魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第256話 死神が迎えに来た!

 寒さのピークも過ぎ、ほんの少しだけ暖かくなってきたらしい。
 農繁期に向けて畑の魔道具の性能点検に行き、帰りがけにメイフィーと世間話をしていたところ、長い黒髪で人間のような見た目の女の子がこちらへ向かって歩いて来るのが目に入った。

 何だあの女の子……?
 あんな子うちの町に居たかな?
 明らかにトロルじゃない。
 人間みたいな肌の色。そんな亜人はこの町では私が把握している数人しかいないはず。

「ねえ、あの子、いつこの町に住み着いたの?」
「あの子? どの子ですか?」
「ほら、あそこにいる……」
「どこですか?」

 私にしか見えないのか?

『歪な魂をあるべき場所へ戻すため来ました……』

 何言ってるんだ? いびつな……魂?

『地獄に身を置かず、亡者でありながら地獄からの脱走を企て、何事も無かったかのように外で生者のように振舞う。地野ちの かい、あなたの魂を本来あるべき地獄へと連れ帰ります』

 今、『地野ちの かい』って言った?
 明らかに私に対して敵意が向いている。
 それに手に持ってるのは大鎌? あれってもしかして死神ってやつ?

『ただし、『代価』を支払うことで猶予を与えられます。つきましては、代価を支払っていただきたいと思います』

 代価? 代価ってなに?

「あ、あの……代価って何ですか?」
「アルトラ様……誰と話してるんですか?」
『………………代価の存在すら知らないようなので、あなたの魂を本来行くべきだった場所へお返しします』

 大鎌が振りかぶられ、大振りの一撃!
 身体を反らしてかわした。

「アルトラ様、突然身体を反らして、どうしたんですか?」

 死神が見えてないから、メイフィーには私が突然身体を反らしたように見えるのか。

「ごめん、私もわけがわからない! カイベル連れて来て! 早く!」
「は、はい!」

 その後も振りかぶられる大鎌をかわす。
 この場で交戦すると周りに被害が及ぶかもしれない。
 羽を出してこの場を飛び去り、町の外へ誘い出す。
 死神の方も骨の翼を出して付いてきた。

   ◇

 大分南へ飛び、魔法を撃っても町にまで被害が及ばないであろう場所まで飛んで来た。

「さあ、ここなら町に被害が及ばないから相手してあげられるわ!」

 あの鎌は……多分当たったらヤバイ部類のものだと思う。胴体に当たったら多分即死か、魂にされて持って行かれるか。どちらにしても即死には違いない。
 「連れ帰る」って言っておいて鎌を振り抜いたから、あれに斬られれば地獄へ連れ去れる可能性が濃厚。

「ファイアボール!」

 炎の球を複数個投げつけて牽制してみるが――

 ………………
 全く意に介さず一直線に突っ込んで来た!
 火球が当たってるのにダメージが全く無い!
 大鎌を下から振られ、空中で翻ってかわす。
 なおも空中で二度、三度と大鎌を振り抜かれ、その度に上に下に避ける。

『避けられてらちが明かないですね。動きを止めてもらいましょう。『シャドウ・バインド』』

 彼女の影の中から黒いツタのようなものが出現! 四肢を拘束されてしまった!

「しまった! これじゃ避けられない!」

 このツタ、多分闇魔法だから――

「ライティング!」

 自分の頭上から光で照らし、黒いツタを消し去った。
 これで再び動ける!

「じゃあ、今度はあなたに動きを止めてもらうわ! 『石神像の圧殺掌ゴーレム・ハンド』!」

 土魔法で地面から石の腕を作り出し、両側から圧し潰し、そのまま石の中に閉じ込めた。
 さっき全くダメージが無かったのを見る限り、これくらいやっても大丈夫……なはず。下手したらミンチになってるかもしれないけど……
 このままカイベルが来るまで閉じ込められててもらおう。

 ドオォォン!!

「………………」

 大丈夫どころか、すぐに石の腕を破壊して無傷で出て来た……
 めちゃくちゃだ……

『ふぅ……面倒ですね……』
「面倒なら見逃してくれない?」
『申し訳ありませんが『代価』をお支払いいただけなければ見逃さない規定ですので』

 だから『代価』ってなんなの!?
 死神だって言うなら、きっと光には弱いはず!

「『超広範囲ギガンティックホーリー』!」

 逃げられないように、超広範囲に強い光の力で攻撃する。
 まばゆい光の柱が出現、死神の姿は光で全く見えなくなった。

「アンド『輝きの鉄柵牢シャインジェイル』」

 ダメ押しにホーリーから逃げられないように光の柵を作った。
 光に弱いならこれで多少はダメージを受けてくれるはずだけど……
 光の柱から少し離れた場所へ移動して様子を見る。

 動いた様子はない。やったか?
 ホーリーの光が徐々に消えて、光の柵だけ残った。

「!?」

 全くダメージが無い……
 光の柵を鎌で一薙ぎすると、粉々に砕け散った!

『多少目がくらみましたね。さああるべき場所へ帰りましょうか。大丈夫、斬られた際に痛みはありますが、瞬時に地獄に送られて蘇生されるのでご安心ください』

 地獄に連れて行かれるんじゃ、ご安心できないじゃないの!!

 更に攻撃してくる!
 大鎌を避ける避ける!
 炎がダメ、物理的な圧迫攻撃もダメ、弱点ではないかと予想した光魔法もダメ、ど、どうしたら!?

 と、効果的な方法が思いつかず、回避に徹していた時、メイフィーに呼んでもらっていたカイベルが到着した!



 久しぶりの戦闘回です。
 元々、地獄にいるはずの亡者が外にいるってのがおかしいので、そりゃ連れ戻しに来る者もいますよね~。

 次回は8月11日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第257話【代価】
 次話は明日投稿予定です。

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