魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第263話 雷の国へ疑似太陽の創成

「はぁ……」
「フフッ……アルトラ様、災難でしたね」
「そこまで有名になってるなんて思わないしね……」

 片目隠して、変装しているはずが、ツノは隠さずそのままだったから特定できそうな材料を与えてしまっていたことになるのか……大きめの帽子でも被っておくべきだったか。それはそれで目立っただろうが。
 金髪でツノがある亜人くらいなら、その辺にもいそうなんだけど……
 映像を撮られていたのが決定的だった……画質が荒くても、白黒でも、似ていたら声をかけられてしまうらしい。いや、むしろ“画質が荒い”からこそ似ているだけで手あたり次第声をかけられたとも言えるが……

 このままテレビに出演するのも良いかとも一瞬考えたが、有名になるとその後必ず面倒事がくっ付いてくるから、やはりこのまま身を隠していた方が賢明だ。私はただでさえ特殊な身体の作り (主に創成魔法の行使など)をしているのだから、それを知られた時に確実に面倒事が付いてくる。
 下手したら悪いヤツに捕まって人体実験コースだってあり得ないことではない。
 面倒事はうちの町アルトレリアと信頼のおける王族の周りレヴィとアスモだけで完結させておきたい。

 ただ……悪い気分はしない。むしろちょっと嬉しい。
 私とて人間時代、アイドルに憧れなかったわけではない。これほど注目されたことも無いから、少しばかりこれを享受したいと思わないこともない。やぶさかではない!

「アルトラ……ニヤニヤして顔変だゾ?」

 ああ、しまったしまった、つい頬が緩んでしまったか。

「さて、あと一時間どうしようか」
「応接室でお菓子でも食べル。アニメ見ながら食べル! アニメ見せてくレ!」
「他人が出入りするところではダメだったら……」
「ムー! じゃあ今日の日記でも書いておク……」

 最近日記なんか書いてるのか?

「あの……“アニメを見せてくレ!”ってどういうことですか?」

 ほらぁ~、エミリーさんに聞かれてるじゃない!

「え~と……アニメは動く絵……かな?」
「あ、それは知ってます。この国でもケット・シーという猫の妖精がエル・ラトンというネズミの妖精を追いかけ回す『シーとラトン』というアニメが放送されてて、好評を博してますよ。特に子供達が食いつくように見てるみたいです」

 何か……地球で放送してた似たようなアニメを知ってるわ。
 年齢的に私はリアルで見たことないけど、『トマとゼリー』っていう猫がネズミを追いかけ回して、猫が反撃喰らうアメリカ産のアニメ。生前も深夜辺りにたまに再放送してたのを見た。
 動きのバリエーションが凄いのよね。ただ単に歩くだけのモーションでも凄く細かく作ってあって動きが面白い。驚いた時に目とか舌とか飛び出るモーションは、当時としては画期的だったんじゃないかな?

「私が気になったのはその部分ではなくて『見せてくレ』ってところなんですが、アルトラ様がアニメを作ってるんですか?」
「うん?」

 え? そこ?
 アニメなんか作ってないけど、ここで否定したら「じゃあ何の話だ」ってことになってしまう。
 ここは肯定しておくのが無難か……

「う、うん、まあ、そんなような?感じかな……」
「そうなんですか! それは凄いです! アルトラ様の作ったアニメもいずれ見せてくださいね!」

 うう……私がアニメを作ってることになってしまった……何とかエミリーさんの記憶が風化していってくれることを願う……


   ◇


 正午少し前――

「……ベルゼ、そろそろ正午になる……よろしくお願い……」
「わかった、アスモは演説の準備をお願い。私は太陽を作ってくるよ」
「お待ちくださいアルトラ様」
「なに、カイベル?」
「少々不穏な気配が複数あります。どうやら探知系の魔法が得意な者に監視されているようなので、用心のために空間転移を多用して、ランダムなポイントに出現しつつ目的地へ向かってください」
「不穏な気配!? 監視!? 私に関係してるの?」
「はい」
「わかった、詳細は後で教えて。じゃあ行ってくるよ」

 私を監視する者なんか心当たりが無い。
 多分、先日七大国会談に出席したから、それらの国のどれかだろう。中立地帯出身だったってところから私を監視対象に定めたか、もしくは……疑似太陽関連か。
 とりあえず今は雷の国の疑似太陽の方へかからないと。

 ゲートを開き、疑似太陽設置の場所として目星を付けていた王都の南の平原へと移動――
 ――の前に、言われた通りに十回以上もゲートでランダムな場所に転移して私を監視している者を撹乱しつつ、南の平原の目的の場所へ向かった。

   ◇

「この辺りで良いかな? これだけ転移を繰り返せば流石に分からないでしょ」

 王都を南から照らすように、城壁の南門から十キロほど南下した辺りを正午の太陽の位置に設定した。
 雷の国首都トールズは、城壁の中だけでも端から端まで百キロくらいあるから、今回の疑似太陽の照射範囲は二百キロに設定。
 数十年か数百年か分からないけど、十二時数分前になって初めて雷の国首都トールズ内のほとんどの電灯が落とされる。

 一応周りを見回して誰もいないのを確認する。監視者がいるらしいけど、こんなに見通しの良い雷平原に人が居ればすぐに気付く。
 …………よし、周りには誰もいないみたいだ。
 創成魔法の準備をしつつ、十二時を待つ。あと二分。

 十二時きっかりに光属性+火属性+時間属性で作った疑似太陽を空中へと浮かべ、最後に空間属性で地球と同じ青空を再現する魔法を付与した。

   ◇

 十二時。
 ところ変わって雷の国首都トールズ・サントラル広場――

「おお!! 空が明るく青くなった……!」

「……みんな聞いて、今空に浮かんだアレはとある筋から手に入れた魔道具『疑似太陽』……」

 アスモによる国中へ向けた放送が開始されたみたいだ。

「あれが伝説に語り継がれる太陽というものか!」
「なんて明るいの……」
「もう電気はいらないんじゃない?」
「いや、流石に家の中までは光が届かないでしょ」

「……今日からはこのエレアースモの首都に『昼』という時間帯が出現する……対して暗い時は『夜』という時間帯になる。最初は慣れるのが少し大変だと思うけど……先に太陽が出現した水の国ではもう日常のことになっているらしい……そういうわけだから、みんな早く慣れるようよろしくね……これにてスピーチ終わります……じゃ……」

 う~ん……届いてきた声を聞いていただけだけど、何とも女王らしくないスピーチ。
 短いし、発する言葉が砕けすぎてるし、こんなに敬語を使ってなくてもアスモは女王として成り立ってるんだな……
 私は集会時は自然と敬語になってしまうけど……
 まあ、何はともあれどうやら今回はトラブル無く、無事に疑似太陽を作ることができたようだ。



 ここまで読んでいただいた方々、すみません。
 ここでちょっと疑似太陽の性質を変更したいと思います。
 今までは、
  ・空で光り輝く
  ・多少の熱を発する
  ・半径100kmほどの範囲で動く (雷の国のものは200km)
  ・時間と共に日が傾き、日の出日の入りは地面に衝突するように消える
  ・これを作るために使用された属性は『光+火+時間』

 という設定でしたが、ここに『空間魔法』の性質をプラスし、

  ・疑似太陽の効果範囲を地球の空と同じ性質にする
   (日中は青空、日が落ちる時には夕焼けに変化)

 を付け足したいと思います。
 過去のエピソードでは後々そのように修正しますので、疑似太陽はそういう性質であると設定を上書きしていただけるとありがたいです。

 これを修正するに至ったのは、暗い夜の空にいくら光り輝く光源があっても、空は暗いままで、とても昼とは呼べないと思ったためです。
 『昼』であると認識するには、やはり青空が必要だろうという結論に思い至りました。
 ちなみに、設定をミスってしまったアクアリヴィアの疑似太陽以外は、雲の上を動くので曇天時はきちんと曇る設定です。
 アクアリヴィアのものは、レヴィアタンが何も言って来ないため引き続き雲の下を動きます。現状維持。

 次回は8月24日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第264話【ミルクの川を作った牛の伝説】
 次話は明日投稿予定です。

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