミたちを我が偉大なる大魔道帝国魔術工房へ案内しよう! 連隊、行進開始、いち、にッ! いち、にッ!」

さかな博士はクルッと振りかえり「早く早く、フォローミー!」と、両手両足をキレッキレッに動かして、家の奥へ行進して行ってしまった。

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