魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第314話 魔界の銃のポジションと物資運搬の樹人たち

「ところで、さっきのマシンガンエラテリウムの名前に“マシンガン”って付いてますけど、魔界にも機関銃マシンガンってあるんですか?」

 現在のところ、水の国でも雷の国でも、マシンガンはおろか銃すら見たことがないし、その存在感すら無い。

「今もあると思いますよ」

 『あると“思います”』? 確証は無いのかしら?

「戦争している地域では使われているそうです。ただ、樹の国ではほとんど戦争が起こったことがないので、この森で使われたことは多分ありません。少なくともわたくしはお目にかかったことは無いです」

 銃が普及している地域から存在しなくなることってあるのかしら?

「遠距離から攻撃できるモノとなると、かなり有利な気がしますが、使われないことに理由があるんですか?」
「物質的な話ですけど、あの銃……というか剣でも槍でも、物質的な攻撃そのものが精霊にはあまり効果が無いので、水の国や雷の国のように平穏に近い環境になったところでは使われなくなりました。火の国や氷の国など、内戦など争いがあるところではまだ使われていると思います」
「精霊にはあまり効果が無い?」
「精霊に対して飛び道具のようなものは、身体をすり抜けてしまってダメージが無いことがほとんどなので、銃もあまり効果がありません」

 なるほど。

「でも木の精霊には効果があるんじゃないんですか? 木の精霊はぶっしつに受肉して身体を形成するんですよね?」
「確かに木の受肉体ですが、わたくしたちにもあまり効果はありません。そもそもこの受肉体は本体ではないので傷を負っても、すぐに修復できます。精霊にダメージを与えるには精霊体ほんたいに届く魔力が伴っていなければならないので、銃のように魔力を込めにくいものではダメージが無いのです」
「へぇ~、そうなんですね」
「その半面、剣や槍などは自身の身体に接触していれば魔力を伝達することができるので、強い魔力が込められた剣や槍では傷を負います。そういった面で魔力を込められない銃はあまり使われなくなりました。そのため森林を根城にしている森賊たちも我々精霊による取り締まりを想定してか、銃ではなく剣やナイフ、槍、その他手から離れないモノを主に武器としています。銃を持っている森賊は稀ですね。もちろん亜人には効果があるので、亜人の大群に対してマシンガンはかなり効果があると思いますが」

 銃では傷を負わないのか。便利な身体だ。

「ただ……ミスリル銀という鉱物で作られた銃弾は、魔力を長時間溜め込むので精霊でもダメージを負ってしまいますね」

 幻想金属ミスリルキターーー!

「もっとも……物凄く高価なので一発消費の銃弾に使われるのは稀ですし、弾丸の構成素材に使われていても純度の高いものでなければ大した脅威ではありません。例えば鉛の弾丸の表面に薄くコーティングした程度では、直撃してもかすり傷や痣程度にしかなりません。なので銃で精霊の相手をするのは効率が悪いわけです」

 エルフの使う武器と言えば弓が定番だけど、弓矢も飛び道具だから使われないのかしら?

「ってことはエルフも弓矢を使わないんですか?」
「いえ、使いますよ。今でもエルフの主な武器は弓矢です」

 どゆこと? 理屈に合わない!

「え? だって、さっき飛び道具では精霊にダメージを与えられないって……」
「エルフにとって精霊は信仰対象なので、滅多なことでは精霊を相手にすることはありません」
「森賊の中に精霊はいないんですか?」
「いない……とは限りませんが見たことはないですね。そもそもわたくしたち精霊は周囲に魔力があれば何も食べなくても死ぬことはないので、食うに困って野党に身を落とす必要性がありません」

 なるほど。フレアハルトと同じような“魔力食いマジカリアン”ってことか。

「それに魔力を帯びやすい物質というのがありまして、生物に近いものほど魔力の滞留時間が長くなります。木は滞留時間が長く、土、岩石、金属と無生物に近くなるほど時間が短くなります。そういう理屈でエルフの使う弓矢は矢尻を除いてほとんどが木や羽根など生物に近いモノで作られていますから魔力を帯びた状態で精霊に届けばダメージを与えられるということになります。いざ精霊を相手にする事態になればそういう戦い方が可能です。対して銃は金属で作られているので、魔力を帯びさせるのがほぼ不可能なのです。よって銃では精霊を倒せないということになります。ミスリル銀だけは金属の中でも特殊ということですね」

 へ~、魔力って生物に近い物質ほど留まる性質があるのか。

「あ、でもこの世界のあらゆる物質は微量ながら魔力を帯びてるって聞きましたけど、それでも金属には魔力が留まらないんですか? 鉱物系の精霊もいますよね?」
「微量は帯びてますが、元々ある以上の魔力はすぐに放散してしまうということですね。その物質によって留まれる魔力の許容量があるということでしょう。鉱物系の精霊が存在することについても、精霊体ほんたいまで鉱物というわけではありませんので、魔力性質の考え方とは切り離して考えないといけません」

 精霊が憑けば魔力が大きいというわけでもないってことか。
 それにしても……魔力を蓄える石って最近どっかで聞いたな……
 あっ!

「もしかしてミスリル銀って、魔力の電力変換に使われてたりします?」
「詳しくはないですが、使われてると思います。土の国が主な産出国で、確か粉にしてパネルに張り付けて吸着した魔力を電気に変換するとか」

 あ~、ローレンスさんが言ってた魔力を蓄える石、あれがミスリル銀の鉱石だったのか! (第279話参照)

 銃についての話を終える頃、後ろからナナトスの声がした。

   ◇

「あ、何か後ろから木のような亜人が来たッスよ?」

 ホントだ。随分と歩調が速い。
 あ、あれ見たことある……エレアースモ国立博物館の精霊展にアレにソックリなのが居た。確か閉館後に館内のお手伝いをしてくれるとかなんとか。 (第275話参照)

「ああ、あれは亜人ではありません。あの者たちは樹人じゅじんと言って、わたくしたちと同じ木の精霊に属する下位精霊の一種です」
「あれも精霊なんスか? 何か運んでるッスね」

 三人が一人一台リヤカーのようなものに物資を載せて運んでいる。
 その周りにも五人の樹人。

首都ユグドグランへの物資を運んでいる最中なのでしょう」
「運んでるのが三人しかいませんけど、あとの五人は何をしているんですか?」
「三人が運搬役、四人がその護衛役、一人がリヤカーから物資がこぼれ落ちた時に元に戻す役というところですね。下位精霊への命令は一度に一種類しかできませんので、運搬役は運搬役にしかならず、目の前で物資を盗まれてもそのまま突き進んで行ってしまいます。なので、『物資と運搬役を護衛しろ』という命令を与えた護衛役に運搬役を守らせるわけです。同様に物資が落ちた時に回収して戻してくれる命令を帯びた役ということですね」
「へぇ~、そうなんですね」
「もっとも……護衛役も単純作業しか出来ないので、盗まれることもありますけど、護衛を付けないよりは遥かにマシですので。ちなみにあの樹人は半端な森族程度では敵わないくらい強いですよ。精霊ですので魔法も使えますし」
「へぇ~、下位精霊でもきちんと魔法を使えるんですね。でも、物資を運ぶにしては人数が少なくないですか?」
「こういった森の中を動くには大勢で行き過ぎるとかえって遅くなるので、少人数を小分けにして何度も送るのです。日に何十ものパーティーを輸送に使っています。それと道はここ以外にもありますので別の道を通行しているパーティーもいます」

 三人で一人一台のリヤカーって、随分効率が悪いわね……

「馬車とかで運んだ方が楽な気がするんですが、馬車では通行できないんですか?」
「道を平らに整備したとしても、あっという間に木々で覆われて、再び凹凸が出来てしまうので中々難しいと思います」
「じゃあペガサスとかいないんですか? 空から行けば楽なんじゃ?」
「ペガサスは風の国に多くおり、我が国にも少ない頭数ですが存在します。しかし、彼らの翼は馬車を引いて空を飛ぶようにはできていませんので重量的な面で不可能かと」
「じゃ、じゃあドラゴン種に空から運んでもらうとかは? アクアリヴィアにはワイバーンやドラゴンフラヤーに空から運んでもらうスカイドラゴン便というのがあって、それを使って運搬してもらえましたけど」
「ドラゴンほどの巨体になると、降りられる場所が限られてきますので……その整備と管理をしなければなりません。もう少し小振りなものではグリフォン (※)という生物がいますが、物資を運ぶとなるとそれなりに頭数が必要なうえ、樹人のように継続的に長時間動けるというわけではないので、やはり現状は樹人が効率的なのです」
   (※グリフォン:ワシの頭と脚を持ち、ライオンの身体と後ろ足がくっ付いた幻想生物)

 不便なところねぇ……

「首都へ向かってるってことは、あの人 (?)たちに付いて行けば首都まで行けるってことッスか?」
「そうですね。ただ、彼らは休み無く進むので、彼らに付いて行くのは中々骨が折れると思いますよ。休み無く進行しても首都までおよそ三日から四日はかかりますので、その間不眠不休、飲まず食わず、全力で付いて行かないといけないとなると最早苦行の域かと」

 確かに……後ろから来たのにもう見えなくなってしまった……

「昔、正式なガイドの制度ができる前、ガイド費用をケチったとある旅人が樹人にくっ付いて首都へ行こうとしたところ、途中で樹人を見失ってしまい迷ってしまった挙句、およそ二週間後にユグドフロントの捜索隊に回収されて振り出しに戻ってしまったなんてケースもありますし」

 二週間迷いに迷って振り出しって……
 すごろくのゴール一歩手前で『振り出しに戻る』なんて目じゃないくらい悲惨な振り出しだわ……

「ちなみに、その方はユグドフロントで少しの間療養した後、首都へ行くのを諦めていずこかへ旅立って行きました」

 それはガイド制度ができるはずだ。

「さあ、我々の現在の目的地はエルフヴィレッジですので、右へ曲がりますよ」



 精霊に銃が効かないのは、霊体に対して銃が効果が無いのと同じと考えてもらえれば分かりやすいかと思います。
 まあ……多くの人は霊が見えないし、我々日本人には銃も馴染みが無いので実際のところはどうだか分かりませんが(^_^;)
 もしくはワンピースをご存じな方なら、ロギア能力者(精霊)に覇気(魔力)無しの攻撃が効かないようなイメージで。

 今回、ちょっと前回予告した題名と違うものになりました。

 次回は2月9日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
 第315話【神樹ユグドラシル】
 次回は木曜日投稿予定です。

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