魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第281話 フレアハルトのお願い

「アルトラ、明日は何か用事があるか?」
「明日は特に無いかな。何の用?」
「以前頼んだ、レッドドラゴンの水耐性・氷耐性獲得の件、今日頼めるか?」 (第245話参照)
「ああ、あれか」

 明日は別にやることも無いし良いか。

「わかったよ」
「では、明日迎えに来る」


   ◇


「おはようアルトラ、準備は良いか?」
「OK。じゃあ赤龍峰へ行こうか」

 リディアは相変わらず遊びに行ってる。カイベルは畑へ作物育成の監修に行った。
 伝えてはあるけど、一応書置きしていくか。『フレアハルトのお父さんのところへ行ってくる。夜には帰る』と。

「その前にちょっと町の方へ寄って行く」
「わかった」

 どこへ行くんだろ?

   ◇

 道すがらフッと横を見ると、魚屋が出来ている。

「川魚を売るようになったのかしら?」

 と思って、足を止めて見てみたところ、見たことのない魚や、大分大きめのカニやらエビやらに似ているものが混じって置いてある。

「こんなの川で捕れるのかな? 大きいカニやエビは海のイメージが強いけど……」

 川にだってサワガニや川エビとかはいるけど、ここまで大きいイメージは無い。

「アルトラ様、いらっしゃい。どうですかこれ、中々美味しいですよ!」

 勧められたのは大きいエビ。
 エビフライ久しぶりに食べたいな~……

「何してるアルトラ、早く行くぞ!」
「ああ、はいはい。ごめんなさい、急いでるみたいだからまた今度」

 気になりはしたが、フレアハルトの用事を優先することにした。

「今日はアリサとレイアは?」
「アリサは友人とお食事会らしい」
「へぇ~、レイアは?」
「最近釣りにハマったらしくて、大勢連れて魚釣りに行ってるらしいぞ」

 大勢を? 散歩兼パトロールしてて、そんな大人数で川へ行くのは見たことないけど……

「川へ行ってるのよね?」
「いや、ドラゴンの姿で小さめの家くらいの箱の中に大勢を乗せて連れて行っているようだ。赤龍峰の裏手の海まで行ってるらしい。網やもりを作って持って行くのを見た」

 えっ!? 海釣り!? 網にもりってそれはもはや“漁”なのでは?

「町の者にレッドドラゴンだと正体を明かしてからは、仕事依頼としてそういう付き合いが増えた」

 “そういう仕事依頼”ってのはきっと運搬役ってことだろう。

「何でも屋の範囲?」
「そのようなものだな。それをしてるうちに釣りに興味が出たのだろう」

 なるほど、お金もらって運搬役を請け負ってるわけか。大きいし力持ちだし運搬役には打ってつけだものね。
 さっきの魚屋に置いてあった見たことない魚やカニやエビは海のものだったのか。遂に海に進出したわけね! 漁師の誕生か!
 役所の農林部を、農林水産部に改名しないといけないかもしれない。

「そういえばクリューは上手くやってる?」

 クリューにはこの町で暮らすに当たって、フレアハルトたちの経営している何でも屋に所属してもらうことにした。
 何でも屋には役所からも仕事の依頼をすることが多いので所属させるには好都合。
 細身ながら身体能力がかなりのハイスペックなので、力仕事も向いている。

「まあ、うちに所属して日が浅いからまだよくわからんが、言ったことは卒なくこなしてくれるし、我々が不得意な頭を使う分野もやってくれるから助かっておる」

 “我々が”じゃなくて“我が”じゃないのかしら?
 アリサもレイアもフレアハルトよりは考えて動いてると思うけど……戦闘能力至上主義の一族の中ののほほん王子だったから側近二人の方が理解力が高いよ。
 と、思っていても言わないが……

 クリューについて死神って種族がどんな性質なのか分からなかったから、とりあえず“何でもやらせてみよう”と何でも屋フレアハルトたちにお願いしたけど、どうやら上手く町の生活に溶け込もうとはしてくれてるようだ。

「今日はどうしてるの?」
「さあ? 昨日仕事は休みにすると伝えておいたから、どこへ行っているか把握はしておらんな」
「ふ~ん」

   ◇

 雑談しながらやってきた先は――

「え? 役所へ来たかったの?」
「正確には食堂に用がある」
「あ、フレハルさん、ご用意出来てますよ」

 入った瞬間にハンバームちゃんの声が響く。
 予約していたのか皿に乗ったハンバーグ定食が複数用意されていた。

「それとこちらも」

 と用意されたのはオレンジジュースが複数。なぜかグラスに注がれている。

 あれ? 私は赤龍峰へ行くって聞いたと思ったけど、何でご飯が用意されてるんだ?

「何コレどうなってるの? ここへ呼ぶわけじゃないよね? 私は赤龍峰へ行くって聞いたと思ったけど?」
「そうだが?」
「何でここにご飯が用意してあるのよ!」
「ああ、これは持って行く。手土産というやつだ」
「何でこんな持って行きにくい形で用意されてるの?」

 陶器のトレイに用意された定食に、グラスに注がれたジュースって……

 フレアハルトがニヤリと笑って答える。

「フッ……アルトラ、お主の亜空間収納ポケットは形をそのまま維持して運べるのだろう?」
「それがなに……? あ! これをそのまま入れて運べってことか! 何のために!?」
「出してすぐに食べてもらおうと思ってな。その中は温度も変わらんのだろ? 出来ることなら出来立てを食べてもらいたいではないか」

 私、たまにコイツの考えてることがよく分からなくなることがあるわ……

「良いから入れて運んでくれ」
「はいはい……」

 言われるままにハンバーグ定食とオレンジジュースを亜空間収納ポケットに入れる。

「よし、では行くか。と、その前に潤いの木へ行こう」
「何で?」
「あの木の実はこの町で採れる最高級のフルーツだから少し持って行きたい」

   ◇

 と言うわけで、潤いの木管理官のトーマスとイクジューロに融通してもらえるように打診。

「町への流通もありますし、貴重な物なのでそれほど分けてあげられませんが、フレアハルト殿の御父上への手土産となると断るわけにはいきませんね。良いですよ」

 と、五つ融通してくれた。

「よし、では赤龍峰へ行くぞ」


   ◇


 ゲートで、赤龍峰内部へ来た。

 内部に来てみて、すぐに目に留まったのが切り倒されてまとめられた何本もの木。
 あれは以前、私がここに来て作った熱に強い木ね。 (第177話参照)
 綺麗に切り倒されてる。族長さんは木で作られた家に憧れがあるように思えたから、あれを使って家を試作しようとしているのかもしれない。
 少し興味があるけど、今日はフレアハルトの用事が最優先だ。

「そういえば、族長さんには話を通してあるの?」
「いや、まだだが、まあ反対することもあるまい。なにせ我らが忌避きひしていた水や氷に強くなれるのだから」

 何で話通してないの! これで断られたら私、無駄足じゃない!

「まあ……」
「なに?」
「……いや、絶対大丈夫だ。きっと……多分……」

 何だこの歯切れの悪い感じは……?



 今回から新章です。
 アルトラの知らぬところで、海にまで進出していることが発覚しましたね。

 次回は10月18日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第282話【レッドドラゴン族への寒さ耐性付与……】
 次話は来週の火曜日投稿予定です。

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