魔界の天使アルトラの国造り奮闘譚
第209話 魔界の風変りなおせち
元日の夜――
「あ~、あとはおせちがあれば最高なんだけどな~」
「ご所望されると思って作ってあります」
「マジで!?」
「クリスマスの買い出しに行った時に一通り買い揃えておきました」
流石カイベルさんだ!
「食材は代用したものが多いですが……」
「いいよいいよ! 毒とか入ってる食材は無いんでしょ?」
「………………」
何だその妙な間は……
「え!? まさか……入ってるの!?」
「毒抜きはしてありますので問題ありません」
「私は毒を無効化できるから良いとして、リディアは大丈夫?」
「問題ありません」
カイベルお手製のおせちが登場。
「うわぁ~……彩り凄いナ! 美味しそウ!」
「じゃあ、いただきましょうか。いただきます!」
「「いただきます!」」
おせちを頂きながら、それぞれの料理に含まれた意味の説明をしてくれた。
「黒豆にはマメに元気に働けますようにという願いが込められています。この黒豆は、漆黒大豆というもので代用しています。太陽が無くても育つ黒い豆で各地で食べられています」
漆黒……黒よりなお黒いのか。太陽が無いところで進化したから、より黒くなったのかな?
「数の子には、ニシンの卵の数が多いことから子孫繁栄の願いが込められています。魔界ではゴシンという魚で代用しています。ニシンが二親にかけていることに対して、この魚はゴシンですので五親とかけてニシンよりも願いが強くなるかもしれませんね。魔界では五親等生きているのも珍しいことではありませんし」
五親等って言ったら……子、孫、ひ孫、玄孫、この次何だっけ?
え~と……来孫?
中々聞かない言葉ね。魔界の家族事情すげぇ……
「まさか……産む卵はニシンの二.五倍なの?」
「いえ、流石にそこまで多くはありませんが……」
名前がゴシンだからって卵の数が増えるわけじゃないか。
「この栗きんとん美味しいね。栗にしか見えないけど、これも代用?」
「はい、栗には違いないのですが、鬼栗という金属性質に近いイガを持つ栗を使いました。このイガはほとんどが鉄分なので、金属加工が可能です」
嘘でしょ……!?
処分に物凄く困りそうだわ。
「ただ、エネルギーを大量に消費するため鬼栗の木は数年で枯れてしまうことと、あまりにもイガが硬すぎて開くのが大変なので、味が良い割にはそれほど出回ることはありません。調理の難しさからほとんどが採れてそのまま金属加工に回され、溶鉱炉の熱で金属部分以外は焼失します。そのためイガを取り除かれた栗部分は美味であり、かなりの高級品ですが、イガが付いたものは捌ける者があまりいないということで凄く安く売られています」
「そんなのどうやって開いたの?」
「私には最も弱い部分が見えているため、造作もありません。火魔法で薄い部分を溶かしてこじ開けました」
さすカイ! (意訳:流石カイベルさんだ!)
「栗きんとんには、黄色い色合いを黄金に見立てて金運を呼ぶ縁起物と考えられています。お金はこの町の発展にも必要ですしね」
金運……金運は確かに大事だわ。
おせちに目を戻すとかまぼこに目が留まった。
この紅白かまぼこ……太陽が昇った時のような放射状の線で彩られてる……凄く手間がかかっていそうだ。
「紅白かまぼこは、日の出を象徴する意味があり、紅には『慶び』や『めでたさ』、白には『神聖』さが込められています。太陽の無い魔界にはある意味最も大事なものかもしれませんね。今回は日の出のような彩りを再現してみました」
「それって可能なの!?」
「製法は秘密です……」
魚の甘露煮も美味しいな。
「これには何の意味が込められてるの?」
「この魚の甘露煮は田作りと言い、『ごまめ』と呼ばれていることから『五万米』と掛けて五穀豊穣を願う意味が込められています。この田作りはカタクチイワシの稚魚、通称シラスを飴煮にしたものです」
「イワシの稚魚を使ってるのに田作り? 全然繋がらないんだけど……イワシって魚のイワシでしょ?」
「これはイワシが畑の肥料に使えるほど多く採れたためだそうです。また、このイワシを使った肥料を使った田んぼは豊作になることが多かったとか。このおせちには代用としてトリトナで採れたカルクチイワナシという魚を使っています」
多く採れたから肥料? 意味がわからないわ……そんなのかなり高級な肥料だったんじゃないかしら? 元々は置いといても腐ってしまうから肥料にしてしまおうみたいな考えだったのかな?
それにしてもカルクチイワナシ……日本のカタクチイワシとは名前が逆ね。
「蓮根には、沢山穴が開いているため、先々の見通しが効くようにと祈られています。蓮根の代用として、続根という蓮根に似た形の根っこを代用しました。これはマンドレイクのように、魅了毒という特殊な毒があり、その名の通り一定時間、食した直後に初めて目にした生物に軽度に魅了されてしまいます」
魅了毒? 毒があるってこれのことか! 媚薬みたいなもんか!?
「ど、毒抜きは!?」
「再度言いますが毒抜きは済んでいます、問題ありません」
「それなら良かった」
「余談ですが……マンドレイクはファンタジーなどでは惚れ薬で有名ですが、地球にも実在しています」
「えっ!? ホント!?」
「マンドレイク……別名マンドラゴラと言い、ナス科マンドラゴラ属の植物で、幻覚・幻聴を伴う神経毒があり、場合によっては死に至ります」
「生物みたいに動き回って、抜く時に悲鳴を上げるって聞いたことがあるけど、それはホント?」
「そうですね、それは魔界のマンドレイクの特徴です。主に樹の国に棲息しています。地球のものは動き回ることはありません」
へぇ~、いるんだ……自分の足で動き回る植物……
「あら? 蒲焼がある。これなに? ウナギ? 私ウナギの蒲焼大好物なのよね♪」
「それは八つ頭です」
「…………ん? 八つ頭って里芋の一種じゃなかったっけ?」
「日本のものはそうですね」
「どう見たって長い生物の蒲焼にしか見えないんだけど……」
「はい、魔界に生息する八つ頭を使いました」
八本の頭で、蒲焼になりそうな幻想生物って言ったら……
「ヤマタノオロチ?」
「ご名答です。ヤマタノオロチの幼体の一部を蒲焼にしました」
ゲッ……これウナギかと思ったら蛇か……でも美味しいから別に良いか。
「そんなのどうやって手に入れたの?」
私の知ってるヤマタノオロチは神様に退治されたって伝説のあるヤツだけだ。
そこだけ知ってる私としては、今食べたこれが畏れ多いものにしか見えない。
「アクアリヴィアに買い出しに行った時に出品されてたので購入してきました。縁起物ですので年末年始に店先に並ぶようです。この八つ頭にはその八つの頭から組織の頭になって出世するようにとの願いが込められています。ただしそれは日本のもので、これは蛇ですので不老長寿の願いも追加というところでしょうか」
「ヤマタノオロチって神話の一体だけじゃないの?」
「いえ、生物ですのでもちろん親がいますから」
「神話で日本に出現したヤマタノオロチはどこから来たの?」
「魔界から異世界転移で迷い込んだものですね。なので日本にはあの一匹しか存在しないはずです」
そうだったのか……
「ヤマタノオロチって大きいんでしょ? 高かったんじゃないの?」
「まあ、小分けにされた幼体の一部分だけですので、それほどではないですよ。たまに増え過ぎて駆除対象になりますから」
その後も、ブリは出世魚で出世の願いが込められ、鯛は『めでたい』に掛けられており、昆布巻きには『よろこんぶ』という語呂合わせで縁起物であること、海老は腰が曲がるほど長生きできるようになどの世間一般が知る願いから、伊達巻きには巻物と掛けて知識が豊富になるようにとの願いが込められ、錦玉子が二色《にしき》であることから錦 にかけられた縁起物であること、里芋は親芋から子芋を沢山付けるから子孫繁栄、くわいは大きい芽が出て『めでたい』との語呂合わせであること、ゴボウは長く細く根を張るので代々続くようにとの願いが込められているなど一般的ではない話の説明をしてくれた。
そして――
◇
数時間後には、おせちは綺麗さっぱり無くなっていた。
「あれ? いつの間にかおせちが無い! もう食べちゃったの!?」
「美味かったゾ、もうお腹いっぱイ……ごちそうさマ」
おせちって三が日とかかけて食べるものなんじゃないのか……
結局のところ、その後の二日間は、食事時に正月気分を味わうということはできなくなってしまった。
そして、三が日が過ぎ、少し日が経った頃、遂にこの町の通貨が完成し、通貨制度に向けて大いなる前進をする時が訪れる――
来孫くらいなら人間でもいる人はいるかもしれませんね。
魔界のおせちの代用品、ブリとか鯛とか他のも考えていたんですが、冗長になりそうなのでポイントを絞ったものに変更しました。
次回は5月30日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第210話【通貨制度開始の前段階】
「あ~、あとはおせちがあれば最高なんだけどな~」
「ご所望されると思って作ってあります」
「マジで!?」
「クリスマスの買い出しに行った時に一通り買い揃えておきました」
流石カイベルさんだ!
「食材は代用したものが多いですが……」
「いいよいいよ! 毒とか入ってる食材は無いんでしょ?」
「………………」
何だその妙な間は……
「え!? まさか……入ってるの!?」
「毒抜きはしてありますので問題ありません」
「私は毒を無効化できるから良いとして、リディアは大丈夫?」
「問題ありません」
カイベルお手製のおせちが登場。
「うわぁ~……彩り凄いナ! 美味しそウ!」
「じゃあ、いただきましょうか。いただきます!」
「「いただきます!」」
おせちを頂きながら、それぞれの料理に含まれた意味の説明をしてくれた。
「黒豆にはマメに元気に働けますようにという願いが込められています。この黒豆は、漆黒大豆というもので代用しています。太陽が無くても育つ黒い豆で各地で食べられています」
漆黒……黒よりなお黒いのか。太陽が無いところで進化したから、より黒くなったのかな?
「数の子には、ニシンの卵の数が多いことから子孫繁栄の願いが込められています。魔界ではゴシンという魚で代用しています。ニシンが二親にかけていることに対して、この魚はゴシンですので五親とかけてニシンよりも願いが強くなるかもしれませんね。魔界では五親等生きているのも珍しいことではありませんし」
五親等って言ったら……子、孫、ひ孫、玄孫、この次何だっけ?
え~と……来孫?
中々聞かない言葉ね。魔界の家族事情すげぇ……
「まさか……産む卵はニシンの二.五倍なの?」
「いえ、流石にそこまで多くはありませんが……」
名前がゴシンだからって卵の数が増えるわけじゃないか。
「この栗きんとん美味しいね。栗にしか見えないけど、これも代用?」
「はい、栗には違いないのですが、鬼栗という金属性質に近いイガを持つ栗を使いました。このイガはほとんどが鉄分なので、金属加工が可能です」
嘘でしょ……!?
処分に物凄く困りそうだわ。
「ただ、エネルギーを大量に消費するため鬼栗の木は数年で枯れてしまうことと、あまりにもイガが硬すぎて開くのが大変なので、味が良い割にはそれほど出回ることはありません。調理の難しさからほとんどが採れてそのまま金属加工に回され、溶鉱炉の熱で金属部分以外は焼失します。そのためイガを取り除かれた栗部分は美味であり、かなりの高級品ですが、イガが付いたものは捌ける者があまりいないということで凄く安く売られています」
「そんなのどうやって開いたの?」
「私には最も弱い部分が見えているため、造作もありません。火魔法で薄い部分を溶かしてこじ開けました」
さすカイ! (意訳:流石カイベルさんだ!)
「栗きんとんには、黄色い色合いを黄金に見立てて金運を呼ぶ縁起物と考えられています。お金はこの町の発展にも必要ですしね」
金運……金運は確かに大事だわ。
おせちに目を戻すとかまぼこに目が留まった。
この紅白かまぼこ……太陽が昇った時のような放射状の線で彩られてる……凄く手間がかかっていそうだ。
「紅白かまぼこは、日の出を象徴する意味があり、紅には『慶び』や『めでたさ』、白には『神聖』さが込められています。太陽の無い魔界にはある意味最も大事なものかもしれませんね。今回は日の出のような彩りを再現してみました」
「それって可能なの!?」
「製法は秘密です……」
魚の甘露煮も美味しいな。
「これには何の意味が込められてるの?」
「この魚の甘露煮は田作りと言い、『ごまめ』と呼ばれていることから『五万米』と掛けて五穀豊穣を願う意味が込められています。この田作りはカタクチイワシの稚魚、通称シラスを飴煮にしたものです」
「イワシの稚魚を使ってるのに田作り? 全然繋がらないんだけど……イワシって魚のイワシでしょ?」
「これはイワシが畑の肥料に使えるほど多く採れたためだそうです。また、このイワシを使った肥料を使った田んぼは豊作になることが多かったとか。このおせちには代用としてトリトナで採れたカルクチイワナシという魚を使っています」
多く採れたから肥料? 意味がわからないわ……そんなのかなり高級な肥料だったんじゃないかしら? 元々は置いといても腐ってしまうから肥料にしてしまおうみたいな考えだったのかな?
それにしてもカルクチイワナシ……日本のカタクチイワシとは名前が逆ね。
「蓮根には、沢山穴が開いているため、先々の見通しが効くようにと祈られています。蓮根の代用として、続根という蓮根に似た形の根っこを代用しました。これはマンドレイクのように、魅了毒という特殊な毒があり、その名の通り一定時間、食した直後に初めて目にした生物に軽度に魅了されてしまいます」
魅了毒? 毒があるってこれのことか! 媚薬みたいなもんか!?
「ど、毒抜きは!?」
「再度言いますが毒抜きは済んでいます、問題ありません」
「それなら良かった」
「余談ですが……マンドレイクはファンタジーなどでは惚れ薬で有名ですが、地球にも実在しています」
「えっ!? ホント!?」
「マンドレイク……別名マンドラゴラと言い、ナス科マンドラゴラ属の植物で、幻覚・幻聴を伴う神経毒があり、場合によっては死に至ります」
「生物みたいに動き回って、抜く時に悲鳴を上げるって聞いたことがあるけど、それはホント?」
「そうですね、それは魔界のマンドレイクの特徴です。主に樹の国に棲息しています。地球のものは動き回ることはありません」
へぇ~、いるんだ……自分の足で動き回る植物……
「あら? 蒲焼がある。これなに? ウナギ? 私ウナギの蒲焼大好物なのよね♪」
「それは八つ頭です」
「…………ん? 八つ頭って里芋の一種じゃなかったっけ?」
「日本のものはそうですね」
「どう見たって長い生物の蒲焼にしか見えないんだけど……」
「はい、魔界に生息する八つ頭を使いました」
八本の頭で、蒲焼になりそうな幻想生物って言ったら……
「ヤマタノオロチ?」
「ご名答です。ヤマタノオロチの幼体の一部を蒲焼にしました」
ゲッ……これウナギかと思ったら蛇か……でも美味しいから別に良いか。
「そんなのどうやって手に入れたの?」
私の知ってるヤマタノオロチは神様に退治されたって伝説のあるヤツだけだ。
そこだけ知ってる私としては、今食べたこれが畏れ多いものにしか見えない。
「アクアリヴィアに買い出しに行った時に出品されてたので購入してきました。縁起物ですので年末年始に店先に並ぶようです。この八つ頭にはその八つの頭から組織の頭になって出世するようにとの願いが込められています。ただしそれは日本のもので、これは蛇ですので不老長寿の願いも追加というところでしょうか」
「ヤマタノオロチって神話の一体だけじゃないの?」
「いえ、生物ですのでもちろん親がいますから」
「神話で日本に出現したヤマタノオロチはどこから来たの?」
「魔界から異世界転移で迷い込んだものですね。なので日本にはあの一匹しか存在しないはずです」
そうだったのか……
「ヤマタノオロチって大きいんでしょ? 高かったんじゃないの?」
「まあ、小分けにされた幼体の一部分だけですので、それほどではないですよ。たまに増え過ぎて駆除対象になりますから」
その後も、ブリは出世魚で出世の願いが込められ、鯛は『めでたい』に掛けられており、昆布巻きには『よろこんぶ』という語呂合わせで縁起物であること、海老は腰が曲がるほど長生きできるようになどの世間一般が知る願いから、伊達巻きには巻物と掛けて知識が豊富になるようにとの願いが込められ、錦玉子が二色《にしき》であることから錦 にかけられた縁起物であること、里芋は親芋から子芋を沢山付けるから子孫繁栄、くわいは大きい芽が出て『めでたい』との語呂合わせであること、ゴボウは長く細く根を張るので代々続くようにとの願いが込められているなど一般的ではない話の説明をしてくれた。
そして――
◇
数時間後には、おせちは綺麗さっぱり無くなっていた。
「あれ? いつの間にかおせちが無い! もう食べちゃったの!?」
「美味かったゾ、もうお腹いっぱイ……ごちそうさマ」
おせちって三が日とかかけて食べるものなんじゃないのか……
結局のところ、その後の二日間は、食事時に正月気分を味わうということはできなくなってしまった。
そして、三が日が過ぎ、少し日が経った頃、遂にこの町の通貨が完成し、通貨制度に向けて大いなる前進をする時が訪れる――
来孫くらいなら人間でもいる人はいるかもしれませんね。
魔界のおせちの代用品、ブリとか鯛とか他のも考えていたんですが、冗長になりそうなのでポイントを絞ったものに変更しました。
次回は5月30日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第210話【通貨制度開始の前段階】
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