魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚
第249話 下位種は上位種が無条件で怖いらしい
「あ、何か見えたぞ!」
「あれがワイバーンってやつか!」
「あの四角いのが米とか小麦か?」
着陸を近くで見ようと、ヘリポートならぬスカイドラゴンポートに近寄る群衆。
それを見ていたリナさんが注意喚起する。
「運搬作業のお手伝いに来ていただいたみなさ~ん! 着陸するときにかなりの暴風が吹きますので、着陸する前に近寄らないようにしてくださ~い! 吹き飛ばされますよ~!」
ワイバーンたちの姿が見えて間もなく、Sの文字の近くに着陸。
大分離れたところに居たのに、物凄い突風が吹き荒れる。
そこへフレアハルトたち三人が遅れて到着。トロルより力の強い彼らも運搬作業に駆り出された。
この間の雪の日に、彼らの冷気耐性を整えたから、軽い厚着程度で問題無く過ごせてるらしい。
「ほう……これが下位種のドラゴンか、我らと違って人型にはなれんらしいな」
「そのようですね」
「狭いところは入っていくのに苦労しそうですね~」
ちょっと……周りに人いないからって堂々とその話をしないでよ三人とも……
風が落ち着いて、前を見ると密度の濃いドラゴンの集団。十二体のワイバーンの群れは圧巻だ……
「おぉ……でかいな……」
「これがドラゴンってやつか、初めて見た」
「近付いたら食われたりしないよな?」
いや、もう見たことあるし、すぐ隣を見ればもっと強いのがいるじゃない、フレアハルトが。
と、思っても彼らは人型のフレアハルトしか知らないから無理も無い。
よく見るとワイバーンの背中に馬の鞍と鐙のようなものが設置されていて、亜人が乗っている。騎乗していたドラゴンライダーが降りて来た。
リナさんがドラゴンライダーたちに寄って行って話しかける。
「運搬ご苦労様でした」
「これはリナ社長! わざわざ現場へご足労ありがとうございます!」
いや、ご足労してくれたのはあなたたちでしょ。遠いところまでホントにお疲れ様です。
お飾りとか言ってたけどリナさんがこの貿易会社の社長であるため、わざわざ運搬してくれた人たちがリナさんに「ご足労ありがとうございます」などと挨拶をする奇妙な光景が展開される。
「フフッ……わざわざ来てくれたのはあなたたちでしょ、今日は大量に運搬ありがとう」
「本日は遠いところ運搬していただきありがとうございます」
一応私もこの町の領主だから挨拶しておく。
「みなさ~ん、アクアリヴィアのワイバーンは基本的に大人しいので怖がらなくても大丈夫です! それでは町への運搬をお願いします」
危険は無いと聞いた運搬のお手伝いたちが、ワイバーンの持って来た箱から米と小麦の袋の運び出しを開始。
「では我らも運搬を手伝うか。あれらが町に着かねば美味いメシも食えんからな」
フレアハルトがワイバーンに近寄ろうとすると――
ワイバーンが全体的に後ずさりした。
「ん? どうしたというのだ?」
と、もう一歩近づくと、更に後ずさり。
「何だ? 何か避けられてるように見えるが……」
「フレハル、あなたのことが怖いんじゃない?」
「ん? どういうことだ?」
「フレハル様、恐らく…… (我々が彼らより上位種なので恐れられているのではないか)……と思います」
アリサが察してフレアハルトに耳打ちする。
人型になっていても、彼らがドラゴンの中でも上位種ということが伝わるらしい。
そういえばアクアリヴィアの水族館でも、リディアが似たような現象を起こして下位種《大王イカ》を怖がらせていたっけ。 
「ああ、そういう上下関係があるのか。下位ドラゴンなど見たことがないから分からなかったな。では我々はしばらく離れていた方が良いな。ワイバーンが帰ったタイミングで手伝おう」
「リナ社長、それでは運送作業も終わりましたので、我々はこれにて帰還いたします」
「はい、ご苦労様でした」
運送の終わったスカイドラゴン便の方々は、再びワイバーンに騎乗してアクアリヴィアに帰って行った。
その際、ワイバーンたちが一刻も早くここから退散したいように焦って見えたのは、多分私だけだろう。
次にアクアリヴィアから輸入する時に、再びフレアハルトたちがいる地へ来てくれるかしら彼ら……
「さて、じゃあみんな! これの運搬をお願い」
◇
一人当たり三十キロを運んでもらう。
そこで一人のトロルが声を漏らす。
「ここから役所の倉庫まで遠くないか?」
「確かになぁ……馬車使ってる運送屋は楽そうだな」
壁の外に畑があって、更にその南だから、壁からでも二、三キロくらいある。そこから役所までとなると更に五キロくらい。
三十キロを担いで八キロは、ちゃんとトレーニングしている者でもかなりキツイ。
三十六トンだから……人力だけで運ぶと想定すると単純計算で千二百回の運搬が必要になる。
馬車で考えたとしても、馬車に載せられる量が最大でも千四百キロくらいらしいから、安全を考えて千二百キロと考えると……馬車五台だけで運んでも六回往復しないといけないわけか。
これは馬車で役所倉庫に運んだ後に、荷下ろしをしてもらった方が効率が良いかもね。せっかく集まってもらったけど、倉庫前で待機してもらうか。
「アルトラ様~、役所前までアレで転送してくださいよ~」
う~ん……想定してなかったことだから仕方ないか。
「分かった、今回は私がいるからゲートで役所まで繋げるよ。フレハルも――」
あれ? いない。今まで隣に居たのに、どこ行った?
「もう何袋か持って先に行っちゃいましたよ?」
スタートが早い……
他にも何人か運搬に駆り出されたトロルが先に行ってしまったけど、まあ体力あるから良いか。
「アリサとレイアは?」
「わたくしたちはバランスも考えてせいぜい五袋くらいですね」
せいぜいって五袋って……百五十キロよ!?
「フレハル何キロ持って行ったの!?」
「倍くらい持っていったように見えましたね」
三百キロ!?
それ持って八キロ歩くの!?
「フレハル大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ、いくら人型になってるって言ったってトロルたちに比べれば何倍も力持ちですから」
「それに…… (下位ドラゴンのワイバーンですら一体辺り三トン運べるのです。我々がドラゴン形態なら恐らくもっと重い物も可能ですので)」
アリサが小声で耳打ちしてくれた。
そうなのか、それを聞くと三百キロなら彼ら彼女らにとっては、それほど重いものではないのかな?
「もっとも……人型の時はそこまでの力は出ませんが……」
「百五十キロで八キロ歩くとなると、どれくらい疲れるの?」
「人型だとそれなりに疲れると思いますよ」
「じゃあ、三百持って行ったフレハルは?」
「多分あちらに着く頃には、はぁはぁ言ってるんじゃないでしょうか?」
「ふ~ん……追いかけて教えるのも面倒だし、その程度の疲れで済むなら放っといても良いか。じゃあゲートで役所に行こうか。みんなも引き上げて。役所倉庫前で荷下ろしをお願い」
◇
役所到着してしばらく経った後、アリサの予想通りかなり疲れた様子で歩いてくるフレアハルトが見えた。
「はぁ……はぁ……人型だと三百キロは中々重いな…………あっ!」
「あ、フレハル様ぁ~、遅いですよ~!」
袋大量に担いでトボトボと歩いて来たフレアハルトに、レイアが手を振る。
「フレハルご苦労様、みんなもご苦労様」
フレアハルト以外にも、早々に出発した何人かのトロルが三十キロの米を持って歩いて来た。
「何でお主らが先に着いておるのだ!」
「ゲートで役所まで繋げてほしいって頼まれちゃったからさ。あなたたちにも伝えようとしたら、もう隣に居なかったから……」
「え~、じゃあ俺たちが歩いて来た道のりは無駄だったってことですか……」
「ごめんね、もうちょっと早く気付いてれば良かったね」
「はぁ……はぁ……もう少し待っておれば良かったか……すまぬ、少し休む……」
しばらくは石の上に座って『あさってのジョーン』の矢武器ジョーンみたいに燃え尽きていたが、回復したらテキパキと荷下ろしをしてくれた。
◇
米と小麦は役所近くに設えた倉庫へ運び込まれた。
「じゃあ、ここから各お店と売買の交渉をしましょうか。じゃあリーヴァントと副リーダーたちも手伝いをお願い」
カイベルを入れて、米と小麦の適正な売買が行われ、これより三ヶ月は米・小麦に困らない状態になった。
めちゃくちゃ高かったランチセット三千イェンも、かなり価格が抑えられ、千イェンそこそこで食べられるようになった。まだ高い感じがするが、それもこれからか。
現状の私のリナさんへの借金額は一千百八万六千ウォル。
しかし、三ヶ月はこれで良いとしても、もしもう一回三ヶ月後にお願いするとしたら……これが倍額に増えてしまう!
なるべく早く生産体制を作らないといけない。
そうしないと、私が破産してしまう。
この世界の上位種は、無意識に下位種を威圧するらしいです。
巨大なワイバーンですらそうなら、もっと小さいのならガクブルものですね。
次回は8月1日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第250話【身分証明を作ろう!】
次話は月曜日に投稿予定です。
「あれがワイバーンってやつか!」
「あの四角いのが米とか小麦か?」
着陸を近くで見ようと、ヘリポートならぬスカイドラゴンポートに近寄る群衆。
それを見ていたリナさんが注意喚起する。
「運搬作業のお手伝いに来ていただいたみなさ~ん! 着陸するときにかなりの暴風が吹きますので、着陸する前に近寄らないようにしてくださ~い! 吹き飛ばされますよ~!」
ワイバーンたちの姿が見えて間もなく、Sの文字の近くに着陸。
大分離れたところに居たのに、物凄い突風が吹き荒れる。
そこへフレアハルトたち三人が遅れて到着。トロルより力の強い彼らも運搬作業に駆り出された。
この間の雪の日に、彼らの冷気耐性を整えたから、軽い厚着程度で問題無く過ごせてるらしい。
「ほう……これが下位種のドラゴンか、我らと違って人型にはなれんらしいな」
「そのようですね」
「狭いところは入っていくのに苦労しそうですね~」
ちょっと……周りに人いないからって堂々とその話をしないでよ三人とも……
風が落ち着いて、前を見ると密度の濃いドラゴンの集団。十二体のワイバーンの群れは圧巻だ……
「おぉ……でかいな……」
「これがドラゴンってやつか、初めて見た」
「近付いたら食われたりしないよな?」
いや、もう見たことあるし、すぐ隣を見ればもっと強いのがいるじゃない、フレアハルトが。
と、思っても彼らは人型のフレアハルトしか知らないから無理も無い。
よく見るとワイバーンの背中に馬の鞍と鐙のようなものが設置されていて、亜人が乗っている。騎乗していたドラゴンライダーが降りて来た。
リナさんがドラゴンライダーたちに寄って行って話しかける。
「運搬ご苦労様でした」
「これはリナ社長! わざわざ現場へご足労ありがとうございます!」
いや、ご足労してくれたのはあなたたちでしょ。遠いところまでホントにお疲れ様です。
お飾りとか言ってたけどリナさんがこの貿易会社の社長であるため、わざわざ運搬してくれた人たちがリナさんに「ご足労ありがとうございます」などと挨拶をする奇妙な光景が展開される。
「フフッ……わざわざ来てくれたのはあなたたちでしょ、今日は大量に運搬ありがとう」
「本日は遠いところ運搬していただきありがとうございます」
一応私もこの町の領主だから挨拶しておく。
「みなさ~ん、アクアリヴィアのワイバーンは基本的に大人しいので怖がらなくても大丈夫です! それでは町への運搬をお願いします」
危険は無いと聞いた運搬のお手伝いたちが、ワイバーンの持って来た箱から米と小麦の袋の運び出しを開始。
「では我らも運搬を手伝うか。あれらが町に着かねば美味いメシも食えんからな」
フレアハルトがワイバーンに近寄ろうとすると――
ワイバーンが全体的に後ずさりした。
「ん? どうしたというのだ?」
と、もう一歩近づくと、更に後ずさり。
「何だ? 何か避けられてるように見えるが……」
「フレハル、あなたのことが怖いんじゃない?」
「ん? どういうことだ?」
「フレハル様、恐らく…… (我々が彼らより上位種なので恐れられているのではないか)……と思います」
アリサが察してフレアハルトに耳打ちする。
人型になっていても、彼らがドラゴンの中でも上位種ということが伝わるらしい。
そういえばアクアリヴィアの水族館でも、リディアが似たような現象を起こして下位種《大王イカ》を怖がらせていたっけ。 
「ああ、そういう上下関係があるのか。下位ドラゴンなど見たことがないから分からなかったな。では我々はしばらく離れていた方が良いな。ワイバーンが帰ったタイミングで手伝おう」
「リナ社長、それでは運送作業も終わりましたので、我々はこれにて帰還いたします」
「はい、ご苦労様でした」
運送の終わったスカイドラゴン便の方々は、再びワイバーンに騎乗してアクアリヴィアに帰って行った。
その際、ワイバーンたちが一刻も早くここから退散したいように焦って見えたのは、多分私だけだろう。
次にアクアリヴィアから輸入する時に、再びフレアハルトたちがいる地へ来てくれるかしら彼ら……
「さて、じゃあみんな! これの運搬をお願い」
◇
一人当たり三十キロを運んでもらう。
そこで一人のトロルが声を漏らす。
「ここから役所の倉庫まで遠くないか?」
「確かになぁ……馬車使ってる運送屋は楽そうだな」
壁の外に畑があって、更にその南だから、壁からでも二、三キロくらいある。そこから役所までとなると更に五キロくらい。
三十キロを担いで八キロは、ちゃんとトレーニングしている者でもかなりキツイ。
三十六トンだから……人力だけで運ぶと想定すると単純計算で千二百回の運搬が必要になる。
馬車で考えたとしても、馬車に載せられる量が最大でも千四百キロくらいらしいから、安全を考えて千二百キロと考えると……馬車五台だけで運んでも六回往復しないといけないわけか。
これは馬車で役所倉庫に運んだ後に、荷下ろしをしてもらった方が効率が良いかもね。せっかく集まってもらったけど、倉庫前で待機してもらうか。
「アルトラ様~、役所前までアレで転送してくださいよ~」
う~ん……想定してなかったことだから仕方ないか。
「分かった、今回は私がいるからゲートで役所まで繋げるよ。フレハルも――」
あれ? いない。今まで隣に居たのに、どこ行った?
「もう何袋か持って先に行っちゃいましたよ?」
スタートが早い……
他にも何人か運搬に駆り出されたトロルが先に行ってしまったけど、まあ体力あるから良いか。
「アリサとレイアは?」
「わたくしたちはバランスも考えてせいぜい五袋くらいですね」
せいぜいって五袋って……百五十キロよ!?
「フレハル何キロ持って行ったの!?」
「倍くらい持っていったように見えましたね」
三百キロ!?
それ持って八キロ歩くの!?
「フレハル大丈夫なの!?」
「大丈夫ですよ、いくら人型になってるって言ったってトロルたちに比べれば何倍も力持ちですから」
「それに…… (下位ドラゴンのワイバーンですら一体辺り三トン運べるのです。我々がドラゴン形態なら恐らくもっと重い物も可能ですので)」
アリサが小声で耳打ちしてくれた。
そうなのか、それを聞くと三百キロなら彼ら彼女らにとっては、それほど重いものではないのかな?
「もっとも……人型の時はそこまでの力は出ませんが……」
「百五十キロで八キロ歩くとなると、どれくらい疲れるの?」
「人型だとそれなりに疲れると思いますよ」
「じゃあ、三百持って行ったフレハルは?」
「多分あちらに着く頃には、はぁはぁ言ってるんじゃないでしょうか?」
「ふ~ん……追いかけて教えるのも面倒だし、その程度の疲れで済むなら放っといても良いか。じゃあゲートで役所に行こうか。みんなも引き上げて。役所倉庫前で荷下ろしをお願い」
◇
役所到着してしばらく経った後、アリサの予想通りかなり疲れた様子で歩いてくるフレアハルトが見えた。
「はぁ……はぁ……人型だと三百キロは中々重いな…………あっ!」
「あ、フレハル様ぁ~、遅いですよ~!」
袋大量に担いでトボトボと歩いて来たフレアハルトに、レイアが手を振る。
「フレハルご苦労様、みんなもご苦労様」
フレアハルト以外にも、早々に出発した何人かのトロルが三十キロの米を持って歩いて来た。
「何でお主らが先に着いておるのだ!」
「ゲートで役所まで繋げてほしいって頼まれちゃったからさ。あなたたちにも伝えようとしたら、もう隣に居なかったから……」
「え~、じゃあ俺たちが歩いて来た道のりは無駄だったってことですか……」
「ごめんね、もうちょっと早く気付いてれば良かったね」
「はぁ……はぁ……もう少し待っておれば良かったか……すまぬ、少し休む……」
しばらくは石の上に座って『あさってのジョーン』の矢武器ジョーンみたいに燃え尽きていたが、回復したらテキパキと荷下ろしをしてくれた。
◇
米と小麦は役所近くに設えた倉庫へ運び込まれた。
「じゃあ、ここから各お店と売買の交渉をしましょうか。じゃあリーヴァントと副リーダーたちも手伝いをお願い」
カイベルを入れて、米と小麦の適正な売買が行われ、これより三ヶ月は米・小麦に困らない状態になった。
めちゃくちゃ高かったランチセット三千イェンも、かなり価格が抑えられ、千イェンそこそこで食べられるようになった。まだ高い感じがするが、それもこれからか。
現状の私のリナさんへの借金額は一千百八万六千ウォル。
しかし、三ヶ月はこれで良いとしても、もしもう一回三ヶ月後にお願いするとしたら……これが倍額に増えてしまう!
なるべく早く生産体制を作らないといけない。
そうしないと、私が破産してしまう。
この世界の上位種は、無意識に下位種を威圧するらしいです。
巨大なワイバーンですらそうなら、もっと小さいのならガクブルものですね。
次回は8月1日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第250話【身分証明を作ろう!】
次話は月曜日に投稿予定です。
コメント