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【完結】無能として追放されたポーター、基礎ステータス最強でした。辺境を飛び出して人生やり直します

ノベルバユーザー542862

大怪蟲、オブスクーラセンチピード


「ギギャァアアアアアア!」

オズレの古森を揺らす大咆哮が、空気を振動させ、混沌の訪れを世界に宣告する。
鳥たちは空へいっせいに飛び立ち、小動物たちは災害の爆心地から我先に逃げ出す。

触れてはならない禁忌の怪物は、今、敵を前にして目覚めてしまったのだ。

「これ準A級かなぁ……」
なんなら準S級くらいあるのでは?
いや、S級でもおかしくない。

アリスは動揺しながらも、酸性ヤスリでホーリーダンサーに蟲特攻のチカラを宿す。

泣き言は言ってられない。
こっちだって後がない。

「大きかろうが、蟲は蟲! 先手必勝です! 《火炎練弾》!」

あたりの気温が何度か上がったようなに、肌がヒリつく。

膨大な赤い魔力の収束と解放だ。
ジナの卓越した魔力操作によって、魔術式は満たされ、世界に理の術は受け入れられた。息もつかせぬ火球の連射が大怪蟲へ放たれる。

予想を上回る魔力量と、術式の規模、魔術の回転率にアリスもマーヴィも思わず感嘆の声を漏らして、拍手してしまいたくなった。

毎分120発の驚異的連射性能が、赤い雨のような火炎の弾を可能にし、オブスクーラセンチピードの顔に火弾が容赦なく叩き込まれていく。

「はぁ、はぁ、はぁ!」

数秒連射したのち、ジナはへなっと膝から崩れ落ちた。顔は蒼白でひどく体調が悪そうだ。

アリスは強烈な魔法攻撃を叩き込まれたオブスクーラセンチピードを見やる。

爆煙のなかから、黒い甲殻を光らせながらその巨大な頭部は出てきた。外殻に目立った傷は見られない。ダメージはないと見るべきか。

「そ、そんな……!? 火属性式魔術は特攻のはずなのに……!」
「下がってて。来るわよ」

オブスクーラセンチピードが矢のような速さで地面に突っ込んできた。

アリスは避けざまに一撃攻撃を加えて、マーヴィはジナを拾ってすぐさま回避する。

衝撃で地面が何十メートルも浮き上がり、地盤が粉々に割れ、深く根を張った巨木が、いともたやすく空中に舞い上がる。

すべてがおさまると、深い森のなかに直径30mほどのクレーターができていた。

まさしく災害、驚異的な破壊力だ。

「嘘でしょ? こんなのモンスターどころか、災害生物じゃない!」

災害生物。
人が相手にしてはいけない怪物達のことだ。

「大丈夫かい、ジナ! すごく調子悪そうだ! ポーション飲む?」
「はぁ、はぁ、わたしの、せいです……わたしが、力量もわきまえず攻撃したから……」

「後悔ならあとよ! もう逃してもらえそうにないわ!」

大怪蟲がトグロを巻きはじめた。
竜巻のような気流の流れが発生して、森林がねじれ、めくれ、破壊の嵐に飲まれていく。

吸い込まれたら、ひとたまりもない。

アリスは地面にホーリーダンサーを深く刺して、腰を落として踏ん張る。
マーヴィは飛びそうになるジナを片手に持ちながら、地面に膝まで足を突き刺すことで耐えていた。

「すごいパワーだ! よく食べて、よく寝て、元気に育ったんだね!」
「マーヴィ! しっかりとジナちゃん持っててよ!」
「うん! こっちは任せて!」

身体を固定していたホーリーダンサーを地面から抜いて、アリスは竜巻に吸い込まれるままに、大怪蟲へ突っ込んでいく。

まずは、様子見の初太刀──ではなく、全力全開の多重スキル技。お見舞いだ。

「魂に還りなさい──『破蟲七連』!」

A級、上位剣術スキル『七連斬り』
B級、蟲特攻剣術スキル『蟲斬り』

それは上記2つを習得し、なおかつ同時発動に成功した者が、初めて習得できる、
剣術のゴール──S級剣術スキルである。

「死にさらせぇええ!てぃやぁああああ!」

咆哮とともに、瞬きの1回の間に、猛烈な速さで7回の斬撃が、黒い甲殻に叩きこまれた。

剣速が速すぎて、ホーリーダンサーはムチのようにしなり、赤熱した剣身は、バターのように甲殻を破壊した。

長さにして13mにも達する、大怪蟲の大顎が折れた。落下して地面に突き刺さるだけで、あたりに地震が起きた。

大怪蟲もびっくりしたようで、竜巻も同時におさまり、空を待っていた様々なものが地上へ落ちてくる。

最上位スキル発動直後の、わずかに硬直時間、アリスはうっかり外殻に触れてしまった。

その瞬間、とてつもない衝撃がアリスを襲った。

質量にして数千、あるいは数万倍の差の物質が衝突したのだ。軽い方が受ける衝撃は甚大なものがあった。

全身が熱かった。
呼吸が苦しかった。
頭がドロドロして、視界もめちゃくちゃだ。

アリスは血溜まりのなか、地面にうつ伏せで大の字になって倒れてしまっていた。大怪蟲と接触して吹っ飛ばされ叩きつけられたらしい。

剣を持つ手が痙攣してる。
全身からとめどなく血が出てる。

命が漏れてるみたいだった。

その光景を見たマーヴィは、ジナを地面に下ろして、全速力でアリスに駆け寄った。

アリスはむくりと起き上がり、うつろな眼差しのまま、ローポーションを頭から掛ける。
奇跡の術も自分につかう。
これで最低限、傷口の処置を良い。

「……ひぃ、ひぃ、ふぅ……まだ、動くわ」
「アリス!! もう動かないで!」
「……ぅ、ぅ、ぁぁ」
「じっとしてて!」
「……ぅ、わたしが動かなくなったら誰があれを倒すのよ……」
「僕が倒すよ!」
「…………ダメ」

マーヴィは強い。
それは認めよう。
だが、彼は戦いを知らない。
凄まじい肉体スペックだけではどうにもならないことがあるのだ。

マーヴィはわたしより弱い。
彼に本物の強敵は倒せない。

アリスの脳内において、強さの序列はだいたいこんな感じだった。

S級 脅威度100〜 災害モンスター
準S級 アリス
A級 脅威度50〜100
準A級 結晶の魔術師
B級 オブスクーラヴォルフ マーヴィ
準B級 ジナ
C級 ………
〜〜〜

マーヴィでもオブスクーラヴォルフくらいなら何とかできる。人間相手なら彼の常軌を逸した覚悟に面食らうこともあるだろう。

だが、本物の暴威には通用しない。

「マーヴィ、は、わたしが、わたしが、守る……」
粘性の血が口から塊となって落ちてくる。

「私が時間を稼ぎます! その間に2人は逃げてください!」

ジナが血を吐きながら叫んだ。

責任感からか。
あるいは死ぬ前に一矢報いようと言うのか。

否、それは生存を諦めないための最善手。
コイツは、このバケモノからは絶対に逃げきれない。倒すしかない!

家族の仇、祖父の夢、町の惨状。
さまざまな思いがジナの心中にはうずまいていたが、結局、最後に彼女を動かしたのは、生きたいという原始的な感情であった。

絞り出した魔力で火炎弾を放つ。
大怪蟲の意識がそれた。
まっすぐにジナへ突っ込んでいく。

ああ……やっぱり、効かないんだ。
5年も修練してきたのにな……。

「おじいちゃん、ごめん……っ、わがままな孫で、ごめんね──」

後悔をいだく少女は大怪蟲に叩き潰された。
直径30mもの陥没のなかに、ジナは消えた。
終わりはあっさりしたものだった。

──あっさりしたもののはずだった。

「………………あれ?」

絶対に死んだ。
そう確信してたのにまだ生きていた。

そう、ジナは思っていた。

なんで? どうして? どうやって?
疑問に突き動かされるままに目を開ける。

自分は抱えられてるらしかった。
顔を上げれば、あの男の顔。
知恵遅れのバカの顔だ。

「アリス、ジナを見てて! やっつけてくる!」
「マーヴィ!! 絶対に行っちゃダメっ! ジナちゃんと、逃げて……っ!」
アリスは血を飲み込みながら、マーヴィの腕を精一杯の力で掴む。

「絶対に、絶対に……い゛がせないッ! わたしが戦うの!」

大怪蟲がクレーターから顔をのっそりと上げる。次の攻撃が来る。

「マーヴィは、マーヴィは、そうやっていつも無茶ばっかしてッ! 今度ばかりは絶対にさせないから……、絶対に!」
「アリス、僕──」
「ダメったらダメ!!」

アリスはいつの間にか泣いていた。

出会った日の事を忘れてない。
父に立ち向かった日の事を忘れてない。
どんなわがままなお願いにも、いつでも笑って、最大の愛で応えてくれた事を忘れてない。

返さなくてはいけなかった。
すべてをくれた彼に。

「わたしは、まだ何もしてあげられてない!」

泣きじゃくる子供のように、怪物のもとへ行こうとするマーヴィを止める。

大怪蟲がクレーターから完全に抜け出した。
巨岩を噛み砕く大顎が開かれる。

「大丈夫だよ、アリス」
「マーヴィ……! なんで、あなたは、いつも笑って、そうやって言うの……」
「わからないよ、難しいことは。でも、信じてよ、僕なら大丈夫だから!」

大丈夫。大丈夫。大丈夫。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。

大丈夫だよ!
大丈夫だ!
大丈夫だと思う!
大丈夫!

マーヴィはいつもそう言って笑うんだ。

大怪蟲が旋風を纏い、森を剥がしながら、突っ込んでくる。

マーヴィの右腕を鎧圧がつつみこんだ。
青紫色のオーラが揺めき、拳へと集中していく。最大の鎧圧だ。

「大丈夫。負ける気がしないんだ!」

そして、打った。
初めての本気を。

───
──


空から黒い甲殻の破片が降ってくる。
舞い上がった巨木や、地盤が降ってくる。

どんよりした空は晴天に。

オズレの古森は神が地上を耕したかのように変わり果て、巨大生物の死骸が散乱している。

唯一荒れていないのは彼の背後だけ。
そこで、アリスは失神したジナを抱きしめて温かな涙をこぼしていた。

海のような美しい瞳は見つめている。
一撃で災害を黙らせた彼を見つめている。

「よかった! 2人とも大丈夫そうだ!」
「マーヴィ……」

アリスは立ちあがり、炎のように熱くなった、蒸気を発する彼を優しく抱きしめた。
マーヴィはびっくりしてしまう。女の子にどう接すれば良いか知らない。ドギマギし、何もできず、結局、棒立ちを選んだ。

抱きしめ返すのは、いささか難易度が高かった。

「あ、そうだ! アリス、また僕の怪我を治してよ! あの時みたいに!」
「ぐすん……っ、本当に仕方ないわ。マーヴィはいっつもボロボロだから」

右肩から滝のようにこぼれ落ちる血を手で押さえ、必死に奇跡の術を唱えた。

断裂した筋繊維の断面。
真っ白な骨も露出している。

マトモでは決して辿り着けない人間を超えたチカラの解放は人間の身にあまる。
マーヴィは大きな代償を支払う事になってしまった。

どんな治癒ならこの千切れかかった腕を治せるのか。答えを探しながら、ニコニコ笑顔を絶やさない彼に、アリスは温かな癒しの力流し込みつづけた。

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