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【完結】無能として追放されたポーター、基礎ステータス最強でした。辺境を飛び出して人生やり直します

ノベルバユーザー542862

結晶の魔術師、トムボーイ・エラストテレス


マイヤは困惑していた。

どこへいったのだろう。
急いで屋敷を出たのに見失ってしまった。
足が速すぎる。

「あーもう! どうしよう! 先生に殺されちゃうよ!」

確かアリスって女の子を探してるとか?
でも、それってあのA級冒険者の子だよね?

それじゃ、今はカーサス炭鉱のなか?

「とほほ、わたしじゃ追えないよ……」

パーティ全滅しかけて、地獄派でともに修業した同期たちが死んだばかりだというのに、こんな任務をさせるなんて。

マイヤはつねづね思っていた。
このまま呪術師を続けていたらいつかひどい目に遭う。
先生に数ある駒のひとつとして使い捨てられるだろうし。

今日のオブスクーラヴォルフ討伐に参加してこい、という無茶な任務と、その後の死んだ同期への対応で、完全に見切りをつけた。

あるいは決心できたのは、間接的にあのマーヴィという男の子のおかげかな……?

「ん? それじゃ、今って逃亡のラストチャンスなのかな?」

そうだ。
これを機に逃げてしまおう。
というか、今しかない。

先生には孤児だった自分と、姉を拾ってもらった恩義がある。

だけど、今までみんなに後ろ指をさされながら、犯罪者集団と言われながらも、地獄派の門弟として頑張ってきたんだ。
そろそろ、生き方を選ばせてもらってもいいはずだ。

「進言する勇気はないけど、黙って逃げる勇気ならあるんですよ!」

そうと決まれば、まずは姉のトゥーラを迎えに行こう。
今頃、治癒院で頑張っているはずだ。

──マーヴィの視点

一方その頃、マーヴィはロビンじいさんたちのもとへ戻ってきた。
炭鉱夫たちが交代で、炭鉱の入り口を見張るの横目に、ロビンじいさんの制止を振り切って、炭鉱に再突入する。

「まったくせわしないぼうずじゃの」

「また怪我人を助けるために……なんて立派な兄ちゃんなんだ!」
「俺たちよりよっぽど肝が据わってやがる……」
「バカだからじゃないか?」

炭鉱夫たちの声を置き去りにして走り、先ほどオブスクーラヴォルフを倒した場所へ戻ってきた。

「死体は必ず持ち帰るわ。ひとり残らずね」

アリスの声が聞こえた。

「アリス! やっと見つけたよ!」
「え、マーヴィ……? なんでこんなところに……って!」
気が付いた。ポライトから出てきてるじゃん。

アリスは慌ててマーヴィに近寄り「アリス、僕、馬に乗って追いかけてきたんだ!」と自慢げに話す口をふさいだ。

「何してるのアリス?」
「被害の確認! って違う! それどころじゃないわ、なんでこんなところいるの?! 着いてきちゃったらダメだってあんなに言ったのに?!」

マーヴィは事の経緯をアリスに説明した。

「ちょっとギルド長なぐってくるから待ってて」
「でも、アリス、呪検査町内会が僕を追ってるんだ! 親切な男の人が教えてくれたよ」
「呪監査委員会ね。町を出たから取り締まりに来たの?」

アリスは険しい顔をする。

どうするのが正解か。
法に従い、善良な市民でいるためには委員会の指示に従うのが正しい。
だが、今更ポライトに戻ったら、マーヴィが心配だ。
それに役人が『知恵遅れの祝福』に対して消極的なのは周知の事実。
マーヴィを助けてくれるかは不透明だ。

「はあ、いつかは考えないといけないと思ってたけど……マーヴィはわたしが守らないと」

アリスは壮絶な被害の現場を、B級冒険者パーティ『蒼い棘』の任せて、さっそくカーサスを離れることにした。否、マーヴィのためを考えるなら、あるいはもっと遠く。国外逃亡も視野に入れる必要があるかもしれない。

「ごめんなさい。とても大事な用ができたの。今回のクエストはここで離脱させてもらうわ」
「あ、アリスさん?」
「そんな急に言われても……途中離脱はギルドからの信頼をガクッと失っちゃいますよ?」
「冒険者の身分よりよほど大切なことなの。本当にごめんなさい」

マーヴィとアリスは炭鉱をあとにした。
三度、ロビンじいさんたちのもとへ戻ってくる。

すっかり親しげな雰囲気になった炭鉱夫たちに迎えられる。
炭鉱北入り口には、先ほどまでなかった黒い馬車が止まっていた。

「見つけたぞ、バカめ」

立派な口ひげを携えた文官風の格好をした男がいた。

「待て待て、勝手に入ってこられちゃこまるぞい」
「あなたは?」
「わしはロビンじゃ。この炭鉱の責任者。得体のしれん者にここをどうにかされちゃ困るんじゃ」
「得体のしれん者、ですか……身の程をわきまえろ、下民」

男はロビンの顔を斬りつけた。
いつのまにか男の手には青く鋭い結晶が握られていた。先端を鮮血が滴っている。

「私はトムボーイ・エラストテレス。エラストテレス家が3代目当主にして、魔術協会の呪監査委員であるぞ」

トムボーイはつばをロビンじいさんに吐きかける。
そして、足で彼の背中を踏みつけ、苦しむ顔をまじまじと見下ろした。
優越感に浸る悪趣味な笑顔が、隠しけれず浮き上がってた。

「委員会は王政府の承認のもとで公務に当たっているのだ。二度と邪魔をするんじゃない。いいな、もぐら野郎」
「うぐ、ぅ……っ!」

マーヴィは全身の毛がゾわっと立つ感覚を得た。
瞳孔が開き、拳を握る手は強く締められ、血が滴る。震えるほどの怒りだった。

マーヴィは思わず飛びかかり、ロビンを虐げるトムボーイを殴ろうとした。──だが、彼よりもはやく、アリスが飛びかかっていた。

「マーヴィは下がってて! こういうクズはわたしがぶん殴ってあげるから!」
「ほう、この私をクズだと?」

トムボーイはロビンから離れて、アリスと距離を置く。

「あなたですか。噂に聞く馬鹿の面倒をみているという冒険者は」
「その口を塞いで、ここから立ち去りなさい」
「断ります。呪いの拡散を防ぐ仕事がありますから」
「マーヴィは女神からの祝福こそ持っていても、呪いなんか受けてないわ」
「ははは、なにを。世界から呪われているじゃないですか」

トムボーイは腹を抱えて笑った。

「いいですか。あのバカは、もう死ぬしかないんです。呪術師にとって崇拝に等しい強力な呪いの痕跡をくっつけている。あれが奴らの手に渡れば、呪いがばらまかれることになる。わかりますか?」
「わかるわけないじゃない」
「わかってください」
「それじゃ、呪術師のいない国にいくわ。それで解決でしょ?」
「秩序の維持を担当する者としてリスクはおかせない。ここで殺す、決定事項です。故郷にいるうちは、我々が魔の手から守り、幸せに生きさせてあげることも出来ました。ですが、自由に動かれてはそれもままなりません」
「今までマーヴィのこと何にも助けてくれなかったくせに、なにを今更……。それじゃあ、ポライトに戻れば見逃してくれるわけ?」
「前科持ちは信用できないです。はあ……そろそろ、楽にしてあげましょう。この世界は彼にとって生きづらいでしょうに。殺すのは、彼のためなんです」

話し合いは無駄なようだ。
この男はマーヴィを殺すことしか頭にない。
死ぬ事が、マーヴィのためなんて天地がひっくり返っても、否定してやる。

覚悟を決めたアリス。
トムボーイは呆れた顔をして、片手間に結晶の剣をマーヴィへ投げつけた。

鋼の剣で叩き斬る。
アリスの殺気が膨れあがる。

「怖いですね。すごい迫力だ」

もう決心した。
こんな国にいちゃだめだ。
目の前のクズが安全保障をうたう場所じゃマーヴィは生きられない。

「魔術師を怒らせない方が良いですよ。後悔することになります」
「そっちこそ、さっさとしっぽ巻いて逃げてれば見逃してあげたのに。先に手出したんだから、うっかり斬られても文句言えないわよ」

緊張感が高まっていく。

マーヴィは逃げてくるロビンじいさんや、炭坑夫たちを庇うように立つ。

「術式展開──結晶装式」
「先手必勝っ! その腐った考え叩き直してあげる!」

アリスは剣の腹で、トムボーイの頭を思いきり殴りつけた。

鋼の剣身が宙をくるくると舞う。

「…………え?」

何が起きたのか理解するのに時間がかかった。

アリスの剣は半ばでパッキリ折れていた。

「安っぽいつるぎだ。田舎の冒険者の収入ではそれでも上物なのでしょうか? まあどうでも良いですけど」

アリスの頬を青い一条の光がかすめる。

トムボーイの身体の周りを覆うようにして現れた、青い結晶壁。それがアリスの斬撃から彼を守り、同時に尖った結晶で攻撃をしていた。

アリスは後退し、頬の傷を手でさわる。
血がついていた。目を白黒させて、想像を上回る魔術師の実力に、嫌な汗がでてきた。

まさか武器を失うなんて。
E級冒険者時代から剣を買い替えず、使い古してきたツケがまわってきた。

「くだらん。私に楯突くのだから期待したが……ふん、高位冒険者と言えど、所詮は魔術の教えを持たないドブネズミか」
「アリスはドブネズミなんかじゃない!」
高飛車な罵倒を否定するバカでかい大声。

アリスはハッとする。
そして、彼を止めようとする。
だが、遅かった。

マーヴィはすでにトムボーイへ突っ込んでしまっていた。

トムボーイは薄ら笑いをしながら、腕を組んで結晶に守られながら迎え撃つ。マーヴィは結晶の隙間から、小洒落たひげ男の顔を殴らんとする。

だが、結晶は意志を持ったように動き、隙間を一瞬で埋めてしまう。
マーヴィの拳は結晶にとめられ、代わりに鋭利なトゲトゲによって血だらけにされてしまった。

「バカが。無策で私を殴れると思ってるのか? 高等魔術師も舐められたものですね、まったく」

「ぼうず、無茶するじゃないわい!」
「マーヴィ! やめて、死んじゃうわ!」

無数の結晶の先端が、マーヴィの身体に突き刺さる。

トムボーイは「やはり、ただのバカだったか」と溢す。

「ロビンおじいさん、もぐらじゃない! なにより、アリスはドブネズミじゃない!」

激昂して声を荒げるマーヴィはもう一度、拳を振りあげた。

「バカめが。何度同じことをしようと無駄に決まって──」

今度は結晶を思いきり殴った。

「あ」

皮と肉が裂ける。
マーヴィは結晶の壁ごしに、トムボーイの顔をぶん殴ったのだ。壁があるのなら、あると踏まえた上で殴れば良い。実に簡単な摂理にのっとって行われた、マーヴィなりの”策”だった。

「ごァアアあああ!?」

トムボーイは結晶の砦が飛び出して、土のうえに転がった。

血だらけのマーヴィが駆け足で近づく。

「ばかかッ?! 貴様、イカれてるのか……?! 尖った結晶を殴るんなんて!」
「ぁあああああぉああああ!」
「く、来るな……っ、やめろ、やめろ、うぁあああああああああ!」

アリスに謝れ!

大切な人を侮辱された怒りのままに、マーヴィは馬乗りになって何度も拳を振り下ろす。

すぐにアリスが止めに入ったが、トムボーイの顔の形はもう変わり果ててしまっていた。

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