魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚

ヒロノF

第219話 七大国会談の使者が来た!

 時は一月初旬にさかのぼり、通貨制度開始前の二〇二二年一月四日、正月の三が日が終わった次の日。
 レヴィからの使いが来た。
 内容は七大国会談が開催されるという日程の知らせみたいだ。

「アルトラ様、レヴィアタン様より言付かっております」
「はい」
「今日よりおよそ四週間のちの一月三十日前後、世界のいただきにて七大国会談が開催されますことを、ここにお伝え致します。つきましては正装にてご参加ください」
「あの……一月三十日≪前後≫とは?」
「土の国の魔王・ヴェルフェゴール様が起床される日にちが一月三十日と予想されています。少々日にちがズレる場合がありますので、その前後二日ほどは、いつでも出発できるように準備を整えておいてください」

 ああ、そっか、ヴェルフェゴールが起きたタイミングで開催されるって言ってたっけ。起床タイミングなんか少しずつズレる可能性があるから、予想は出来ても、その日に開催できるかどうかはわからないわけね。

「了解しました」
「護衛は二人まで付けることを許可されています」
「わかりました」
「それではわたくしはこれにて失礼致します」
「わざわざ伝えてくださりありがとうございました」

 正装か……この国に正装なんて無いが、さてどうしたもんか……
 とりあえずリーヴァントに参加の旨を伝えておくか。


   ◇


 リーヴァント以下、副リーダー四人とエルフィーレ、異種族代表のドワーフのフィンツさん、人魚族のトーマスとリナさん、レッドドラゴンの三人、レッドトトロル族ジュゼルマリオ、そしてカイベルに集まってもらった。
 レッドドラゴンの三人には、寒い中無理して来てもらった。

「七大国会談? それに参加するのか?」

 と質問するフレアハルトたちは、三人でストーブ前を陣取っている。

「うん、どうやら私が地獄の門前に居を構えているというところが、他の国にとってあまり面白い話ではないらしいの」
「どういうことですか?」

 私の家がある場所 (地獄への入り口)が七大国からしたら中立地帯であることと、その主な理由が、可能か不可能かはともかく地獄を占有した国による軍事転用がされないためであることを説明した。

「あの場所ってそんなに重大なところだったんですか?」
「私たちにとっては、アルトラ様の家という認識しか無いですね」
「そもそもあの一帯は熱すぎて、アルトラ様がここに現れる前は我々では訪れることすら不可能な場所でしたからね」
「我はアルトラが来る前は“ケルベロスが住んでる場所”、くらいにしか認識して無かったな」
「フレハルさんはアルトラ様が来る前からケルベロスが住んでいることをご存じだったんですか?」
「…………あっ」

 『しまった……』って顔をしてるな……
 フレハルが火に強い種族だということはこの町のみんなにはまだ内緒にしているから、大地が冷える前はケルベロスが住んでいることなど普通は知りえない。

「あ、ああ……伝え聞いた話で知っておった……」
「熱に強い種族の方がお知り合いにいるのですか?」
「ま、まあ……そんなところだ」
「もしかしてフレハルさんが熱に強い種族とか? 普段寒い寒い言ってますし」
「ねねね、熱に強い? さささ、流石に、ああ、あんな熱さに耐えられるわけなかろう! や、焼け死ぬぞ!」

 隠すの下手だな~……正体知ってる私からしたらバレバレに見えるけど……

「ですよね~、ケルベロスはよくあんなに熱いところに住んでられたなと思いますよ」

 こっちは疑うことしないな~……そういえば、ここに集まってるの、キャンフィールド以外みんな真面目を絵にかいたような人ばかりだしな。

「訪れることすら難しい場所だったのに、中立地帯にしておきたかったんですね」
「そういえばそうね。まあ訪れるのが難しかろうが容易かろうが、地獄って場所に収容されている人数がどれほどの数かも想像付かないけど、一つの国が占拠ってわけにはいかないでしょうからね。大量の人数が自分の国の敵になると考えると、他の国も黙っていられないでしょ。必然的に各国間で牽制合わなければならない状況になってしまったから、『中立地帯』とすることで落としどころとしたってところじゃないかな」

 人数差ってのは、それだけで優位性になり得る。日本に住んでた私にはそれが良く分かる。地球には英語圏が多いから、日本語で商品を出しても、日本以外では中々売れないという時代が長かったのを知っている。
 ましてや地獄は、もしかしたら技術者の宝庫かもしれない。大量殺人している昔の偉人や軍人・兵士、マッドサイエンティストとか凄く頭の良い人だって収容されているかもしれない場所だ。そこをどこか一国が独占し、地獄内部に手を出す手段が見つかるなら、その一国が大きく抜きんでるのは間違いないだろう。
 あと、温度に関してはそれに対応する魔法を使えれば何とでもなるしね。事実レッドドラゴンには熱に耐えられる魔法技術があるみたいだし。

「それで、その七大国会談に参加して何を提議してくるんですか?」
「『中立地帯扱い』という厳戒態勢を解いて、この町も他国との交流をしたいということを提議したいと思ってる。もう既に私の独断で人魚兄妹トーマスやリナさん、ドワーフさんなどの水の国の民が何人かここで生活しているけど、それは今の状態では綱渡りの状態だと思っているから、その解消も兼ねて七大国相手に提議したいと思う」
「綱渡りの状態ってどういうことですか?」
「この場合は、いつどこの国に突然攻撃されてもおかしくない状態ってとこかな。中立地帯のはずなのに、どこか特定の国の民が住んでるってことだけでもう問題でしょ? その国をひいきしているような状態とも取られかねないし」
「突然攻撃されてもおかしくないって……戦争になりそうな状態ってことですか!?」
「まあ、平たく言えばそういうことになるね。それを問題無い状態に持っていけるような提議をしてきたいと思う」

 それについてトーマスが語気を荒く疑問を口にする。

「まさか……私やリナやドワーフさんたちがここに移り住んできたから、そんな状態になったということですか!?」

 それを聞いたリナさんとフィンツさんが驚きの表情に変わる。
 トーマスの発言を聞いた上でリナさんが話し出す。

「だとしたら私たちが水の国に帰りさえすれば、解消される問題なんじゃないんですか? 来たばかりで残念ですがトロルのみなさんに迷惑をかけるのも本意ではありませんし……」

 静養のために都会の喧噪けんそうを離れてここへ来たのに、来てそれほど経たずにこんな状態になってしまって、ちょっと申し訳ない……

「いや、そうとも言えない。むしろ主因は私にあるんじゃないかと思ってる……」
「それはやはり地獄の門前に住んでることが原因で?」
「そう、現在一番理解がある水の国の女王様ですら、初対面の時は私が建てた家を見て表情に険しさが現れていた。つまり私はあの場所に住むことが禁忌タブーだと知らずにあそこに勝手に家を建てて住んでしまったけど、あの場所に住むこと自体が異例の事で、他の国にとっては面白くないことなんだと思う。水の国の女王様は住んでるのが私だということが判明した時点から柔和な対応になったんだけど、これがもし火の国や氷の国みたいな好戦的なところに見つかっていたら、穏便には済まなかったかもしれない」
「そういえばアルトラ様と水の国の女王様は旧知の仲なんでしたっけ?」
「そうらしいね、私は前々世のことがわからないから未だに知り合いだったって感覚はないんだけど……」
「相手だけが一方的に知ってるって、複雑な関係ですね……」
「それで、一応その水の国の女王様が、他の国にも伝えてくれるって話だったけど、現在完全に同意してもらえてるのは水と雷の国の二か国だけで、他の国は暗黙の了解なのか、了解してないのかもわからない状態なのよ。だからその曖昧な状況を解決させるためにこちらから七大国会談に乗り込んで話を付けてこようって話」
「それに参加することによって危険なことはないんですか?」
「それは……今の私には何とも言えない……」

 ……この提議によって、今まで気付いてなかった者にも、私が中立地帯に住み着いていることを気付かせてしまうため、内容によっては更に敵を作ってしまうことになるかもしれないけど……

 ……
 …………
 ………………

 少しの間重苦しい空気が流れる。

「それで、七大国会談があるのが今日より四週間後ということなのか?」
「そう」
「どこで開催されるのだ?」
「世界のいただきって場所らしいけど、知ってる?」

 この場にいる全員に問いかける。

「存じませんな」
「私もわかりません」
「知らねえな」
「私ももちろん知りません。ついこの間までおバカでしたから……」

 ここを出たことがないトロル族、レッドトロル族は当然知らず。

「我もわからんな」
「私も知らない」
「わたくしは昔名前を聞いたことくらいなら……」

 レッドドラゴンの中ではアリサが名前を知るくらい。

「場所くらいなら地図にも載っているので知っていますが……」
「女王様と関わりがあっても、流石に七大国会談に関係することに関わったことはないですしね……」
「親方の前の代で、建物の修復に関わったって話を聞いたことがあるな。親方に聞けば何かわかるかもしれないが、当事者じゃないから多分核心的なことは聞けないだろうな」

 トーマスとリナさんは場所くらいはわかるらしい。フィンツさんは薄~い繋がりがあるってとこか……

「それで、護衛を二人まで付けて良いって言うから、フレハルに護衛をお願いしても良いかしら?」
「我か!?」
「あなたがこの中で一番強いから、出来ればあなたにお願いしたいと思うんだけど……」
「ま、まあ、そういうなら仕方ないな。我が引き受けてやろうではないか!」

 ちょっと嬉しそうね。村だった時から雑用が多かったから、こういう派手目なのをやりたかったのかな? それとも『一番強い』ってところに反応したか。元・王子だけど、私のお付きってのは気にならないかしら?

「もう一人は誰にするんですか? この中だとやっぱりアリサさんかレイアさんですか? それとも私の兄ですか!?」
「いや、流石にフレハル殿の従者を差し置いて私では荷が重い。私よりアリサ殿やレイア殿が行った方が余程良い」

 リナさんが兄のトーマスを暗に推薦するが、推薦された当の本人は「力不足だから」と行くのに難色を示す。

「そうね……やっぱり、カイベルについて来てもらおうと思う」

 多分、私が知らないことだらけだから、カイベルいないと不安だ……

「「「あ~あ、確かにカイベルさんなら……」」」

 この場にいる全員が納得の人選。
 ただのメイド (って設定)なのに、彼女の強さはもう広く知られてるらしい。

「カイベルさんなら知識面でも役に立ちそうですしね」
「それにあたってリナさんに、私とカイベルが留守の間のリディアの保護者をお願いしたいんだけど、お願いできる? ただの旅行なら連れて行けば良いんだけど、今回は物騒な提議をしに行くからもしかしたら命の危険があるかもしれないし……」
「はい、お任せください! じゃあ、めちゃくちゃ甘やかしますね!」
「わがままな性格にならない程度にお願いします……」

 もう何だかウキウキしてるわ……

「それで、そこへはどうやって行くのですか?」
「レヴィの……ゴホンッ……水の国の女王様の話では、七大国会談運営側当日に使いを寄越してくれるらしい」
「じゃあ行くこと自体は問題無さそうですね」

 小声でカイベルにも聞く。

「カイベルは当然場所を――」
「知ってます」

 流石私たちのカイベルさんだ。

「行くためのルートもわかっています。飛んで行くのも可能ですが……護衛同伴となると、私は飛べませんし、フレハル様は飛ぶためにドラゴン形態に戻らなければならないため目立ちます。かと言って、歩きで行くと何日もかかると思いますので、素直に使者の方が迎えに来てくださるのを待つのがよろしいかと」

「あの~……」

 今まで黙って聞いていたエルフィーレが手を挙げた。



 今日のエピソードから第9章に入ります。
 今回の章は、現在曖昧なアルトレリアの立ち位置を明確にします。

 次回は6月22日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
  第220話【服作りのための採寸開始】

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