魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚
第230話 中立地帯の提議の時間 その1
「緊張してきた……」
肝心な時に委縮するのよねフレアハルト。交渉事を側近二人に任せてたツケかな。
それに対して、カイベルはいつも通り冷静に構えている。表情も変わらない。さすカイ!
舞台がせり上がり、七つの大罪の面々と対峙する。
その刹那、突然サバンナの猛獣の前へ放り出されたかのような感覚に陥る。
威圧感が半端じゃ無い……下の階から上の階へせり上がっていくに連れて、空気が冷えていく感覚が、いや身体から体温が抜けていく感覚がした。直接心臓を掴まれたかのようだ。
この場で対面してみて分かる……魔王と呼ばれる人たちには誰一人として勝てる気がしない。レヴィやアスモは私に会う時には随分威圧感を消してくれていたのだなと思った。七魔王間で牽制し合ってるためか、彼女らもいつにも増してピリついている。私が少しばかり強い身体で転生されたからって、少々図に乗っていたかもしれない。
逆に……魔王ではない人たちは、私よりも大分弱い……かな?
そう思ったらちょっとだけ落ち着いてきた。
それぞれの顔を見回してみると、何だか驚いた表情の人物が何人かいる。
間髪入れずに先程まで怒気を放って提議に対応していたサタナエルが、再び語気を荒くしてしゃべり出した。
「貴様、何者だ!? その頭上の輪と白い羽は何だ!?」
あ、そうか、この天使セット (※)、隠してても元々天使だった魔王には見えるんだっけ。
(※天使セット:アルトラの頭上と背中にある天使の輪と羽のこと。平時は飛ぶ時以外は収納している)
「? サタナエル様、どうか致しましたか? わたくしには何も見えませんが……」
司会進行役のカイムさんが口を挟む。
でもおかしいな、カイムって悪魔も元々天使だった気がするんだけど……七つの大罪と違って、始祖ではないから代が進んで見えなくなったとか? もしくは天使の階級の問題か、彼らの能力が天使セットが見える水準に達してなくて見えないか。多分この中のどれかだろう。
「まあ、サタナエル殿、貴殿は先程から怒り過ぎだ。少し落ち着け」
「そなたらは気にならんのか? あれはまるで……伝承に聞く天使ではないか! この魔界に純粋な天使など数千年現れなかったのだぞ!?」
『純粋な天使』か……天使と悪魔の混じった身体の私のどこを見てそう言っているのか分からないが、サタナエルには天使に見えるらしい。
この頭上の輪っかがあるかどうかが論点なのかな?
「まあまあ、あれについても追々聞いていけば良いではないですか」
ルシファーとヴェルフェゴールがなだめすかす。
「アスタロト」
「何でしょう? ティ……ス」
アスタロトの女性護衛の『ティ……ス』と呼ばれた羽の生えた女の人が、アスタロトに耳打ちするのがわずかながら聞こえる。ティ〇〇ス、途中はっきりと聞き取れなかった……
「あの人……多分私たちが……てる人よ?」
「本……すか? 一体誰な……すか?」
「古参……王は多分、昔対……てるから、覚えて……は気付いて……じゃないかな?」
アスタロトって言ったら、レヴィから前々世の私の側近って聞いてるし、私の正体に気付かれたかしら?
「どうか致しましたか? 提議のお時間ですが……」
ちょっと気が散ってしまった……
司会進行役のカイムさんの一言で我に返る。
「あ、すみません。中立地帯から来ました、アルトレリアという町で領主をやっています。アルトラと申します」
「中立地帯?」
「もう最後の提議か、この者がリストにあった噂の中立地帯からの来訪者か」
「あの辺りに住んでたのは頭の悪い亜人くらいで中立地帯に文明など無かったはずだが……地獄から逃げた人間 (の亡者)か? ……七大国会談に参加するなど、誰の入れ知恵だ?」
「あ、それはわたくしの推薦です」
「レヴィアタン殿の?」
「わたくしと、今回ここに来てもらった彼女から、今回の提議にて一石投じさせていただきたいと思います。ではアルトラ殿よろしくお願いします」
レヴィから私へバトンが渡った。
「はい、わたくしの現在住んでいる地獄の門付近は、七大国が牽制し合って、数千年の長きに渡って、どの国も干渉することなく、ほとんど放置されたような状態の土地だと聞いています。わたくしアルトラ以下アルトレリアの住民はそんな荒廃した土地に住んでおり、現在は徐々に生活も改善されてきてはいます。しかし、聞けば地獄付近に居を構えてしまったわたくし自身が、七大国にとっては面白くない存在であるということをお聞きしました。そこでわたくしという存在を知っていただこうと、こうして七大国会談に臨んだ次第です」
「ああ、この者が噂の地獄の門前に勝手に家を建てたとかいう者か」
「どこの国の出身だ? 貴様はどこから来た?」
サタナエルとルシファーから質問を受ける。
突然降って湧いたように地獄の門前に家が建ったから気になるってことかしらね?
「地球から来ました」
「地球? 亡者か、転移者か?」
「亡者です」
「人間の亡者で、魔人を凌駕する能力を持つ者など見たことがないな。こちらに来て少しの魔法を使えるようになるというのは聞いたことがあるが」
「えっ!? 人間でも魔法を使えるようになるのですか!?」
人間って魔法使えるの? それは魔界だから使えるようになるのかしら?
地球では使える人は皆無なのに……仮に使えるって人が居たとしたって眉唾物よ?
私が魔法を使えるのは、この天使だか悪魔だかわからない身体に転生したから使えるようになったのかと思っていた。
「人間は魔法が使えないのですか?」
トライアに質問に質問で返されてしまった……
「少なくとも……地球にいる間は使うことのできる人を見たことがありません」
マジシャンが魔法染みたことをやってるのはテレビで見たことはある。全部トリックとは言われているけど、もしかしたらあの中に本当に魔法を使ってる人がいるのかもしれないけど……
「ですが、我が国では亡者の方で魔法を使ってるのを見ることがありますよ?」
レヴィがそれに応え、トライアから更なる質問が来る。
「亡者になったら使えるようになるのでしょうか?」
答えが全く出ないが、どうやらこの魔界に来た亡者は魔法が使えるらしい。
この答えの出ない論議の答えをカイベルが小声で教えてくれた。
「人間にも魔力器官というものは存在します。ですが、地球には魔法を使うための媒介となる『魔素』というものが全く無いため、体内に魔力器官を備えていても魔法を使うことができないわけです。地球で魔法を使うには魔素をどこかしらから手に入れる必要があります。そのため、魔素が存在している魔界へ来た人間は魔法が使えるようになるのです」
そんな仕組みだったのか……『魔素』って何だ? どこから発生してるんだ? まあ今はそんなことは後々聞けば良いか。
とりあえず今はこの目の前の質問の応答に戻ろう。
「詳しいことはわたくしにも分かりかねますが、少々特殊な形の亡者として魔界へ来たため、魔人を凌駕するほどの力を持ち得たのではないかと思います」
っと、『私には詳しくわかりません』って体を取っておくのが良いよね。実際分からないことの方が多いし。
前々世の私と顔見知りの魔王なら魔力の波長からベルゼビュートと気付く者がいるかもしれないけど、レヴィとアスモを除く全員が、前々世の私が死んだ後に魔王になった者ばかりみたいだから、こちらから何か言わなければ気付かれることはないでしょう。レヴィとアスモは私の味方だし。
もっとも……前々世の私の死以前から魔王のお付きとして七大国会談に来ていたって言う、トライアとアスタロトに、もしフレアハルトほどの魔力感知能力があるのなら既にバレているかもしれないけど、今のところバラされるような素振りもないし。
「そなたが亡者だと言うなら、その頭上に輝く天使の輪は何だ? なぜそなたにはそんなものが付いているのだ!?」
身体の特徴の話題になったことをきっかけに、サタナエルに天使の輪について追及される。
「……すみません、『分からない』としか言えません」
「どういうことだ!?」
「気が付いたらこの身体だったので、本当に一切何も分かりません」
「何も!? 答えたくないのではないのか!?」
「答えられないのではなく、本当に分からないのです」
「ぐぬぬ……」
『納得行かない』という感じで苦虫を噛み潰したような表情で睨まれる。
分からないものは分からないのだから仕方がない。
天使に何のこだわりがあるのだろうか? サタナエル自身も元・天使だから私の情報から何とかして天球に戻るきっかけを得たいとか、そんなところかな?
カイベルに聞けば分かるのかもしれないけど、これも重要機密としか思えないから多分また『お教えできません』と返されるのがオチだろう。
みなさんもきっと魔力器官備えてますよ!
でも残念、地球には魔素が無いので使えません!(笑)
ハッ! 今回本題まで行ってない!
すみません、本題はまた明日。
次回は7月6日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第231話【中立地帯の提議の時間 その2】
次話は明日投稿予定です。
肝心な時に委縮するのよねフレアハルト。交渉事を側近二人に任せてたツケかな。
それに対して、カイベルはいつも通り冷静に構えている。表情も変わらない。さすカイ!
舞台がせり上がり、七つの大罪の面々と対峙する。
その刹那、突然サバンナの猛獣の前へ放り出されたかのような感覚に陥る。
威圧感が半端じゃ無い……下の階から上の階へせり上がっていくに連れて、空気が冷えていく感覚が、いや身体から体温が抜けていく感覚がした。直接心臓を掴まれたかのようだ。
この場で対面してみて分かる……魔王と呼ばれる人たちには誰一人として勝てる気がしない。レヴィやアスモは私に会う時には随分威圧感を消してくれていたのだなと思った。七魔王間で牽制し合ってるためか、彼女らもいつにも増してピリついている。私が少しばかり強い身体で転生されたからって、少々図に乗っていたかもしれない。
逆に……魔王ではない人たちは、私よりも大分弱い……かな?
そう思ったらちょっとだけ落ち着いてきた。
それぞれの顔を見回してみると、何だか驚いた表情の人物が何人かいる。
間髪入れずに先程まで怒気を放って提議に対応していたサタナエルが、再び語気を荒くしてしゃべり出した。
「貴様、何者だ!? その頭上の輪と白い羽は何だ!?」
あ、そうか、この天使セット (※)、隠してても元々天使だった魔王には見えるんだっけ。
(※天使セット:アルトラの頭上と背中にある天使の輪と羽のこと。平時は飛ぶ時以外は収納している)
「? サタナエル様、どうか致しましたか? わたくしには何も見えませんが……」
司会進行役のカイムさんが口を挟む。
でもおかしいな、カイムって悪魔も元々天使だった気がするんだけど……七つの大罪と違って、始祖ではないから代が進んで見えなくなったとか? もしくは天使の階級の問題か、彼らの能力が天使セットが見える水準に達してなくて見えないか。多分この中のどれかだろう。
「まあ、サタナエル殿、貴殿は先程から怒り過ぎだ。少し落ち着け」
「そなたらは気にならんのか? あれはまるで……伝承に聞く天使ではないか! この魔界に純粋な天使など数千年現れなかったのだぞ!?」
『純粋な天使』か……天使と悪魔の混じった身体の私のどこを見てそう言っているのか分からないが、サタナエルには天使に見えるらしい。
この頭上の輪っかがあるかどうかが論点なのかな?
「まあまあ、あれについても追々聞いていけば良いではないですか」
ルシファーとヴェルフェゴールがなだめすかす。
「アスタロト」
「何でしょう? ティ……ス」
アスタロトの女性護衛の『ティ……ス』と呼ばれた羽の生えた女の人が、アスタロトに耳打ちするのがわずかながら聞こえる。ティ〇〇ス、途中はっきりと聞き取れなかった……
「あの人……多分私たちが……てる人よ?」
「本……すか? 一体誰な……すか?」
「古参……王は多分、昔対……てるから、覚えて……は気付いて……じゃないかな?」
アスタロトって言ったら、レヴィから前々世の私の側近って聞いてるし、私の正体に気付かれたかしら?
「どうか致しましたか? 提議のお時間ですが……」
ちょっと気が散ってしまった……
司会進行役のカイムさんの一言で我に返る。
「あ、すみません。中立地帯から来ました、アルトレリアという町で領主をやっています。アルトラと申します」
「中立地帯?」
「もう最後の提議か、この者がリストにあった噂の中立地帯からの来訪者か」
「あの辺りに住んでたのは頭の悪い亜人くらいで中立地帯に文明など無かったはずだが……地獄から逃げた人間 (の亡者)か? ……七大国会談に参加するなど、誰の入れ知恵だ?」
「あ、それはわたくしの推薦です」
「レヴィアタン殿の?」
「わたくしと、今回ここに来てもらった彼女から、今回の提議にて一石投じさせていただきたいと思います。ではアルトラ殿よろしくお願いします」
レヴィから私へバトンが渡った。
「はい、わたくしの現在住んでいる地獄の門付近は、七大国が牽制し合って、数千年の長きに渡って、どの国も干渉することなく、ほとんど放置されたような状態の土地だと聞いています。わたくしアルトラ以下アルトレリアの住民はそんな荒廃した土地に住んでおり、現在は徐々に生活も改善されてきてはいます。しかし、聞けば地獄付近に居を構えてしまったわたくし自身が、七大国にとっては面白くない存在であるということをお聞きしました。そこでわたくしという存在を知っていただこうと、こうして七大国会談に臨んだ次第です」
「ああ、この者が噂の地獄の門前に勝手に家を建てたとかいう者か」
「どこの国の出身だ? 貴様はどこから来た?」
サタナエルとルシファーから質問を受ける。
突然降って湧いたように地獄の門前に家が建ったから気になるってことかしらね?
「地球から来ました」
「地球? 亡者か、転移者か?」
「亡者です」
「人間の亡者で、魔人を凌駕する能力を持つ者など見たことがないな。こちらに来て少しの魔法を使えるようになるというのは聞いたことがあるが」
「えっ!? 人間でも魔法を使えるようになるのですか!?」
人間って魔法使えるの? それは魔界だから使えるようになるのかしら?
地球では使える人は皆無なのに……仮に使えるって人が居たとしたって眉唾物よ?
私が魔法を使えるのは、この天使だか悪魔だかわからない身体に転生したから使えるようになったのかと思っていた。
「人間は魔法が使えないのですか?」
トライアに質問に質問で返されてしまった……
「少なくとも……地球にいる間は使うことのできる人を見たことがありません」
マジシャンが魔法染みたことをやってるのはテレビで見たことはある。全部トリックとは言われているけど、もしかしたらあの中に本当に魔法を使ってる人がいるのかもしれないけど……
「ですが、我が国では亡者の方で魔法を使ってるのを見ることがありますよ?」
レヴィがそれに応え、トライアから更なる質問が来る。
「亡者になったら使えるようになるのでしょうか?」
答えが全く出ないが、どうやらこの魔界に来た亡者は魔法が使えるらしい。
この答えの出ない論議の答えをカイベルが小声で教えてくれた。
「人間にも魔力器官というものは存在します。ですが、地球には魔法を使うための媒介となる『魔素』というものが全く無いため、体内に魔力器官を備えていても魔法を使うことができないわけです。地球で魔法を使うには魔素をどこかしらから手に入れる必要があります。そのため、魔素が存在している魔界へ来た人間は魔法が使えるようになるのです」
そんな仕組みだったのか……『魔素』って何だ? どこから発生してるんだ? まあ今はそんなことは後々聞けば良いか。
とりあえず今はこの目の前の質問の応答に戻ろう。
「詳しいことはわたくしにも分かりかねますが、少々特殊な形の亡者として魔界へ来たため、魔人を凌駕するほどの力を持ち得たのではないかと思います」
っと、『私には詳しくわかりません』って体を取っておくのが良いよね。実際分からないことの方が多いし。
前々世の私と顔見知りの魔王なら魔力の波長からベルゼビュートと気付く者がいるかもしれないけど、レヴィとアスモを除く全員が、前々世の私が死んだ後に魔王になった者ばかりみたいだから、こちらから何か言わなければ気付かれることはないでしょう。レヴィとアスモは私の味方だし。
もっとも……前々世の私の死以前から魔王のお付きとして七大国会談に来ていたって言う、トライアとアスタロトに、もしフレアハルトほどの魔力感知能力があるのなら既にバレているかもしれないけど、今のところバラされるような素振りもないし。
「そなたが亡者だと言うなら、その頭上に輝く天使の輪は何だ? なぜそなたにはそんなものが付いているのだ!?」
身体の特徴の話題になったことをきっかけに、サタナエルに天使の輪について追及される。
「……すみません、『分からない』としか言えません」
「どういうことだ!?」
「気が付いたらこの身体だったので、本当に一切何も分かりません」
「何も!? 答えたくないのではないのか!?」
「答えられないのではなく、本当に分からないのです」
「ぐぬぬ……」
『納得行かない』という感じで苦虫を噛み潰したような表情で睨まれる。
分からないものは分からないのだから仕方がない。
天使に何のこだわりがあるのだろうか? サタナエル自身も元・天使だから私の情報から何とかして天球に戻るきっかけを得たいとか、そんなところかな?
カイベルに聞けば分かるのかもしれないけど、これも重要機密としか思えないから多分また『お教えできません』と返されるのがオチだろう。
みなさんもきっと魔力器官備えてますよ!
でも残念、地球には魔素が無いので使えません!(笑)
ハッ! 今回本題まで行ってない!
すみません、本題はまた明日。
次回は7月6日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第231話【中立地帯の提議の時間 その2】
次話は明日投稿予定です。
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