【完結】 外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ノベルバユーザー542862

ジェノン商会籠絡編 Ⅷ

「タイヨウ! はやくバフ魔術をかけろ! 俺たちの地力だけじゃ危うい!」

ナリヤの指示にタイヨウは素早く、身体強化のバフ魔術を重ねがけする。
ルナは腰を抜かしながらも、すぐに大杖を拾いあげて、暗闇からゾンビが現れる瞬間を狙って素早さを低下させるデバフをかける。

「だいぶ見やすくなった」

エイポックはそう言い、突っ込んでくゾンビ軍団の先鋒を吹っ飛ばして、その先にやってきているゾンビたちに送り返してぶち当てた。

さらに、連射力のあがっていく暗闇爆走攻撃。

「目も慣れてきた」

最上位冒険者はニヤリと笑みをふかめ、同時に走り込んで来た6連星とも形容できる健脚のゾンビアタックに、自らダッシュして突っ込んでいく。

「波紋、六連」

エイポックは穏やかな脱力から、たゆませた筋肉に瞬間的に力をこめた。
瞬発力の極致が生みだす、強烈な緩急のついた剣は、波の線をなぞるような軽やかに尸人たちへとせまる。

瞬間、彼とすれ違った6体のゾンビの頭が飛び、頭をなくした身体はもつれて地面に転がった。

「タイヨウくん、遺体を燃やしておいてくれ」
「……ぁ、は、はい!」

エイポックは分厚い刃のブロードソードを斬り払ってニコリと微笑む。

ナリヤは久しぶりに見た絶技に鳥肌をたたせる。

エイポックの強烈な個性。
それは、冗談みたいに雑な武器、明らかにその技を放つのに適していない武器でも、驚くほど繊細な技を放つ変態性にある。

本来、遥か東洋の古武術を発祥とする高級剣術から学んだ『波紋』を、ゴブリンが好んで使いそうな分厚い刃の野蛮な剣で実演するなんて出来るわけがない。できるとすれば、やはり、彼がエイポックだからだ。
しかも六連撃に技を進化させているのだから、剣士達は呆れかえる他ないだろう。

エイポックはその後も、驚異的な適応能力で俊足の硬ゾンビたちの群れを真正面から打ち破り、殲滅してしまった。

「はぁ、はぁ、流石に手が痺れてきた……で、次は?」

額に汗をうかべるエイポックは、まだ気配の漂う暗闇を見つめる。
彼の想像どうり、奥からまだたくさんのゾンビたちが湧いてきていた。

「すごい量だ。この鉱山には下級アンデットを産み出す最上位アンデットの王がいるに違いない…… いや、それよりもほかの冒険者たちが心配になってきた」

ナリヤは少し前でゾンビの群れ相手に大立ち回りを魅せるエイポックを見ながら、マクドのほうへ視線を向ける。
幸いにも、追加で現れた大量のゾンビたちはノーマルゾンビのようだ。
エイポックも、先ほどよりずっと楽に剣の盾を振り回せているのがわかる。

しかし、そうは思わない者もいる。

「絶対に離れるなよ。助けなど必要ないぞ、ナリヤ!」
「しかし、ミスター、ほかの冒険者たちは……言い方が悪いですが、数だけそろえた寄せ集めでした。ゴールドのパーティーが二つあっただけで、そのほかは普段討伐依頼を受注してるかすら怪しいビギナーたちです」
「だからどうした! お前たちはワシの依頼でここへきてるんだ。バカ貴族がしゃしゃり出て、お花畑から連れてきた雑魚冒険者たちなど知ったことではない!」

マクドの怒声に双子はビクッとする。

ナリヤは目を伏せて、ゾンビたちの『脅威度』のことに思考をさいた。
脅威度は、ギルドが発行しているモンスターの危険性を簡略化して数字で表したもので、脅威度1に該当するモンスターは、ファングの赤ちゃんであるベビーファングを基準としている。ちなみに脅威度0がスライムということになっている。

「(通常、ゾンビは脅威度2に分類される最下級アンデットのはず。しかし、俺とリーダーでさえ見たことのない俊敏性の硬さを持つこのゾンビたちは間違いなく脅威度2では効かない)」

一体どれほどの脅威度に該当するのか。正確なことは、ギルド職員でないナリヤには判断しかねる。
しかし、これまでのキャリアから推察するに、ファーストコンタクトでのインパクトは若いころにパーティー全滅をさせられかけたモンスター、上位獣系のブラッドファングを彷彿とさせるものがあった。
すなわち、初見タックルだけ見れば脅威度20は下回らない印象を、ダイヤモンド級冒険者であるナリヤはもっていた。

伝説の英雄がいたから、なんとかなったが、正直、さっきの1ウェーブで全滅していてもおかしくはなかった。

やはり、この鉱山は危険すぎる。

「ミスター、申し訳ございません。それでも、ほかの冒険者たちが心配です」
「何度言えばわかる! あの冒険者たちは、いわば敵だ! ワシの鉱山を土足で踏み荒らす侵入者だ! そんな者たちに構っている暇があるならあのガキの首でも──」

マクドが唾を吐き散らしながら、そう言いかけたとき。
ガゴンッ──と重たい金属のぶくかる音が聞こえる。
視線を向ければ、大型四足獣にも負けないフィジカルをもつエイポックが、坑道の地面に数メートルの擦り跡を描いて後退しているではないか。

「……ナリヤ、お節介焼きしてるところ悪いんだが、まずは私たち自身の身の安全を考えたほうがよさそうだぞ」

そういって険しい表情をする英雄の視線の先に、坑道に足を踏み入れた者たちは大きな影を見つけた。

その影は大きく、不規則に蠢いている。

「ふしゅる、るぅ……」

闇からゆっくりと全貌をのぞかせる。
横にひろがって道をふさぐゾンビたちが、自然と道をあける真ん中を、のっそりのっそり、まるで足の不自由な老人のように、カクッ、カクッと不気味なリズムを刻んでやってくる。

何十とついた獣の頭には、口や目の位置がおかしい者、大きく開いた口の中に目玉がズラッと並んでいる者、半分溶けて他の頭に融合してる者──と、あまりにもおぞましい前面。

黄色い液体の滴る体は、木の根のようなもので何重にも抱合されており、全身が巨大なツギハギのようでもあった。

生命への宣戦布告。
生きる者へむけた恐怖がここにある。

『醜い獣』リヴァイス・ケルベロス。

かつてアダンの魔術工房で偶然生まれた悪魔的傑作。今回はレシピをしっかりとって、計算されたうえで舞い戻ってきた再誕者であった。

「──徐行開始」

使役者の指示が出た。

「ふしゅる、るぅ、ぅぅ……!」

全部で32個ある溶けた脳に主人の思念が正確に届き、特等席で足組んで試合観戦してるだろう彼のために『醜い獣』は、いびつな咆哮とともに攻撃を開始した。


          

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