魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第311話 寝起きの悪いトリニアと種を連射する植物

 翌朝――

「……う~ん……くさい……ハッ! 今の寝言!?」

 夢の中でもにおいに苛まれていたらしい。においで目が覚めた……
 最悪な目覚め方だ……

「うっ! ……さ、さっさと歯を磨こう」

 と部屋を出たら、もうすでにロクトス、ナナトス、ルイスさんの三人が洗面所争奪戦の真っ最中。

「は、早くお願いします」
「ロクにー、遅いッス! 早く!」
「……ちょっと待って、もうちょっと……」

 いや、そんな洗面所の目の前で歯磨かんでも良いんじゃない……?

「おはようございます」
「あ、アルトラ様、おはようございます」
「おはようッス」
「……おはようございます……」
「あなたたち臭いわ……」
「現状、歯磨いてないアルトラ様が一番臭いッスよ……」
「………………」

 私も歯を磨く。

「トリニアさんは?」
「声をお掛けしたんですが、まだ寝てらっしゃるようで……女性ですので、我々がこれ以上声を掛けて良いかどうかと思いまして、アルトラ様が起きてくるのを待っていました」
「寝起きが悪いんですかね?」
「さあ? どうでしょう?」

   ◇

 コンコンコン

 トリニアさんの部屋のドアを叩く。

「トリニアさん、そろそろ出発しますよ~」

 ……
 …………
 ………………

「へんじがない…ただのしかばねのようだ…」
「なんスかそれ? 縁起でもないッスよ?」

 小声で言った独り言を捕まえられた!

「ち、地球の有名なセリフよ」
「有名なんスか? どこで使うんスか? 物騒ッスね」

 ゲーム知らん彼らには、どこで使われてるか想像も付かないでしょうね……

「まだ寝てるみたいだね……起きるまで少し待ちましょうか、何か飲みます? コーヒーとミルクどちらが良いですか?」

 亜空間収納ポケットからコーヒーの粉とミルクを取り出す。余談だけどコーヒーの粉は以前カイベルがすり潰したもの。 (第121話参照)

「じゃあ僕はコーヒーで」
「……俺はホットミルクをお願い……」
「じゃあ俺っちアイスカフェオレで」

 私もカフェオレにするか。

「砂糖要ります?」

   ◇

 三十分ほどが経過――

「う~ん……コーヒー選んだのは間違いだったかもしれません。ドリアン臭と合体してしまいました……」
「……俺は気持ちちょっと薄まった……」
「俺っちもそれほどではないッスよ?」

   ◇

 更に三十分が経過――

「起きませんね……」
「一時間経ちましたし、起こしてきましょうか」

 二回目の起床催促。

「トリニアさ~ん、朝食食べましょう」

 ……
 …………
 ………………

 反応が無い。ホントに死んでるんじゃないでしょうね? 少女のような見た目でも三百歳だって言うし……

 コンコンコン

「開けますよ~?」

 返事が無いけどしょうがない。
 ちょっと開けて中を見ると、床に雑魚寝状態。
 うつ伏せで大股開きでちょっとだらしない寝方だ。うつ伏せのためか幸いにもイビキはかいていないが他人には見られたくないであろう姿勢で寝ている。

 これはかなり寝起き悪いみたいだ。
 仕方ない。中に入って起こすか。

「女性の部屋なのでみんなは覗かないように!」

 中に入ってドアを閉める。

「トリニアさん、トリニアさん! 起床時間です、起きましょう」
「ん? あぁ……………………アルトラ様! 何でここに!?」
「中々起きないんで、失礼ながら中に入らせてもらいました」
「す、すみません! すぐ支度します!」
「じゃあ、朝食の用意をしておきますので」

   ◇

「申し訳ありません、森林ガイドがこのような体たらくで……」

 深々と頭を下げられる。

「ああ、気にしないでください。別に迷惑かけられたわけではないですから。それにしても寝起きは弱いんですね」
「失礼しました……自宅では長年全てのことを専属のメイドたちがやってくれるものですから、失態を晒してしまいました……」
「まあ、出発前に朝食としましょう」

 パンとジャム、塗るタイプのクリーム、チョコレートを用意。全てアクアリヴィア産。
 カトブレパス肉を薄切りにしてカリカリになるまで焼き、その上に卵を落として目玉焼きに。疑似ベーコンエッグの完成。
 飲み物はコーヒーとミルクをお好みで。
 ザ・朝食という感じのラインナップ。

「「「「「いただきます!」」」」」

 それにしても……みんな席がそれぞれ遠い。多分、まだにおいを気にしてだろう。まあ今日中には消えるでしょう。

   ◇

 朝食を終えて出発の時――

「小屋は解体しますけど、荷物とか中に忘れてませんよね?」

「「「「大丈夫で~す」」」」

「≪結界内大竜巻バリアレンジ・サイクロン≫」

 風魔法で超限定的に強い竜巻を起こし、突風と風圧で小屋をバラバラに壊した。

「ホントにこれだけで良いんですか?」
「はい、あとは放置しておくだけで腐って木々たちの養分になると思います。中々快適な小屋でしたので少し寂しいですけどね」
「建てたまま進んで、後に来て使った人の時に崩れたりして怪我が出てもいけませんから。では、出発しましょう」


   ◇


 広場を出てエルフヴィレッジに向かう道中、左手に川が流れる場所でトリニアさんが声を発した。

「みなさん止まってください」
「どうしたんですか?」
「ここからは少しの間慎重に歩きます。なるべく最小限の動きで歩くようお願いします」
「……ここから先、大分暗くなってるけど……なに……?」
「今ロクトスさんが気付かれた通り、ここから少しの間危険地帯となっているため、光を咲かせる花ライトブルームを植えることが出来ず、まばらな光になります」

 結構長い距離光量が落ちてるみたいだけど、そんなに危ない道なのかしら?

「そこで、みなさんにこれをお渡ししておきます」

 木で出来た三度笠のような形の盾を渡された。
 結構硬い。普通に盾としても使えそうだ。

「何スかこれ?」
「今、わたくしの樹魔法で作成した盾です。この川の対岸に種で攻撃してくる『マシンガンエラテリウム』という植物がいます。もうここからも見えているあの花です」

 指し示した川を挟んだ対岸を見ると、薄暗い中に大きな花らしきものが沢山咲いた大木?らしきものがある。
 木の大きさは目測で幅は五から十メートルくらい? 高さは上の方は真っ暗で分からないくらい高さがある。花の大きさは一.五メートルから二メートルくらいかな? 端っこが暗くてよくわからない。かなりでかいであろうことくらいは見て取れる。

「あの花の真ん中にある花柱《かちゅう》 を見てください」
「六個の穴が開いてるッスね」
   (※花柱かちゅう柱頭ちゅうとうとも言います)

 え? そんなのあるの? 光量が少なくて花があるのが分かる程度だから私には見えないわ。
 そういえばトロル族《この子ら》って暗闇でも良く見えるんだっけ。 第156話参照

 よ~く目を凝らすと確かに穴が複数開いてる。
 マシンガンと言うより、ガトリングガンの方が合っているんじゃないかという風貌。

「動く者を見かけるとその者に向かって種を飛ばすんです」
「それがどうしたんですか? 種を飛ばすくらいなら他の植物だって……」
「その種が大きくてとても痛いんです。しかも一発なら当たらない可能性が高いのでまだ良いのですが、個体によって十発から数百発連射するので、酷いと傷だらけになります」
「こ、怖えぇッスね!」
「なので今お配りした盾を使ってしのいでください。ここを通行し終わったらその辺に捨ててもらえば腐って木々の養分になりますので。もっとも……最後まで形を保っていればですが……」

 最後不吉なこと言ってるよ……
 まさに種によるマシンガンね。

「マシンガンエラテリウムは何のためにそれをやるんですか?」
「亜人の植物学者の話では繁殖のためという説が有力でしたが、わたくしたち木の精霊は植物と話せますので、花に直接聞いてみたところ『遊び心』だそうです。あの撃ち出す種に繁殖能力は無いとか」

 ここを通行する生物に向かって遊びで種マシンガンをお見舞いしてるってわけか。
 性質たち悪ッ!

「話せるなら『撃たないでくれ』って言ったら良いんじゃないんですか?」
「植物の思考は、我々精霊や亜人とは違って合理的な理由があるわけではありません。『遊び心』とは言いつつも半分くらいは習性のようなものなので、やめさせるのは難しいですね……」

 言うことを聞いてもらうのは無理なのか……
 “習性”ということは、過去ではあれで撃ち倒した動物を自身の養分にでもしていたんだろう。

「その種って当たったらどれくらい痛いんスか?」
「この離れた距離で当たったとしても、一発で青あざが出来る程度には……」

 結構痛いじゃないの! それを何十発も喰らったら、下手したらボッコボコで血まみれじゃないの?

「近距離で喰らったら骨が折れたり、致命傷にもなりかねないですね……二つ以上の花から集中砲火喰らって死んだ亜人もいるとかいないとか……」

 それは立派な殺人花だ!

「ここを通らないといけないんですか?」
「幸いなことに手前にある川が防衛ラインとなっていて、ここがギリギリ、マシンガンエラテリウムの射程距離に届くか届かないかの場所なんです。少し外れたところに木があまり生えていない沼地があるので、そこを進めば怪我はしないと思いますが……沼入りたいですか? ちなみにわたくしの背で腰くらいまでの深さがあります」

 全員が顔を横にフルフルと振る。

「ですよね……なので、できることならここを突っ切った方が良いかなと。半日くらい遅れても良いのならかなり遠回りになりますが別の道もあります……ただ、そっちはそっちで、マシンガンエラテリウムほどではないですが別の厄介な植物がいますので……」
「普段はどうやって通行するんですか?」
「ガイドによってまちまちです。わたくしが通る時にはこうして盾をお配りした上で樹魔法で川辺に沿って壁を作るんですが、あの種の威力は結構強いので同じ場所に攻撃を受け続けると壊される可能性がありますし、隙間を縫って攻撃が飛んで来ることもあります。その他、同行者の魔法で種の方向を変えたり防御したり、何とかして通ります。一発も当たらずに無傷で通るのは中々難しいですね。場合によっては別の道を選択する者も多いです」
「あの花を樹魔法で叩き潰したりとかは?」
「わたくしの目線の高さにある花には届きはしますが……あまりにも上の方にある花には届きません。焼け石に水ですので徒労に終わりますね。それに射程距離はマシンガンエラテリウムの方が上ですので」

 樹魔法も届きにくいほど距離が離れてるのに青あざになるほど痛いのか……

「じゃあ後ろから行ってあの花刈ってしまえばどうですか?」
「あの花、わたくしたちが顔を振るような動きで動くんですよ。明確に標的を見定めてるというか……なので近付く前に集中砲火を喰らいます。下手すると退治するために川を渡っている最中に狙撃されたりとか。それにあの裏側も群生地なうえに光を咲かせる花ライトブルームもほとんど咲いてないので視界が凄く悪いです。下手したら集中砲火を喰らって……」

 ホントに性質たち悪いな!

「さっき花に直接聞いたって言ってましたけど、どうやって聞いたんですか?」
「種が空になった時に聞いてみました。撃ち尽くした後は落ち着くようで、素直に答えてくれましたよ」
「え? ってことは撃ち尽くしてしまえばもう出ないんですか?」
「はい、補充するのに数日かかるようです」

 何だ、それなら対処は簡単だ。

「じゃあ、私が行って空っぽにしてきます」

「「えっ!?」」

「ど、どうするんですか?」
「私が囮になって、集中砲火を浴びて種を空にします」
「あ、ああ、そうか。アルトラ様は剣で斬られても痛くないんでしたね」

 事前に私の身体の特殊性を見せておいたから理解が早くてありがたい。 (第305話参照)

「種が空になったら、あの花刈ってしまったらどうですか?」
「種が空になったとしてもやはり難しいかと……川を渡るのがまず高いハードルですし、あの花は本体が大木の方なので、あっちを切り倒さないといけません。しかし見てくださいあの大木、ここの川に沿ってずっと立ってるので、一体何本あるのか……」
「この道はどれくらい先まであるんですか」
「わたくしがガイドしていた頃は二百メートルくらいだったと思います。もう五十年以上はまともにガイドをしてないので、今は恐らく……四、五百メートルくらいじゃないかと思います。数えたことないですがマシンガンエラテリウムの木は多分三十や五十あるかもしれません」

 三十や五十の木に花が複数輪か……一体何百の花がこの先にあるのか……
 …………もう極大の火魔法でドーンとやってしまいたいわ……
 でもそんなことしたら、大森林大火事になるだろうし。

「じゃあ、ちょっくら行って種を空にしきますね。少し時間がかかると思いますが、お待ちください」

「「よろしくお願いします」」



 ちなみに『エラテリウム』というのは、テッポウウリの学名だそうです。
 その頭に“マシンガン”を付けて、モンスターフラワーとして登場させました。

 「へんじがない…ただのしかばねのようだ…」というセリフ、有名なセリフなのでご存じの方も多いと思いますが元ネタはドラクエです。
 プレイしてる当時「何で屍って分かってるのに返事を求めてるんだよ」と疑問に思ってましたが、今考えてみるとあの世界は動く屍(腐った死体とかガイコツ剣士とか)みたいなのもいるので、死体にしか見えなくても一応しゃべるかどうか確認してみるんでしょうね(笑)

 次回は1月30日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
 第312話【マシンガンエラテリウムの突然変異種】
 次回は来週の月曜日投稿予定です。

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